21話 俺も成長しているみたいです
アリアが落ち着いてからは俺の想像通りプリルについて一悶着あった。また俺が同居人を増やしただの文句を言われ、お兄ちゃんってなんだだの白い目で見られたりして精神的にもいろいろキツイことも言われた。
問題だったのは俺の中では落ち着いたらプリルを鬼人が住んでいる村?に送っていくつもりだったのだがプリルがそれを拒んだことだった。両親がワイバーンに殺されてしまい、頼れるような相手は村に帰ったところでいない。できることなら俺と一緒にいたいとのことだ。
プリルの言葉を聞いて当惑する俺と激怒するアリア。結局は俺の必至の説得のかいあってかアリアは渋々プリルの同居も認めてくれた。アリアは亜人に対しての差別意識がないのが何ともありがたいことだ。
プリルもレナと同様にアリアの部屋で寝泊まりすることになったのだが、子供とはいえもともと一人部屋に二人いたところにさらに一人増えたのだ。アリアの部屋はずいぶんと手狭になった。
プリルのおかげで見つけたお宝の類は全部持って帰ってこれたし、宝石なんかを売って金に換え金塊や金貨なんかと合わせれば相当な額になりそうだ。不要そうな武器なんかも売ってしまえばこの部屋を出ることも出来るかもしれないのでさっそく俺は見つけた武器なんかを調べることにした。
『ヴァンヘルト 種別:魔剣 クラス:第3位 属性:闇』
レンズはやっぱり便利だ。武器の能力の確認にも使えた。
というか、あの黒い剣って魔剣だったんだ……やっぱり呪われたりすんのか?つか、第3位ってどうゆう意味だろう。
俺の疑問は置いておくことにしてほかの武器も調べてみる。
『土のランス 種別:突撃槍 クラス:ノーマル 属性:土』
『火の戦斧 種別:斧 クラス:ノーマル 属性:火』
『祝福された水の弓 種別:弓 クラス:ノーマル+ 属性:水』
『双剣ウェイズ&フロウ 種別:剣 クラス:レア+ 属性:火、土・水、風』
『真槍リーベデルト 種別:真槍 クラス:第9位 属性:風』
この5つが属性もちの武器だった。真槍はあの薙刀みたいな槍かどうか判断の付きにくかったやつだ。やっぱ、槍でよかったんだな。それにしても真槍ってのは神槍とは違うのか?
これ以外の武器に関しては有象無象、クラスはノーマルしかないし名前も剣やランスなど見たまんまだった。
とりあえず武器についてはおっさんにいろいろ聞いてみよう。
ついでと言ってはなんだが、迷宮の探索も終えたことだし俺は自分の能力がどうなっているのか気になった。ワイバーンだって倒したし少しぐらいレベルも上がっているだろう。
『獅子王ガイ 種族:人間 職業:勇者 冒険者 レベル:32
スキル:幸運Lv.999 魔術Lv.57 肉体強化Lv.89 魔剣士Lv.17 冒険者Lv.12 etc
称号:Brave Tamer darkness
備考:異世界に召喚された勇者。現在は冒険者ギルドに所属している』
おぉ!やっぱりレベルが上がってる。ていうか、スキルレベル上がってるしスキル増えてる。称号のdarknessってなんだ?暗黒?魔剣を使ったからか?スキルが普通の剣士じゃなくて魔剣士ってのもその影響かな?
