ぼくがぼくになった日2*
委員長は味方じゃなかった。友だちだと思ってたのは、ぼくだけだったんだ。ずっと消えてほしいと思われていることにも気づかず、友だちだと信じて、恋心すら寄せていたなんて……。
「バッカみたい」
いつもそうだ。いつだって、ぼくは人とうまくやっていけない。
――『こいつ、いっつも何言ってるか、わかんねえんだぜ』
――『きっと人間じゃねえんだよ。宇宙人や怪け物なんだ!』
――『おい、なんか言ってみろよ、宇宙人!』
保育園に入ったらいつもみんなから仲間外れにされて、小学校に行ったら上級生や下級生からも「春日くんは何考えてるかわからないから怖い」とハブられ、中学校ではクラスメートからいじめ……。
一時的なものじゃない。恒常的なものだ。
きっと引っ越しをしたって意味がない。ほかの場所へ行っても同じことが起きる。
おそらく、ぼくの何かが人と大きく異なってるんだ。
だから、ほかの人たちから「こいつは違う」って思われて受け入れてもらえない。
このまま高校に行ったり、進学したらどうしよう……。今度は、今よりもっと、ひどい目にあわされるかもしれない。
ニュースで知った、高校や大学なんかのいじめにより命を落とした生徒たちの顔が、次から次へと眼の前に浮かんでくる。
そもそも社会人になったら、どうするんだ?
ブラック企業でのパワハラ、モラハラ、セクハラが後を絶たないと聞く。そもそも、ぼくのあだ名でもある、お局様に目をつけられたら壮絶ないじめを受け、うつ病になったり、過労で働けなくなるなんて噂もあるんだ。
ぼくはお先真っ暗な自分の人生を想像して、真冬の雪山に放り出されたような気分になり、鳥肌の立った両腕を手でさすった。
眼の前にはスマホの充電用コードがある。一メートル以上ある長くて白いひもを手に取った。
これを首にグルグル巻きにして引っ張れば、あの世に旅立てるかな?
ミステリードラマに出てきた首を絞められて殺される人の姿を思い出す。俳優の演技だから実際のことはわからないけど、みんなすぐには死ねなかったし、すごく苦悶の表情を浮かべて、もがき苦しんでた。
海で溺れかけたときの息苦しさが、ありありとよみがえる。
死ぬのが怖くなったぼくは充電用コードを投げ出した。
階段を上ってくる足音が近づいてきて肩を揺らす。
音楽を掛けているのに外から、「開けろ、開けろって言ってるだろ!」と男の怒鳴り声とドアを激しく叩く音がして耳を塞いだ。
しばらくして男の大声も、ドアを蹴破らんばかりの音もやんだ。
諦めて帰ってくれたのだろう、とPCをシャットダウンし、スマホの通知も切る。
眠れなくても布団にくるまりたい。ベッドに横になってお気に入りの布団を頭まで掛けて目を閉じる。布団は、いつだってやわらかいし、手触りがいい。何よりもしゃべらない。何も言わずに、ただぼくをやさしく包んでくれるんだ。
そうして、うつらうつらしていると轟音がする。
なんだ? と不思議に思っていれば、身体中を殴られ、蹴られる。
「この役立たず、穀つぶしのクソガキがぁ!」
「あなた、やめてください……!」
「うるさい、おまえは邪魔だ。どけ!」
きゃっと母の黄色い悲鳴があがった。
鳥目では母の身に何が起きたかも、まったくわからない。
「おかあさ……」
「誰のおかげで食べられてると思ってるんだ! この引きこもり……社会のゴミが、恥を知れ!」
布団を剥がされ、そのまま足蹴りを背中や腕、頭に食らう。
「おまえは、本当に何もできない無能だな。これなら、よその子を養子に取ったほうが、よかったよ。潔く、さっさと死ね!」
そうして父は、ぼくに暴力を奮うのに満足したのか、突然部屋を出ていったのだ。
「あなた、待ってください。あなた……!」
母のヒステリックな金切り声がする。
彼女は、「お母さん」とつぶやくぼくには目もくれない。父の暴力によって痛めつけられた我が子を気に掛けるそぶりなど一切なく、自らの夫を追いかけていったのだ。




