20話 その後はいろいろ楽でした
しばらくして鬼人の子は泣き止んだ。緊張の糸が切れたことと極度の疲労からかそのまま眠ってしまったので、レナの着ていたローブを脱いでもらいその上に寝かせた。
とうに日も暮れる時間になっていたので三井さんたちは街に帰ってしまっただろう。帰りは徒歩になるのかと思うと気が重かったが、悔やんでいても仕方がない。
鬼人の子をここに置いていくこともできないので俺たちもここで夜を明かすことにした。
適当に燃える物を集めて火を起こし、食べられるとレナが言っていたのでワイバーンの肉を焼いてみた。見た感じ霜もふっていてうまそうな肉は今までに食べたどんな肉よりもうまかった。ワイバーンがうまいということは絶対忘れないようにしよう。今後も倒せたら絶対に肉は持って帰る。
食事も終えてひと段落すると休息を取るために寝ることになった。迷宮の中は危険なのでレナと交代で寝るのだが、どちらが先に寝るかで一悶着あった。
いや、当然のことながらどちらが先に寝るかではなくどちらが先に起きているか、でだ。
俺は女だしさっきの戦いで疲れただろうレナが先に寝るべきだといい、レナはスクルドが俺と一緒じゃないと寝ないから俺が先に寝ろという。いつまでたっても話し合いが終わらないと寝る時間も無くなってしまうので渋々俺が先に寝ることになった。
ごつごつとしている迷宮の地面は眠りにくかったが初めての迷宮探索ということで疲れていたのか睡魔はすぐにやってきた。
迷宮の中で夜を明かすなんてアリアが心配するだろう。街に帰ったら謝らないといけない。そんなことを徐々に薄くなる意識の中で考えながら俺は眠りについた。
翌朝、俺と交代で眠ったレナが起きてきたのでこれからどうするかという話になった。やっぱりお宝は諦めがたかったが鬼人の子がいることを考えると荷物が増えるのは得策じゃない。
鬼人の子が起きたらすぐに街に帰ろうという話をしているところで鬼人の子が起きてきた。
「……あの、おはようございます」
「おはよう、よくねむれた?」
「おはようございます」
「キュイ」
一晩寝ている間に何もされなかったことで安心したのか戸惑いはあれど俺たちに対する恐怖心はなくなったようだ。
これで一安心だし、とりあえず腹ごしらえをしたら街に帰ろう。
昨日に引き続きワイバーンの肉を焼いて食べる。いくらうまかろうと朝から肉だなんて胃にくるが、何も食べないのはよろしくない。適度に朝食を済ませると俺たちは装備を確認して立ち上がった。
「うぅ~ん……どうすっかな」
俺が迷っているのはどの武器を持っていくかだ。いくらなんでも全部おいていくのはもったいないので、邪魔にならない程度の武器は持って帰ることにした。槍や斧なんかはデカくて邪魔になるから持ち帰るのは必然的に剣になるだろう。
「あの……どうしたんですか?」
おずおずと鬼人の子が訪ねてきた。恐怖心がなかろうと名前も知らない相手では戸惑いが強いのは当然だろう。ん?名前も知らない?
「いや、そう言えば自己紹介もしてなかったね。俺の名前は獅子王ガイ、よろしくね」
「あの……プリルです」
プリルはおずおずと差し出された俺の手を握り返してきた。うん、コミュニケーションを取るにあたって自己紹介とシェイクハンドは重要だな。
「あいつはレナ。で、こいつはスクルドって名前なんだ」
次いでレナとスクルドのことも紹介しておく。火の後始末なんかをしているレナと言葉をしゃべることができないスクルドはとりあえず俺が紹介しておけば問題ないだろ。個人的な自己紹介は後でやってもらえばいい。
「それで……あのシシオーさんはなにを悩んでるんですか?」
「獅子王って呼びにくくない?呼びやすいように呼んでいいよ?」
「それじゃ……その……お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」
俺の胸をズキューンって効果音付きでどデカい何かが通り過ぎた。やばい、破壊力高すぎる。
妹的存在だったあいつは元気すぎて疲れるやつだったからこんなおとなしめのかわいい子にお兄ちゃんって呼ばれるのが夢だったんだ。あぁ、泣きそう……
「あの……だめですか?」
「い、いやいやいや。うん、大丈夫。お兄ちゃんでもお兄様でもにぃにぃでもどんと来い!」
「……お兄ちゃんっておもしろいです」
またもズキューンと俺の胸を通り過ぎる何か。クスって笑う表情も仕草も最高。マジでお持ち帰りしたい……いや、俺はロリコンではない。保護欲をそそられるだけだ。そういう意味ではプリルはスクルドに近い存在なんだ。
「それで……お兄ちゃんは何をしてるんですか?」
「あぁ、この武器を持って帰りたいんだけど量が多いからね……どれか邪魔にならないものを選ぼうとしてるんだけどなかなか決まんなくてさ……」
「?」
プリルはトコトコ歩いて無造作に積まれた箱を持ち上げた。重いから危ないという暇もないくらい軽い動作で5箱まとめて持って見せた。俺もまとめて持てないことはなかったけど激しくふらつくし戦えなくなるからってあきらめたのに……
こんな小さい女の子がなんでそんな軽く持ってるの?本の入った箱はそこまでじゃなくても、金塊入りのやつは絶対1箱で20キロ以上あるんだぞ?
