不審者確定演出
…………行くかあ、外。
ずっとここにいても仕方がない。そのうち精神が参ってまいそうだ。
とりあえず、いま原作がどのくらい進んでいるのか、それと、地名もわかれば良いのだが……。
この山奥のどこかに「ここは〇〇山です!」なんてご親切に書かれた札が置いてあるわけがない。しかしそうなると山を降りてこの山について誰かに聞く必要があるだろう。
――そう、この、日本で買った服を着て、山を降りて、人に話しかけなければいけないのである。
珍奇な格好で自分の住んでる方面の地名を聞く。不審者確定演出もいいところである。よってとりあえず地名も原作もどうでもいい。周囲を把握しよう。
重い足取りでドアまで向かい、何トンにも感じたドアを開けた。
開けた感覚は普通で、そのまま一歩外に出てみる。なにも感じない、特異なことは、何も。
ただ外の景色が、窓から見た何杯も綺麗で美しいことに、なにか泣きそうになった。
サンダルのまま、新緑の葉が実る木まで駆けてみる。自分でも何を思ったのかわからないまま木にしがみつき、そのまましばらくぼぅっとした。少ししてから木から離れ、玄関前の空きスペースでくるくる回ったり寝っ転がったりしてみた。
乾いた土が服や肌に付く感覚が心地よい。
――なんだ、案外良い住処じゃないか。
悪くない、むしろあちらより良いかもしれない。
……いやそれはない。そうだ。冷蔵庫のものが空になっらた私死ぬじゃないか。こんな事している場合ではないぞ。
周りを見渡せど森・緑・木・地面。葉。どっちが人里かわらりゃしない。トリップして早速のピンチである。
どうしたものかどうしたものかと呑気に考えていると、家と逆方向の場所から、葉を踏む音がした。
こんな山奥に、人?
まあ今はまだ明るいし、登山者がいても……いや、人目につかないために私を山奥にトリップさせたのだろう。ならば登山コースの近くに私の家を建てるはずがない。
……誰だろうか。
確実な足取りを持ってこちらに向かってくる音がする。
もしこの家が昔からあるものではなく、昨日神か何らかの手によって突然出てきた家であるのなら、それを追跡する魔法がこの世にあってもおかしくない。
作中にも魔力追跡のような能力が出てきていた。
最悪怪しいと言う理由で連行なり殺されりなりされそうなこの状況。さてどうしたものか。
うん、よし。家に引き篭もろう。籠城しよう籠城。そして素知らぬふりを貫くんだ。記憶喪失だとかなんだとか言って気づいたらここにいて〜とか適当なこと言って適当な顔しながら適当に対応しようそうしよう。
だいぶ不安の残る作戦ではあるが、そうと決まればと家に入って鍵を閉めた。
家中回ってドアや窓の鍵を締め、すべて確認し終えたあと、扉の真正面に立った。背中に隠した右手には包丁。ここは魔物がいる世界。何かあれば躊躇なくやる。
そしてドアの向こうで足音がやみ、ドアがノックされた――と同時に、ドアが破壊された。
…………。
誰だかしらねぇけどさ、新築の家になんてことしてくれてんだカス。




