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第四章 激突! サヤナミカVSミストリア

第四章 激突! サヤナミカVSミストリア


 地球防衛局東京第一支部の演習場には、ガラス張りの観覧室が設置されている。

 稀にスーパーロボット同士が模擬戦を行うことがあるが、主にその関係者が演習を見る為に使用することが多い。高さは地上から二十五メートル程の高い位置にあり、防衛局の施設内から、あるいは演習場に隣接するエレベーターから行き来することが出来る。

 六月九日、第二日曜日。模擬戦当日。

 白坂南は、第一支部の近所の駄菓子屋で新たに仕入れて来た笛ラムネを咥え、一定の高さの音を響かせつつ、観覧席へと続くエレベーター脇の壁面に寄り掛かっていた。

 見上げれば、快晴の青空が広がっており、やや西よりになった太陽が、暖かな日差しを演習場に降らせている。

 白衣のポケットから携帯を取り出し、液晶画面を開く。時刻は十二時五十分。

 演習場の中央に立つ、紫色のパイロットスーツを着た京極霧夜は、銀髪のメイド少女と共に、何をするわけでもなく、かれこれ十分以上、虚空を見つめ続けている。

 南は笛ラムネを吹くのを止め、カリッと奥歯で噛み砕く。エレベーター脇のボタンを押した。

 しばらくして、エレベーターの扉が開き、彼女は中に乗り込む。

 扉が閉まってから十数秒して、観覧室に着く。

 そこには、サヤナミカの開発に携わっていた研究員がちらほらと確認出来て、その他の見知らぬ顔は、おそらく京極コンツェルンの関係者か何かだろう。南のことを知っているらしく、挨拶をしに来たスーツの男が、名刺を取り出す。それを見ると、やはり『京極工業スーパーロボット開発部』と印字されていた。

 面倒だと思いつつも、南は白衣の胸ポケットから自身の名刺を一枚抜き、スーツの男に渡す。

 そんな感じで、他の京極コンツェルン関係者とも名刺交換を終え、ようやく見知った研究員のところへ行くことが出来た。

「やれやれ……」

 南は肩を竦めながら、一面強化ガラス張りで、演習場を隈無く見渡すことが出来る、最前列の席に腰を下ろす。

 斜め後ろの席に着いている男性研究員が、苦笑した。

「ご苦労様です、白坂博士」

「全くだよ。これだから、責任者ってのは嫌なんだ」

「物は考えようです。責任者だからこそ、自由が利く場合もあります」

「それはサヤナミカのことを言いたいのかね?」

 演習場に目を向けたまま、南が背後に尋ねると、「その通りです」と返って来る。

「僕は正直、サヤナミカの開発には反対でした。何故なら、サヤナミカが合体することに、特別な意義が感じられないからです。白坂博士のことは尊敬していますが、サヤナミカの開発には、明らかに私情が、白坂博士のエゴが混ざっていた。いや、エゴそのものと言ってもいいでしょう」

「サヤナミカを作ったのは、ハートドライブの共鳴効果を証明する為だよ」

「確かに、ハートドライブには、未知の可能性がまだまだ秘められています。しかし、共鳴効果を証明するだけならば、合体させる必要はありません。双子のハートドライブを作り出して、同じ人格を持たせれば、それだけで事足りたはずです。それなのにあなたは、合体させることに、それも三体合体に拘った。三つのハートドライブに、それぞれ異なる人格を与えてまで」

「……」

 南は答えない。

 男性研究員は、彼女を怒鳴るわけでも、非難するわけでもなく、至って平静に続ける。

「白坂博士は、とにかくハートドライブの出力増強に拘っていましたよね。サヤナミカに異なる人格を与えたのは、異なる人格が心を通わせた時にこそ、大きな共鳴効果を生み出すと考えたからじゃありませんか? 三体合体を選択したのも、より大きなハートドライブ出力を得たかったからでしょう?」

「後者は合ってるよ。だが、前者には、別の理由もある」

「何です?」

「サヤナミカは、ただのスーパーロボットじゃない――」

 南は斜め後ろの席を振り返り、答える。

「――私の、大切な娘達でもあるんだ」

 男性研究員は、ふっと表情を崩して、笑った。

「白坂博士のそういうところ、僕は尊敬してます」

 それから彼は、演習場に目を向ける。

「だから……僕も影響されたのかもしれません」

「ほう、何をだね?」

「僕、休憩時間の度に、ここから見ていたんですよ。サヤナミカ、博士の弟さんと一緒に、一ヶ月、ずっと練習してましたよね。宇宙怪獣に敗れても、諦めずに」

 南も一ヶ月に渡る合体練習の様子を思い出しながら、強化ガラスの外に向き直る。

「……ああ。そうだな。開発者の私でさえ、驚かされることばかりだったよ。合体練習だけじゃなく、他のことでも」

「何かあったんですか?」

「いや、こっちの話だ。気にしなくていい」

 再び彼女が携帯を開くと、時刻はまもなく午後の一時を示そうとしている。

 背後の方で、自動ドアが開く音がする。

 見ると、司令のネームプレートを付けた三つ編みの女性、羽柱鈴音が観覧室に入って来るところだった。

 南は、近付いて来る彼女に手を振る。

「やぁ、スズ。指令所の方は放って置いてもいいのかい?」

 鈴音は、南の隣の席に座る。

「問題ないわ。サヤナミカとミストリアの決闘が終わる頃には、向こうも何事もなく終わっているはずだもの」

「ん……それもそうか」

「ところで、肝心のサヤナミカがまだ到着していないようだけど」

 鈴音の言う通り、演習場に立っているのは、京極霧夜とミストリアだけであり、北斗とサヤナミカの姿は何処にも見えない。

 南は、涼しげな顔で言う。

「どうやらそうみたいだね」

「そうみたいって……大丈夫なの? もう演習開始の時刻になるわよ? 万が一遅れでもしたら、そのまま不戦敗になる可能性だって……」

「大丈夫さ」

 髪伸び放題じゃなくなった悪魔は、二ヤリと口元を歪める。

「何しろ、ウチの弟君は天才だからね」

「……ブラコンね」

「失礼な! 私は一人の女として、心の底から弟君を愛している!」

「なお悪いわ!」

 そんな会話をしていると、南の視界に三つの機影が映る。

「おっ、来たみたいだよ」

 ブースターで空中を飛翔し、演習場に降り立つ、全長二十五メートルの三機。それぞれ鮮やかなピンク、ライトブルー、レモンイエローの三色に彩られた機体は、間違いなく、南が開発したスーパーロボットである、サヤとナミ、そしてミカ。

 彼女は手元の携帯の液晶を見た後、それを白衣のポケットに入れた。

「午後一時ジャスト。……さて、いよいよだ」

 ついに、サヤナミカとミストリアの模擬戦が幕を開ける――。




「サヤ、外部音声を開いてくれ」

 俺は機体を演習場の中央に着陸させた後、コクピットのモニターに表示されているデジタル時計が、十三時になったのを確認してから、ウィンドウに映っている、ピンツインテールの少女に言った。

『了解。外部音声の回線をリンク。準備オッケーだよ、北斗くん』

「よし。あー、テステス。聞こえるか、京極!」

 サヤの機体前方で腕を組み、こちらを見上げている、紫色のパイロットスーツの男に呼び掛ける。

 彼の口が動き、

『そんな大声を出さなくても、聞こえているよ、白坂。耳障りだから、音量を下げてくれないかな』

 嫌味ったらしい声がコクピット内に流れて来る。

 なので俺は、サヤに指示を出す。

「サヤ、外部スピーカーの音量を上げてくれ。五割増しくらい」

『うん、分かった♪』

『ちょっと待てぇぇぇ!』

 見ると、京極が耳を塞ぎながら、騒いでいる。

「何だよ、うるさい男だな」

『うるさいのは君の声だ! 外部スピーカーの音量を下げろ! 変な嫌がらせは止めて、正々堂々と勝負しないか!』

「甘いな、京極。勝負は戦う前から始まっているんだよ。そして、俺は正々堂々、真正面から嫌がらせをしている! ボクシングとかの格闘技で、試合前にやる、舌戦と同じだ。お前は、俺のスーパーロボットを酷く馬鹿にしてくれたからな。これはそのお返しだ、キザ野郎」