「これぐらいなら私持てます。他のものも持つのはちょっと持ちにくいですけど一括りにできれば何とかなると思います」
小学生みたいななりしてプリルって怪力無双なんだな……なんか殴り合いしたら一方的にボコられそうだ。うん、プリルに殴られるようなまねは絶対しないようにしよう。
しかし、いくらプリルが怪力でも箱を持った状態で武器は持てない。一括りにするって言ってもそんなデカい布は持ってないし……
何かないかとあたりを見回しているうちに俺の視界に入ったのは昨日倒したワイバーンの死体だ。涼しい迷宮の中では一日放置したところで異臭もしないし腐った様子は一切ない。
「ん?あぁ、もしかしたら……」
俺は根元から切り取られたワイバーンの翼をプリルに見せた。かなりの大きさのそれは二重にすれば落とさずに武器や箱のすべてを包むのに十分な大きさがある。もともとが頑丈なワイバーンの翼は地面に引きずったところで敗れるどころか傷一つつかない。
ダメもとだし落としたところで諦めれば済む話だ。箱や武器をすべて翼でくるみ、翼に穴をあけて落ちていたロープで縛ってみる。簡易的な巨大袋は見た目だけでかなり重そうだ。
「プリル、重かったら無理しなくていいんだからな」
「はい、お兄ちゃん」
俺の心配をよそにプリルは軽々とそれを引きずった。さすがに体の大きさの関係で持ち上げることはできないが引きずったところで丈夫なワイバーンの翼には何の問題もない。
武器の問題が一気に解決してしまった……いや、うれしいことなんだけど。
その後は入り口を埋めていた瓦礫を黒い剣の一撃で粉砕し道を開くと昨日来た道を逆にたどっていった。出てくるモンスターはことごとく黒い剣の一撃で紙屑のように切り捨てて何の問題もなく迷宮の外にたどり着いた。
やはりというか、当然のことながら馬車はそこにない。もしかしたらって淡い期待もなくはなかったが、まぁ仕方がないだろう。
徒歩で街に戻る間もプリルには頑張ってもらうことにして俺たちは歩き続けた。
街までの道でも何度かモンスターが現れたが迷宮内のものよりもさらに弱い連中だ。どれだけ数がいたところでなんの問題にもなりはしない。
ちょうど夕暮れ時、オレンジ色に染まる街に俺たちは無事たどり着いた。
家に帰るよりも先にアリアがいるだろうギルドに行くのが先だな。荷物が扉を通らないのでプリルとレナにはこの場に残ってもらい、俺はスクルドを肩に乗せて冒険者ギルドの扉を開いた。
ギルドに入るとカウンターに突っ伏して肩を震わせているアリアがいた。
「アリア……ただいま」
「へ?」
俺が声をかけるとアリアは突っ伏していた顔を上げた。なんでか知らないが泣いていたようで目は真っ赤になっている。
「が、ガイ?……ほんとにガイなの?」
「えぇ、ほんとに獅子王ガイですよ」
「あんた……あの……迷宮でいつまでたっても帰ってこなくて……三井っていうバルデンフェルトの人がどこにもいなくなったとか言ってたから……わたし……あの……」
すっかり混乱している様子のアリアは自分でも何を言ってるのかわからないんだろう。
たぶん三井さんが見つからないって言ったのは俺たちの入った広間の入り口が瓦礫でふさがってたから見つけられなかったってことだろう。おいていくとか言ってたのに、三井さんにも謝っておかないといけないな。
「私、あんたが死んだかもって言われて……だから……ほんとに……」
アリアの目にぶわっと涙が浮かんだ。そんなに心配してくれていたのかと思うとほんとに申し訳ない気持ちになる。俺みたいなただの居候相手にこんな心配してくれるなんてアリアは本当にいい人だ。
結局、ギルドへの報告なんかは全部明日行うことになった。以前お世話になったギルドマスター(その節はご迷惑おかけしました)が言っていたが、俺が死んだかもしれないという話を聞いたアリアは本当に取り乱して今日一日まともに仕事ができていなかったそうだ。
とりあえずアリアを落ち着けるためにも家に帰った方がいいと言われてギルドを出た俺とアリアは、ギルドの前で待っていたレナたちと合流して家へと向かった。
というか、アリアさんが落ち着いたらプリルのこともいろいろ言われんのかなぁ……
まぁいいや、とりあえずそれは考えないようにしよう。
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