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18話 迷宮の奥にいたモンスターは超ど級でした

 迷宮に向かう馬車に揺られながら他愛もない話に花を咲かせる俺と三井さん。レナは隅の方でじっとしているし、スクルドは俺の膝の上で寝の態勢に入っている。ちなみにレナは周りの人間にエルフだとばれるといろいろ面倒なことが増えるとのことなので顔が……というか特徴的な耳を隠すようにローブのフードを目深にかぶっている。

 そう言えば、と切り出して俺はレンズを取り出した。


「なにそれ?」


 どうやら三井さんも能力が見れるレンズのことは知らないようだ。これってそんなラッキーアイテムなのか?


「これを使うと見た対象の能力がわかるみたいです、この世界の人間には使えないみたいなんですけど、勇者専用のアイテムとかですかね?」


 言いながら俺はレンズを通して三井さんに目を向ける。


『三井純 種族:人間 クラス:勇者 帝国騎士 レベル:87

 スキル:肉体強化Lv.237 魔術Lv.89 剣士Lv.112 騎士Lv.37 冒険者Lv.89 etc

 称号:Knight Explorer Warrior Brave Hunter etc

 備考:異世界から召喚された勇者。以前は冒険者だったが現在はバルデンフェルト王国に仕えている』


 さすがに俺よりもずっと長くこの世界にいるだけあってレベルも何もかもが俺よりも上だ。というか、こんだけの差があるのにこの人と戦おうとしたのはほんとに世間知らずだったんだな俺は。


「へぇ~、どんなんどんなん?ちょっと貸してよ」


 俺からレンズを受け取った三井さんは興味深げにレンズを見つめると意を決したようにレンズ越しに世界を見る。


「おぉ~、すごいすごい。っていうか、ガイ君のスキルって幸運のレベルおかしくない?」


 そちゃカンストっぽいっすから。自分でもこの数字は驚きだけど普通に考えたって異常なことなんだろう。

 自分の能力なんかもみた三井さんは興奮冷めやらぬ様子でレンズを返してくれた。親切な三井さんだから見せたし貸しもしたけど、けっこうレアなアイテムっぽいしレンズはあんまり人に見せない方がいいだろう。

 ついでと言ってはなんだが、レナのことをレンズで確認していなかったことに気が付いたので、この機会に確認することにした。


『レナ・アンストロ・リィガー 種族:エルフ クラス:戦士 レベル:189

 スキル:エルフの秘術Lv.98 弓術Lv.142 回復魔術Lv.77 剣士Lv.43 精霊術Lv.88 etc

 備考:エルフ族の戦士。年若いが末恐ろしい才能を秘める』


 ちょ、おま……。なにこのレベル。

 勇者の三井さんより強いじゃん。さすがに肉体強化とかのスキルはないけどそれを除けば基本的なレベルだって三井さんの倍以上だ。

 たぶんだが、肉体強化はもともと地球にいた勇者たち限定のスキルなんだと思う。実験がてらギルドにいた冒険者たちを見たこともあるが、肉体強化のスキルは誰も持っていなかった。

 地球にいたころ普通の人間だった俺たち勇者は身体能力がそのままだったらこの世界で生きていけないからだと思う。というか、召喚されたときにいろいろ変わるっぽいからその影響じゃないかなんて俺は思ってる。

 とまぁ、能力に関しては置いておくとしてそろそろ迷宮に着くようだ。




 切り立った崖の下。そこにその穴は存在した。

 なんというか、実に見た目からしてそれっぽい作りをしている。


「やっぱ、見た目怪しすぎるよね」

「そうですね」


 初めて見たときは自分もそう思ったと三井さんは言った。ぶっちゃけ見た目からして迷宮らしいそのつくりは多少面白そうには見えるがそれほど危険な場所にはどうしても見えないのは平和な日本で育ったからなのか?