『白坂、君って奴はぁ……!』

 オールバックの男は、腹立たしげに顔を歪める。

 俺はトドメとして、サヤの操作を借り、左手は腰に、右手の平は上にし、親指以外の四本の指を同時に動かして、挑発のポーズを取る。

「心配しなくても、ちゃんとスーパーロボット同士の戦闘でも勝ってやるよ。ただし、スピーカーの音量が気になって、戦闘に集中出来ないというなら、考えてやらないこともないが、どうする?」

『ふざけるな! ミストッ!』

 こめかみに青筋を立てて、京極が隣のメイドさんの名を叫ぶ。

 ミストは、無表情な顔を主人の方に向ける。

『……はい、何でしょう、マスター』

『ロボットモードに変身しろ! このフヌケ男を、力で黙らせる!』

『……了解しました』

 平坦な口調で答えた彼女は、突然、ふわっと風船が浮き上がるように、大きく後方に数十メートル程跳躍し、着地。

 メイド服のスカートをそっと両手で摘まみ、持ち上げて、お辞儀をする。

『……変身と、それに伴う掛け声、失礼致します』

 そう言って、顔を上げた彼女は、

『参ります』

 両手を重ね合わせ、印を結んだ。

『チェンジ、ミストリア! ロボットモード!』

 透き通った、張りのある声が響き、鮮やかなパープルの光が彼女を包み込む。

 身長百七十後半の長身である紫髪の少女は、巨大化にもそれを反映させ、あっという間にサヤ、ナミ、ミカの全長を追い抜き、三人娘のおよそ三倍、全長四十メートルの巨躯を誇る、パープルカラーの西洋甲冑を纏った、忍者のごときスーパーロボットと化す。

 黒いゴーグルの奥の黄色いアイカメラが輝き、首に巻いた黒いマフラーが風になびく。

 重装甲タイプのスーパーロボット、ミストリア四式。

 鋼鉄の彼女は、巨大な足を進ませ、こちらに近付いて来る。

 俺達とミストリアとの数十メートル開いていた距離が近くなるにつれ、見上げる角度が大きくなり、四十メートル超という巨大さを、改めて実感させられる。

『……マスター、ロボットモードへの変身を完了致しました』

 京極の近くまで辿り着いた彼女は、従者の機嫌を窺うように、片膝を着いて、頭を垂れる。

『よし! ミスト、コクピットハッチを開放! 搭乗する!』

『……了解しました。マスター、私の手に』

 ミストリアが巨大な手の平を京極の前に差し出す。

 オールバック男はそれに飛び乗る。

 巨大な手の平が腹部に移動するのに合わせ、腹部装甲が上に開く。その奥には更にハッチがあり、左右にスライドし、コクピットを露わにする。

 京極が中に乗り込み、二重のハッチが閉じて行く。

 ミストリアのアイカメラが一際強く輝いて、紫色の巨躯を立ち上がらせた。 

 俺達と対峙する全長四十メートルのスーパーロボットは、まるで目の前に、一つの山がそびえ立っているかのようだ。

 ふと、サヤの身体が震えていることに気付いた。俺はウィンドウのピンクツインテールの少女に、声を掛ける。

「サヤ、怖いのか?」

『うん。正直、怖いよ……だけど!』

「心配するな、俺が付いてる。それと、今日まで練習して来た、自分の力を信じろ。お前のハートドライブ出力は、一ヶ月前より格段に上がったんだからな」

 ウィンドウ内の沙耶が深呼吸をすると、サヤのボディーも振動を止める。

 彼女はウィンドウ内の自分の頬を、ぴしゃりと両手で叩いた。

『……これで大丈夫! 後は……全力を尽くすだけ! 行けるよ、北斗くん!』

「ああ。なら俺は、お前を信じる!」

 ミストリアの外部スピーカーから、京極の笑い声が響く。

『はーっはっはっはっはー! 立場が一気に逆転したな、白坂。今度は僕が君を見下ろす番だ』

 俺はモニターを覆い尽くさんばかりの巨躯を見上げて、言う。

「巨大な鎧を得た途端、急に機嫌が良くなったようじゃないか」

『機嫌……? 最悪に決まってるだろ、そんなもの』

 京極の言葉には、強い努気が込められていた。彼は吐き捨てるように、続ける。

『ずっと最悪だった。機嫌が最悪なのは、遡れば三年前からだが、ここ二ヶ月は最悪の極みだ。秀才の僕に唯一並ぶ男が、そんなちっぽけで情けないスーパーロボットと慣れ合って、堕落していった。ここ最近で君は変わったよ、悪い方向にね。少し前の君は、もっと冷静沈着で、何事にも動揺しない、強い心を持っていた。それが、今やスピーカーを大音量にして、嫌がらせをして来るような矮小な男に成り果てた。見るに堪えないんだよ。腹が立つ』

「俺の目指している先は、今も昔も変わらない。ここ二ヶ月の間、堕落していたのは事実だ。でも、今の俺は、自分が間違った方向に行ったとは思っていない!」

 ミストリアが巨腕を左右に広げる。

『分かっているさ。今更言葉を交わして、どうなるものでもない。第一、元より分かり合うつもりなどない。だから、僕は今日、この戦いに勝利することで証明してみせよう。君がいかに堕落し、変わり果てたか……そして、僕がいかに君より優れたスーパーロボットパイロットであるか!』

 両腕の甲から鋼鉄のブレードが展開すると同時に、ミストリアの頭部が防衛局の施設の方を向く。

『管制塔、演習場の防護フィールドの展開を!』

 京極は、姉さんや鈴音さんが見ているであろう観覧室とは別に、演習場の隅に立っている塔型の施設に呼び掛ける。

『了解、防護フィールドを展開します!』

 管制塔の外部スピーカーが返答し、演習場の周囲の地面から、高さ百メートル程の支柱がせり上がる。特殊合金で出来ており、数は四本。

 それぞれの支柱から薄い光のヴェールが伸び、支柱同士を繋ぎ、演習場の周りを四角に囲う。まるで、ボクシングやプロレスのリングを定めるかのように。

 この防護フィールドは、流れ弾等が演習場より外へ出るのを防ぐ以外に、戦闘演習における行動可能範囲を制限する意味合いもある。演習場の広さは一キロ四方。障害物は一切無し。

「サヤ、一時的に外部スピーカーとのリンクを切断」

『了解!』

 サヤに頼んで、通信の声が外に漏れないようにしてもらう。

 俺は、ウィンドウに映っているポニーテールの少女――サヤの左横に立っているライトブルーの機体に最終確認をする。

「ナミ、作戦は分かってるな。お前はミカと一緒に、ひたすらミストリアの分身と思われる奴に攻撃を浴びせてくれ」

『とりあえず、目の前の敵に集中すればよいのだろう?』

「ああ。ただし、敵の攻撃には気を付けろ。実体交換による不意打ちが、いつ来るか分からない。まともに喰らえば、パワーに物を言わせて、そのまま捻じ伏せられる。とにかく、敵の攻撃をかわすことが最優先事項だ。いいな?」

『……よかろう。我も、同じ轍は踏まん。この前のような醜態を晒すわけにはいかないからな!』

「それから、ミカ」

 俺は、金髪癖っ毛の少女が映っているウィンドウに視線を移す。

『にゃ?』

 サヤのように緊張しているわけでもなく、ナミのように闘志に満ち溢れた表情をしているわけでもなく、やけに落ち着いた様子で、ぱちくりと瞬きをするミカ。

「お前は、何というか……いや、落ち着いてるのはいいんだけど、逆に落ち着き過ぎというか。……大丈夫なのか?」

『えっ? ああ、ごめんな、ほーやん。変に心配かけてしもうたみたいやね。ただ、今、凄くハートドライブが穏やかなんよ。戦いの前やのに、自分でも不思議なんやけど。何と言ったらええかな、そう……ホッカイロや』

