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ぼくと碧の共通点2

「いや、ちょっと待ってください。それとぼくが、どう関係あるんですか?」


 マシンガントークをする彼に待ったを掛ける。


 すると「ごめんね、一方的に話したりして」と、しょんぼりした顔をする。「話し始めると止まらなくなるのが、おれの悪いところ。おまけに要点だけ上手に言えなくて、みんなにも『うるさい』って言われちゃうんだ」


 自覚あったのかと思っていれば、伊藤くんが「妹たちが保育園で人形遊びをしたり、おままごとをしてるんだ。でも、うちには何もない。帰る余力がないんだよ」


「それは大変ですね」


「でも、おれね、アルバイトもやってるから、少しはお金を出せる。だから手先が器用な春日くんにドールハウスの作り方とか人形の作り方を教えてもらいたいなって思ったんだ!」


「……いやです。さようなら」


「単刀直入に断らないでよー! 少しは、『かわいそうだな』とか『力になってあげよう』なんて情があってもいいんじゃないの!?」


 そのまま自転車に乗って帰ろうとしたら彼は腕にしがみついてきて、子どもみたいに泣き始めたのだ。


 ぼくはドン引きし、自転車通学ほかの人たちも、なんだ、なんだと、こちらに注目する。


 まるでぼくが泣かせたみたいじゃないかと苛立ちながら、目の前の涙と鼻水で顔面がぐちゃぐちゃになり、ひどいことになっている彼を振り払おうとする。 


「伊藤くんとぼくは友だちではありません。友だちならいざ知らず、ただ顔を合わせたら話す程度の知人。それも一週間前から、きみが一方的に話しかけている状態なのに手助けも、何もないでしょう」


「そんないけずなことを言わないでよー!」


「もう高校生なんですから、そんな小さい子どもみたいにみっともなく泣かないでくださいよ! 妹たちがいるんでしょう?」


「それは、それ。これは、これだよー」


「どうした? 何かあったのか?」


「喧嘩、大丈夫?」


 上級生のネクタイをしている男女の先輩に話しかけられ、ゲッと思っていれば、伊藤くんがグスグス鼻を鳴らしながら泣きやみ、涙を手で拭った。


「いえ、大丈夫です。すごーく悲しいことがあって泣いていただけなので……」


 誤解されそうなことを言うなよ! とイラッとする。


 男女の先輩は、まだ心配そうな様子で伊藤くんを凝視する。


 さっさと家に帰ってドールハウスの制作を続行する予定が完全に狂った。ため息をつき、「……わかりましたよ」とジト目で、ぼくの腕を掴んでいる彼を睨みつける。


「えっ?」


「ドールハウスの件について、ぼくができる部分をご教授しますと言ったんです」


「ほんと、いいの!?」


 泣いていたのが嘘みたいに伊東くんは満面の笑みを浮かべた。


 彼の様子を心配していた上級生たちが安心したように散っていく。


「ここでビービー泣かれて、いつまでも家に帰れないのでは、ぼくのドールハウス作りに支障をきたしますからね。仕方なくです」


「ありがとう、ありがとう。春日くん、本当に助かるよ」


 機嫌よく彼はぼくの腕を離し、その代わりに両手を掴んで上下に激しく振ったのだ。


 変なやつと知り合いになったものだと心の中で愚痴をこぼしながら、うれしそうに笑っている男の顔を凝視する。


「でも勘違いしないでください。ぼくが好きなのはミニチュアドールを作ることであって人形を作ることじゃない。というか人形なんて一度も作ったことはありません」


「あれ、そうなの?」と伊藤くんは口をあんぐり開けた。


「あくまでミニチュアの世界や本物そっくりな小さいものを作るのが好きなだけだから」


「そっか……」


「……人形の作り方とか服は一応、ネットで調べたり、手芸用品店の本を見たりして頭に入れておきます。その後なら教えられると思う」


「春日くん、恩に着るよ。そういえばLIME(ライム)の友だち登録も、まだしてなかったよね!? やろう?」


 ぼくは眉をひそめた。


「LIMEは、やっていません」


「へっ?」と彼はスマホ片手に首をかしげる。


 それもそのはず。


 LIMEは日本人の半数以上が使用するメッセージアプリ。SNSをやらない人やスマホの操作が苦手なご老人も使う必須アプリだ。やってない人のほうが少数派だろう。


「中学時代に、いじめにあい、そのとき退会したんです」


 高校に入って親しい人はいない。


 母親とのやりとりは、すべて電話とSMSのショートメールで間に合っている。


 ぼくには必要のないものだ。


 眉を寄せた伊藤くんが「うーん」とうなり声をあげる。


「やっぱ、ごめんね。この話はなかったことで!」となっても一向に構わないと思っていれば、「じゃあ、携帯番号を聞いてもいいかな?」と粘ってくる。


 万が一、彼に携帯の番号を悪用されても、そのときは新しく変えればいいと諦めモードになりながら、長年使っている十一桁の数字の羅列を教える。即座に伊藤くんがSMSで返信してきた。


「これ、おれの番号ね。後で登録しておいてー」


「自分以外の番号を人に送ったりするんですか?」


「やだな、春日くんってば! ジョークきついよ」


「嫌味で言っただけです」と心の中で、つぶやく。


 スマホをカバンにしまった後も伊藤くんはヘラヘラ笑っていて帰る様子がない。


「……妹さんたちのお迎えとか、お買い物などはしなくていいんですか?」

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