10話 いきなり所持金が増えました
無事にと言えるのかわからなかったが、鹿狩りのクエストをクリアした俺はようやく街まで帰ってきた。
朝早くに街を出たはずなのに、日もどっぷり暮れているのはいったいどういうことだろうか?
ついでに、顔から血がダラダラ流れてる状態だから、体力の消費が余計に早い。というか倒れそうだ。しかもかなり痛いから今すぐに泣き叫びたい。
そもそもの問題は、あの熊を持って帰ろうとしたのがいけなかった。その辺の木を適当に切り倒したり蔦なんかを使っていびつな車輪付きのソリみたいなもんを作ったまではよかった。だけど、熊をそれに乗っけるのも一苦労だったし、凹凸の激しい道をこんな即席のソリもどきで無事にたどり着けるはずがなかったんだ。
案の定、街にたどり着くまでに5回車輪が外れ、3回全壊した。途中で諦めそうになったけどここまでの努力を無駄にしたくない一心で頑張った。誰か褒めてくれ。
やっとの思いで熊と鹿が3頭のっかったソリを引いてギルドの前に到着する。もう、街の中だってのにこんだけきつい思いすんのやだ……
「ふんがぁ」
掛け声とともに扉を開き冒険者ギルドの中に入る。最後のひと踏ん張りとばかりに足に力を込めて一歩を踏み出したところ、ソリの方も限界が訪れたのか4回目の全壊だ。もうギルドについたからこいつの世話ンあることはないが、ここまで頑張ったソリに心の中でそっと敬礼する。
夜も遅い時間だったのでギルドの中に人の姿はまばらだった。こういう時に24時間営業の店は助かると思う。
「ちょっと、あんた大丈夫なの?」
疲れからうつむき加減だった血だらけの顔を上げてみると心配そうな表情のアリアさんが立っていた。今日は非番だって言ってたのになんでいるんだろう。こんな時間に女性が独り歩きするなんて危ないですよ?
「えぇ、まぁ……めちゃめちゃ痛いですけど死なずにすみそうです」
苦笑しながら答えるとアリアさんの視線は俺から後ろの熊に移った。
「どうしたのそのアースベアーは」
「アースベアー?」
「そ、地属性のベアーよ毛並みが茶色いでしょ?」
言われてみるとこの熊は毛が茶色っぽい色をしている。襲われた時なんかは相手が熊ってことで頭がいっぱいいっぱいになってたから気づかなかった。というか、熊が茶色いのって結構普通じゃないのか?と思ったらこの世界の属性がない普通の熊は黒一色らしい。
「まぁ、襲われたんで命からがら倒したんですけど、ギルドってこういうのの買い取りとかってやってますか?」
買ってもらえないなら苦労して森の中から街まで運んだ意味がなくなってしまう。せっかく倒したし金になるかもしれないからここまで運んできたけどどうなんだろう?
「倒したの!?あんたが一人で!?」
「えぇ、まぁ……」
アリアさんは驚きに目を丸くしてるけどそんなに大層なことなんだろうか?かなり強かったけど風のナイフ(仮、俺命名)のおかげでだいぶ楽に倒せたんだけども。
「アースベアーなんてEランクの冒険者が二人がかりで倒せないことはないけど苦戦するんだよ?それを
一人で倒したって……あんた実は強かったんじゃない」
確かに一撃の破壊力は軽く死ねるぐらい強かったけどそんなに強かったのか。
Eランクってことは今の俺より二つ上のランクだ。それが二人がかりで倒すってことはけっこう強いのか?まぁ、こいつを倒せたのは風のナイフのおかげだから俺が強いのかって言われたら微妙だけど。武器が強い=持ち主の強さではない。それがわかってなかったら早死にするはめになるのはどんな漫画やゲームでも常識だ。
「なんか、買った武器が値段のわりに使えるやつみたいだったんですよね。だから俺が強いっていうよりも武器のおかげです」
「だからってあんた……まぁいいや。アースベアーならギルドに売っても銀塊1つくらいの値段にはなるはずだよ」
マジで!?銀塊ってことは10万だろ?かなりいい値段じゃん。いきなり資産が三井さんからもらった時の倍になっちまったよ。
「今日は非番だけど手続きは私がやってあげる。うちに入れる食費のこともあるし買いたたいたりしないから安心しなさい」
「ありがとうございます」
言いながらカウンターの向こうに入っていくアリアさんに続いて所定の手続きを進めていく。基本的に俺が最初に受けたのは鹿を3頭狩ってくるクエストだったからそれの完了手続きを先に済ませる。報酬は銅貨6枚と1頭につき2000円相当だった。けっこうわりはいいのか?
続いてただの熊だと思ってたアースベアーの買い取り手続きも一緒にやってもらうわけだがそこで一つ問題というか思いもよらぬことが起こった。
「こいつ賞金首だわ」
「は?」
なに?え、熊にも賞金首とかあんの?
