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23話 俺のせいで彼女は泣いていたみたいです


 俺は今、過去類を見ないほどの危機に瀕していた。今の俺の危機的状況に比べれば短剣一本でワイバーンに襲われてた時の方がいくらかましだ。

 なぜこんな事態になったのか全く分からない。というか、こんな目に合う理由がわからない。俺としてはかなり理不尽な事態だと思うわけだ。


「ガイ!聞いてるの!?」

「はいっ!」


 俺の前には鬼のような形相で睨んでくるアリアが仁王立ちしている。例のごとく俺は床に正座しているわけだが、なんでこんな目に合っているんだろう。

 プリルと二人で家帰った後は適当にのんびりとしていた。ワイバーンに襲われたことを思い返して平和って素晴らしいななんて思っていたんだ。夕方になって仕事も終わり、家に帰ってきたアリアに家を買ったことを伝えた後には平穏なんてどこぞへといなくなってしまった。

 さすがに事後承諾だったことは悪かったと謝ったのだが、なぜか火に油を注いでしまったようだ。そんなことは問題じゃないと一喝されてしまった。


「そもそも、二人で迷宮に行ったのにレナに分け前も与えないわけ?」

「……いや、当然レナにも箱の中にあった宝石とか金塊とか渡したよ?武器とかはいらないって言ってたからまとめて売ったわけだし……」


 そうなのだ、俺が売った武器や宝石はレナと話し合ったうえで決められた俺とスクルドの取り分だったのだ。スクルドは俺のペットだし、必要なものは俺が買うから二人で分けたらいいと言う俺に対してレナは三分割するという意見を断固として譲らなかった。しょうがないのでおおよその量で3等分して俺とスクルドの分を武器や宝石、金塊なんかの一部とし、レナには宝石の一部と金貨や金塊の大部分を渡した。

 全部合わせれば2億近い額になっていた今回の冒険はレナの意見を主としてお互いに妥協できる程度に分けることができていたのだ。


「そんなことはどうでもいいのよ!」


 えぇ~なにそれ……


「あんたはほんとに私のことなんて都合のいい女だって思ってるんでしょ!私だって怒るときは怒るのよ!」


 いや、レナを連れてきたときもプリルを連れてきたときも激怒してましたよね?そりゃ、今回ほどじゃないけどさ。

 それに都合のいい女だなんて思ったことは一度もない。


「そんな風に思うわけないだろ、アリアは俺にとって恩人だし大切な人だ!」

「っ!?」


 あれ?なんか知らんけどアリアが怯んだ。心なしか顔も赤くなってるし逆鱗に触れちゃったかな……

 俺は落雷に備えて身をこわばらせた。が、いつまでたっても雷が落ちることはない。恐る恐るアリアの顔を覗き込んでみるが完全に硬直しているようだ。


「あの……アリアさん?」

「アリア、さ・ん?」

「いや、アリア……本当に申し訳ないと思ってるんだよ?突然居候させてもらうことになったのに、本当の家族みたいに接してくれることとか、俺がスクルドやレナ、プリルを連れてきたときも怒りはしたけど住むことは認めてくれたし……申し訳ないって思うのと同じくらい、アリアに感謝してる」

「だったらなんで突然出て行くっていうのよ!それも、もう家は買ったとか意味わかんないわよ!……ほんと……意味わかんない……」


 ぼろぼろと涙をこぼすアリアを見て俺は心が痛んだ。最近本当にアリアを泣かせすぎだと自分のことを殴ってやりたいぐらいだ。

 俺は立ち上がるとそっとアリアを抱きしめた。自分でもなんでそうしたかはわからないけど、大宇宙の意思に突き動かされたとかそんな感じだろう。


「アリア……ごめん……。俺のせいでアリアの生活が乱されてるって思ったんだ……アリアの負担にはなりたくないし、冒険者として大金も掴めた。だからこの家を出ようって思ったんだ」

