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ぼくとミドリの休日デート2

 自分と同じくらいの身長がある彼女にぎょっとしながら、ぼくは目線を横にやって「あの男物の人形の服ってありますか?」と尋ねた。上着のポケットに入っていたミドリを出し、彼女に見せる。


「ぼくが作った人形なんです。彼に似合うカジュアルな服がほしいんですが、どこに売っていますか?」


 顔を見ていないから相手がどんな反応をしているか、わからない(というか目線を合わせるのが怖い……)。しばらくすると「大変申し訳ございません」と女性の声がする。「当店ではメンズドールのカジュアル服自体、取り扱っていないのです」


 やっぱり駄目かと沈んだ気持ちになりながら、「そうですか、ありがとうございます」とお礼を言う。そのまま出入り口へトボトボと歩いていく。


「お待ちください、お客様」


 先ほど話した女性の声が背中越しに聞こえてきた。


「……なんでしょう?」


 怪しいやつって思われたのかなと、ソワソワと落ち着かない気持ちになりながら手の中のミドリを見つめ、次の言葉を待つ。


「ここから十分ほど歩いたところに本店がございます。そちらでしたら、お客様がご所望のカジュアル服もございますよ」


「えっ……」


「本店の住所と店名は、こちらです。お時間がございましたら、ぜひご覧いただければと存じます」


 そうして走り書きされたメモ張の紙を手渡された。


 手に握っているミドリと目線を合わせる。


「よかったね、優馬」


 ウインクをする彼に微笑み返し、店員の女性に頭を下げた。


「またのご来店をお待ちしております」


 ぼくはミドリをポケットにしまって、スマホを起動した。地図アプリを起動して、早足で道を歩いていく。


 小型ビルの中に入ると、人形たちの洋服がびっしりと並んでいた。


 ぼくはミドリが好んで着る洋服を何着か手に取り、すぐに会計へ進んだ。


「やったね、ミドリ」と小声でしゃべり、ポケットの中にそっと手をしのばせるとミドリが小さい手で握り返してくれた。


 その後は手芸屋で金具を見たり、ホームセンターでドールハウスに使えそうな材料を吟味した。いつもはSNSで仲よくなった人の意見やプロとして仕事にしている人のネット記事やブログを読んだりして、ひとりで考えるけど、今日は違う。


 実際にドールハウスに住む人形目線のミドリと話しながら、材料を見つけられる。


 人間である()は、おれのことを手放しに応援してくれるし、ドールハウスやミニチュアを作る姿を尊敬してくれるけど「ごめん、よくわからないや」といつも困った笑顔をして店の外で待っていた。


 だから、こんなふうにミドリと一緒に話せるのが、とてつもなくうれしかった。


 必要な道具を買いそろえてマンションへ帰宅する。


 部屋に入り、外で付着したほこりや花粉を落とし、身体をきれいにしたミドリは黒いボーダーの入った白い半袖に、サーモンピンクのサマーカーディガンとクリーム色のズボンにキャラメル色のローファーを合わせた。


 店員さんに確認してもらった通り、サイズはピッタリだ。


 ドールハウスの姿見を見て、にっこり笑っている。


 そんな彼を目にして出かけてよかったなと胸の辺りがじんわり温かくなる。


「こんなに小さい人形用の洋服を手作りしちゃう人がいるなんて、すごいね!」


「だね。世の中には人形用のミトンやセーター、くつ下や革のカバンなんかも準備する人がいるんだから」


「何言ってるの!? 優馬だって小さい家具や、おうちを作っちゃうんだから。みんな、手先が器用だよね。しかも正確に作れちゃうんだから、すごいよ。おんなじ手を持ってるなんて思えない」とミドリは、まじまじと自分の手を見つめた。「おれじゃ、雑巾を縫ってもボロボロになっちゃうし、大きい家具を作ろうと思ってもサイズが適当になっちゃうから駄目なんだよねえ」


「でも、きみは料理がうまいじゃないか。同じチェーン店のものでも、きみが作るとまるで、ぜんぜん違う。お客さんが「おいしい!」って笑顔になる。店長さんだって、きみが社員になってくれて地域のランキング一位を取れたって喜んでただろ」


 あっと思ったが遅かった。


 泣き笑いのような顔をしてミドリは微笑んだ。


「うん、そうだね。お客様に喜んでもらえるとうれしいし、店長とかほかの後輩の子に頼ってもらえるとうれしい。でも、いつまで経ってもパート社員で昇給しても手取り二十万もいかないしm夏と冬のボーナスに一万円ついたら運がいい。優馬と比べたら雲泥の差だよ」


 ――『ごめんね。おれ、こんな適当なやつだからさ、優馬の気持ち、よくわかんないや。寄り添えなくて本当に、ごめん……』


 あのときのできごとを思い出し、ぼくはひゅっと息を飲んだ。


 謝らなきゃと思っているのに声が出ない。


「ごめん」って言葉が陳腐に聞こえるんじゃないかと怖かったから。


 そもそも何を謝るのかが、ちゃんと自分で理解できているのかどうか、わからない。


 ぼくは、ひどくむしゃくしゃしていた。何もかもうまくいかなくて、どうしてこんなに生きることは苦しいことや、つらいことばかりなんだと、ひどく絶望していた。

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