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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●階層主を、やってみる

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第242話 しゅ、らば?




 ミーシャによる入念なファイの無事の確認が終わった、その後。


 一度ミーシャと別れたファイはユアのもとへと向かい、銀狼たちを「ピュレ葬」した。名前の通りピュレがたくさんいる(そう)に死骸を投げ入れて、ピュレたちに隅々まで食べてもらうのだ。


 そうして死骸を食べたピュレは分裂し、余剰分は廊下や“表”に放流する。そうすれば、エナリアの掃除屋としてピュレがエナリアのために働いてくれるわけだ。


(一緒に戦ってくれて、ありがとう。バイバイ、ガルゥ、ルルゥ)


 ピュレたちの中に沈んでいく相棒たちを、ファイはただ静かに見つめ続けたのだった。


 と、ここまでは、ファイも静かに感傷に浸っていられた。だが、汚れた服を着替えるついでにお風呂に入ろうと自室に服を取りに戻ってみれば――


「アンタ、誰よ。ここ、ファイの部屋よ?」

「なに言ってるかわからないけど、あんた誰だし。ここは今日からティオとお姉ちゃんの部屋になったんだけど」


 なぜか自室に先客がいた。それも、白髪と金髪の少女が2人だ。両者とも波打つクセッ毛は同じだが、金髪の少女が毛先だけなのに対し、白髪の少女は全体が波打つようにクセがある。


「えっと。ミーシャ、ティオ。何してる……の?」

「ファイ!」

「お姉ちゃん!」


 にらみ合う2人にファイが声をかけたことで、2人の少女による冷戦は終わりを告げた。そして、ファイを巻き込んだ本格的な戦争が始まる。


「ファイ。コイツ誰よ? どうしてアンタの部屋にいるわけ?」


 牙を覗かせるミーシャが、鋭い口調と目つきでファイを詰問してくる。一方、ミーシャの隣に並んで同じようにファイに聞いてくるのは、ティオだ。


「お姉ちゃん、お帰り! この小さい女の子がティオとお姉ちゃんの愛の巣に入ってきたんだけど、まさか知り合いじゃないよね! ただの不審者だよね!」


 わずかに紫色の瞳から輝きを失わせながら、笑顔でファイに聞いてくる。


「ふ、2人とも落ち着いてほしい。それぞれ自己紹介をするべき」


 よく分からない汗を流しながらもどうにか2人をなだめようとするファイ。しかし、ティオとミーシャは仲良く首を横に振る。


「ううん、要らない~。ティオ、分かってるもん。この子、多分ティオと立ち位置被ってる。つまり、ティオが許しちゃいけない人種だと思う」

「落ち着けって言ってるのよね。でもファイ。縄張りに入ってこられたら意地でも追い返すのが獣人族なの。アタシはコイツが出ていくまで、アンタと話すつもりはないわ」


 今回はティオのためにウルン語で言ったのだが、ミーシャもファイとはそれなりの付き合いになる。口調や態度から、ファイの言葉を推測したようだった。


 グイグイとファイを部屋の外に押し出しながら、詰め寄ってくる2人。それに対し、こうした状況に慣れていないファイは「ぁ、ぅ……」と、ただ押されることしかできない。


 ファイという火薬、あるいは油が現われたことで勢いを増す戦火。その戦争に終止符を打ったのは、ひどく白けた顔で状況を見守っていた第三者――ルゥだった。


 ファイと同じように、銀狼たちを抱いたために服に血が付いた彼女。動物たちの体液には見えない病気の種があったりするらしく、放置するのは危険なのだという。そのため、ファイと一緒にお風呂に入ろうという話になっていた。


 服を取りに戻るだけだったため、ルゥには廊下で待ってもらっていたのだが――


「ふんっ!」

「「ふにゃっ!?」」


 ルゥが胸の谷間から取り出した小瓶の中身を振りかける。瞬間、ミーシャとティオが同時に悲鳴を上げたかと思うと、


「にゃぁん……」


 まずはミーシャが目を回して倒れる。そんな彼女を当然のようにファイが支え、静かに廊下の壁にもたれさせる。一方のティオはミーシャのように倒れるようなことは無いのだが、


()に、()れ……? (ちかあ)(あい)()いんだけど(らへろ)……」


 壁に手をつきながら、呂律(ろれつ)の回らない口調で自身の変調を訴える。


 言うまでもなく、ルゥが麻痺毒を散布したのだ。


「2人がファイちゃんのこと好きなのは分かった。分かったけど、ちょっと頭冷やそうか」


 ふんっと鼻を鳴らしたルゥはまず、目を回すミーシャをファイの部屋に連れていき、寝台に放る。続いて毒が回ってきたのだろう、壁際でぐったりしているティオのことも小脇に抱えると、ミーシャの隣に同じように放った。


 そして2人を布団でグルグル巻きにすると、


「これで良し。ほら行くよ、ファイちゃん。着替え持って」


 一仕事終えたというように、手を叩いたのだった。


「え、あっ、うん……」


 言われるがまま衣装棚から着替えを取り出し、自室を後にするファイ。部屋を出る直前に聞こえた「お姉ちゃん(ええひゃん)~……」というティオの助けの声につい足を止めてしまいながらも、