「お兄ちゃん、何してるの?」
「ん?」
レンズを通して自分の手を凝視している俺を不思議に思ったのかプリルが俺の顔を覗き込んできた。レンズを目に押し当てている俺の顔を、だ。
『プリル・リーベン 種族:鬼人 クラス:一般人 レベル:3
スキル:筋力強化Lv.200
備考:鬼人の少女。鬼人の中でも特異な力の持ち主』
やはりというか、プリルの意図せず頭の中に流れ込んできた。筋力強化のレベル200って……
つか、プリルって鬼人の中でも特別なのか……そりゃそうだな。うん……普通にこんな子供があんな重いもんを軽々と持ち上げられるのが普通な種族だったら人間なんてあっという間に滅ぼされちまうだろ。
「どうしたの?」
きょとんとした様子で俺の顔を見つめるプリルの頭をくしゃくしゃとなでてやると俺は立ち上がった。
「魔法のレンズで体に異常がないか調べてたんだよ」
「魔法のレンズ?なにそれ?」
「秘密だよ。プリルのことも見てみたけど異常なしだったから安心しな」
プリルは子供だ。レンズのことを話して迂闊に他人にもらされたら面倒なことになるかもしれない。少しばかり強引だがレンズをしまうと俺は武器のいくつかを手に取った。
「これから、武器屋に行くんだけど手伝ってくれるか?」
「うん!」
レンズのことを気にしていた様子はすでになく、プリルは元気にうなづいてくれた。
プリルにいくつかの武器を持ってもらい、俺も抱えられるだけの武器を持って家を出る。……プリルの持ってる武器よりも俺の持ってる武器の方が少ないのが何とも情けないことだ。
「おっさん、いるか?」
俺はいつも通りのおっさんが営業する武器屋の扉を開け中に入った。トコトコと俺の後に続くプリルのために扉は開けっ放しだ。
「おう、どうした兄ちゃん。こんなにしょっちゅううちにくるなんてまたデカい仕事でもやったのか?」
「まぁね。今日は武器を持ってきたんだけど、買い取りとかやってる?」
「そりゃ、いい武器なら買い取らせてもらうけど、うちで買ったもんをうちで売るのは勘弁してくれよ」
「はは、そんなことしないって」
俺は持っていた武器をカウンターの上にのせた。プリルが持っていた斧やランスなんかもカウンターに立て掛ける。
「へぇ~こんなにたくさんどうしたんだ?まさかその辺のキャラバンを襲ったとかじゃねえよな」
「んなことしないって。ちょっと迷宮に入ってね」
「迷宮って一昨日見つかったっていうあれか?へぇ~新米だって言ってたくせにもう迷宮に入ったのかよ」
おっさんは純粋に驚いた様子で武器を手に取った。
俺についてきたプリルは武器屋が初めてなのか興味津々といった様子であたりの武器を物色している。まぁ、少し壊したところで金に余裕はあるから買取できる……と思う。ちなみに今日の俺の所持金は金塊1つに金貨が5枚。1500万もの大金を持ち歩くのは怖いものがあったけど、いい防具を買うために必要な金額だと思う。
「……いや、こいつは驚いたな……」
「どったの?」
驚いた様子で剣を置いたおっさん。まだ、3本ほどしか確認していないのになにを驚くことがあるんだろうか?
「どいつもこいつもかなりいいもんだ。とくに、この辺の武器は属性もついてるだろ?」
おっさんが示したあたりは確かに火の戦斧やら祝福された水の弓なんかが置かれていた。なんでも属性付加されてないものもバルデンフェルトほどの大国とはいかないまでも小規模の国であれば王宮騎士団で正式採用されるほどの武器だそうだ。でも、その辺の武器レアリティノーマルですよ?
結局、武器は全部で金貨で8枚になった。レアリティノーマル+以下のものしか売らなかったがそれだけでもこんな金額になるのか……というか即金でこんだけの額出せるなんて武器屋って儲かるんだな。
「そういやぁ、こいつはどんなもんだかわかる?」
言いながら俺は腰に差したヴァンヘルトと後ろ越しに差していた双剣をカウンターに置いた。
「なんか、こっちの双剣はけっこうレアっぽいし、こっちの剣は魔剣らしいんだよね」
「魔剣だと!?」
おっさんは双剣の方は無視してヴァンヘルトをすごい勢いで手に取った。だが、魔剣はカウンターに張り付いたように持ち上がらず、結局カウンターの上に置いたまま観察している。あれ?ヴァンヘルトってめちゃめちゃ軽いよな……
「間違いないな……魔剣だよこいつは。しかも第4位以上のインテリジェンスソードだ」
「インテリジェンスソードってしゃべる剣のことじゃないのか?」