「ホッカイロ?」

 ウィンドウの彼女は、にかっと八重歯を覗かせる。

『ハートドライブがぽっかぽかに温まってるってこと。ほーやんと一緒に居るからかもしれへんね』

 ……そういえば、猫って生き物はマイペースなんだったな。いつだったか、姉さんも言ってたっけ。

 俺は瞼を閉じて、サヤと同じように、深呼吸をする。

 ゆっくりと息を吐き、目を開けて、三人娘に告げた。

「よし! 行くぞ、三機共!」

『うん!』『承知!』『にゃあ!』

 再び外部スピーカーの回線を開き、機体を構えさせると、管制塔のスピーカーからも、最終確認が来る。

『それでは、ミストリアとサヤナミカの両者とも、準備が出来たようなので、これより模擬戦を開始したいと思います。模擬戦のルールに則り、どちらかのパイロットが搭乗している機体の損傷率が、五十パーセントを超過した時点で、戦闘は終了とします。よろしいですね?』

「はい!」

『問題ありません!』

 俺と京極が答えると、どのくらいだったかも分からない、数秒だったか、数十秒だったか、しばしの間、沈黙が辺りを支配する。

『では――』

 やがて、その支配を突き破り、演習場に、ゴングの代わりとなる言葉が響いた。

『――模擬戦開始ッ!』

 先に動いたのは、ミストリアだった。

 巨大な手の平を重ね合わせ、先日の宇宙怪獣との戦闘で見せた、あの印を結ぶ。

『白坂、早速で悪いが、僕は最初から全力で行かせて貰うよ。昨日も言った通り、獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。そして僕は、兎に噛み付かれるような真似はしない! ミスト!』

『……はい、参ります』

 京極の呼び掛けに応じ、ミストリアの黄色いアイカメラが発光する。

『幻影の舞』

 何枚重ねにもしていた薄い紙を剥がして行くがごとく、ミストリアの背後から、第二のミストリア、第三のミストリアが現れ、やがて、最初のミストリアと合わせ、総勢十体となる。

 三人娘の三倍近くもある巨人が、十体である。それらが全て、こちらを見降ろしているのだ。モニター越しの俺にさえ、尋常じゃない威圧感が伝わって来る。まるで山脈を見上げているかのような気分だ。

 だが、サヤは震えていなかった。ウィンドウの彼女は、必殺技の練習をしている時のように、凛とした表情をしている。

 ナミは「ふん」と相変わらず不敵な笑みを浮かべ、右手を手刀の形にする。

 ミカも戦闘体勢になる。腰を屈め、両手をコンクリートの地面に着け、四足歩行の構えを取る。

 対峙する十体のミストリアのブースターが、唸りを上げた。

『行くぞ、白坂!』

 京極が言うや否や、その中の三体が飛び出し、サヤ、ナミ、ミカにそれぞれブレードで襲いかかって来た。

 すかさずブースターを噴射して避ける三人娘だが、三体のミストリアは巨体に似合わぬ素早さで、更なる斬撃を繰り出す。

 それに呼応するかのように、三人娘が技名を叫ぶ。

『ファイヤーブレード!』『フリーズランス!』『サンダークロウ!』

 サヤは、右手で握り拳を作り、それを柄代わりにして、炎の刀身を伸ばす。

 ミストリアが放つ上からの斬撃を、ブースターで横にかわす。そのまま地面を砕くはずの一撃が、溶け込むようにコンクリートに吸い込まれるのを見て、サヤはミストリアの懐に飛び込む。

『はぁぁぁッ!』

 ファイヤーブレードで、眼前のミストリアのボディーを横一線に薙ぐ。

 分厚い装甲が紙切れのように裂け、ミストリアの幻影は霧が風で吹き飛ぶように、消滅した。

 ナミは、あらかじめ構えていた手刀を腕ごと凍結、肘から先を氷で覆い尽くし、氷柱のように長く、鋭い槍を作り出す。ナミの十八番の技にして、メインウェポンの氷槍である。

 彼女は先日、宇宙怪獣に敗北した鬱憤を晴らすがごとく、ミストリアの攻撃を最低限のステップで避けると、一気に突っ込んで、攻勢に出る。

『見切った!』

 腕が分身して見える程の、氷槍の高速乱れ突きを放つ。

 彼女の言った通り、ミストリアの幻影に無数の穴が穿たれ、風穴だらけとなったボディーは形を保つことが出来ず、崩れ去った。

 一方のミカは、四足歩行の体勢から、腕力と脚力、加えてブースターの勢いを利用し、ミストリアの攻撃を逃れて飛び上がって、空中でムーンサルトをする。

 両手は既に電撃を帯び、白く発光している。ミストリアが上空を見上げる前に、ブースター全開で急降下、

『うにゃあッ!』

 両手の指先を食い込ませるようにして、ミストリアを縦に引き裂く。霧散する幻影。

 結果として、本物は一体もいない。京極は慎重な男であるから、全力とはいっても、まずは様子見のつもりなのだろう。

「どうした、京極! 幻影だけを突撃させて、自分は高見の見物か!」

 俺が外部スピーカーで煽ると、両腕を広げたポーズで並び、待機している残り七体のミストリアから笑い声がする。

『はーっはっはっはっはー!』

 声は最初、中央のミストリアから聞こえたが、

『煽っても無駄だよ、白坂』

 次は右から、

『僕は焦って、決着を急ぐような真似はしない』

 今度は左から、声がする。実体交換して、本物を悟られないようにする為だろう。

 声の位置は留まることなく、しかし京極の話は続く。

『チェスや将棋と同じさ』

『いきなり敵のキングを取ることは出来ないし』

『焦って手を進めれば、逆にこちらの隙を作ることになる』

『今のは、君達が、サヤナミカがどの程度の実力を持っているのか測る為の、言わばジャブみたいなものさ』

『それに、ミストリアの幻影は、最大九体までならば、幾らでも分身して、作り直すことが出来る』

 その言葉通り、中央のミストリアが印を結ぶと、新たに三体の分身が増え、元の十体に戻る。

『ミストリアにとって、分身は、チェスで言うポーン、しかも、いつ何時でも盤外から呼び出すことの出来る、不死身の歩兵なのさ』

『それを倒した程度で、粋がって貰っては困るな』

『しかし、どうやら、腐っても鯛、腐っても白坂北斗のスーパーロボットとあって、完全に無能というわけでもないらしい』

『ピンクツインテールだけじゃなく、ライトブルーとレモンイエローも、思ったより出来るようだ』

『だから、次は――』

 俺の、パイロットとしての直感が、告げる。

「三人共、気を引き締めろ! 来るぞ!」

『――十体全員で行かせて貰う!』

 ブースター点火と同時に、十体のミストリアが一斉に突撃を開始、乱戦にもつれ込む。

 ナミとミカに向かって来たのは、それぞれ四体ずつ。

『この程度!』

 ナミが氷槍の右腕を構え、真正面から迎え撃とうとするのが、モニターに見える。

「ナミ、言ったはずだ! 避けることを最優先に考えろ!」

『くっ……!』

 明らかに反撃を繰り出そうとしていた彼女は、氷槍を引き、ブースターで後退しつつ、四体のミストリアの攻撃を凌ぐ。

 ミカにも襲い来る、四体のミストリア。ミカならではの柔軟な動きで、空中を舞い、斬撃の雨を潜り抜ける。

 それぞれ四体ずつ……計八体を彼女達に割いたということは、どうやら、京極はまず、ナミとミカから潰すつもりらしい。

 いや、待て。本当にそうか? ……違う、逆だ!

