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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●はじめまして、ウルン

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第55話 この子、絶対なにかある!




 帝歴423年、黒青のナルン、赤の3のフォルン(11月3日)。ファイが黒狼の拠点に戻って、日付のナルンが1周しよう――1か月が経とう――という頃。


「それじゃあ行きましょうか、フーカ」


 アグネスト王国の第3王女であり、赤色等級探索者組合『光輪』の組合長でもあるアミスは、腹心である羽族の女性に微笑みかける。


 今日。彼女たちは、とある犯罪組織の検挙に動くことになっていた。


 その発端は、およそ1か月前のこと。薄い緑色の髪の少女を“不死のエナリア”から救出した時にさかのぼる。


 当初、アミス達は唐突に姿を見せたファイを疑った。まず聞いていた話と髪の色が違う。次に服装も違う。何より、数週間にわたってエナリアの中に居たというのに、とても身ぎれいだった。なんなら、洗髪剤の香りらしき良い匂いまでした。


((((この子、絶対に何かある!))))


 あの場に居た光輪の全員が、ファイがただの迷子ではないことを察した。


 ただ、ファイが何かしら訳アリだろうことはアミス達も察していた。探索者の中には、(すね)に傷を持つ者も多い。アミス自身も、光輪の人々に王族であることは明かしていない。前任者だった元騎士団長の秘蔵っ子として活躍し、実力で現在の地位を獲得している。


 そうした事情もあって、探索者の過去や経歴を詮索するのはご法度というのが探索者たちの暗黙の了解となっている。実力と実績があれば、最低限の社会的な地位を獲得できる。それが探索者という職業だ。さらなる地位を獲得しようとするには人徳や財力など様々なものが必要になるのは、ともかく。


 見つけた謎の迷子少女・ファイは敵意もなく、どこまでも従順だった。そのため一度ウルンに連れ帰り、最寄りの町フィリスに住むという依頼主の男性に会わせてみれば、彼女がファイで間違いないと語った。


 その後きちんと報酬も支払われたことで依頼は一件落着。探索者組合・光輪としての仕事は、そこで幕引きとなった。


 しかし、臣民を守る王女アミスティ・ファークスト・イア・アグネストの仕事は終わっていない。むしろ依頼が終了し、探索者としての仮面を取った時が始まりでもある。


 王城に戻って改めて国民を調べてみたが、やはり「ファイ」という名前で薄緑髪のアグネスト王国の国民は登録されていなかった。行方不明者の名簿にも、該当する人物はいない。


(そうなると、やっぱり出生届が出されていない訳アリの子ってだけなんだけど)


 アミスの中で、今回のことが妙に引っかかった。それは当初ファイが貴重な“白髪”と聞いていたからも知れないし、依頼全体にきな臭さを感じていたからかも知れない。


「……黒狼、ね」


 それはファイと会った時に彼女が口にした誰か、あるいは何かの名前だ。


 ひょっとするとその単語が手掛かりになるかもしれない。そう思ってフーカと共に関連する情報を三日三晩徹夜で調べてみれば、あったのだ。王国の東部を中心に悪さをしている、小さなチンピラの集団『黒狼』が。


「ず、ずっと、盗掘で生計を立てていたみたいです。けど、数年前から薬物に手を出しているみたいで……」


 王城の薄暗い書庫。フーカが示して見せた資料に、改めて目を通すアミス。アグネスト王国各地にあるエナリアで、たびたび発生している盗掘。どうやら黒狼という組織が、それに関与しているらしい。


 また最近、主に地方の都市で薬物中毒者の検挙数が多くなっている。黒狼がどこまでその犯罪に関わっているのかは不明だが、とりあえずは盗掘の容疑で検挙ができそうだ。


 たかだか100人程度の小さい犯罪集団ということで残念ながら拠点の位置などは割り出せていない。しかし、近年になって爆発的な発展を遂げつつある情報網をもってすれば捜査も捗るというものだ。


 麻薬の広がりが著しい地域を調べてみれば――。


「当たり! フィリスでの検挙数も、鰻登りじゃない!」


 きな臭い依頼をしてきたあの男と、迷子少女が住んでいた港町にも犯罪の香りが漂っていた。


「フーカ!」

「は、はいぃ! 内偵の準備、進めますぅ!」


 そうして行なわれた港町フィリスでの3週間にわたる内定調査で、黒狼の拠点と思われる場所を探り当てたのだった。


 そしてアミスは、王女・アミスティとして光輪に黒狼の検挙という依頼を出す。それをアミス自身が受けることで、正式な依頼として成立する。光輪が王族の指先として機能しているのには、そうした裏事情があったのだった。


