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ほの暗い穴の底から“幸せ”をっ! 〜仲間に捨てられた薄幸少女剣士、異世界の少女とダンジョン経営を通して本当の“幸せ”を探す〜  作者: misaka
●実験、してみる

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第160話 隠さないと、ね




「んで、俺のところに色結晶(エナード)なんてもんを持ってきたってわけか」


 机の上に置かれたこぶし大の黄色結晶を眺めて、腕を組むロゥナ。褐色の肌に、耳にかからないくらいの緑色の短髪。黄色い目をした小人族の女性だ。


 場所は第15層にあるロゥナたちの工房。白い夜光灯で照らされた室内は明るく、木製の家具が放つ良い香りが漂っている。


 少し前、第15層にやってきたファイ。1層分、約8,500段を上り切ったところでついに音を上げてしまったフーカを抱え、ファイとミーシャはいつものように階段移動を行なった。


『ぜぇ、はぁ……。み、ミーシャさんは、小さいのに凄い、ですねぇ……』

『なに言ってるか分かんないけど、コイツが貧弱ってことは分かったわ。アタシよりも弱いんじゃない?』


 などと話しながらのんびりと移動すること数時間。第15層に到達したところで、ファイはフーカをミーシャに預け“表”へと出る。その場所も決まっていて、前回、犬の姿でユアが案内してくれたあの出入り口だ。


 そう。ファイが比較的安全に黄色結晶を採掘できる場所として選んだのが第15層だ。密猟者たちとのアレコレや毛深蟹(けぶかがに)が美味しかったあの日の記憶を頼りにファイが心あたりを探すと、


(あった!)


 無事、ものの数分で黄色結晶を見つけることができたのだった。


 そうして裏に戻ってフーカたちと合流し、ロゥナたちの鍛冶場・工房を訪れて今に至る。


「そう。で、ここにピッタリはまるように切って欲しい」


 ファイが示して見せたのは小箱から取り出した撮影機の、色結晶を入れる部分だ。開閉可能なフタを外すと、六角形をちょうど半分に切ったような窪みがある。


「ここにちょうどはまる形って……。簡単に言うなぁ、おい。っていうかこれは何なんだ? 見たことねぇ道具だが……。触っても良いか?」

「もちろん。でも、ニナの物だから慎重に、ね」


 ファイの許可を受けて、ロゥナが物珍しげに撮影機を眺め始める。


「この透明なケリア鉱石(クァリアード)の部分はなんだ? これは……なるほど、どっかに取り付ける器具だな」

「ウルンの『遠隔監視用撮影機』っていう『魔道具』……えっと、不思議な道具」


 撮影機や魔道具など、該当するガルン語を知らないファイはそのままウルン語を使って表現したが、伝えるべき場所は伝わったらしい。ウルンの道具。そう聞いたロゥナが「まじか!?」と驚きの声を上げる。


「これがウルンの道具なのか!? どういう機能なんだ!? どういう仕組みだ? 分解しても良いか!?」

「あ、う、ぁ……」


 急にまくしたてられ、目を白黒させてしまうファイ。と、そんなファイとロゥナの間に割って入る影がある。


「ちょっとアンタ! ファイをいじめないで!」


 両手を目いっぱいに広げてロゥナを威嚇するのは、ミーシャだ。


 ミーシャとロゥナは今回が初めましてだったらしい。互いに自己紹介をしてはいる。が、ミーシャは人見知りをしてロゥナやフーカには近づかず、部屋に飾ってある金銀の細工を、緑色の目を輝かせながら眺めるばかり。


 他方フーカはそもそも言語が通じないため、ファイとロゥナのやり取りを静かに眺めているだけだった。


「いじめ!? ち、違うんだって。俺は別にファイを困らせようとは思って無くてだな……。ってお前、泣いてんのか?」

「泣いてにゃいわ! アンタなんて、怖くないんだからっ!」


 未進化(子供)の自分が弱いことを良く知っているミーシャ。それでも彼女は、ファイのために自分よりも強いのだろうロゥナに牙をむいている。


(ミーシャ……)


 背後に庇われているファイは、ミーシャの顔を見ることはできない。が、プルプルと震える背中がミーシャの内心を如実に表している。普段は臆病なのに時折こうして身体を張ってファイを守ってくれる。そんな小さな先輩の姿には、ファイも思わず胸が温かくなるというものだ。


「怖く、ない……! ファイは、アタシが守るんだからぁ……っ!」

「ちょっ、マジで止めてくれ! これじゃあ本当に俺が、お前らをいじめてるみたいじゃねーか! 怖がらせたなら、謝る! 悪かった!」


 ロゥナもロゥナで、ミーシャに理不尽な怒りを向けられて怒った様子もない。やはり彼女も良い人には変わりないとファイは結論づける。


 そして、ミーシャのおかげでファイも考えを整理する時間を取ることができた。


「えっと、ロゥナ。機能、は離れた場所から人を見る、で。仕組みは分からなくて、分解はダメ」


 先ほどロゥナに聞かれたことに順に答えながら、目の前にあるミーシャの身体を自分の方へ抱き寄せる。


「ありがとう、ミーシャ。でも私は道具だから。心配はいらない」

「べ、ファイを心配したわけじゃないわ! アタシがやりたくてやったの、勘違いしないでよね!」


 言いながらファイの腕の中でくるりと身を翻し、抱き着いてくるミーシャ。


 どうやらミーシャはファイを心配してはいなかったらしい。自身の思い違いを修正しつつ、相変わらず道具として扱ってくれるミーシャにはファイも大満足だ。


 そうしてファイとミーシャが言葉と想いを交わす一方で、ロゥナはもう既に職人としての闘志を燃やしている。


「離れたところから人を見る……。ピュレと似たようなもんってことたぁ、観察・監視用の道具ってことか? 多分この目みたいになってるケリア鉱石(クァリアード)の部分で“視る”んだろうなぁ」


