15話 美人のお姉さんは俺のペットの追っかけでした
さて問題です。俺は今殺すと言われました。それはなぜでしょう。
1、見てはいけないものを見てしまった。
2、彼女の大切なものを壊してしまった。
3、自分でも知らない間に彼女にセクハラしていた。
って、わかるかボケ!
「言ってる意味が分からないんですけど?」
「あなたは馬鹿なんですか?」
うぉい!なんでこいつはいきなり人の言葉か呼ばわりすんだよ。確かに俺だって自分の頭の出来が普通の人より優れてるなんて思っちゃいないが、いきなり馬鹿呼ばわりされるほど悪いわけじゃない。
「私はあなたを殺すって言ったんですよ?」
「それはわかってるよ。問題はなんで殺されるのかってことだ」
理由もなく殺されるなんてたまったもんじゃない。いや、理由があるからって殺されるのも嫌だけど。
「そんなこともわからないんですか?」
「少なくとも俺は、君に何かした覚えはないんだけど?」
「えぇ、私は何もされていません。理由はこの方です」
エルフの女が指差したのはスクルドだ。スクルドの方は我関せずとあくびをしてる。
いや、うん……やっぱり理由はわからん。
「どういうこと?」
「あなたがクレイ様を誘拐したのがいけないんです!あまつさえダークウルフの群れに襲われてクレイ様を危険にさらすなんて言語道断です!」
「クレイ様?」
やっぱり、さっきから彼女が言っているクレイ様ってのはスクルドのことだろう。ていうか、誘拐なんてした覚えないんだが。
「誘拐って……俺がついてくるか?って聞いたらスクルドがついてきたんだよ。別に誘拐なんてしてないって」
「誰ですかスクルドって!?この方は誇り高きリウンドのクレイ様ですよ!それに、クレイ様が人間ごときについていくはずがありません!あなたが誘拐したに決まってるんです!」
「知らんがな。別に俺がスクルドって名前を付けた時も嫌がってなかったぞ?」
「そんなことありません!クレイ様はあなたのような人間ごときに名前をつけられて大層ご立腹です!」
当のスクルドは丸くなって寝の態勢に入ろうとしている。やばい、子猫チックでマジかわいい。やっぱスクルドは俺の癒しだ。
エルフの女の無駄なテンションの高さとスクルドのどうでもよさそうな反応の差はいったいなんなんだ?
「ふんっ!もういいです。クレイ様も無事でしたから今回だけは特別に許してあげます。さぁクレイ様、里に帰りましょう?」
「キュイ!」
「っ痛!く、クレイ様!?」
しゃがみこんで手を差し出したエルフの女の手にスクルドはかみついた。スクルドがかみつくだなんて予想だにしていなかったのかエルフの女はかまれた手を押さえて混乱している。スクルドの方は毛を逆立ててエルフの女を威嚇してるがどういうことだろう。
「ふぅ……スクルドおいで」
俺はその場にあぐらをかいて座るとスクルドに向かって手招きをした。スクルドは逆立っていた毛を落ち着かせるとトテトテと俺の膝に乗って丸くなる。
「とりあえず、座って話でもしよう。君とスクルドの関係とか聞かないと俺には何にもわかんないから」
俺はスクルドの背中をなでながらエルフの女に座るよう促した。混乱していた様子だが、スクルドの様子を見たエルフの女も俺と向かい合うようにとりあえず座った。
「とりあえずは自己紹介かな?俺は獅子王ガイ、この近くの街で暮らしてて一応冒険者ギルドに所属する冒険者ってことになってる」
「…………私はレナ」
エルフの女、レナはそれだけ言って口をつぐんだ。自己紹介だからってのもあるだろうけどここまで話が弾まないのもどうなんだろう。
「で、スクルドと……レナが言うところのクレイ様ってのとレナの関係は?」
「なぜそんなことをあなたに話さないといけないんですか?」
「いや、一応スクルドの飼い主は俺だからな」
「か、飼い主!?あなたは誇り高いリウンドであるクレイ様をペット扱いしているというのですか!?」
どうやらレナにとってスクルドは相当神聖な存在みたいだ。まぁ、伝説の神獣らしいから当然っちゃ当然なのか?
「あなたのような無礼な人間に……これだから野蛮な人族は嫌いなんです。クレイ様、やっぱり帰りましょう?」
レナの声は聞こえてるんだろうけどスクルドはピクリとも反応しない。そんなスクルドの対応にレナの方は泣きそうな顔になってる。いや、なんか申し訳ない。
「スクルドもこんな調子だし詳しく話してよ。話次第だったら俺もこいつを説得するから」
「っく……」
いや、そんな悔しそうな顔しないでよ。レナよりもスクルドに懐かれてるみたいだけど、それは俺のせいじゃないんだから。
「クレイ様は私たちの里の光だったんです……」
レナの話によれば、エルフの里にスクルドの親であるリウンドがやってきたそうだ。その際にスクルドを生んだ親はエルフたちにスクルドの世話をまかせてどこかに行った。もともと神と同位であるリウンドの言うことを世界の秩序、神の言葉なんかに従順なエルフは断るはずもなく丁重に世話をしていたそうだ。しかしある日突然スクルドがいなくなって大騒ぎ。レナをはじめ数人の戦士がスクルドを探すために旅に出たっていうのがいきさつらしい。
「つまり、スクルドを世話するって約束をこいつの親としたから探してたってことだな」
「……そうです」
レナの役割もわかるけどスクルドの気持ちもなんとなくわかるな。
神と同位だからと言って尊敬というか畏敬のような感情を持って接してくる相手ばかりの状況が嫌になったてところか?やっぱり神様が相手だからってどこか他人行儀に相手してるのがレナの態度からもなんとなく感じ取れる。
頭がいいスクルドはそんな環境が嫌になってエルフの里を出たんじゃないか、と俺にはそう思えた。
「なぁスクルド……お前はどうしたいんだ?俺と一緒にいるか?それともお前の親がお前を託したっていうエルフの里に帰るか?帰るなら1回、俺といるなら5回鳴いてくれ」
普通に考えたら2回とかのほうがいいんだろうが、堅物なんかが相手の時はこういった数は自分に不利なように不自然な数にした方がいい。そうすれば偶然だのイカサマだの言われたときに反論がしやすくなる。
「キュイキュイキュイキュイキュイ」
即答かよ。いくらなんでもレナが可哀そうすぎる。目じりに涙を溜めてスクルドを見つめる様は実に不憫だ。
「く、クレイ様……」
「ま、まぁそういうことだから諦めてくれ」
スクルド本人がそう決めたのだからこいつも文句はないと信じたい。というか、神獣であるこいつの言うことはエルフのレナには絶対と言えるはず……
「わかりました。クレイ様がそこまでその人間とともに居たいというのなら私もそれに従います」
どうやらわかってくれたみたいだ。助かった。
「私もお供いたします。たとえそれが人族の街であろうとも!」
…………ま、まじで?