「サヤ! 気を付けろ!」

 ウィンドウのピンクツインテールの少女に言う。彼女に迫って来るのは、二体。

 サヤは一体目の斬撃を避ける。先程と同じ要領で、懐に飛び込み、切り裂く。そのミストリアは幻影であり、靄のように揺らめく。

 問題は二体目だった。消えかけた幻影を両断するようにして、サヤにブレードを振り下ろして来た。

『うあっ!』

 炎の剣を前に構えて、敵のブレードを受け止めるサヤ。二体目のミストリアは本物で、鍔迫り合いになる。

 京極は笑う。

『はーっはっはっはっはー! さすがに一撃では仕留められないか、白坂!』

「当たり前だ! 舐めるな!」

『だが、こうしてパワー勝負に持ち込めた。ミストリアのハートドライブが京極工業製の出力強化型なのは、知っているだろう? 故に、純粋な出力で、ミストリアに並ぶ者は存在しない! どちらにしても、チェックメイトだ!』

 腕のブレードに、上方からの力を込め、サヤを押し潰そうとするミストリア。

『ぐぅ……!』

 炎の剣にもう片方の手も添えて、堪えるサヤだが、押し返し切れず、足の膝が次第に折れ曲がって行く。

 ビキィッ! と足元のコンクリートにヒビが走り、沈み込む。

「サヤ!」

 このままではマズい。ここは予定より早いが、ミカに頼るしかあるまい。

「待ってろ、今――」

『駄目だよッ!』

 サヤが怒鳴る。ウィンドウの彼女は真剣な眼差しで俺を見て、言った。

『まだ駄目! ボクのことは心配ない。だから、北斗くんは、自分のすべきことに集中して!』

「だけど、お前……!」

『だけどもへったくれもない! 北斗くん、さっき言ったよね。ボクを信じるって。だったら、信じて。信じて、前を見て。ボクはボクのすべきことをやる。必ず遣り遂げてみせる。だから、今は……!』

「……分かった。お前に任せる。自分の力で……ミストリアを押し返してみせろ!」

『うんっ! 押し返す!』

 サヤは笑顔で頷く。

 コクピットの会話を聞いていたのだろう、京極が『はーっはっはっはっはー!』と嘲笑する。

『何を馬鹿なことを言っている? 気合いでなんとかなる問題ではないさ。聞こえてなかったのか? ならば、もう一度言おう。ミストリアのハートドライブは、京極工業が開発した、最新の出力強化型――』

『ふぐぅぅぅ――ッ!』

『何ぃ!?』

 京極の唱える理屈を跳ね飛ばし、サヤが気合いの一声を上げ、ミストリアのブレードを押し返し始める。

 地面の亀裂が広がって陥没、クレーターに変わろうとも、ピンクツインテールのスーパーロボットは屈せず、炎の剣に力を込める。

『ふぁーいぃーとぉぉぉ!』

 完全にサヤの膝が伸び、まともな鍔迫り合いの形にまで持ち返す。

 京極が歯痒そうに、自らが駆るスーパーロボットに言う。

『ええい、何をやっているミスト! こんな小さなロボットに、パワーで押されてどうする!』

『……申し訳ありません、マスター。しかし、これ以上、どうやっても押し切ることが――』

『いっぱぁぁぁつッ!』

 直後、サヤが叫びと共に、炎の剣を思いっきり振り抜いた。

『ぐあッ!?』

 ブレードの腕を弾いた勢いで、ミストリアの巨体を宙に浮かせ、吹き飛ばす。

「沙耶の奴……やりやがった……!」

 素直に驚いた。しばらくの間、持ちこたえてくれさえすれば良かったのだが、まさか本当に押し返すとは。

 沙耶のハートドライブ出力は、昨日計測した時点でもスーパーロボット平均の六十パーセント代前半。にも関わらず、ぶっつけ本番で、ここまでの爆発力を発揮して来るとは思わなかった。

 サヤの勢いはまだ止まらない。右手に炎の剣を残したまま、左手で火球を作り、それを宙に放り投げる。

『ファイヤーボール――』

 炎の剣をバットのごとく振りかぶり、落ちて来た火球を強打、

『ライナァァァ――ッ!』

 ミストリアに向かって撃ち出した。

 空中で体勢を立て直し、着地するパープルカラーのスーパーロボットに、炎の剛速球が走る。

『喰らうか! その程度の攻撃、実体交換で容易くかわして……何!?』

 ミストリアは火球の直撃を受け、四十メートルの巨体を、爆炎が包み込んだ。

 やがて、漂っていた黒煙が消え去ると、両腕を身体の前で交差させた防御姿勢のミストリアが姿を現す。

 さすがに重装甲タイプのスーパーロボットとあって、堅い。見たところ、ダメージを受けている様子はない。

 だが、攻撃を当てたことに変わりはない。俺は京極に言ってやった。

「実体交換が出来なくて、残念だったな」

『……』

「サヤとお前が鍔迫り合いをしている間、ミカとナミが何もしないで見ていたとでも思ったのか?」

 レモンイエローと、ライトブルーのスーパーロボットが、サヤの両脇を固めるように並ぶ。

 ミカとナミを取り囲んでいたミストリア八体の幻影は、既に彼女達の攻撃によって消滅しており、演習場に存在しているのは、対峙する本物のミストリアと、三人娘だけになっていた。

「まずは俺達が一ポイント先取だ、京極」

『ふっ……』

 ふと、京極がくぐもった笑い声を洩らした。今ままでの誇張するような笑い方とは異なり、心の底から可笑しいとでも言いたげな笑い。

『ふははははははははは! それでこそ……それでこそ、白坂北斗だ! ふははははははははは!』

 ミストリアが防御姿勢を解除し、印を結ぶ。

『面白い……! 僕と君、どちらが上か、決める戦いとして申し分ない。ミストッ! 幻影の操作はもうしなくていい! ここからは、本体も幻影も、全てのコントロールを僕が引き受ける! お前は、ハートドライブ出力の安定に努めろ。幻影の舞、真の恐ろしさ、連中にとくと見せてやるッ!』

『……了解しました。私は後方に下がり、マスターの補助に徹します』

 話を聞く限り、どうやら今までは、ミストリアが幻影を操作、京極が本体を操作、と分担して行っていたらしい。

 俺は三人娘に告げる。

「注意しろ、三人共……今度の幻影は、一筋縄では行かないぞ」

 ところが、いつまで経っても、ミストリアが動き出す様子はない。印を結んだ体勢のまま、沈黙を保ち続けている。

 長く、不気味な沈黙。

 さすがに様子がおかしいと思い、俺はカマを掛けてみる。

「どうした? 仕掛けて来ないのか、京極! 怖気づいたか?」

『いいや、怖気づいてなどいない。それに……もう仕掛けている』

「何を――」

 直後、金属の軋む音が響いた。

 はっとなって、俺は音の聞こえた方向のモニターを見る。

 ライトブルーの機体、ナミの右肩の関節部分が、鋼鉄のブレードで、背後から貫かれていた。

 ウィンドウのポニーテール少女の瞳が、驚愕に染まる。

『なっ……!?』

 ナミのライムグリーンのアイカメラが、背後の敵影を捉える。

 四十メートル超のパープルカラーのスーパーロボット、ミストリアが、圧倒的な威圧感を漂わせて、そこに立っていた。

 普通ならば気付くはずだが、太陽の傾いている方向の関係で、ミストリアの影は、俺達の背後の方に伸びている。それにしたって、ナミが貫かれるまで、音も、気配もしなかった。これではまるで、瞬間移動だ。

 印を結んだ体勢のミストリアは、未だ俺達と距離を開けた前方に立っている。

「やられた……! ナミ! 退避しろ!」

 ミストリアが刃を振り上げる。ナミの右腕がもげて、宙を舞い、演習場の地面を転がる。

『くっ!』

 その場を離れようと、ブースターを点火するナミ。

 しかし、ミストリアはそれを見逃さない。振り上げたブレードの刃を返し、

『遅い!』

 ナミの頭部目掛けて、上からの斬撃を繰り出そうとする。

『しまっ……!』

 攻撃を防ごうにも、彼女の武器である氷槍、フリーズランスは、右腕ごと斬り落とされてしまっている。京極がナミの右腕を狙ったのは、その為だろう。

 鋼鉄の刃が、彼女に迫る。

『ナミちゃん!』

 サヤが二体の間に割って入った。ファイヤーブレードで、ミストリアの攻撃を受け止める。

 ナミはその隙に、ブースターで距離を開け、何とか退避に成功する。

 俺はレモンイエローのスーパーロボットに呼び掛ける。

「ミカ!」

『了解や!』

 ネコミミ型の排熱口のファンを開き、ピンクのアイカメラを光らせ、四足歩行の構えを取り、ミカはミストリアに突っ込む。電撃を帯びた爪を振りかざした。

 ミストリアが紙のように切り裂かれ、消滅する。

「実体交換……!」

 俺は額から嫌な汗が伝うのを感じる。

 身代わりの術とでも言うべき、速さと変則さ。

 そして、サヤとミカに、巨大な影が差す。

『遅いと……言っているだろう!』

 ミストリアがブレードで薙ぎ払う。

 サヤとミカは、サイドステップで間一髪回避する。

 幻影は霧が晴れるように薄れて消え、離れた所にいるミストリアが、結んでいた印を解いた。

『ふはははは! どうだい、白坂。これこそが、ミストリアのハートドライブ属性「幻」の真骨頂! 実体交換の、真の使い方だよ!』

 分身と自分の頭の中で決め付け、幻影は実体から分かれるようにして発生するものだと思っていた。しかし、実際は違う。

「幻影は、京極、お前の思い通りの位置に出現させることが出来るのか……!」

『その通りだ。といっても、出現させられる場所の限界距離は存在するがね。せっかくだ、戦闘に支障はないから、教えておいてあげよう。ミストリアは実体から半径一キロ以内の好きな場所に、九体までの幻影を出現させることが出来る。つまり、この演習場内ならば、どこへでも自在に幻影を配置することが可能なのさ!』

