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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●家畜を、育てよう

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第323話 幽霊族の、従業員




「あ、の……」


 恐る恐る。そんな表現がよく似合う声色で、膝を抱える骸骨に声をかけてみるファイ。すると骸骨は、ファイをちょいちょいと手招きするような動きを見せた。


 骸骨が動くたび、きらりと光る黄緑色の長い髪。それに伴う正体不明の恐怖を使命感と矜持で踏みつけて、ファイは骸骨のもとへ歩み寄る。


 やがて骸骨のすぐ側で足を止めたファイに対して、骸骨が地面を示して見せた。と、そこにはガルン文字が書かれている。どうやらこの幽霊族はファイへの書き置きをしていたようだった。


「えっと……。『さっきはごめんね~。対応を決めかねてただけなんだ~』……?」

「そう。ボクの存在って、あんまり関係者に知られたら困るからね~」

「――っ!?」


 骸骨が居る方とは違う。まさに耳元で聞こえた声に、ファイは弾かれたように飛び退る。


「あははっ! やっぱり君とミーシャは良い反応してくれるよね~!」


 間延びした声が、ファイの左右から聞こえてくる。一見すると何も見えないが、ファイの目は特別だ。あたりを漂う微かな黄緑色の燐光を捉える。


(幽霊族。たしか、「領域」の中なら大体何でもできる……)


 恐らく特殊能力か何かで空気を震わせ、声を再現しているのだと思われた。


「……だれ」

「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね~。ボクのことはノインって呼んでね~」

名無し(ノイン)……? って、そっか」


 以前、ミーシャから幽霊族の存在について聞かされてから、ファイは使用不可期間の間に書庫で少しだけ勉強している。


 幽霊族と縁を結ぶと、どうしても幽霊族の影響を強く受けるようになってしまう。例えば幽霊族の考えが幻聴として勝手に流れ込んできてしまったり、幽霊族が見ているものが幻覚として現れたり。


