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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●戦うのは、得意……!

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第41話 私にも、“ともだち”がいた




「でもニナ、手加減してた……」


 全力で来いと言っておきながら、ニナは全力を出してくれなかった。そのことに、ファイは奥歯を噛みしめる。


 分かりやすい場面は2つ。1つは、ファイの左肩を砕いたあの一撃だ。


 強頑石をも砕くニナの拳がファイの左肩をとらえて、骨折で済んでいること。それ自体がまず、おかしい。ファイの予想では、ニナの攻撃を無防備に受けた時点でその部位が吹き飛ぶはずなのだ。


 ルゥ曰く、1日に生産できる傷薬はせいぜい10本ほど。それも、すぐに消費期限を迎えてしまうという。もちろん、時間におおらかな彼女たちのことだ。誤差はあるだろう。ただ、恐らくニナは傷薬の残りが少ないことを分かっており、ファイの傷が大きくなり過ぎないように手加減したと思われる。


 また、なによりも手加減を感じたのは、


「戦闘中、ニナは絶対に、足で攻撃しなかった」


 わずかに悔しさを声ににじませるファイの言葉に、ルゥが「そうだね~」とのんびりした声で相槌を打つ。


 筋肉量から考えて、人の身体は腕を使うよりも足を使った方が力を発揮することができる。実際、比較的威力の高い魔法を打ち消す際、ニナは腕の振りではなく回し蹴りなどを使っていた。だというのに、ファイを攻撃する時は一切、蹴りの動きを見せなかった。


 まず間違いなく、意識的に足技を封印していたとみて良かった。


「ニナちゃん、まだ足で手加減できないんだって。多分やり過ぎちゃうのを怖がったんじゃない? ファイちゃんがわたし達を気にして魔法を手加減してたみたいに」


 ルゥの言葉に、きょとんとしてしまうファイ。パチパチと何度か瞬きをした後、ルゥから目線を外して尋ねる。


「……気づいてた、の?」

「そりゃあね。わたし達ガルン人の戦闘に対する嗅覚と観察眼を舐めてもらっちゃあ、困るよってね」


 ガルンで数年、数十年と生きているということは、生き方を知っていると言うことなのだとルゥは語る。


「戦う、それとも逃げる。隠れたり、相手に取り入ったりするのもあり。いずれにしても、相手との実力差を把握し損ねた人から順番に死んで行っちゃうから」


 それゆえに、自然と人を見る目が培われるのだとルゥは言う。


「わたし達は知ってるんだよ。目の前で逃がした敵が、ある日突然、進化して、強くなって、後ろから刺してくるって。だから、敵は徹底的に殺す。それが文化なんだ」

「ぶんか? ぶんか……」


 思考や考え方が根本的に違うのだと言われているようで、ファイとしてはやるせない。


 ただ、それでもファイは、相互理解こそが優秀な道具であることの一歩となると思っている。相手の立場になって考え、指示を理解しなければ、真に優秀な道具であるとは言えないだろう。


 その点、ルゥたちガルン人の根底にある考え方を知ることができたのは、ファイとしては大きい。


「実際わたしは、次ファイちゃんと戦うならどうするかなって考えちゃってる」

「どうして? ルゥは私と、戦いたい?」


 素朴な疑問を口にしたファイに、ルゥはフルフルと首を振る。


「戦いたくないし、負けちゃうだろうな~って思うんだけど。それでもどうやったらファイちゃんを殺せるのか、勝手に考えちゃうの」


 こればかりはもうガルン人としての(さが)だから許してほしいと、片目をつむるルゥ。ただ、すぐに表情を引き締めると、ファイの目を覗き込むようにして言ってくる。


「だから、もしこの先、ファイちゃんがガルン人を相手にすることがあっても、殺すことを躊躇しないでね。そのガルン人は、絶対に、ファイちゃんを殺そうって考えてるから」


 そう語るルゥの目は、真剣そのものだ。心の底からファイの身を案じてくれている。


 先ほど“分からせ”たように、ルゥよりもファイの方が強い。だというのに、この先輩はファイの身を真剣に案じてくれているのだ。道具であるため心配など必要ないと言う前に、ファイは純粋に疑問だった。


「どうしてルゥは、そこまで心配してくれる、の?」

「……え?」


 思いがけないファイの質問に面食らったのだろう。ルゥが、青い瞳を大きく見開いた。


「ルゥと私。ガルン人と、ウルン人。……敵、だよ? なのに、なんで?」


 そうファイが尋ねた瞬間、いつもは優しくお調子者のような印象を与えるルゥの顔に怒気が宿る。その勢いのまま何かを言おうとしたルゥだったが、


「んっ! んんん~~~……!」


 頬を膨らませ、吐こうとしていた言葉をため込むような仕草を見せたかと思えば、


「すぅぅぅ、はぁぁぁ~~~……」


 大きく一度、深呼吸をしてみせた。そして、深呼吸に合わせて閉じられていた青い瞳をゆっくりと覗かせた時。そこに浮かんでいたのは、ひどく寂しそうな顔だった。


 その顔を見た瞬間、ファイはなんとなく、自分が失敗したことを悟る。


「敵……。敵、かぁ……」


 噛みしめるようにしみじみと、“敵”という単語を繰り返すルゥ。


「そ、そう。今は同じ、従業員。だけど、敵でもある。……違った?」


 自分の認識は間違っているのか。戸惑いを隠さずに尋ねたファイに、ルゥはゆっくりと首を横に振る。


「ううん、違わない。さっきわたしが言ったことを実践してもらうためには、そっちの割り切った考え方の方がむしろ助かる。ファイちゃんは、間違ってない。間違って無いんだけど――」


