12話 拾いものは便利そうでした
再びやってきました街の近くにある森でございます。
本日の装備は風の強化ナイフに銅製の短剣、体の前面を守るようにできた鉄製の防具に手の動きを阻害しないようにできた手甲といった形になっております。うん、説明はこんなもんだ。
今日は昨日俺の相棒になった黄色い小動物ことスクルドを伴って森の奥まで進んでいく。ちなみにスクルドは北欧神話における未来を司る女神だったか神様だったかの名前だ。確か女神だったんでちょうどメスだったスクルドには将来的に俺のサポートができるぐらい育ってほしいという願いを込めてこの名前を付けた。
元の世界の俺の友人からすればギャレオンなりガイガーって名前を付けろって言われるだろうが、俺は自分の名前が好きじゃないから死んでもそんな名前は付けたりしない。
「キュイ!」
「ん?どうしたスクルド」
不意に俺の肩に乗っているスクルドが鳴いた。こいつはかなり頭がいいみたいで俺の言葉は意味まで理解できるようだ。アリアさんが毛が散ったりすると掃除が面倒だから部屋には絶対入れるなと言っていたのでダメもとで言ってみたところ「キュイ」と一鳴き返事をしてアリアさんの部屋には絶対入ろうとしない。まじすげぇ。
アリアさんが言っていたが、ここまで頭がいい動物は見たことがないそうだ。辞書なんかで調べてもらったけどスクルドみたいな動物はどこにも載っていなかった。
と、スクルドは俺の肩から飛び降りるとトテトテと先を走っていく。トテトテなんて言っているがこいつの走る速さはゴールデンレトリバーが全力疾走するくらい速い。こんなに小さい体でどうしてこんなスピードが出るんだ?
「ん?」
スクルドが茂みを飛び越えて向かった先まで行ってみると誰かが倒れていた。近づいてみるが動く気配はない、死んでいるようだ。
「キュイ!」
死体の手のあたりでスクルドが鳴いたので手のあたりを見てみるとなにやら手帳のようなものを持っている。反対の手にはボールペンを持っているところを見ると死ぬ直前に何かを書いたみたいだ。
というか、ボールペン!?こいつもしかして勇者か?
手帳を取ってみると生徒手帳のようだ、高校の名前と顔写真が貼られたそれは間違いなく地球のもの。それも日本人みたいだ。
適当にページをめくりメモ帳の欄までたどり着くとそこには遺言が書かれていた。
『父さん母さん、先立つ不孝をお許しください。突然異世界にしょうかんされて最初は楽しい毎日がつづいていましたが、国が亡び旅をつづけ僕は最後のときをむかえます。
もしもこれをみつけた人がゆう者で、ちきゅうに帰ることができたならりょうしんにこの手ちょうをわたしてください』
ところどころが血で汚れた手帳にはその後も遺言が続けて書かれていた。焦って書いたのか字は汚くて読みにくく最後の方になるとほとんどひらがなだけになっていた。
俺ももしかしたらこうなるのかもしれない。そう考えると怖いものがあったが、今はこの亡くなってしまった勇者をどうするかのほうが問題だ。
街には墓地があるかもしれないが手続きもわからないし、たぶん墓の場所を買わなきゃならないだろう。俺だって生活がある、見ず知らずの相手にそこまでする余裕はどこにもない。
俺はポケットに手帳をしまうと仕方がないので近くにある一番デカい木の下に穴を掘って亡骸をそこに移動させた。死体を持つこととかに抵抗はあったが見ず知らずとはいえ同郷の人間だ。この場にそのまま放置するなんてことはしたくない。
亡骸を持ち上げたところで何かが地面に落ちた。レンズのようだ。
亡骸を埋めると木の棒を十字に切って墓標を立てた。モンスターなんかに荒らされて壊されるかもしれないが、亡骸はかなり深い場所に埋めた。掘り返される心配はないと信じたい。
俺は先ほど落ちたレンズを拾い上げると中を覗き込んだ。歪曲されている様子もなくメガネなんかの役割はなさそうだ。ただのガラスがはめ込まれているようだが、これはいったいなんだろう。
レンズを目に当てた状態で何気なくスクルドに視線を向けるとそれは俺の頭の中に直接流れ込んできた。
『スクルド 種族:リウンド クラス:神獣
レベル:3 スキル:なし
備考:獅子王ガイのペット』
「は?」
レンズを外してみるとその情報はなくなるがもう一度レンズを通してスクルドを見ると同じ情報が再び頭の中に流れ込んでくる。
「……なんだこれ」
俺はレンズを外してしげしげと見つめた。これはあれだろうか、レンズを通してみたものの能力がわかるっていうアイテムだろうか?
普通、ゲームだったらカーソルあわせて簡単に確認できるもんがこの世界ではこんなアイテムに頼らないといけないのか?まぁ、今まで能力とか確認できなかったから便利っちゃ便利だが。
俺は一度できたばかりの墓を振り返り今度はレンズに視線を移す。
「もしも帰れたら手帳は届けてやるよ。そん変わり、これは駄賃代わりにもらうぜ?」
返事なんてあるはずないが一応声に出して確認する。死んでしまったのならこんなものに使い道はないだろうし問題ないだろ。死体から追いはぎするようで気持ち的には思うところがあるけどもこんな便利なもの捨ててしまうのはもったいない。
仮に地球に戻れたなら間違いなくこの手帳は届ける。そう心に誓って俺はレンズをポケットの中にしまった。
今日はもう帰ろう。
少し気落ちしながら俺は来た道を戻った。
…………明日は我が身……か……
少し重い話になってしまいました。
基本的にお気楽思考で進むつもりなんですが、展開の都合上ってことでご納得お願いします。