14話 命の恩人は美人さんでした
今日も今日とてお仕事です。とはいってもまだ冒険者ギルドに入って3日目、仕事は2回目だけどそれはまぁ気にしない方向で。
今日のお仕事は調子に乗ってベアーの討伐を受けてみました。この間はアースベアーを余裕?で倒せたし簡単に済むだろうなんて思っていました。
ごめんなさい、ギルドの仕事なめてました。
現状を簡潔に説明しよう。
絶体絶命
ベアーは簡単に倒せたんだけど問題はそこじゃない。ベアーを倒してアリアさんから聞いていた高く売れる部位をはぎ取ってる途中にそいつらはやってきた。
全身が黒い毛で覆われた狼。やつらは群れでやってくる……なんてふざけてる状況じゃない。
最初は一匹しかいなかったからレンズで能力を確認してみたら、レベルは3と低めだったし余裕だと思ったんだ。だけど、備考の欄を俺は確認してなかった。
集団で狩りをおこなうため一匹見つけたら30匹はいる。Gかおまえらは!
俺を見つめるや否や一匹しかいなかったそいつはすぐさま遠吠えで仲間を呼んだ。瞬く間に30匹どころか見渡す限りの狼に囲まれてしまった俺はまさに絶体絶命だ。
なにせこいつらは連携の取れた動きをする上にめちゃめちゃ速い。かまいたち攻撃を仕掛けてもほとんど避けられてしまい俺が倒せたのはたったの3匹だ。スクルドのやつも何倍もデカい狼相手に善戦している(さすが神獣)が、いかんせん数が多いし2匹ほど倒しただけで徐々に押されている。やばい、俺の癒しがやられてしまう。
大口開けて襲い掛かってきた狼の口を手甲で受け反対の手に持った短剣で腹をかっさばいてやる。ちなみにどうでもいいことだが今の俺は片手に風のナイフ、片手に短剣という双剣装備の状態だ。鬼人化できれば楽なのかもしれないが生憎とそんな便利機能はなかった。
こういう場合群れのリーダーを倒せば他のやつらは逃げていくんだろうが、どいつもこいつも同じようにしか見えないのでどいつがリーダーだかまったくわからん。リーダーがわかったところで完全に包囲されているからそいつのもとまで行けるかが問題だ。あ、かまいたち乱射すればいいのか……どっちにしろリーダーわかんないんだから関係ないし。
「だぁぁぁ!ちくしょうめ!」
一気に襲い掛かってきた三匹の狼を切り落としスクルドの傍に寄る。範囲魔法なんかが使えれば楽に倒せそうだが生憎とスキルのレベルに反して魔法なんてかまいたち以外に使えない。このままじり貧になったら俺もスクルドも狼どもの餌食になってしまうだろう。
「ガァァ!」
「やばい!?」
一瞬のすきを突くように三方向から同時に狼が襲いかかってきた。武器が二つあるから二方向ならなんとかなるが、もう一匹からの攻撃は喰らってしまう。
なんとか襲い掛かってきた二匹を切り伏せもう一匹からの攻撃に備えようとするが一向に襲い掛かってくる様子がない。
「ん?」
ちらりと目を向けてみたところ狼は眉間に矢が突き刺さりすでに事切れていた。俺もスクルドも(当然だが)弓なんて装備は持っていない。いったい誰が援護してくれたんだ?
俺が援護の存在に気付くや否や雨のように矢が降り注ぐ。突然の事態に狼どもも面食らったのか混乱している様子だ。
「あなたの前方の一番奥にいるのが群れのリーダーです、そいつを仕留めてください」
どこからともなく聞こえてきた声に反応して俺は一気に駆け出した。混乱している狼どもは突き進む俺に攻撃することもなく俺は群れのリーダーを一閃する。
それからの事態は劇的に変化した。リーダーを倒された狼たちは逃げるようにその場からいなくなり、俺とスクルドだけがその場に残される。
「いったい誰が……」
きょろきょろとあたりを見回しても声の主の姿は見つからない。声から察するに女らしかったがいったいどこの何者だろう。
「クレイ様、ご無事でよかった!」
不意に聞こえてきた声に反応して上を向くと突然木から人が降ってきた。いや、木の枝から飛び降りたのか?というかクレイ様?
断じて俺の名前はクレイじゃない。不本意なことながら獅子王ガイだ。
「あんたいったい……」
木から飛び降りてきた女は俺を無視してスクルドに駆け寄った。え、なにクレイってスクルドのことなの?
「本当に良かった。突然里からいなくなったのでずっと探していたんですよ?」
女はほっと胸をなでおろすと俺に向き直りすごい形相で睨みつけてきた。だけど俺はそんなことよりも正面から見た彼女の姿に見とれてしまっていたのでそんなことには気づいていない。
腰にかかるほどの長さの金色の髪はこんな世界にあっても手入れが行き届いているのかさらさらとしている。たぶん撫でてみたらスクルドの毛並みみたいにいい気持ちだろう。強い意志を感じさせる蒼い瞳、緑を基調とした鎧は様々な装飾がなされている。普通の女の人が着たら派手って印象しか受けないだろうが、彼女の美貌の前では嫌味さを全く感じさせない。女性らしい体つきをしていて出るとこは出ているしへっこむところはへっこんでいる。うん、スタイルはアリアさんとかなりいい勝負してる。
雪のようなっていう表現がぴったり当てはまる白い肌、全体的に芸術とも言える容姿の中で一際目を引いたのは人間のものとは違う形をした、上向きに伸び先がとがっている耳だった。
「……エルフ?」
「人間、あなたを殺します」
え……なに、どゆこと?
いまさらですが、成り上がりという要素に関してはまだなりを潜めています。
現在は一章という位置づけですが、成り上がりを見せるのは2章以降になりますので悪しからず。