「ファイちゃん~?」


 主人の催促を受けて、静かに扉を閉めるのだった。


 そのまま駆け足で、少し先を歩いていたルゥに並ぶ。


「ルゥ、どうして?」


 どうしてあんなことをしたのか。不可解を声ににじませて尋ねたファイを、ルゥは一度だけ横目に見る。だが、すぐに正面へと視線を戻した。


「まぁ、2人が興奮しすぎてたからっていうのもあるけど、やっぱり危ないから」

「危ない? ミーシャ達が?」


 ファイが言うと、ルゥはコクリと頷く。


「さっきも言ったように、動物の血には病気の原因になるものがあるって言われてるの。狼だと狂犬病って言って、人が死んじゃうような病気のもとだってあるんだ~」


 狂犬病。その名前をファイが知っているはずもないが、単語を分解するだけでもティオが言うところの「ヤバそう」だということが分かる。


「で、2人はあのまんまだとファイちゃんに飛びつく可能性があった。獣人族のミーシャちゃんが触れたらそれこそ狂犬病になっちゃうかもだし、もう1人の女の子……ってかいま思うとあの子、誰?」

「あっ、あの子はティオ。ウルン人の子。11歳。私の妹」

「おぉう……。フーカさんに続いて、また知らない子をファイちゃんが引っかけてきてる……。それも、妹とか……。なに、ファイちゃん。ウルンに行くたびナンパでもしてるの?」


 呆れたようなジットリとした目を向けてくるルゥだが、言いがかりも甚だしいだろう。ウルン語に直すと『人釣り』となるナンパを否定しつつ、ルゥに話の続きを促す。


「そのウルン人のティオちゃんに病気のもとがついちゃったら、それこそどうなるか分からないでしょ?」


 ガルンの病気がウルン人にどう作用するのか、まだまだ未知の部分が多いのだとルゥは語る。先日、ファイが使用不可期間で患った風邪の原因も分かっていないのだ。


(そっか。ルゥ、ミーシャとティオを病気から守るために……)


 ファイにとって人生で初めての友人であるところのルゥ。彼女の優しさと医療者としての矜持を見た気がして、ファイの胸が温かくなる。


「ありがとう、ルゥ」

「ちょっ、やめてファイちゃん! わたしはただ、当たり前のことしただけだから!」


 耳を赤くしながら歩く速度を速めるルゥを見ながら、そう言えばルゥは照れ屋だったと思い出すファイだった。


 と、お風呂場の入り口が見えてきたところで、ファイはお風呂場から出てくる見知った顔を3つ発見する。


 1つはニナだ。彼女の茶色く艶やかな髪と明るい空気感はいつだって、ファイの目を惹きつけてくれる。そんなニナの影に隠れるようにして笑っているのは、フーカだ。彼女の姿がニナと被っていたことで、一瞬、ニナに透明な羽が生えたのかとファイは勘違いしてしまった。


 そして、3つ目。そんな2人の背後で青い尻尾を揺らしているのは、リーゼだった。


 と、時を同じくして3人の顔ぶれを確認したのだろう。少し前を歩いていたルゥが「やっぱり」と小さく声を漏らしたのを、ファイは聞き逃さない。


「ルゥ、ルゥ。何が『やっぱり』?」


 ファイの質問を受けて立ち止まったルゥ。一瞬、言うべきかどうか悩むようなそぶりを見せた彼女だが、合流したファイの耳に口を寄せてくる。内緒話の構えだった。


「ファイちゃん。多分だけど、ファイちゃんに階層主をさせるように言ったの、リーゼ先輩だと思う」

「え、そうなの?」


 ルゥの意外な予想に金色の目をわずかに見開きつつ、ファイはこちらに歩いてくるリーゼを見る。


 思えばファイはあまり、リーゼのことを知らない。仕事を一緒にしたこともあるし、リーゼの優雅な一挙手一投足には憧れてもいる。一方で、彼女の経歴や考え方については、まだまだ理解が浅い。


「どうしてそう思う、の?」


 リーゼのことを知るためにも、彼女と長い付き合いだろうルゥに聞いてみる。しかし、ルゥから返ってきたのはファイが期待した答えではなかった。


「いや、ニナちゃんなら絶対にファイちゃんに階層主をさせないってだけ。で、このエナリアでニナちゃんの考えを変えられるだけの影響力を持つ人って言うと――」

「あら、ファイさん! それにルゥさんも! ご機嫌よう、ですわ!」


 フーカたちとの会話に花を咲かせていたらしいニナが、こちらに気づいて声をかけてくれる。その声を受けてフーカたちも各々、ファイ達に挨拶をしてくれる。


「わわっ、ファイさん! その血! 探索者さん達との戦いでお怪我を……?」


 慌てたようにファイの方に駆けてきたニナ。心配と申し訳なさを眉ににじませながらファイの服に触れようとしたニナの手を、ルゥがそっとつかみ取る。


「ううん、大丈夫だよ、ニナちゃん。それよりあんまりこの血には触らないでね~、危ないかもだから」

「ルゥさん? ということは、この血はファイさんのものではないのですわね?」


 これだけは確認しないといけないというようにルゥを見るニナに、今度はファイ自身が答える。


「大丈夫。これは、私のじゃない。大事な仲間の血、だから」

「ファイさん……。……っ!」


 ファイの(いら)えと、わずかな表情の変化を受けて、どういうわけかリーゼの方を振り返ったニナ。その瞬間にファイが見た彼女の表情には、怒りとやるせなさのような色があった。


 そして、ニナに顔をむけられたリーゼはといえば、申し訳なさそうにニナに頭を下げるばかりだ。


「申し訳ございません、お嬢様。ですが、(わたくし)ではどうにも……」


 どうやらルゥの予想通り、今回ファイに与えられた階層主の仕事の裏には、リーゼの存在があったらしい。だが、リーゼの言動には別の含むところがあるようにも思える。


 この事情についてファイが知るのは、約2週間後。使用不可期間を終えたファイが、リーゼと再会したときになる――。




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