 先程のナミの右腕を斬り落とした攻撃は、気配のない幻影を俺達の背後に発生させ、印を結んでいた本体と瞬時に実体交換、ナミの右肩の間接にブレードを差し込んだ、というわけだ。

 それはまさに――

『驚きが隠せないようだね。まさに、瞬間移動みたいだろう? ミストリアは、元々この戦術を想定して造られたスーパーロボットなんだ。スペックの比重をパワーと防御力に置きつつも、ハートドライブ属性「幻」による、幻影の自由配置と、実体交換で、高速戦闘をも可能にする。それが我がミストリア。剛と柔を合わせ持つ、最強のスーパーロボットだ!』

 京極工業は――京極コンツェルンは、なんと恐ろしいスーパーロボットを生み出したのか。

 ミストリアが過去、一度たりとも宇宙怪獣に敗北していないのも頷ける。

 西洋甲冑を着た忍者のようなデザインは、決して伊達ではないということだ。

 だが、ミストリアがいかに強力な機体であるとしても、彼女を自在に操れるのは京極くらいのものだろう。彼の天性の戦闘センスと磨かれた操縦技術があってこそ、ここまでの戦闘能力を発揮することが出来るのだ。

 改めて、目の前の大型スーパーロボットが、強敵であることを知る。

『どうやら二週間前から、ライトブルーポニーテールにも必殺技をしこんでいたようだけど、こうやって事前に潰してしまえば何の問題もない。努力は徒労に終わったね』

「くっ……!」

 やはり、そこまで知られていたか。

 と、腕一つを失ったナミが、左腕にフリーズランスを展開し、ミストリアの方に向き直った。

『結局……何も変わらないというわけだ……』

 右肩の間接の断面は、スパークを起こしている。迂闊に動くと、関節部が爆発を起こしかねない。

 俺はウィンドウの彼女に言う。

「ナミ! 後方に下がれ! その傷じゃ、これ以上の戦闘は無理だ!」

『戦闘は無理? 勝手に決め付けるな。別にボディーを貫かれたわけじゃない。攻撃に必要な武器を一つ、持って行かれただけだ』

「武器じゃない、持って行かれたのは、お前の腕だ! 痛みは感じないかもしれないが、ダメージを受けてることを自覚しろ!」

 モニターには『ナミ、損傷率十六パーセント』の表示が出ている。

 ウィンドウの彼女が顔を上げ、切れ長の瞳を俺に向けた。

『黙れ、ヘボパイロット』

「!」

『貴様の言うこと聞いて、この様だ。何だ、これは? 先日の宇宙怪獣の戦いと、何も変わっていないではないか。この上、貴様の指示に従って、後方に下がるだと? 冗談ではない! 我は貴様を信用しない。最後に頼れるのは……自分だけだ!』

 ナミがポニーテールブースターで加速し、ミストリアに向かって突撃する。

「ナミッ!」

『うぉぉぉ――ッ!』

 フリーズランスを前方に構え、ブースターの推進力をそのまま攻撃力に換え、矢の如く突っ込む。

 しかし、ミストリアは、印を結ぶどころか、かわす素振りも、防御する素振りさえも見せない。

 京極は呟く。

『愚かな……』

 ミストリアはただ、目の前を見つめ、その場に立っている。

『くたばれぇぇぇ!』

 ナミのフリーズランスの切っ先が、ミストリアに突き刺さった。

 が、切っ先は紫色の胸部装甲を少しも抉れることなく、表面に当たっただけで、その動きを静止していた。装甲表面のバリアーを貫くことが、出来なかったのだ。

『馬鹿な……出力が足りてない……!?』

『馬鹿な、だと? 何を言ってる、当然の帰結だろう。パイロットの命令もロクに聞けない出来損ないの不良品風情が、僕を倒せるとでも思ったのか? だとしたら、甚だ遺憾だよ。君は戦いの舞台に上がる資格すらない。邪魔だ、そっちがくたばれ』

 京極はつまらなそうな声で、ミストリアの脚部を動かし、ナミを蹴り飛ばした。

『がっ……!』

 ライトブルーの機影が、装甲の破片を散らせて、宙を舞う。

「ミカ! ナミを!」

『分かってる!』

 俺が指示を出す前に、ミカは四足歩行の獣のごとく走り出していた。ナミがコンクリートの地面に叩き付けられる前にキャッチする。

 蹴られた際の衝撃のせいか、ナミとのリンクが途切れ、ウィンドウは消滅してしまっている。

 ミカに抱きかかえられたナミは、ぐったりとしていて動かない。想像以上のパワーで蹴り飛ばされたらしく、脇腹辺りの装甲が砕け、内部構造が露出し、バチバチと漏電を起こしている。

『う……!』

 苦しげに呻くナミ。

 ミストリアがミカとナミを見て、『下らないな』と首を横に振った。

『まさか、パイロットの命令を聞かずに特攻したスーパーロボットを、戦力を分断してまで助けるとは。白坂、僕には君の行動意図が、イマイチ理解出来ないよ』

「訂正しろ」

『何?』

「ナミを出来損ないの不良品と呼んだことを訂正しろ!」

 俺は言った。

 京極が腹立たしげに言葉を返す。

『……それが理解出来ないと言っているんだ。何故、君はサヤナミカを庇う? それだけの技量がありながら、何でそんなスーパーロボットのパイロットをしている? 君ならもっと、自分の力を発揮出来るスーパーロボットに乗り換えることが出来るはずだ。いや、誰だって普通はそうする。それなのに、どうして君はそんなところに甘んじている? 何故二週間前、わざわざ乗り換えるチャンスを与えたのに拒否した?』

「最初は、俺もそう思っていた。何で自分はこんな奴らの面倒を看なくちゃならないのかって、散々目の前の状況を呪ったよ。だが……そんなの、ただの言い訳だ。俺は、思い通りのスーパーロボットに乗れないからって、ガキみたいに拗ねてただけだ。甘えていた。でも、それじゃ駄目なんだ! 俺はそのことに気付いた! いや、気付かされた! 他でもない、こいつらに! だから、やってやろうと思った。意地でもこいつらを合体させて、逆に名を上げてやろうと、俺は決めた! 俺は今……自分の意思でここにいる!」

『スーパーロボットは、パイロットと心を重ねてこそ、真の力を引き出せる。それすらも出来ないスーパーロボットを、君は自らのパートナーとして認めるというのか?』

「パートナー? 違うな! こいつらは俺の仲間だ! どん底から這い上がろうとしている強いハングリー精神と、何にも諦めず、誰にも負けないという誇りを持った仲間! ナミは、自身がスーパーロボットであることを誇りに思っている。確かにあいつは、俺の言うことを聞かない。だけど、あいつはいつだって全力だ! いつだって全力で強くなろうと足掻いている! そんなあいつを、出来損ないの不良品なんて、絶対に呼ばせない!」

『それが下らないと言っているんだッ!』

 京極の怒号と同時に、ミストリアが印を結んだ。

 ミカとナミから離れた位置に居て、孤立しているサヤの周囲に、九体の幻影が出現する。ミストリア本体と合わせ、十体で円状にサヤを取り囲む様は、まるで支柱の太い檻に閉じ込めるかのようだ。

『実際に目の前の状況を見ろ、白坂! そのライトブルーの機体が独断先行したことで、君の乗る機体は孤立し、こうして十体のミストリアに取り囲まれる羽目になった。これはミストリア必勝の型だ! 未だかつて、この型から逃れた宇宙怪獣は存在しない! それでもなお、君は彼女を庇えるのか!? 庇えはしないさ! 庇えたとしても、それは偽善だ!』