なんか、持ち主と口げんかしながら戦うようなイメージしかない。
「そりゃ、しゃべる剣もあるにはあるが、基本的にしゃべれる剣なんてそんなにねぇよ。インテリジェンスソードっていうのは意思を持ち、持ち主を選ぶ剣のことだ」
お前はそいつに選ばれた。とおっさんは言った。
こいつはやっぱりそんな大層なもんだったのか……
「第4位とかってどういう意味?今日は持ってこなかったけど第9位っていう槍もあったんだけど」
「なんだと!?9位ってことは真槍か?お前どんだけいい武器拾ってるんだ!?」
なんかすごいことらしい。
「で、その何位とかってなんなの?」
「位階はその武器の存在がどれだけのもんかってのを示してる。1位の剣は神剣って呼ばれて世界に1振りしか存在しないほどすげぇ剣だ」
なんでも、1位の武器は神○と呼ばれるらしい。剣、槍、杖、弓の4種類の武器が存在し、10位までの武器はすべて神が作ったとされているとかなんとか。
1位の武器が世界中にそれぞれ1つ、2位で2つ、3位で4つと倍々式に増えるらしい。2位から5位までの武器は聖○と魔○に分かれ、それぞれが光と闇の力を有している。6位から10位までは真○と呼ばれ、火、風、水、土、雷の5属性が宿っているそうだ。
つまりヴァンヘルトは神様が作った魔剣で世界に4本しか存在しないほど強力な剣ってわけか……でも神様が闇属性の武器作るのってなんか変じゃないか?まぁいいや気にしても仕方ない。
「俺の思ってた以上にすごい武器だったんだな……」
「兄ちゃん、あんまり魔剣や真槍を持ってることは口外しない方がいいぜ。それ目当ての馬鹿どもが寄ってくるからよ。当然兄ちゃんのことは俺も話したりしない」
「あんがとおっさん。助かるよ。これからもお世話になるだろうからよろしくな」
俺は防具をいくつか見たが剣に見合った防具は売ってなかった。おっさんも言っていたがこの店は基本的に武器屋であって防具屋ではない。基本的な防具は売ってるが、いい防具は専用の店に行かないと見つからないそうだ。
できることならおっさんの店の売り上げに貢献したかったが売ってないのでは仕方がない。また今度何か買いに来ると言い残して俺はプリルの手を引いて店を後にした。
さて、次は宝石を売ってギルドに報告に行くか。
鬼人が人より優れているのに人に隷属されるはずがないのでは?と、感想でご指摘いただきました。
私の説明不足で申し訳ないのですが、鬼人は基本的には単純な腕力的な意味で力が強いだけの種族です。魔法に対する適性を持っている個体はほぼ皆無で、人族が魔法で攻撃した場合、抵抗手段はほとんどありません。
また、人族は亜人に対して様々な対抗策を講じ、あの手この手で追い詰めます。
基本的に亜人は里から出ることが少ないので、旅をしている亜人は1人か、少人数で旅をしているので狙われる心配が多くなります。
当然、亜人側も狙われないよう様々な対策を立てますが、奴隷商や人攫いに見つかった場合、罠や魔法なんかを使われて逃げられることは非常にまれになります。
また、ギルドカードのように魔法の効果で異常に便利なアイテムが数多く存在し、その中でも隷属の首輪みたいな装備があります。それを装着された者は首輪の主人に反抗できないというものです。
人族よりも優れているなら種を上げて人族を襲うのではないか?と思われるかもしれませんが、基本的に亜人は人族に比べて絶対数が圧倒的に少ないです。
これは、乱獲などによるものではなく、種としての繁殖能力の違いです。基本的に人族よりも寿命が長い亜人種は繁殖能力が低いことが多くなります。
よって、人族の総戦力が1000としたら亜人の各種族の総戦力は1~10程度のものなため戦いをすることはありません。
小国が亜人の軍勢に滅ぼされたという例は過去をさかのぼれば多少はありますが、決してその数は多くありません。
本来は国際条約的なもので亜人の誘拐などは取り締まられているはずなのですが、なにごとにも抜け穴はある。ということで、奴隷商や人攫いが暗躍するわけです。
以上が私の考えている亜人を隷属化するにあたっての世界設定です。
納得いただけない場合、その他質問がある場合は感想などでお知らせください。私にできる限りで説明させていただきます。(あまりにもネタバレ的なものであった場合は、ユーザーのメールなどで対応させていただきます)
あとがきなのに長くなって申し訳ないです。