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ぼくと碧の共通点1

 その後、伊藤くんはしょっちゅう、ぼくの前に姿を現すようになった。教室でひとりスマホを見ていたり、本や漫画を見ていたら、ほかの人に「春日くん、いますかー」と声を掛けて呼び出す。お昼を学食でひとり食べていると「一緒にとろうよ」と話しかけてくる。放課後、美術室でミニチュアハウスを作っていると「これ、差し入れ!」と作ったお菓子を持ってくるのだ。


 伊藤くんは顔が広い。ぼくのクラスや、ほかのクラスの子とも、よく話している。調理部の先輩たちからも好かれているし、奨学生になるくらい成績優秀で先生たちからのウケもいい。


 彼は体育祭で、お孫さんをさがしていたおじいさん、おばあさんを道案内したり、迷子になった子どもを放送部まで連れいてき面倒を見ていたそうだ。


 老若男女にやさしく、人気者。陽キャの中の陽キャ。ぼくと正反対の人。


 そうして彼との唐突な出会いから一週間が経った。


 美術室の鍵を返し、帰ろうと自転車置き場へ行ったら、伊藤くんと鉢合わせた。


「春日くん! きみも自転車通学なの!? 奇遇だね。一緒だ!」と彼は尻尾を振って笑みを浮かべる犬みたいな様子で、ぼくのところまでやってきたのだ。


 ほかの調理部の男子や、彼のクラスメートらしき女子が「ミドリン、この子、誰?」と彼に訊く。


「えーっ、あの子だよ! 美術の粘土作品で本物そっくりな川魚を作った春日優馬くん」


 納得したように男女が顔を見合わせ、首を縦に振る。


 一秒でも早く帰って、今日は建物の外観作りをしたいのに……と気まずい思いでいれば背の高い男子が軽く肩を叩いてきた。


「春日くん、こいつ何も言わないと一日中横でペラペラしゃべってるからさ、ときたまうるさいなと思ったら、そんときは容赦なく『おまえ、話すのやめろよ』って言っていいからな」


「はあ……」


「えーっ! ひっどいなあ」と伊藤くんが怒る真似をして女子たちが楽しそうに声をあげて笑う。


 ひとりだけ蚊帳の外にいるような疎外感を味わい、いたたまれない。かといって彼らが何を楽しんで笑っているのかも理解不能で困惑してしまう。


「じゃあ、ミドリン、春日くんにようやく、あのことを頼めるんだね」


「あのこと?」と聞き返せば伊藤くんが顔を赤らめて、女子のひじをつついあ。


「しーっ、それは、まだだってば……」と唇の前で人差し指を立てる。


「早く言わないと駄目だよ。春日くんにだって用事があるんだし。ねっ?」


 話を突然振られ、無言のまま首を縦に振る。


 伊藤くんは「今日、今日、絶対、言うつもりなんだよ」と両手の拳を作り、何か意気込んだ。


「さっさと言えよ。土日じゃないとできないだろうし」


「だよね。それじゃあ、またね」


「うん、またねー!」


 そうして伊藤くんの友だちは自転車に乗り、彼は手を大きく振った。


 ぼくはスタンドを上げて「それでは失礼します」と挨拶をして、自転車を押そうとした。


「わあっ、待って、待って!」


 背後から肩を掴まれ、勢いよく振り返る。


 人から身体を触られるのは苦手だ。目の前からなら我慢できるけど視界に入らないところから急に触られると怖くなる。


 ぼくは嫌悪感がして気持ち悪いと思いながら「ごめん」と小さく謝り、手を放した彼を睨みつける。


 肌がぞぞぞと粟立つのを感じながら、野球部がバットにボールをあてる音や、サッカー部の「声出してけ、声!」「パス、パス。パス回せ!」という大声が耳に入ってきた。


「なんですか、一体?」


「その……えっと、」


 いつもは人が何も言わなくても、勝手にしゃべっているのに彼は身体をモジモジさせながら、口をもごつかせた。


「……嘘告なら受けつけていませんよ」


 中学時代の苦い経験を思い出し、告げる。


 きょとんとした顔をしてから伊藤くんは、はっとして両手を胸の前で左右に振った。


「えっ、違うよ! そういうのじゃないから安心して。後、おれ、好きな人にしか告白したことないよ!? いつも振られてばっかりだけど……」


 あはははと涙目になって空笑いをする。


 そんな彼の顔を美術室に飾られている石膏の胸像を観察するように、じっくりと見る。


 思ったことはすぐに口にするし、人あたりもいい。何よりやさしく温厚な性格をしている。


 だけど――そういう人間に限って恐ろしい裏の顔を持っていると思い知らされた過去があるぼくは、彼を警戒しないわけにはいかなかったのだ。


「伊藤くんの恋愛遍歴なんて興味ありません。ぼくには関係ない話なので、どうでもいいです」


「うっ! すっぱり言うね、春日くん……」


 ほかの生徒がやってきて迷惑そうな顔をしているので再度近くの空きスペースに自転車を入れ、スタンドを下ろす。


「用件はなんですか?」


 すると彼は何か決意したかのようにキリッとした顔つきをする。


「おれね、兄妹がいるんだ」


「……はい?」


「幼稚園に通っている双子でね、お姫様みたいにかわいいんだ。でも、うちは父親がガンで亡くなったばかりで火の車! がんばって働いているお母さんにかわって長男のおれが妹たちの面倒を見てる」

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