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第7話 紙を破ったくらいで人の想いが消えっかよ!

「——ただの紙キレで悪かったな」


「ナッ!」


 そこには、斧を手で掴み、ミノタウロスの動きを封じるはやてがいた。


 額に血。服ぼろ。荒い息。


 だが、立っている。


 手には、破り捨てられた封筒の破片。




「貴様! 確かに谷へ落ちたハズ」


「さーて、どうしてだろうな」

 颯は笑った。血が口から垂れる。


「悪ィけど、この俺が受けた荷物で、届かないモンは存在しねぇんだわ」


「亡霊が!」

 ミノタウロスが咆哮。斧を振り下ろす。


 だが——颯の方が、速い。


 跳躍。

 床の氷が、踏み込まれて弾け飛ぶ。


 接近。


 颯の胸が、光る。

 オレンジ色のバフが全身を駆け巡る。


 肩を落とす。腰を捻る。全身のバネを圧縮する。

 地面を踏みしめる。放射状の亀裂が走る。


 吸い込む冷気が喉を焼く。吐き出す息が白い霧となって舞う。


 腕に力を込める。


 黄金色の右ストレート。稲妻の拳。

 オレンジと金と白が混ざり合った光の奔流が、空間を引き裂いて、敵に向かう。


 ミノタウロスの顔。驚愕に歪む表情。黄色い瞳が恐怖に揺れる。拳を受けて眼球と頬骨が歪む


「うぉぉぉおおおッ!!」


 拳がミノタウロスの顔面にめり込む。


 時が止まる。

 一瞬の静寂。

 そして——



 ドゴォォォォォン!!


 颯は最高に重い一発を、ミノタウロスの顔面へ叩き込んだ。



 衝撃波が炸裂する。轟音と雷鳴が一度に鳴り響く。

 階層全体が揺れる。



 ヒューン!!



 ミノタウロスの巨体が、回転するテニスボールごとく飛ばされる。


 五メートル。

 十メートル。


 まだ飛ぶ。


 十五メートル。

 二十メートル。



 氷の壁を障子のように突き破り、


 巨大な棚氷に——

 ドガァァァァン!!


 激突。


 壁が——爆発し、あたりが煙る。


 ミノタウロスは壁に埋まったまま、動かない。口から血が——赤い、鮮血が流れ出る。白い氷に、赤い花が咲く。




 ──カハッ!


「クソッ、い、一体なぜ……」


「郵便屋を舐めてるから、そうなるんだ」


 颯は手紙の破片をコンテナに放り込む。再びバフが強化される。敵に接近。


「バフは届け物の一部でも生成できる。大切なのは依頼物を失わないこと。生成できりゃ、壁でもなんでもよじ登れる」


「都合のいい奴め……」


「都合がいいだと?」

 颯はギロリと敵を見据えた。


 八階層に風が吹く。颯の髪を撫でる。


 颯は震える手を握りしめた。

 腹の底からこみ上げる何かを吐き出すように、彼は叫ぶ。


「都合がいいのはテメーだろうが! 紙を破ったくらいで人の想いが消えっかよ!」


 ボォォオオン!


 彼はとどめをさし、ミノタウロスは光の玉となって消えて行った。



 ♢ ♢ ♢



(颯視点)


「あ、ありがとうございます……」


 氷室リリアは、雪に埋もれた体を起こしながらお辞儀した。


 体はボロボロ。ドレスもボロボロ。


 視線のやり場に困る。


「礼ならテメーのファンに言えよ。ファンが依頼しなきゃ、俺はここにいなかったしよ。それより──」


 俺はリリアの前にしゃがんだ。


「ちょっと待ってろ」


「??」



 俺は破り捨てられた手紙の断片を握り、目を閉じる。

 バラバラになった紙。血で汚れている。何が書いてあったら、さっぱりわからない。


 深呼吸。


 コンテナから、光が漏れ始める。


【リペア】


 俺が詠唱すると、手紙が元の形を取り戻していく。


 血の汚れが消える。破れた箇所が塞がる。手書きの文字が、鮮明に浮かび上がる。


『氷室リリアさんへ。いつも配信を見ています。辛くても俺たちファンがついてます! 頑張ってください』


 すっかり元通りになった。


 リリアは、


 まるで空飛ぶ絨毯じゅうたんでも見たように、口をぽっかりと開けている。


 俺は封筒を、リリアに差し出す。


「復元魔法だ。断片が残ってて、依頼者の想いが強い場合にのみ使える。AIやPC打ちの手紙は、想いが足りないとみなされて復元できないんだけど、今回は手書きだったからな」



 リリアは震える手で受け取る。


 封筒を開く。


 中の手紙を読む。


「……っ」

 彼女の目から涙が溢れた。


 ポロポロと。止まらない。


 リリアは手紙を胸に抱きしめた。




「──これは俺からのアドバイスだけどさ」


 俺はコンテナを担ぎ直す。プイと後ろを向いて歩き出す。


 言いたいコトは山ほどある。


 ズブの駆け出しがダンジョンに来やがって。

 どいつもこいつも。

 テクニックだとか魔力だとかスタミナだとか、そういうのが根本的に足りてねーんだよ。

 俺たちモンスターと対峙する配達員の身にもなれっつーの。

 テメーはお呼びじゃねーんだよ。




 はぁ。


 俺は溜息をつき、


 リリアに指を向けて、吐き捨てた。


「次ダンジョンに来るときは、もっと動きやすい服装にしろよな」

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