 ノインは、そうした「呪い」と呼ばれる悪影響から、ファイを守ろうとしてくれているようだった。


「ん、分かった。じゃあ、ノイン。話がある」

「まぁまぁ、そんなに怒んないでよ~。ボクも忙しくてさぁ~。けど疲れを取ろうにも身体は無いし。だからファイたちを驚かせて気晴らしを――」

「ありがとう」


 ファイがペコッと頭を下げた瞬間、どこからともなく「ふぇ?」と戸惑うノインの声が聞こえた。


「うんと~……? 恨み言ならともかく、なんで感謝されてるの、ボク?」


 声はすぐ近く。一方で、身体と思われる骸骨は少し離れた場所で不思議そうに。慣れない視覚と聴覚の差異に戸惑いつつも、ファイは感謝の理由を語る。


「だってノイン。ずっと、ニナのために頑張ってくれてた……でしょ? で、私は“ニナの所有物”。だからお礼を言わないと、ダメ。ありがとう」


 ひとまず骸骨の方を見ながら感謝の理由を口にし、改めて頭を下げるファイ。だが、すぐに顔を上げて、大切なことも伝えておく。


「あと、私は道具で心は無い。だから“びっくりする”もない。いつも冷静。完ぺき……ではないけど、ほとんど完ぺき」


 先ほどのノインの言葉が的外れであることを、きちんと言い含めておく。と、ノインから返ってきたのは若干引き気味の声だ。


「いや~……。私生活とかを見て何となく察してはいたけど、アレだね。ファイも相当な変わり者だね~」

「違う。『者』は人に使う言葉。だから変わり()は、間違い」


 自身の存在と扱いについて力強く語るファイ。彼女にとっては誇張抜きに、自身の沽券にかかわる部分だからだ。


「か、変わり者って言われて怒る人はいるけど、そんな理由で怒る人は初めてだなぁ~……」

「だからノイン。私に心は無い。だから怒るもない」

「めんどくさぁっ!? 今のやり取りだけで、ファイに対する対応はルゥのが正解ってことは分かったなぁ……」


 やれやれと肩をすくめている骸骨の姿に、ファイも分かってくれたなら良いと小さく頷くのだった。


「ところでノイン。なんで私の名前、知ってる……の?」


 ファイの記憶違いでなければ、ノインと会うのはコレが初めてのはず。だというのに、どうしてノインの方はファイのことを知っているのか。


 これまでのノインの発言からおよその見当をつけるファイに、ノインが見せてきたのは黄緑色の髪の毛だ。


「この髪が、いわばボクの本体なんだけどぉ~……」

「わっ、動いた」


 まるで蛇のように動く黄緑色の髪の毛に、わずかに目を見開くファイ。


 幽霊族は主に、生前に深い縁を結んだ場所や物を自身の能力の対象とすることができる。


 ノインの場合、この長い髪の毛こそが因縁のある品なのだそうだ。


「で、この髪を通気口とか排水溝とか。いろんな場所に潜り込ませて、ファイ達の様子を見たり、聞いたりしてるんだ~」


 その他、こうして死体に髪を絡ませて操り人形にすることもできるらしい。ファイの目の前にいる骸骨も、かつてこの放牧場で働いていたガルン人の身体を借りているとノインは言う。


「いちおう一緒に働く同僚だからさぁ~。他の従業員の子のことも、きちんと把握してるんだ~」

「同僚……。やっぱりノインも従業員、なの?」


 勝手に住み着いている可能性もあるだけに、一応聞いておくファイ。すると、ノインが骸骨を動かして器用に頷く。


「そうだぞぉ~。例えばこうやって夜光石の光量を調節したり~……」


 骸骨が指を振ると、放牧場の天井にある夜光石が暗くなる。大気中のエナと魔素を吸収して発光している夜光石だ。周囲のエナの濃度を下げることで、発光反応を鈍くすることができるらしい。


「他にも階層主の間の扉を開け閉めしたりもしてるかな~」

「おー……。『通せんぼ』、だね。ニナが言ってたやつ」


 階層主の間の扉は制御できるとニナは言っていた。その作業をしているのがノインであるらしい。


(あれ? でも……)


 そこでファイは小首をかしげる。


 ニナと業務連絡をしているのであれば、間違いなくニナはノインを認知しているはずだ。にもかかわらず、これまでニナの口からノインの名前も、存在さえも聞いたことがない。


「歴としては多分、リーゼよりも古くなるかな~。だからファイ。大先輩のボクを敬ってくれてもいいんだぞぉ~?」


 腰に手を当ててふんぞり返る骸骨に、ファイは思い切って聞いてみることにする。


「ねぇ、ノイン。ニナはノインのこと、知ってる……の?」


 言った瞬間、ファイの耳元でノインが息を飲んだような気配があった。が、それが勘違いであると思えるくらいに、ノインはあっけらかんとした口調で言う。


「ボクのことを思い出せないだけで、もちろん知ってるよ~」

「知ってる。けど、思い出せない……? ……あっ」


 知っているのに思い出せない。不可解に思える現象だが、ファイには思い当たる節がある。


 ノインの髪の毛を見たときに感じた、得体の知れない恐怖だ。


 ファイは確かに、ノインの髪の毛について知っていた。だというのに、何があったのかは思い出せなかった。まるで記憶にフタがされているように。


 そして、幽霊族の特殊能力と、ノインのこれまでの発言から、ファイはついにノインの本業に思い至る。


「ノインは、記憶処理……エナリアの『きみつほじ』もしてるんだ、ね」


 質問ではなく確認の口調で言ったファイに、ノインの方も特に隠し立てするような様子なく答える。


「大正解~。ボクの最優先業務は、このエナリアの機密保持なのさぁ~」


 機密保持。主にエナリアの裏事情を知った人物の記憶を処理する重要な仕事だ。


 探索者(ウルン人)は当然として、例えば裏口の存在だけは知っている密猟者(ガルン人)たちが裏口を発見した時にも記憶の処理が行なわれるとファイは聞いている。


(あと、従業員が辞める時も処理するって言ってた……?)


