肉体的死亡VS精神的死亡
少し、物事を整理しよう。
ここはどこだ→山奥の小屋だ。ただ小綺麗。いやほぼ新築並みに超綺麗。
私は誰だ→日本人だ。黒髪黒目で偏差値平均ちょい上に運動神経中の上の超普通の日本人だ。
これは転生か→否、おそらくトリップである。
そう、これは転生ではない。トリップだ。
まず第一に、姿が元の私のままだ。転生なら肉体への憑依だから親もいるし見た目も変わるしわざわざこんな山に隠すように家を置く必要がない。きっとこの世界に、私の戸籍はないのだろう。
今の私といえば、昨日鏡で見た私と変わらない見た目にいつもの部屋着だ。
……私の言う昨日が私の思っている昨日という保証はないが、まあ、寝て起きたらトリップしてました、で納得するのが早そうなのでそうすることにする。
にしても問題はこの場所だ。とてつもなく気味が悪い。まるで生活感がない。それに加えおかしなことに、私が日本で使っていたタンス、服、机、ソファ、パソコン、すべてがこの家にあるようだ。
まるで空白の家を作り、その中に私と私の所持品を敷き詰めたような感じである。
ただその敷き詰めた人、人間の知識がなかったのか、なぜか洗濯機が寝室であろうこの部屋においてある。……動かすの大変だよな、これ。どうしてくれるんだ。
まあ、困ったらその時どうにかすればいいか。
試しに水道に行ってみる。きれいな水が出た。問題なく飲めた。
別に入りたいわけではなかったがお湯張りボタンを押してみた。15分ほどできれいで適温なお湯が浴槽に溜まった。
台所のガスコンロのスイッチを入れてみた。問題なく着いた。が、家の作りは木なので燃え移ったら大惨事だ。色々気をつけよう。IHにしてくれるという配慮が欲しかった。
この家の中で、私は元の世界と変わらない生活が送れる。仕組みはわからないが、そういう魔法、と解釈すれば良い。
だから、問題はおそらく外。
窓から見える外は綺麗だ。山特有のきれいな緑に日光が差している。この世界を知らなければ、日本のどこかの森と言われても信じてしまいそうだ。
思えばいい国だった。物価だとか政治だとか、そういう人為的なしがらみを取った時、綺麗かつほど良い気温で構成される四季を日常として感じることができる国だったのだ。
まあ、ほど良い気温は経済成長とともに壊れたが。悲しきかな。返ってきてオゾン層……。
「さっそく祖国が恋しい……。ああ日本……少なくとも私の周りは平和だったあの日本……金銭と日光以外は私に優しかった日本……」
ホームシックならぬ祖国シックになるのが早い……もうすでに帰りたい。まだ異世界来て数時間だぞ……。ああ、帰りたい。いや別に仕事したいわけではなくて、上司に怒られたいわけでもなくて……ああ、どこに行っても地獄……。
肉体的死亡vs精神的死亡ってどっちが辛いのかな……。




