第10話 解析終了だ! 震えて待て!
「頼みたいことですか?」
マイクから誠の声が返ってきた。
「ああ。今クラーケンっていうタコ野郎と戦ってる。戦闘データ投げるわ。解析しろ」
「弱点を探るんですね!」
ピッ。
俺は手首のボタンを押した。
触手がミシミシと音を立てて、俺の体を締め付けてくる。
(——さーて。解析終わるまでの三分間。どうやって攻撃をかわすか、だが)
深呼吸。
「顕在せよ!!」
ドンッ!
俺はバフを出現させる。オレンジ色、白、青。みなぎるエネルギーと、強烈な電撃が全身を包む。
筋肉の一本一本に電流が走る。
ビリビリビリ!!
「よっとぉ」
バチン!!
「グワァァァアア!!」
電流が触手を伝って、クラーケンの本体に流れ込む。
敵がひるんだ。
隙を見て、俺は身を捻って、ぬるりと抜け出す。
空中で回転。視界が回る。
着地点は——銛だ。
海面に突き刺さってる銛の一本に飛び移る。
「やるな人間!」
触手が焦げたクラーケンが、目を吊り上げて俺に迫る。三つの目玉がギラギラ光ってる。
「これでも食らえぇぇええ!!」
銛が放たれる。
まるでロケット。轟音と共に、空気を切り裂いて、次々と俺に向かう。
ザャブゥゥゥウン!! ボガァァアアン!! ボシャァァアアアン!!
俺はタイミングを見計らって、銛から銛へとジャンプする。
バランスを取る。片足立ち。
またジャンプ。
空中で体を捻る。回転。
「よっ、ほっ、ふほっ!」
風を切る音。
銛は着弾し水柱を上げるが、俺にはかすりもしない。
「へへんだ! 図体がデカいと、次の一手が読みやすいんだよ!」
「くそう!! 動体視力ばっかり高いガキがぁ!!」
クラーケンが悔しそうに叫ぶ。
バッチーン!!
クラーケンの触手攻撃。
「うぉ!?」
銛に注意が反れていた俺は、後ろから来る触手に気づくのが遅れた。
ドゴン! ボボオォオン!!
触手が俺の背中を叩く。浜に砂煙が舞う。
「いてて……」
俺は凄いスピードで海岸に戻された。
頭部が柔らかい砂地に埋もれる。
逆立ち状態。
足がバタバタしてる。
「颯くん!」
美月が慌てて俺を引っこ抜いてくれた。
「大丈夫!?」
「へーきへーき」
俺は立ち上がって、頭をブンブン振る。
髪から砂がパラパラ落ちる。
——その時、
ピコーン!
返信が来た!
「お待たせしました、颯さん! 解析終了しました。墨からDNAを解析した結果、通常のタコと同じ弱点があると判明しました」
誠の声がマイクから聞こえる。
「おぉ、サンキュー! さすが誠! ……俺にも分かるように解説しろ」
「クラーケンの弱点は温度変化です。タコのほとんどは、温暖地域の海域に生息しています。低温に耐性がありません」
「つまり?」
「凍らせてください。そうすれば倒せます」
「朗報だ」
俺は美月を見る。
美月が首を傾げている。
「よう美月」
「なに?」
「俺が注意を引くから、やつの胴体に氷結魔法だ」
「おっけ!」
美月が笑顔で親指を上げた。
地響きを立てながら、クラーケンがこちらに向かっている。
八本の触手が砂浜を這う。ズルズルズル。
波が引く。海水が砂に染み込む。
俺たちは構えを見せる。
物陰から、──お嬢と執事が息をのんで俺たちを見守っている。お嬢の目がキラキラしてる。執事が彼女の肩を抑えてる。
(見てろよ、お嬢。ダンジョンの戦い方ってのを教えてやっから)
三——
俺はクラウチングスタートの構え。
美月はワンドを回転させて握った。
杖の先端が青白く光る。
二——
息を吸って、吐く。
一!!
ダンッ!!
俺は地面を蹴り上げた。
砂が爆発する。砂煙が後方へ。
視界が流れる。潮風が顔を叩く。
「おらぁぁああ!!」
バフを全開。
オレンジ色の光が俺を包む。
電撃がバチバチと火花を散らす。
クラーケンが触手を振るう。
ブウォン!!
俺は身を屈める。頭上をギリギリで触手が通過。
縦振り——地面を蹴って横に跳ぶ。着地点の砂が爆発。
触手、触手、また触手!
八本全部が俺を狙ってくる。
「こっちだタコ野郎!」
俺は叫びながら走る。
クラーケンの周りを飛翔。
注意を引く。
敵の視線が俺に集中する。
三つの目玉が俺を追う。
——今だ!
美月が目を閉じる。息を吸う。
コンテナから魔力が注がれて、四肢が青く発光する。
冷たい息。絶対零度。万物を凍らせる魔女の登場。
片足を踏み込む。
砂地にしっかりと固定する。踏んだ箇所は即座に氷へ。
栗色セミロングが揺れる。上着がはためく。
「顕在せよ!!」
目を開く。刃の視線。鋭い眼で敵を見据える。
ワンドがうなりを上げる。ミシミシと大きくなる。
青、金、赤、白。
エレメントがはじけて混ざり合う。獰猛な闇が、杖先に宿る。
腕が、
伸びる。
口が、
開く。
「凍てつけ! アブソリュート、アイシクルシャドー!」
出現する巨大魔法陣。天地を覆う、それは、まるで雲。いや、空を覆うカーテン。
「ナンダッ!?」
クラーケンが呆気にとられる。八本の足が硬直する。
魔法の紋章は、宝石のように煌めきながら、
光と闇の渦を、大出力で放つ。
雷のように降り注ぐ。
クラーケンの頭部へ向かって行く。
三つの赤い目が、明るく照らされる。
口が歪む。触手がひん曲がる。
頭部へ着弾からの、一瞬の静寂。
時間が静止する。
白黒の世界。
万物が静止する。
視界に、青と白の輝きが少し見え。
ドガァァアアアアアン!! バキバキバキ!!
爆音とともに、冷気がクラーケンの体躯を貫いた。