 ちらりとファイの方を見たかと思えば、


「――そっかぁ……。ファイちゃんにとってはわたし達も敵なのかぁ……」


 困ったように、諦めたように、笑う。


 ただ、そうしてルゥが感情を表に出してくれたおかげで、ファイはルゥの勘違いに気付くことができた。


「ルゥ。違う。私にとってルゥは敵にならない」

「おぉ? さっきの今で喧嘩売ってんのかぁ、この子は……って、どうせ違うんだろうなぁ」


 腕の治療が終わったらしく、ファイの左腕から尻尾を外したルゥ。ファイの正面に回り込んで目線を合わせると、傾聴の姿勢を見せてくれた。


「で? わたしが敵じゃないって、どういうこと?」

「えっと……」


 自身の考えを言葉にするのが苦手なファイ。懸命に言葉を探しながら、それでもルゥに想いを伝える。


「ルゥはたくさん褒めてくれるし、紅茶も、お菓子も、料理も上手」

「食べ物関連ばっかだなぁ……。それで?」

「だから、ルゥは私にとっては敵じゃなくて、その……」


 自分が道具であると言うことを損なわず、なおかつルゥがファイにとって敵ではないこと。ニナやミーシャと同じくらい大切な人であることを伝えるには、どうすれば良いのか。目をさまよわせて上手い言葉を探したファイだったが、結局。


「た、大切な人、だから……。だから、敵じゃない……っ」


 限られたファイの知識では、思っていることをそのまま言葉にすることしかできない。


 まさにありのままの、ダメな自分をさらけ出すような行為に赤面するファイ。それでもファイは、自分にとってルゥが必要不可欠な存在であることを伝えたかったのだ。


 ファイの中ではもちろん「使い手あっての道具だから、ルゥが必要」という揺るがない理屈がある。しかし、“ルゥが大切な人”というファイの言葉の裏には、ルゥと作り上げてきた思い出が付随している。ファイはきちんと、ルゥに親しみを感じてしまっていた。


 その親しみがあるからこそ、ファイはルゥが必要不可欠な存在であることを伝えたかったのだが、ファイはルゥへの親しみを自覚していない。自覚しようとしない。親しみは、ファイにとって不要なものだからだ。したがって、ファイがこの時の自身の行動を顧みた時。


(……そう。道具には、使う人が必要。だからルゥは、大切)


 そんな、百年の恋も冷めるだろう無機質な回答にたどり着いてしまうのだった。


 ただ、ファイが“面倒くさい”ことをよく知ってくれているらしいルゥ。たどたどしくも精いっぱいに自分のことを話したファイを見て、


「……ふふっ! うん、そっか!」


 そう言って、ファイがよく知る元気な笑顔を見せてくれる。しかも誤解が解けたことで、ファイの先の発言についても、きちんとその意味を把握してくれる。


「つまりファイちゃんは、わたしが、ファイちゃんを敵だと思ってるって、思ったんだ?」

「そ、そう!」

「なるほど。で、なんで敵である自分にわたしが優しくするのか、不思議に思った、と……?」


 ルゥの言葉に、ファイは何度も頷いてみせる。すると、ルゥは今度こそ声を上げて笑った。


「あはははっ! そっか、そっか! うんうん、なるほど。でも、改めてそれに答えるの、めちゃくちゃ恥ずかしいなぁ」


 頭をかきながら、自身も顔を赤くするルゥ。


「けど、ファイちゃんも勇気出してくれたし……。い、一回だけしか言わないから、よく聞いてね?」

「分かった。ちゃんと聞く」

「いやもうほんと、素直な子だなぁ」


 照れ隠しをするようにファイの態度に突っ込んだルゥはしばらく黙り込んでしまう。けれども少しして咳払いをしたかと思うと、青い瞳でファイの方を横目に見て、


「と、友達だから……とか?」


 ファイを気遣ってくれる理由について、教えてくれた。


 ただ、これまでごく限られた関係のみで生きてきたファイは、ルゥが言った単語の意味を知らない。


「ともだち? “ともだち”は、なに? ルゥと私はともだち?」

「うん。わたし知ってた。きっと知らないだろうなって思ってた! 友達を説明するとか、何その拷問っ!」

「ねぇ、ルゥ、教えて? ともだちは、なに?」

「こ、好奇心が眩しい……っ! あ~、もうっ! はいはい教えます! 教えればいいんでしょっ?」


 その後、終始顔を赤く染めるルゥの説明を聞きながら、ファイは“友達”という関係について学ぶのだった。




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