終章 テメーみてぇなタコ野郎に、ガキの笑顔は邪魔させねぇ!!
ドガァァアアアアアン!! バキバキバキ!!
爆音とともに、冷気がクラーケンの体躯を貫いた。氷山の壁。
敵の目が驚愕で見開かれたまま。
「悪ィな」
──ニヤリ。
俺は踏み出した。一歩一歩、浜砂の感触を確かめつつ。
「俺が──いや、俺たちが受けた荷物で、届かないモンは存在しねぇんだわ」
拳を握る。
腕に力を込める。
オレンジ色のバフは消えていない。
俺は地面を蹴る。
最後のダッシュ。
全速力。
バフを拳に集中させる。
オレンジと金と白が混ざり合った光。
「テメーみてぇなタコ野郎に——」
跳躍。
空中で腰を捻る。
全身のバネを右拳に集める。
「ガキの笑顔は邪魔させねぇ!!」
ドゴォォォォォォォン!!
♢ ♢ ♢
白波が立つ。
水柱が上がる。
しぶきが砂浜に降り注ぐ。
クラーケンは光の玉となって、消えて行った。
「やった!」
美月が飛び跳ねる。
俺は着地して、肩を回す。
「ふぅ。まぁ、こんなもんだろ。てか、マジで美月は俺より強いわ」
「そんなことないよ~、わたしは敵を凍らせるだけで、倒す力はないもん♪」
ギュッ♪
おわおっ!
俺は赤面する。
美月が満面の笑みで、俺を抱き締めていた。彼女の体温が伝わってくる。温かい。
視線が泳ぐ。ぽりぽり頭を掻く。
これは恋愛ストーリーじゃない。
でも、ちょっとくらいなら、……ノロケがあってもいいだろ。
俺は、
彼女を抱き締め返した。
パチパチパチ。
「さすが配達員ナンバー0508799。神宮颯」
えっ?
お嬢の執事セバスチャンが、拍手しながら俺を見ていた。
隣のマセガキお嬢は、テーブルで紅茶をすすっている。
「おまっ、……屋敷の執事じゃなかったのか? そこのガキは?」
「ガキガキうるっさいわね!!」
お嬢が目を吊り上げる。
「わたしは鷹宮・エリオット・孝三の孫娘、鷹宮 麗よ!!」
「ええっ!」
反応したのは美月だった。
俺は首をかしげる。
「鷹宮……って誰だ?」
「口を慎みなさい、神宮颯! 鷹宮家は、全国にあるダンジョン配達所を総括する、日本一の財閥よ!」
(上司さんだわ)
美月が耳打ち。
「うえぇえええ!? 上司ぃぃいい!? こんなチビのマセガキが?」
「チビ言うな!!」
麗は俺の膝をローキック。いってぇえ!
「あなた方を試させてもらったの」
金髪をなびかせ、彼女は再び紅茶をすする。
「目的は十一階層より下階に挑む配達員を集めるため」
ごくり。
俺は唾を呑み込む。
「配達員を集める?」
「そう、強い人が必要なの。十階層より下は、一部の探索家だけに許された未開の地よ。そこへ配達できる人員を決め、事業を拡大しようってわけ」
「そんなことして、どうすんだ?」
お嬢の眉がピクついた。
「馬鹿ね。事業を拡大するのは当たり前じゃないの。それに、あなたも見てみたいでしょ? ダンジョンの〝底〟を」
──底。
久しく忘れていた好奇心が掻き立てられる。
(そうだ。俺がダンジョン配達員になったのは、二つ理由があった。一つは金。二つ目はダンジョンの底。どうなっているのか知りたい。底まで行って、その景色を眺めたい。美月と一緒に……)
「──その顔は、OKってことかしら?」
「いいぜ、マセガキの提案、乗ってやる」
「マセガキ言うな!!」
顔面パンチ。いってぇえ!
「美月は? 無理にとは言わないけど、お前の実力なら余裕だと思うぜ」
俺は美月を見た。
「いいよ、颯クンが行くなら、わたしも行く♪」
彼女はふんわり笑って、即決。
「決まりね。明日から──」
「待て待て。一人欠けてるだろ。おい、誠!」
俺はマイクに繋いだ。
「十階層より下に潜るんだってよ。テメェも来い」
「僕ですか!? どうして僕を誘うんです!?」
「マジメ野郎がいねぇと、俺が報告書を書き忘れるだろうが」
「颯さん……」
こうして俺たち三人は、十階層の地下配達所へ昇級となった。
Sランク配達員のバッヂ。キラリと胸につける。
「それは入学用のバッヂでもあるわ」
麗が言った。
「あなたたち三人は、明日から高度なダンジョン配達員を養成する、私立鷹宮学園に通ってもらう。気を抜かないことね。これまでとは段違いよ。ライバルたちがあなたたちを潰そうと躍起になっているんだから」
よくわかんないが、新しいステージが待ってるらしい。
面白くなりそうだ。
「おい、お嬢」
「なによ!」
俺はコンテナを開けた。
「今日が誕生日なのは本当か?」
「そうだけど?」
「じゃ、お届け物だ。誕生日おめでとさん」
俺はテディベアを渡す。
麗の顔が赤くなる。子どもらしく笑みが浮く。
「バカバカ! 全然嬉しくないわよ!」
ぽかぽか叩かれる。
美月がクスクス笑った。
明日から、自分はどんなモノを運ぶのだろう。
だけど、
一つだけ確かなことがある。
届け物には想いが詰まってるってコトだ。
だから、
なにがあろうと、
絶対に届ける!!
俺は自分の気持ち確かめ、拳を作った。
俺のダンジョンライフは、まだまだ終わりそうにない。
おしまい