「一言ぐらい相談しなさいよ……馬鹿……」


 アリアは力ない拳で俺の胸をたたいた。嗚咽を漏らしながら肩を震わせる弱弱しい姿はこの女性ひとを守らなくちゃいけないと俺を突き動かす。


「……ごめん」

「……ばか」


 最後の馬鹿という言葉はどこか優しい響きだった。直感的にこの家を出ることを認めてくれた。納得しているかどうかは別にしてもそう思える言葉だった。


「ただいま帰りましたクレイ様!」

「あ――――――」


 タイミング悪く扉を開き家に入ってきたのはレナだった。扉を開けた状態でレナが固まっているようにこの部屋の中の時間も完全に凍りつく。


「……なにをやっているんですか二人とも?」


 時間が再生を始めるのと同時に冷めた視線を俺たちに向けてくるレナ。俺は苦笑と言うか乾いた笑いというかを浮かべる以外になにも出来やしない。


「二人がいちゃつくのは勝手ですが子供が見ているんですから時と場所を考えてください」

「は?」


 レナの言葉に驚きながら後ろを振り返るとジーーーという擬音が聞こえてきそうなほど俺たちを凝視しているプリルの姿が……おいスクルド、隣で見てるならプリルの気を逸らすとかやってくれよ。

 とりあえず俺はアリアを放すと改めて向き直って話をする。


「別に会えなくなるわけじゃないんだから、安心してくれよ。ギルドにもできる限り顔を見せるから」


 まるで恋人みたいだななんて思ったりするが、俺のことを心配してくれるだけのアリアさんが俺なんかと付き合ってくれるはずがない。変な妄想してたらまた怒られるな。


「会えなくなるってどうしたんですか?旅にでも出るなら先に言っていただけないと私にも準備があるんですから」


 スクルドがいる以上ついてくることは決定なんですね。まぁ、わかってたけど。


「いや、レナだけじゃなくてプリルも一緒に暮らすにはこの家は狭いだろ?昨日の迷宮でかなり金も稼げたからこの家を出ようと思ってね」

「……そうですか。それはこの街じゃないんですか?外国とか?」

「いや、街のはずれにいい物件があったからそこを買った。スクルドもいるから、どうせレナは一緒にくるだろ?」

「それは当然ですけど……それのどこが問題なんですか?」


 いや、うん……それは俺もどこが問題なのかわからなかった。家を出るって言ったらアリアは喜ぶ理由はあるにしろ怒るような理由はない。

 やっぱり、この世界に来て、というかこの街で冒険者として暮らすようになった俺が自分の目の届かないところで暮らすのは世話焼きのアリアさんからすると心配なんだとか無理やり思い込むようにしていたけど。


「この家は借家なんじゃないですか?だったら契約を打ち切って一緒に暮らせばいいじゃないですか」


 おいぉい。そんな付き合ってるわけでもない男女が一つ屋根の下で暮らすなんて倫理的に問題ありすぎだろ。レナやプリルはどうなんだって言われたらちょっと悩むところだけど、二人には俺と暮らす理由(まぁ、レナの理由に関しては思うところある)があるからいいけど、アリアは違う。


「……なるほど」


 え、アリア今なんて言った?


「そっか、簡単なことだったじゃない。私もあんたたちと一緒に引越せばよかったんじゃない。ほんと、怒って損したわ」


 俺は怒られて損したよ。というか、アリアはなんで俺についてくるんだ?


「あの、アリアはそれでいいのか?」

「なによ、私はついてくるなとでもいうの?」

「いや、そうは言わないけど……一つ屋根の下で暮らすってのはいろいろ問題あるだろ?」

「今までだって一つ屋根の下よ?それにレナとプリルちゃんはよくて私はダメなの?」

「二人には理由があるからいいんだよ。だけどアリアは違うだろ?一つ屋根の下で男と暮らしてるなんて恋人ができたときとかどうする気だ?」

「…………」


 いや、なんでそこで黙る。というか、笑顔が怖すぎる。あれか、現状恋人がいないってのが逆鱗に触れたのか?

 大丈夫、アリアは美人だからすぐに恋人もできるさ。


「なんで私が怒ってたのか、なんで私が泣いたのかって理由がわからないの?」

「そりゃ、この世界に来たばかりで頼りない俺が目の届かないところで暮らすのが心配だったんだろ?なんだかんだでアリアは優しいから……」

「こ・の・鈍感男!」


 アリアは笑顔のまま俺の腹に拳をめり込ませた。前に喰らったアースベアーの爪よりもはるかに強烈な痛みが俺の腹部を襲う。


 あまりの痛みに意識は遠のき徐々に視界は暗くなっていく。

 絶対アリアの方がアースベアーより強いって……





感想などで武器を売ったことにいろいろ意見などありましたが、序盤で説明された通りにレナへ了解とってあったのです。

若干、無理やり説明した感はありますがご勘弁ください。

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