「……だったら、掛かって来い。この型を崩して、ナミに頭を下げさせてやる!」

 俺はウィンドウの、ピンクツインテールの少女に目を向ける。

「――サヤ! あれを使う!」

『うん! ナミちゃんの仇も、まとめて討つ!』

 幻影の檻の中央で、サヤがファイヤーブレードを消失させ、代わりに腕を引く。

 それは一カ月間、早朝に特訓を繰り返して来た、必殺技の構え。

『はぁぁぁ……!』

 ピンクカラーのボディーを中心にして、炎が渦巻く。炎はボディーから、右腕の握り拳に集中して行く。

 京極が笑った。

『ふはははははは! やはり来たな、カウンター狙い、一撃必殺、一点集中の必殺技! 無駄だ、当てられはしない! 教えてやろう、我が必勝の型は、カウンターを防ぐ為の型だ! そして、これから放つ必殺技「百花繚乱」は、カウンターを繰り出す暇も、隙も与えない!』

 先日の消える宇宙怪獣を、一瞬で八つ裂きにし、爆散させた技だ。

 だが、俺は退かない。この戦い、俺はサヤナミカ三人娘を信じると決めたのだ。

『これで終わりだ、白坂! 必殺奥義、百花繚乱ッ!』

 十体のミストリアが両腕のブレードを構え、一斉にブースターを点火し、円陣の中央にいるサヤに突撃する。

 サヤは動かない、右拳にエネルギーを集中させることだけを考えている。

 ここが第一のタイミング。

「ミカ! 今だ! 全力で走れッ!」

 俺はレモンイエローのスーパーロボットの名を呼んだ。

 京極はそれを聞いてもなお、ミストリアの突撃を止めない。

『今からあの距離では間に合わん! 僕の勝ちだ!』

「いや、間に合う!」

 二十本のブレードの刀身が、サヤを貫こうとした、その瞬間。

 爆音と共に、衝撃波が空気を揺らし、外部から飛び込んだ稲妻のごとき速さの機体が、逆に九つの幻影を切り裂き、一つの実体にタックルを喰らわせた。

『何だと!?』

『にゃあぁぁぁ!』

 飛び込んだ機体は、もちろんミカ。

 ミストリアはタックルに吹き飛ばされつつも、ブースターで体勢を立て直し、後退する。ミカはスライディングして火花を散らし、十数メートル先で停止。

 すると京極は、ミストリアの常時両腕に展開していたブレードを、収納させる。

『くっ、ライトブルーポニーテールの必殺技が切り札だと読んでいたが、レモンイエローにも技をしこんでいたか……! ハートドライブ属性「雷」で、稲妻のごとく加速する「概念効力」とは、随分と反則臭いじゃないか!』

 それを言うなら、ミストリアの概念効力の方がよっぽど反則臭い。

『だが!』

 ミストリアは右腕を引いた。それはまるで、対峙しているサヤと同じ技を繰り出すかのような構え。

『僕は秀才だ。その程度の予測、戦う前から出来ている! ミストッ、豪華絢爛を使う!』

『……了解しました、マスター。これより、豪華絢爛を発動します』

 メイドさんの淡々とした口調に導かれて、ミストリアの右腕に異変が起きる。

 ただでさえ巨大な紫色の腕だが、それが更に巨大化を始めたのだ。質量は増え続け、最終的に元の三、四倍の大きさと化す。

 本当、ミストリアの『幻』の方がよっぽど反則臭い。

『君がカウンター狙いをして来ることは既に読んでいた。だから、僕もカウンター対策をさせて貰った。それがこの必殺奥義「豪華絢爛」だ。君の機体が放とうとしている技と原理は同じだよ。ミストリアのハートドライブ出力の全てを右拳に集中させている。腕が巨大化して見えるのは、ハートドライブ属性「幻」によるものだ。視覚的にそう見えるだけで、実際の腕の大きさは変わっていない。しかし……この技の威力は、巨大化した腕に相当する!』

 四十メートル超の身体と、技名に恥じぬインパクトを持った、ハンマーのごとき右腕を浮かす、ミストリア。

『これが、ミストリアの、対カウンター用カウンター奥義。敵と同じ技をぶつけ、パワーで押し切る! 先程の鍔迫り合いでは遅れを取ったが、今度はそうは行かない! 二度も奇跡は起こらない!』

 京極の言葉には、絶対的な自信が溢れている。

 俺は決着が近いことを感じ取る。サヤの必殺技と、ミストリアの必殺技。双方の技がぶつかり合った果てが、この決闘の終局となるだろう。

 ミストリアが、ミカの方に顔を向ける。

『どうやら、そこのレモンイエローの機体は、スピードを強化しただけのようだからね。例え、ミストリアに攻撃がクリーンヒットしても、大したダメージは与えられまい。故に、この攻撃は止めることは敵わない!』

 そして、ミストリアのアイカメラが、サヤに向けられる。

『白坂! この一撃で、君のピンクの機体にダメージを与え、戦いを終わらせる! 行くぞッ!』

 俺は、ウィンドウのピンクツインテールの少女に言う。

「サヤ! この一撃に、全てのエネルギーを乗せろ!」

『うんッ! ラブ――』

 ミストリアがブースターで加速、巨大な右腕を振りかぶる。

『ファイヤァァァ――』

 サヤも、弓を引き絞るように右腕を振りかぶり、ミストリアを迎え討つ。

 両者の距離は、三十メートル、二十メートル、十メートルと一気に狭まり――


『パァァァ――ンチッ!』

『豪華絢爛ッ!』


 壮絶な轟音と共に、互いの拳を激突させた。

 凄まじい衝撃波が巻き起こり、演習場を取り囲む防護フィールドを震撼させ、スパークさせる。

 十数倍はあろうかという巨大な拳に、サヤは負けじと自身の拳をぶつけ、押し返そうとしている。

 ここが、第二のタイミング。

 俺はサヤとの外部スピーカーのリンクを切断、ウィンドウの金髪癖っ毛の少女に声を掛ける。

「ミカ! 準備はいいか?」

 あくまで落ち着きながら、しかし瞳には闘志に満ちた炎を燃やしながら、彼女は頷く。

『いつでも行けるで! ほーやん、指示を!』

「よし、ミカ、加速準備! 位置について――」

 レモンイエローのネコミミロボットは、クラウチングスタートの構えを取る。

「よーい――」

 両手の指はコンクリートの地面に着けたまま、腰を地面と水平にする彼女。

 俺は操縦桿を引き、機体脚部と背部のブースターを点火しながらも、ブレーキのペダルを踏み、ギリギリまで溜める。

「ドンッ!」

 俺は自らが駆るスーパーロボット・ミカを、激突する二体のロボットに向かって、疾走させた。




 遡ること二週間前、作戦会議をした日。

 俺は自室に呼び出した三人娘に、新たに考えた作戦内容を伝えた。

 要点は、四つ。

「一つは、俺が乗り込むメイン機体を、沙耶から未佳に変更する」

「えー!?」

「えっ、ウチ?」

 不満そうな大声を上げたのが沙耶で、不思議そうな声を上げたのが未佳である。

 沙耶は「何で何で何でー! 北斗くん、ボクのこと嫌いになった!? 嫌いになったの!?」と涙目で飛び付いて来る。

 俺は彼女の頭に手を置き、

「違う。好きとか嫌いとか、そういうことじゃなくて、模擬戦で勝つ為にどうしても必要なことなんだ」

「必要なこと?」

「そうだ。俺が二週間後の模擬戦で沙耶に乗ることは、既に京極にバレている。ラブファイヤーパンチの存在もだ。当然、カウンター対策は万全だろう」

「じゃあ、勝てないじゃん! 今日までの、ボクの早起きと、特訓の意味は!?」

 ショックを受けたらしく、取り乱す沙耶。

「落ち着け。裏を返せば、京極は俺が沙耶に乗ると思い込んでいるということだ。だから、例え俺が未佳に乗っていようとも、サヤの外部スピーカーから俺の声が流れてさえいれば、京極は俺が沙耶に乗っているものだと勘違いをする。模擬戦のルールは、『パイロットが搭乗している機体の損傷率が五十パーセントを超過した時点で終了』と決まっている。ということは――」