 周囲にモンスターの姿も見当たらないので、のんびりと準備を整えて穴というか、洞窟という名の迷宮へと入った。

 メンバーは三井さんたちは三井さんを含めて三人で、三井さん以外はこの世界で生まれ育った普通の騎士だという。とりあえずレンズで能力を確認したところレベルは50と47といった結構な熟練者っぽい。

 というか完全に俺だけレベルが違う(逆の意味で)。一人だけレベル一桁とかどんな冗談だよ。


「とりあえず俺たちが先行するから二人はついてくるようにしてよ。俺たちも仕事だからガイ君たちを手伝うわけにはいかないけどある程度危険なモンスターはこっちで片づけるから」


 そういって三井さんは二人の騎士を引き連れて奥へと進んだ。たぶん三井さんはレナの能力見てないな。自分より倍以上レベルが高いなんて思ってないんだろう。

 レナはアリアさんの家を出てから一言もしゃべらず俺の歩く後を黙々とついてきている。なんか背後霊なんかの類みたいで心持ち背中を寒いものが走るけどあんまり気にしないようにしよう。


「じゃ、俺たちも行くか」

「キュイ!」


 肩の上で元気よく返事をするスクルドとは対照的にレナは無言で俺の後に続いた。

 馬車の中で三井さんから聞いた限りでは迷宮での冒険者の仕事はとにかく迷宮の中を探検すればいいそうだ。普通の討伐系の仕事とは違って奥に行けばいくほど報酬は上がる。基本的に出てきたモンスターを討伐する必要はないそうだ。

 まぁ、奥に行くほどモンスターの数も質も上がるから必然的に帰りのことも考えて倒した方が後々楽はできるそうだが今回は三井さんたちがいるから俺たちはそんなにモンスターのことは気にしなくていいだろう。

 迷宮ってやつはモンスターたちが自主的に作ったコロニーのようなもので周辺の村を襲ったり道行く冒険者や承認を襲って武器や宝物関係を奪って溜めこむことが多いらしく、その価値を知ってか知らずかは別にして迷宮内にはそれらが散乱しているので冒険者はそれらを回収して直接の利益を出すのが常套らしい。さすがにゲームみたいに宝箱なんかを開けてアイテムを拾うことはないんだな。

 とりあえず三井さんたちの後ろを50メートルくらい離れてついていくが三井さんたちは非常に強い。出てくるモンスターを片っ端から倒して無人の野を行くがごとく迷宮を突き進んでいく。俺たちが相手するのは単純に討ちもらしたやつだったり、とどめの刺し損ね、雑魚過ぎて障害にならないと判断されたやつばかりで非常に楽だ。

 それからしばらく、たぶん1キロぐらい進んだところで道が分岐していた。三井さんたちはしばらく話し合った後で三井さんは右の道、残りの二人が左の道へ行くことになったようだ。こういう場所では突発的なトラブルに対応するためにできるだけまとまって動いた方がいいとは思ったのだが、迷宮探索初心者の俺は黙って三井さんの後に続いた。

 三井さんは100近いレベルなだけあって一人でも圧倒的な強さだった。出てくるモンスターを先ほどと変わらないペースで倒している。さすがに人数が減ったおかげで手数が減り俺たちの方に流れてくるモンスターの数も増えはしたが10匹の集団に襲われて2、3匹程度でほとんど苦労は増えていない。風のナイフを敵の数だけ振るえば終わってしまう。


「また、分岐か……」


 さらに進んでいくと今度はさっきの分岐から500メートル程度で道が分岐していた。三井さんはこちらに振り返り手招きするとこれからどうするのかを俺たちに聞いた。


「とりあえずさっきの道とつながってるかもしれないから俺は左に行くつもりなんだけどガイ君たちはどうする?」


 これはけっこう迷いどころだ。さっきまでのモンスターを相手にした感じでは風のナイフのかまいたちの一撃で倒せるモンスターばかりしかいない。実験したところかまいたちは連続で20回ぐらいなら苦も無く発生させられる。つまりは三井さんと別れたところでそれほど苦労はないんじゃないか?という結論に達している。

