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こちらも理不尽な対応をさせていただきます  作者: わらびもち


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2/21

我が家に王命が下ったよ

 王命なんて自分には一生縁のない話だと思っていた。


 だって私は()()()()()ありふれた子爵家の娘。

 由緒正しき名家でもなければ資産家というわけでもない特に目立った部分が無いありふれた家の娘。

 当然国王陛下に拝謁できるような身分でもない自分に、その陛下から直々に命令が下ることなんて天地がひっくり返っても有り得ない。


 そう、有り得ない。有り得ないはずだ。


 じゃあ、これはどういうことなのだろう……?


「うん、天地はひっくり返っていないわね」


 窓から外を眺めて私は現実逃避の言葉を呟いた。

 天は青々として日の光が眩しく、地は草木を生き生きと育んでいる。


 あー……いい天気。このまま()()を見なかったことにしてお散歩にでも行きたい。


 窓の外を眺めて再び現実逃避を考えた。

 だって仕方ない。そうでもしなければ意識を保てないほどコレ……国王陛下の玉璽が押された書状の衝撃が大きい。


 こんな木端貴族の令嬢に畏れ多くも国の頂点に座す御方から直々に書状が届いたというだけでも驚いたというのに、その内容は更に驚愕ものだ。


 『フロンティア子爵家の娘をバーティ侯爵家に嫁がせよ』


 「何それ……?」というのが初めに出た感想。

 次に「バーティ侯爵って誰?」となった。


 何故、侯爵なんて高位貴族相手にこんな下位貴族家の娘が嫁がなくてはならないの?


 ちなみに我が家に娘は私だけ。つまり”フロンティア子爵家の娘”は私を指す。

 そう、私しかいないのだ。ならば何もこんな回りくどい書き方などしなくとも、私の名で書けばいいのではないかと思う。アリッサ・フロンティアをバーティ侯爵に嫁がせよ、と。


 手紙が届くことも解せないが、内容がもっと解せない。

 どうして私が見知らぬ人に嫁がなくてはならないの?


 貴族は政略結婚が当然とは分かっている。見知らぬ相手に嫁ぐことも珍しくないとは理解している。

 だがそれは何らかの利益や目的があって成立するものだ。

 せめて利益や目的くらいは書状に記載しておいてほしい。


「お父様に聞いてみるしかないわね……」


 ちなみにこの書状の宛名は私ではない。当主である父宛てだ。

 本来であれば私が開封して中を読んではいけないのだろうが、今は両親ともに遠出しており不在の為一時的に私が当主の代理を担っている。手急ぎのものがあっては困るので開封を許可されているのだ。


 しかし今は開けてしまったことを後悔している。

 何だこれ。本当に意味が分からない。


 これで私が夢見がちな性格ならば「侯爵様と結婚⁉ やった! 玉の輿だわ!」と喜べただろう。

 だが生憎の事そこまで純粋ではない。どちらかといえばこんな話は裏がありそうでただひたすら怪しい。


 父に聞けば何か分かるだろうか。

 というより、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()なのではないだろうかという予感がしてならない。


「お父様達が帰ってくるのは夕方か……」


 こんなにも穏やかな天気の日だというのに、夕方まで悶々として過ごさなければならないのか……。


 こんな書状を開封するんじゃなかった。

 どうせ父は今日帰ってくるのだから未開封の状態で渡せばよかった。


 自分の行動を後悔しつつ私は父達の帰りを待ち続けるのだった……。



「お父様、お母様、お帰りなさいませ」

「ただいま、アリッサ。留守中変わりはなかったか?」


 帰宅した父は脱いだ外套を侍従に渡しつつそう尋ねた。

 

「はい、()()()()()()。王命が記載された書状が届いております」


「はっ…………? な、なんだって……!?」


 父はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔でその場に固まった。

 まさか自分の留守中にそんなとんでもないものが送られてきたとは予想もしていなかったのだろう。


 私が国王の玉璽が押された書状を渡すと、父はそれをひったくるように奪って記載された内容に目を通す。そして全て読み終えると顔面蒼白でその場に膝をついた。


「そんな……。なんで、()()……こんな……」


 今更? それはどういう意味だと尋ねようとしたが、それより早く母が父に鬼の形相で詰め寄った。


「あなた……“今更”とはどういうことですの? あなたはこの有り得ない王命について何か心当たりがあるのですか?」


 もう完全に父が悪いと決めつけたうえでの発言。

 父は父で「違うんだ、これは……」としどろもどろになりながら弁明しようとしている


 その様子に私は「あ、これは完全に父が原因だな」と察した。

 