「ミストリアは、ボクを狙って攻撃を仕掛けて来る……?」

「そういうことだ。京極は隙のない男だが、俺が沙耶に乗っていると思っている内は、必ず未佳に背を向けるタイミングが発生する。例えば、必殺技を放つ瞬間」

「そうか、分かったよ、北斗くん! その瞬間に、背後から未佳ちゃんで攻撃するんだね!」

「正解。ただ、それだけなら別に、俺がわざわざ未佳に乗らなくとも、沙耶に乗って、未佳に指示を出していれば事足りる。しかし、これは前にも説明したが、ミストリアは重装甲を持つスーパーロボットだ。生温い攻撃では、装甲を貫くことはおろか、装甲表面のバリアーに阻まれて、傷一つ付けることが出来ない。そこで未佳には、要点の二つ目。模擬戦までの二週間で、二つの必殺技を習得して貰う」

 黄色のジャージを着た、金髪癖っ毛の少女に、俺は右手の人差し指と中指を立てて見せる。

 当然の反応として、未佳は目を丸くした。

「ふ、二つも!? 無理や! さーやんでさえ、一つの必殺技を覚えるのに、二週間掛かったんやで!?」

「未完成でもいい。だからこそ、成功率を上げる為に、本番で、俺が未佳に乗ってサポートをするんだ。それに俺の予想が正しければ、未佳、お前はもう、必殺技の一つを習得しているはずだ」

「え?」

 首を傾げる彼女に、俺は言う。

「未佳は、五十メートル走、何秒で走れる?」

「わ、分からへんけど……走るのは好きやで、確かに。あっ、同じくらい、家でごろごろしてるのも好きやけど……」

「じゃあ、今日から、ハートドライブ出力を足に集中させて走る練習をしてくれるか。手を使って、四足でもいい。その場合には、両手にもエネルギーを集中させるのを忘れずにな」

「で、でも何で?」

「未佳。お前は多分、無意識の内に『概念効力』を使うことが出来る」

「概念……効力?」

 俺は頷く。

「ハートドライブには属性があるだろう? 沙耶なら炎、奈美なら氷、未佳なら雷。お前達は、それらを操ることが出来る。しかし実際は、炎とか氷とか雷とか、物質的なものを扱っているわけじゃない。お前らはその概念を操っているんだ」

「に、にゃあー?」

 心底分からなそうに首を捻る金髪癖っ毛の少女。

「簡単に言えば、お前はおそらく、『稲妻のように速く』走ることが出来る」

 実際、消える宇宙怪獣と戦った日に、地球防衛局の廊下で追走劇を繰り広げて、そう感じた。

「う、ウチにそんなことが……?」

「ああ。とりあえず明日、実際に走って、本当に出来るか確かめてみてくれ。もしも概念効力が使えるのなら、もう一つの必殺技も簡単に習得することが出来るはずだ」

「だ、大丈夫なんやろか……」

 不安そうな表情を浮かべ、後ろ頭を掻く未佳。

 俺は次に、ライトブルーポニーテールの少女へと視線を移す。

「要点の三つ目は、奈美。お前の役目についてだ」

「我の役目?」

「お前には、未佳のバックアップ――京極の意識を逸らして、隙を作り出す為に、囮役になって欲しい」

「なっ……我が囮だと!? ふざけるな!」

 当然、激昂し顔を歪める奈美。

 だが、俺は首を横に振る。

「ふざけてない。大真面目だ。いいか? 新しい作戦では未佳を隠し玉にするわけだが、このままではそれを京極に悟られる可能性がある。そこで必要なのが、あたかも作戦の要であるかのような囮役だ」

 具体的にどうするかというと、奈美にも沙耶と同じ、拳一点集中の必殺技を練習させる。

 本命である未佳には自主訓練をさせ、俺は奈美の指導役として彼女の側に付く。

 こうすることで、偵察によって情報を得た京極は『奈美が次の切り札かもしれない』と錯覚する。

「そして、模擬戦当日にも、奈美には囮役として重要な仕事がある。戦闘の最中、京極は切り札の可能性があるお前を、優先的に潰して来ようとするはずだ。そこでお前には、わざと戦闘不能になって欲しい」

「我に負けろと言うのか!?」

「負けるわけじゃない。勝つ為に一芝居打って欲しいと言ってるんだ。あくまで戦闘不能を装ってくれればいい。ハートドライブの情報処理機能をフル回転させてよく考えろ、奈美。向こうが切り札だと思っているお前が、京極の狙い通りにやられ、倒れる。そうすれば向こうは、精神的に余裕が生まれ、一気に勝負を着けようと、俺が乗っているはずのサヤに攻勢を掛けて来るはずだ。この時、ミカはどうなる? 奴の意識の外。つまりは、ノーマークだ」

「その為の囮役……」

 複雑そうな顔をする奈美。

 しかし、これだけ徹底しなければ、あの京極から隙を作り出すことは難しい。

「むー」

 ふと、背後から声がした。くいっくいっとジャージの裾が引っ張られる。

 振り返ると、沙耶が頬を膨らませていた。

「未佳ちゃんが一気に二つも必殺技を覚えて、奈美ちゃんが囮役になって、結局、ボクの出番はないわけ?」

 俺は首を横に振る。

「そんなことはないぞ、沙耶。言ったろ? お前には、俺が乗ってると見せかけて、ミストリアを引き付けて貰う」

「だけど、未佳ちゃんの必殺技で、ミストちゃんに攻撃するんでしょ? だったら、ボクが今日まで特訓して来た意味なんて……」

 肩を落とすピンクツインテールの少女。

 そんな彼女に、俺は四本指を立てて見せた。

「要点の四つ目。これを担うのが、沙耶、お前だ」

「!」

「言っとくが、未佳と同じくらい重要だから、これが出来ないと、俺達は負けるかもしれない。いいか、よく聞けよ。ミストリアはおそらく、ラブファイヤーパンチと同じ、一点集中型の必殺技を、隠し玉として使って来る」

「なっ……! どうして!?」

「ミストリアは、重装甲・重火力タイプの機体だ。俺達が一点集中の必殺技を使って来ると分かっている以上、カウンターに対するカウンターとして考えられるのが、同一の必殺技。そして、もしも一点集中型の必殺技同士が衝突した場合、ハートドライブ出力の高い方が勝つ」

「ちょ、ちょっと待って! そんなことされたら、ボク、確実に出力負けしちゃうよ!」

 俺は「そうだな」と頷いて見せる。その上で、言った。

「だから、耐えてくれ。俺と未佳が背後から必殺技を喰らわせる、その時まで」

「あ……!」

 意味を理解したらしく、沙耶は瞳を大きくする。

 俺は続ける。

「ハートドライブ出力を一点集中させている間は、ミストリアは分身することも、実体交換することもない。装甲表面のバリアーも消えて、完全な無防備となる。そこへ俺達が必殺技をクリーンヒットさせて仕留める。……これは、沙耶、未佳、奈美の誰が欠けても成し得ない作戦だ」