 いずれにせよ、エナリアの秘密を保つためには記憶処理が絶対に欠かせない。重要性はエナリア主と肩を並べるのではないだろうか。


「最近だと第4層でウルン人の子たち相手にちょちょ~いって能力を使ったかなぁ~」

「うん。メレとミーシャを捕まえた人たちだよ、ね?」


 メレを救出するにあたり、ミーシャがピュレの入った背嚢ごと捕まってしまったことがあった。


 擬態用ピュレはエナリアの裏事情を連想させかねない。そのため、広間に居た盗賊たち全員を閉じ込め、記憶処理をした。そうファイはニナから聞かされている。


「ニナは『忘却の水晶』って道具を使ったって言ってた、けど……?」

「それ、ボクの能力の中継道具なんだ~」


 第4層のようにエナの濃度が低い場所だと、記憶処理のように強力な能力が発揮できない可能性があるのだとノインは言う。


 忘却の水晶は内部にエナを蓄える性質があり、そのエナの力を借りてノインは上層で能力を使用するそうだった。


 こうしてファイはノインが何者で、どのような役割を担う従業員なのか。人となりの把握も含めて、ある程度は理解できた。


 ただ、そのうえで1つ気になる点がある。


「ねぇ、ノイン。なんで自分のこと、忘れさせる、の? 独りは“寂しい”、じゃない?」


 ノインは間違いなくこのエナリアにおける重要人物で、功労者でもある。ニナが彼女の存在を知っていれば、まず間違いなく「すごいですわ!」祭りだろう。


 だというのにノインは自身の存在と役職を口外せず、ニナと交流を持っても彼女の記憶を消してきた。


 誰にも認知されず、褒められることも、認められることもない。正真正銘のひとりぼっち。それでもなお腐らず、実直に自身の業務をこなし、ニナを文字通り陰で支えている。


 人の温もりを知ってしまった今のファイにとって、ひとりぼっちはひどく恐ろしいもののように思える。


 いずれ完全に“道具”になることができれば恐ろしさも消えるのだろう。が、まだまだファイの中には、独りを恐れる弱い自分が存在してしまっている。


 もしもノインがその恐怖を克服しているのであれば、その方法を知りたい。あるいは、孤独を恐れてしまう器官――心――そのものをノインが捨て去ることができているのであれば、その方法を知りたい。


 優秀で完ぺきな道具になるための手がかりを掴めるかもしれない。


 ついつい前のめりになってしまいながら尋ねるファイに、ノインが返した答えは単純なものだ。


「だってそれが、ボクの仕事なんだもん~」


 遠い目をしながら――とはいっても骸骨であるために目は無いため雰囲気で――言ったノイン。


 仕事だから、孤独も恐怖も気にならない。心を征服しているように思える彼女の発言に、ファイの目が思わずきらめく。


 少なくともファイは、ノインのように割り切れない。1人で作業をしているとニナに会いたくなるし、今もミーシャの帰りを心待ちにしてしまったりする。


 そんな弱い自分を、ノインはきちんと打ち倒しているらしい。


「おー、ノイン、すごい!」


 尊敬に満ちたまなざしで、骸骨姿のノインを見遣るファイ。それに対し、ノインもまんざらでもない様子だ。


「えへへー。そうだろぉ~? もっとボクを褒めてくれても、良いんだぞぉ~?」

「ノイン、すごい。ノイン、天才。格好良い!」

「でへへ~♡」


 ファイが賛辞を口にするたび、骸骨が気持ち悪く身をよじらせる。


 だが、このやり取りから、間もなく。


「(じとー……)」


 ノインを見るファイの目から尊敬の光が消え去ることになった。




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