 さらに、この調査の過程でアミスには嬉しい誤算があった。


 それは先日、ニナ達も触れていた白髪誘拐事件について知れたことだ。事件発生当時はまだ5歳だったアミス。事件の存在すらも知らなかった彼女だが、フィリスについて調べる中で、改めてその記事に触れることになった。


 どれだけ「ファイ」という名前を探しても、見つからないわけだ。生後すぐに誘拐された彼女に名前は無く、15年も経てばとっくに死亡扱いになっている。


(15年前……。さらわれた赤ん坊が成長していたら、ちょうどあの子くらいの年齢ね……!)


 容姿も言動も15歳にしてはやや幼い印象を受けるが、誘拐され、必要な教育と栄養を貰えなかったのだとしたら合点もいく。


(もしファイちゃんが白髪だとしたら、王国9人目の白髪。その可能性があるってだけでも、十分に労力を割く価値があるわ!)


 さらわれた赤ん坊の両親は、犯人によって殺されているらしい。ファイの生育環境を考えると、生きていくためにはほぼ間違いなく後ろ盾が必要になる。光輪がその座に付くことができれば、ファイに多大な恩を売ることもできるだろう。


(恩着せがましいと言われても良い。この国を守り、発展させるうえで、ファイちゃんの存在は欠かせない)


 私欲というよりは国益のために、アミスはファイを救出しなければならなかった。




 そして、今日。いよいよ、黒狼の拠点へと向かうことになる。


「あ、あの子。無事、でしょうか……?」


 光輪の拠点の最上階。普段着から戦闘着に着替えたフーカが、アミスの装備の最終確認をしながら聞いてくる。彼女の言う「あの子」がファイを指していることを、アミスはきちんと理解している。そのうえで、確信を持ってフーカの問いかけに頷いた。


「わざわざ大金をかけてまで助けた。だとしたら、必ず生かしていると思うわ。ただ――」

「は、はい……。命があることだけが“無事”ではないので……」


 どうやらフーカもアミスと同じような懸念を抱いていたらしい。つまり、命以外の“人権”や“尊厳”と呼ばれる部分はもう既に侵されている可能性があるということだ。


 白髪であること。女性であること。黒狼が薬物犯罪にも手を染めていることもあって、ファイに行なわれているかもしれない非道な行いを考えるだけで、アミスは居ても立っても居られなくなる。


(会って数時間の私ですら分かるくらい、ファイちゃんは従順だった。自己肯定感が低い子特有の行動よね)


 他者に依存し、自分を出すことをひどく怖れる。それは、幼いころに虐待を受けていた子供によく見られる特徴だと、アミスは王族としての厳しい教育の中で聞いたことがある。もう既にファイが虐待を受けているのは確定的で、そのほか不法な行ないをされていてもおかしくないのだ。


「……はい。準備、問題ありません」

「ありがとう、フーカ。それじゃあ改めて、行きましょう!」


 腹心からの青色信号を受けて、急いで地下にある駐車場へと向かうアミス。完全エナ駆動の自動二輪車をかっ飛ばして、フィリスまでおよそ1日。だが、今はその1日すらも惜しい。


 自動昇降機で地下に下りてみれば、そこにはもう既に準備を済ませた光輪の面々が居る。


(本当に、頼りになる人たち……!)


 運転席に(またが)ったフーカの腰を、補助席に座ったアミスが強く抱く。


「あんっ……。アミス様。は、羽の付け根は敏感で――」

「そういうの、今は良いの! 行って!」

「は、はいぃっ! いきますぅ~~~!」


 叫んだフーカが動力炉をふかせて自動二輪車を発信させようとした、直前。彼女たちの前に薄紫色の髪の女性が両腕を広げて躍り出た。彼女はアミス、フーカに次いで光輪の序列3位の女性だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、アミス!」

「なんですか、レーナ! 今は一分一秒を争うときで――」

「こ、これを見て欲しいんだ」


 言ってレーナがアミスに見せてきたのは、携帯用の高度演算器の画面だ。瞬時に集積された情報を共有・拡散することができるとあって、現代なら誰しもが持つ便利極まりない小型の演算器。その画面には、


『【速報!】港町フィリスの建物で、大規模な爆発が発生!』


 という見出しのもと、黒煙を上げるフィリスの様子が映し出されている。そして、その爆発の中心地と思われる場所こそ、


「うそ、でしょう……!?」


 まさに今からアミス達が向かおうとしていた、黒狼の拠点と思しき建物だった。




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