「なんか近くの村が襲われたとかで討伐依頼が出されてるよ。ほら、頭のところが十字に白くなってるでしょ?」
またも言われて初めて気づいたが、人間でいえば眉間の部分だけ白っぽくなっている。なんでも普通は一部分だけ毛の色が変わってる個体はそうそういないそうだ。
「冒険者もかなりの人数が返り討ちにあってて依頼は中位の仕事になってたみたい。まぁ、突発的な事故みたいなもんだし報酬はしっかり支払われるけどランクに影響はないわね」
ランクに影響がないのはちょっともったいない気がするけど半年たったら冒険者をやめることだし無理にランクを上げる必要はない。別段そこは問題じゃないだろう。
「で、賞金っていくらなんですか?」
「銀塊3つ。熊の部分買取でさらに銀塊1つだね」
マ・ジ・で!?いきなり40万!?昨日の朝まで無一文だったのにいきなり40万も稼いじまったよ。冒険者って案外ぼろい商売なのか?
まぁ、ラッキーにラッキーが重なった結果だからおんなじように毎日稼ぐことはできないかもしんないけどこれで二か月くらい働かないでも食っていけるぐらいの金になったよ。
「じゃ、値段に納得いったらギルドカード出して」
「?なんでですか?」
「仕事が終わったらギルドカードを確認して持ってきた証拠品なんかが正規の手段で手に入ったかどうかの確認とかしないといけないのよ。他人が倒したモンスターを勝手に盗んで持ってきたりとかってのの防止のために」
「でも、誰かが倒したものを取引で譲ってもらうとかってのはできないんですか?」
「そういう場合はギルドカードをお互いに見せ合って契約をすんの。ギルドカードは高性能だからそう言った取引なんかには必ずかかわってくるから忘れちゃだめよ」
まじギルドカード神じゃん。このちゃちい板一枚にどんだけの機能があるんだ?
アリアさんにギルドカードを手渡して処理をしてもらうとアリアさんの顔色がわずかに変わる。
「どうかしました?」
「あんたに称号がついてるんだけどね」
「称号?」
「今回みたいに特殊な討伐をするとその人の二つ名なり称号なりが手に入んのよ。依頼主によっては特定の称号を持ってないと雇わないとかの変わり者もいるんだけどね」
「はぁ……それがどうしたんですか?」
「あんたの称号、『Brave』はわかんのよ。GランクなのにDランク相当のアースベアーを倒したんだからね。だけど問題はもう一つの方なのよ」
「もう一つ?」
「『Tamer』のほうよ、使役者……動物なんかを戦いに使う人間が持ってる称号なんだけどね、あんたそんなの飼ってたっけ?」
「……………」
これはもしかしなくともさっき森であった黄色い小動物のことだろう。今は俺の胸元、胸当てを少しずらして隙間を作ったところで寝てるこいつが俺のペットとしてギルドカードの方には完全に認められているってことだ。
「いや、実は森でこいつを見つけましてね」
言いながら俺は胸板を外して黄色い小動物を起こさないようにカウンターの上に置いた。
「ふぅ~ん、あんたは居候のみでありながら森でペットを見つけてきたと」
「……」
黄色い小動物を見下ろしながらアリアさんは俺に冷めた視線を投げかける。確かに俺は居候だから強く出るわけにもいかない。
「こいつのおかげで俺は助かったんだよ。飼うわけにはいかないかな?もちろんこいつの分も食費とか出すから」
こうなれば拝み倒す以外に方法はない。なんとかアリアさんに認めてもらえば俺の癒しともいえるこの小動物をペットにできるんだ。
「ふぅ……まぁいいわ。ちゃんと面倒は自分で見るのよ」
子供が捨て猫を拾ってきたときのお母さんみたいなことを言ってアリアさんは黄色い小動物を買うことを認めてくれた。半ばあきらめ気味みたいだけど認めてくれたのは確かだ。
「アリアさんありがとう!」
なんだか知らないけどこいつはきっといい拾いものなんだ。心のどこかでそう思っていたので本当にうれしい。喜びのあまりアリアさんの手を取ってしまったが、ふり払われることはなかったのでこのぐらいのスキンシップは大丈夫なんだろう。アリアさんの顔が少し赤い気がするけど、照れてるのか?
「で、そろそろ傷の手当でもしたら?」
うん、それは俺も思ってた。一向に血は止まんないしいいかげん手当てしないと出血多量で死ぬかもしんない。
俺はその後の手続きなんかはアリアさんに任せてそそくさとギルドに併設されている医療所へと向かうのだった。
うん、マジで顔面血だらけなのは気分悪いわ。
称号に関してですが、私はそれほど英語に詳しくないので辞書で調べたそれっぽい単語にerを付けただけの形です。
本来の意味と違うだとかこんな単語は存在しない的なつっこみはできればなしの方向でお願いします。
英語に詳しい方なんかがこういうののほうがよくない?といった指摘を頂けたら随時調整しますので、よろしければ有識者の方は突っ込みお願いします。