 撮影機を()めつ(すが)めつしながら、1人で何かを言っている。このままではずっとクルクル撮影機を眺めていそうなので、改めてファイは話を本題に映すことにした。


「どう、ロゥナ。色結晶の加工、できそう?」


 彼女の器用な手先が向かうのは金属だけなのか。首を傾げたファイに、ロゥナはにやりとした笑みを返してくる。


「おいファイ。誰に言ってんだ。俺はこれでも技術者の端くれだぜ? 余裕だってんだ」


 謙遜の表現を交えながらも、ロゥナにも矜持というものがあるのだろう。加工できると明言してくれる。


「ただ、型を取ったり工具も準備しなきゃなんねぇ。あるていど時間はかかるが、どうする? 見ていくか?」


 ロゥナからの折角のお誘いを、しかし、ファイは首を横に振って固辞した。


「ううん。ちょっとやることがあるから。……ね、フーカ?」


 ファイが目を向けたのは、会話を熱心に聞いていたフーカだ。彼女もファイがここに来た時と同じく、見聞きすることでガルン語の習得を始めている。


 彼女からファイが聞いた話では、フーカはアグネスト王国がある中央大陸セルマの全ての国の言葉を話すことができるらしい。


 不思議なもので、言語には共通点があることも多いのだという。それが例え全く異なる歴史的な背景を持ったものだったとしても、少なからず似通った部分があるらしいのだ。


 そうして既知の情報と組み合わせることで、言語の習得は容易になることも多いのだという。


「なるほど……。形容詞が『~な』の音なんですね。ただ、「な」の音の前に鼻を鳴らす独特の音がある……。これはファイさん達だけの癖なのか、それともガルン語の特徴なのか……」


 こちらもロゥナと同じく、思考の海にかなり深い位置まで潜ってしまっているようだ。何度ファイが呼びかけても、ぜんぜん反応してくれない。


「フーカ。……フーカ?」

「あっ、ふぁ、ファイさん!?」


 ファイが目の前で手を振ったことでようやく、フーカはコチラに気付いてくれた。


「ど、どうかしたんですかぁ?」

「えっと、さっきの話。ニナに言われた実験のために、やらなきゃいけないこと」


 ファイが言う「さっき」とは、この第15層に来るまでの螺旋階段で話したことだ。


 そもそもこの撮影機と投影機たち。撮影機が発するという目に見えないエナの信号を受け取ることで、投影機に映像が映し出される仕組みらしい。


 しかし、撮影機から放たれるエナの信号は、距離や遮蔽物の影響を受けてしまうのだという。特に大気中のエナの影響を受けやすく、だからこそエナの濃度が濃いエナリアで使えない撮影機もあるらしい。


 ゆえに今回、ファイ達は第1層から第何層までなら投影機に映像が届くのか。また、どう運用すれば良いのか。その実験をニナから仰せつかっている。


 ただ、フーカが言うには、ただ撮影機を置くだけというのはあまり良くないらしい。というのも、エナリアの中にぽつんと撮影機があると、違和感が凄まじいだろうとのことだ。


 それはファイもなんとなく理解できる違和感で、いまでも人工的なエナリア裏側に居ると、ここがエナリアの中だということを忘れそうになってしまう。


 そうして違和感から見つけ出された監視機器によってエナリアの裏事情を知られてしまう可能性も、低いだろうがあるのだとフーカは言っていた。


 つまり、撮影機を隠す必要がある。それも、きちんと撮影できる状態で、だ。


 色を塗るのが1つの手だと言っていたが、夜目の効く種族の探索者には見つかってしまう。ならば、どうやって隠せば良いのか。悩んでいたファイとフーカを救ったのが、日ごろから魔獣のお世話をしているミーシャだ。


「どうやって撮影機を隠す、か」

「あぁ、その話ですねぇ。確か掃除屋……ピュレを使うんですよねぇ?」

「そう。……ミーシャが言ってくれたもん、ね?」


 ファイが聞くと、ファイのお腹に顔をうずめたままミーシャが頷く。


 ファイ達が撮影機を隠すために選んだ方法。それは、裏側の入り口などを隠すためだけに存在している、擬態用のピュレだ。


 擬態能力自体は野良のピュレも持っていたりする。しかし、ジッとその場にとどまってごくわずかなエサだけで活動するピュレなど野生には存在しない。必ず人の手が加わっている。


 そのためファイ達は、擬態用のピュレを迎えに行かなければならない。ミーシャと犬猿の仲と言っても良い“彼女”のもとへ。


「だからロゥナが加工してくれてる間に、ピュレを貰いに行ってくる」


 ふんすっと鼻を鳴らすファイに、苦笑して見せたロゥナ。


「そうかい。ま、ファイ達が戻ってくるまでには出来上がっているように頑張るぜ」


 ひらひらと手を振る彼女と別れて、ファイ達は第11層へと向かった。




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