 こちらには単純計算で三井さんの倍の実力者であるレナもいるから今までと同じ規模の敵しかいないなら正直楽勝だ。


「う~ん……ここまでの感じだと俺たちだけでも戦えそうですけど……三井さんの経験から言ってこっから先にさっきまでの敵より10倍ぐらい強い敵は出そうですか?」


 さすがに10倍とかのレベルの敵だと苦戦しそうだがそうじゃないなら。というのが俺の意見。


「そうだね……やっぱり迷宮によるけど、さすがに10倍以上強い敵は出ないんじゃないかな?せいぜい属性付きのベアーぐらいだと思うよ」


 属性付きのベアーってのは初仕事の時に俺が倒したアースベアーのことだな。あいつが地属性のベアーで他にも何種類かいるって話は聞いている。


「それなら大丈夫だと思います。俺たちは右に行かせてもらいますよ」

「そうかい?じゃあ、日暮れまでにはここから出るようにしてね。先に俺たちがここから出ても日暮れまでは待っててあげるから。さすがに日が沈んだら報告もあるから先に戻らせてもらうよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 日暮れまでだいたい6時間ぐらいある。まぁ戻る時間も考えてあと2時間ぐらい進んだら戻ることにしよう。

 三井さんと別れて右の道を進んでいくとやはりというかモンスターが現れた。角突きのウサギやらゴブリン、普通のベアーなんかが出てきたけど俺のかまいたちだけで切り伏せる。この調子だとレナはなにもしないままで今回の探索は終わるだろう。

 俺たちは会話もないまま歩き続けた。出てくるモンスターを俺が切り伏せ時折落ちている金貨や銀塊入りの巾着袋みたいなものを拾う。多くの場合は銀貨だけしか入っていないけど、すでに拾っただけで金が300万近い額になっている。やばいな、迷宮探索って儲かりすぎる。


「?」


 不意にレナが足を止めたので俺も立ち止りレナの方を振り返る。


「どうかしたのか?」

「精霊がざわついています。この先に強い魔物がいるみたいです」


 強い魔物……ね。三井さんが言ってた限りだと属性付きのベアーぐらいのレベルしかいないし大したことないだろ。属性付きのベアーだって一般人からすればまったく抗うことのできない災害のようなレベルだって言うしな。


「大丈夫だろ?もうちょっとだけ進んだら戻るつもりだしもう少し先まで行こうぜ」


 俺はその時気づいていなかった。俺の肩に乗るスクルドが俺たちの進む先を見てその毛を逆立てていることも、さっきからモンスターが一匹も出ていないことも。

 そして俺は自分のスキル、幸運を過信しすぎていたんだ。運がいいことだし大したモンスターも出やしない。そう心のどこかで思っていたんだ。



 しばらく迷宮内を進んでいくとすごい広さの広間らしい場所に出た。実際に入ったことはないけど、テレビなんかで見る東京ドームくらいの広さってこんな感じだ。明かりのないその場所では俺の持つ松明の明かりだけが光源のためあまり遠くまで見ることはできないがたぶんそれくらいの広さだと思う。

 不意に広間の奥で何かが動いた。奥にある黒い何かが動いたようにしか見えなかったがそいつは間違いなく巨大な何かだ。


「やばい、避けろ!」


 俺は自分でもわかっていなかったが直感的にそう叫んでいた。広間の奥に進むようにその場を離れた直後、何かが吐き出した炎があたりを明るく照らした。

 突然明るくなったので一瞬何も見えなかったが、徐々に目が慣れてくるとそいつがなんなのかを一目見て理解した。


「ドラゴン……」


 赤っぽい皮膚のそいつはどこからどう見てもドラゴンだった。


 え、まじで?こんなん出るの?




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