第8話 「この子を指名させてくれ」はっ?
地上。配達所。
「また、ひどくやられましたね~」
誠が俺の額に絆創膏を貼った。
「ヘーキだっつの」
ミノタウロスの傷がうずく。足と顔に、あざができている。
「イテッ。しみるだろ。優しくしろって」
「動かないでください」
誠が消毒薬を塗りながら、俺を叱った。
「颯くーん、リリアちゃんの配信見てたよー!」
美月が目を輝かせて近寄ってきた。
走るたびに胸が弾んで、……なんっつーか、〝物理〟が凄い。
俺は慌てて視線を胸から外した。
「〝紙を破ったくらいで人の想いが消えるかよぉ〟って。感動しちゃった~」
距離、近い。めちゃくちゃ近い。
唇が触れそう。
「あ、いや、その……。咄嗟に言っちまっただけで……」
照れくさい。視線が泳ぐ。顔が熱い。
その時——
自動ドアが開いた。
「——ダンジョン郵便屋はここかね? 配達員の指名がしたい」
野太い声。
振り返ると、黒服の男が立っていた。サングラス。ガタイがいい。怪しい雰囲気。
「娘の誕生日プレゼントを届けたい。中身はテディベアだ」
男は包みを差し出す。中にはモフモフのぬいぐるみ。
(テディベアかよ。ギャップありすぎだろ)
「配達員の指名、ですか? この配達所にスタッフの指名制はないんですが……」
誠が眼鏡を押し上げる。
「——配達先は十階層」
「!」
「金はいくらでも出す。必ず神宮颯に届けさせろ」
なるほど。十階層ってことは、危険なミッションだ。強いモンスターにも負けないベテランスタッフに任せたいってわけか。
俺は口角を上げた。
怪しいっちゃ怪しいが、まぁ、誕プレだしな。気持ちはわからなくもない。
「はぁ? 俺?」
ムッとしてみる。
「見りゃわかるだろ。怪我してんだ。今日は三度もダンジョンに潜ってる。どんだけ働かせんだ、馬鹿野郎。それに、なんで誕生日に小学生の娘がダンジョンに潜ってんだよ。おかしいだろ」
「颯さん、笑顔」
誠がアセアセしながら営業スマイルを促してくる。
「反抗期でね」
男はサングラスを光らせて答える。
「君が神宮颯か。君は強いんじゃなかったのかね。配達成功率100パーセントって噂は嘘だったのか? まあ、高校生だしな。十階層のモンスターにビビり散らかすようなら、別の郵便屋に依頼するが」
「んだと?」
カチンときた。
「ハッ。大の大人が、自分で届ける勇気もなくて、高校生相手に配達を頼み込むほうが、よっぽど滑稽ってもんだろ」
「颯くん、無理はしなくていいよ」
美月が俺を見て心配する。
「──けど、もし配達するなら、わたしがサポートで付いて行ってあげるね」
にこっと笑いかける美月。
——その笑顔を見た瞬間、俺の中で何かがキマった。
「行く」
即決だった。
♢ ♢ ♢
ダンジョンゲート前。
「本当に大丈夫?」
美月が心配そうに俺を見る。
「余裕だって」
俺は屈伸運動。
今日最後の依頼。テディベアの配達。場所は十階層。届け先は小便臭いガキ。
(十層っていっても、ガキのいるエリアだ。なんとかなるだろ)
「じゃあ、行こっか♪」
美月と一緒にダンジョンへ。
モンスターは再構築されて、俺たちの前に姿を現す。
一階層。探索家たちを追い抜いて、スライムを蹴散らす。
三階層。ゴブリンの群れを拳で薙ぎ払う。
七階層。フレイムドラゴンが火を吹いてくる。
「——凍てつけ! アイシクルシャドー!」
美月の魔法が炸裂する。火球が凍り付いて、ドラゴンが寒さで固まった。
「ナイス!」
俺は地面を蹴って、ドラゴンの顎を殴り飛ばす。
ドゴォォン!
巨体が吹っ飛ぶ。
「やっぱり強いね」
美月が褒めてくる。
「いやぁ! そんなことないッスです。美月ッチさんの氷結魔法のほうが、バリカタでニンニク増し増しッスよ!」
あん? 日本語おかしい? 知るか。
そんなこんなで、俺たちは十階層に辿り着いた。
十層の扉をくぐると、そこは海岸だった。