「何が違うと言うのです? 何もしていないのなら、どうして国王陛下直々の命令が当家に届くのですか? 何もなければ子爵家の娘を侯爵家に嫁がせよなどという有り得ない命令が下るわけがないでしょう‼」


 母の雷が落ちる。その迫力に父は「ヒイッ!」と悲鳴をあげて腰を抜かした。


「いや、だって今更……もう数十年も昔の事なのに……」

「数十年も昔の事……? いったい何があったのです?」


 数十年も前というと私が産まれる前のことだろうか?

 いったい父は何をやらかしたのだろう? 

 そしてそれが何故私が侯爵家に嫁ぐという話に繋がるのだろうか? さっぱり分からない。


「違う……違うんだ。あれはもう終わった話で……」

「だから! それはどんな話だと聞いているのです!」


 再び落ちる母の雷。また情けなく父が「ヒイイイッ‼」と悲鳴をあげて後ずさる。

 話が進まないな、もう。


「あなたが何をしたかは知りませんが……こんな悪名高い男にアリッサを嫁がせるなんてわたくしは反対です!」

「あら、お母様はそのバーティ侯爵をご存じなのですか?」

 

 どうも私は社交界の情報に疎い。王都の令嬢であれば高位貴族のことは当然のように知っているのであろうが、こちらは田舎貴族の娘だ。情報には疎い。

 

「ええ……。何年も平民の愛人を侍らせている方よ」


「愛人? ですが、貴族が愛人を持つことは普通なのでは?」


 裕福な貴族家の当主は正妻の他に愛人を持つこともあると聞いたことがある。

 なら、愛人を侍らすのは悪名高いと言うほどのことだろうか?


「それは既婚者に限った話よ。貴族家の令嬢を娶り、跡継ぎをもうけてからなら愛人を囲ってもいいというのが社交界の暗黙の了解。バーティ侯爵は未だ独身のまま愛人を正妻のように扱っているの。そのせいで社交界では爪はじきにされているわ。非常識が服を着て歩いていると揶揄されているほどよ」


「ああ……成程。それは貴族としてあまりにも無責任な行動ですね」


 我が国では貴賤結婚は認められていない。もしも平民を妻にしたいのであれば身分を捨てねばならない。貴族の身分を捨てないまま平民の愛人を妻として扱っているとなると、家の為にと政略結婚を受け入れている他の貴族達の反感を買って当然だ。


「でも、どうして私がそんな相手に嫁がなくてはならないのでしょう? その人が平民を妻のように扱っていようが、私にも当家にも関係ないのでは?」

「その通りだわ。……ねえ、あなた、どうしてなのかしら?」


 まるで地を這うような低い母の声に父は慌てて首を横に振って否定する。


「それについては知らない! 私はバーティ侯爵とは何の接点もない!」

「それについては……ね。なら、それ以外はご存じということよね? どうしてアリッサがそんな接点もない方に嫁がなくてはならないのか……。そしてどうして国王陛下が王命まで出してそれを強制するのか……」

「それは……その……」


 余程言いたくないのか脂汗を流して言葉を詰まらせる父。

 埒が明かないと思った私は冷めた声で父にこう告げた。


「お父様が何もご説明なさらないのでしたら、私はこの王命を受けません」

「なっ……王命を受けないだと⁉ それは陛下への反逆行為だぞ? そんなことをすればどうなるか分かっているのか!」

「きっと、とんでもない結果になるでしょうね……」


 意地悪く笑ってやれば父は観念したように俯いた。

 黙秘し続けていれば有耶無耶になると思うなよ?

 いざとなれば家を没落させてでも拒否するからな?


「分かった……話す。話すからどうか王命を拒否するなどという恐ろしいことは言わないでくれ……」

「あなたが黙ったままでいるから悪いのでしょう? アリッサの主張は尤もです。ほら、いつまでもこんな場所にいないで執務室に行きますよ。そこで洗いざらい吐いてもらいますからね」


 確かに玄関ホールでするような話でもない。

 母は文字通り父の首根っこを掴み執務室まで向かっていったので私もその後ろを着いて行った。


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