「……分かった! ボク、ミストちゃんの必殺技を、なるべく長く凌いでみせるよ! いや、むしろ押し切ってみせる!」

 力強く頷く沙耶。俺は、彼女の頭にも手を置く。

「よし、その息だ。もしもミストリアの必殺技を押し切ったら、今までの恨み辛みを、ありったけ込めた拳で――」

 ストップウォッチを持っている方の手で握り拳を作り、同じく沙耶が作った握り拳と、軽くぶつけ合った。

「――ミストリアのどてっ腹を、思いっきりぶち抜いてやれ!」

「うん!」




 ミカの機体が激しく振動し、コクピット外からの音声が聞こえなくなったことで、俺は音速の壁を突き破ったのだと知る。

 ぐわっと視界が狭くなった瞬間、俺はウィンドウの金髪癖っ毛の少女に言う。

「ミカ! 急減速と同時に、ミストリアの真上に向けて、跳躍! 第二の必殺技を使うぞ!」

『了解や! 行くで、ほーやん!』

 身体に激しいGが掛かる。ミカが急減速しているのだ。

 同時に開ける視界。ミストリアはもう目の前。

 ミカがブースター全開で、ジャンプする。周りに空の青が広がり、モニターの高度メーターを見れば、示す数字は、地表から百九十二メートル。

 遥か下方に見える、拳を激突させている二体のスーパーロボットの姿。

 俺はその片方、紫色の機体に狙いを定める。

「よし、ここまででいい! ミカは全エネルギーを右足に集中させることだけを考えてくれ! 機体の操作は俺に任せろ!」

『頼むで、ほーやん! はぁぁぁ!』

 俺は操縦桿を握り、ミカの右足を上に振り上げる。ボディーから右足へ、迸る青白いイカヅチ。電は増大を続け、レモンイエローの脚部の一点に収束して行く。

 俺は外部スピーカーをオンにして、叫んだ。

「京極ッ!」

 ミストリアが顔を上げ、黒いゴーグルの奥のアイカメラを黄色く光らせる。

『何!? 白坂、まさか……貴様ぁぁぁッ!』

 京極が怒りの叫びを上げるが、もう遅い。

 俺はパートナーであるネコミミのスーパーロボットに呼び掛ける。

「やるぞ! ミカ!」

『うにゃあ!』

「必殺ッ!」

 右足を天高く掲げたまま、機体を重力加速度に乗せ、急速降下。

『スターライト――』

 俺はミカの言葉に乗せるように、真下のミストリア目掛け、溜めに溜めた雷のエネルギーを、


「『フォォォ――ルッ!』」


 ハートドライブ出力一点集中の踵落としを、解き放った。

 天から落ちる稲妻のごとく、ミストリアの右肩に振り下ろす。

 首に巻かれた漆黒のマフラーを焼き切った。パープルーカラーの装甲に電撃が走り、亀裂が走る。そして、ミカの踵がついに、装甲にめり込んだ。

 ミストリアはサヤと拳を衝突させている為、防御することも、反撃することも出来ない。

 俺はミストリアのパイロットに告げる。

「これで終わりだ、京極ッ!」

 京極の怒号が、演習場に木霊する。

『白坂ぁぁぁ――ッ!』




 京極霧夜は、十四歳まで、敗北という二文字を知らずに生きて来た。

 正確には、敗北という単語は知っていても、実際に負けたことは、一度もなかった。

 生まれてすぐに英才教育を受け始め、五歳になる頃には、小学生レベルの勉強は全てつつがなくこなせるようになっていた。

 彼は何でも出来た。様々な武道を習い、運動神経も、常人の枠を飛び抜けていた。

 十二歳で、某国の工科大学の博士号を得た。まさに秀才と言うべき少年だった。

 十三歳の時、彼は父親に連れられて、京極工業のスーパーロボット開発の現場を訪れ、スーパーロボットに興味を持った。

 父親に頼んで、彼は特別に、スーパーロボットに乗せて貰った。最初はもちろん、テストパイロットに操縦方法を教えて貰っていたが、それからわずか数十分にして、彼は自在にスーパーロボットを操って見せた。

 余りの異常な上達ぶりに、専門の医師によって、彼の身体が調査された。

「霧夜様は、特殊な体質をお持ちです」

 医師はそう言った。

「異常なまでの空間把握能力を持っているのです。それはつまり、スーパーロボットを、手足の延長のように扱えるということ。パイロットになれば、霧夜様は間違いなく大成することでしょう」

 彼はやはり秀才であった。

 彼は、京極コンツェルンを継ぐことが決まっていたが、同時に、スーパーロボットパイロットになることも決めた。

 だがそれも、彼にとっては余興に過ぎなかった。若くして優れた能力を持っていた為、彼は人生に退屈していたのである。スーパーロボットパイロットになることは、彼にとって、一時的な退屈凌ぎでしかない。そう思っていた。スーパーロボットパイロット試験を受ける、その日までは。

 十四歳から受けられるスーパーロボットパイロット試験は、彼にとって大した難関ではなかったが、そこでちょっとしたサプライズがあった。

 そもそもこのスーパーロボットパイロット試験、十四歳の少年が受けること自体が前代未聞なのだが、その年はあろうことか、同い年のパイロット志願者が、もう一人いたのである。

 霧夜は楽しくなって、ちょっとした企みを思いついた。

 もう一人の志願者の少年に、自分の圧倒的才能を見せつけてやるのだ。

 場合によっては、相手が深く傷付き、スーパーロボットパイロットを諦めることになってしまうかもしれないが、それもまた一興。彼は自分が楽しければ、別に何でも良かった。

 ところが、実際試験を行ってみると、霧夜が想定していたものとは、全く逆の構図になってしまった。

 京極霧夜は、試験において、もう一人の志願者の少年、白坂北斗を、何一つ上回ることが出来なかったのである。

 皮肉にも、深く傷付くのは、彼の方であった。

 何しろそれは、十四年間の人生で初めて味わう、敗北という名の屈辱。彼のプライドは、スーパーロボットパイロット試験を通じて、ズタズタに引き裂かれた。

 結局、その年は、霧夜と北斗の二人が試験を通過して、新たなスーパーロボットパイロットとして選ばれた。

 成績は、北斗がダントツの一位で、霧夜は大きく離され、二位だった。

 それから今に至るまでの京極の人生は、白坂北斗の名を出さずに語ることは出来ない。

 三年間、霧夜は、ひたすら自身のスーパーロボット・ミストリアの強化に勤しみ、時間を忘れる程に、自らのパイロット技術も研鑽を重ねて来た。京極家の人間としてのプライドは少なからず残っていたので、北斗の前では、いつだって余裕ぶって見せたが。

 現われる宇宙怪獣に対しては、全身全霊を賭けて、叩き潰して来た。

 だが、決して白坂北斗のスコアを上回ることは出来なかった。

 だからこそ、つい一ヶ月前、スコアブックを見た時は、霧夜は愕然とならざるを得なかった。その月の宇宙怪獣撃破数一位の霧夜に対し、なんと北斗が撃破数ゼロで、最下位にまで転落していたのである。

 ようやく念願が叶ったというのに、霧夜は不思議なことに、微塵も嬉しさを感じることが出来なかった。

 むしろ、怒り狂いそうになった。というか、こめかみの血管が音を立てて、切れた。

「何をやってるんだ、あの男は……!」

 すぐに京極コンツェルンの資金を使って、人を雇い、探りを入れた。

 原因は特に苦労することもなく、半日もすると、判明した。それほどに単純な原因だった。

 一ヶ月程前、白坂北斗は、それまで乗っていたスーパーロボットの故障により、彼の姉であるスーパーロボット開発の世界的権威、白坂南が一年半前に製作した『少女合体サヤナミカ』という機体に乗り換えた。ところが、そのサヤナミカ、合体ロボなのにも関わらず、合体システムに問題があり、未だに一度も合体することが出来ていないというのだ。

 要するに、北斗はハズレを掴まされたのである。それも、大ハズレの中の大ハズレを。

 ――いや、だが、それならば、さっさと契約を解除して、また別の機体に乗り換えればいいだけの話だ。

 霧夜に疑念が浮かんだ。

 ――何故、白坂北斗は、一ヶ月もの間、サヤナミカを手放さずにいるのか。

 霧夜の知る白坂北斗は、例えるならば、ダイヤモンドのような少年である。それは、初めて会ったスーパーロボットパイロット試験の会場で、嫌という程思い知らされた。

 北斗は、もともとの才能も飛び抜けているが、それ以上に、努力をして、磨き抜かれた才能を持っていた。加えて、強固な自分というものも所持している。彼はただひたすら、スーパーロボットパイロットになる為に、才能を磨き続けていた。

 その白坂北斗が、一ヶ月もの間、何をもたついているのか。サヤナミカの人型インターフェイスは、外見だけは可愛らしい少女の姿をしているというが、それに絆されたわけではあるまい。

 だとしたら、何故?

 それを知るために、霧夜は、朝の登校時間を狙い、直接自分の目で見て、確かめることにした。

 鮮やかなピンク、金、ライトブルーの髪色をした少女達と歩く北斗は、最初こそ、何一つ変わっていないように思われたが、霧夜がカマを掛けて、

「さて、どうだか! 蛙の子は蛙とも言うからね。結局、第一次、第二次東京決戦の英雄は死んでしまった。たまたまスーパーロボットに乗って、たまたま敵の宇宙怪獣と相打ちになったパイロットが英雄と呼ばれてるだけじゃないか。違うかい? というか今現在、君は一体何をしてるんだ。そんな……ろくに合体も出来やしない出来損ないの不良品共と、何を悠長に遊んでいるんだ?」

 と罵ると、北斗はそれまで見せたことのない目で、霧夜の制服のネクタイを引っ掴み、思いっきり引き寄せて来た。

「っ……何を怒っているんだ、君は。親のことを馬鹿にされて腹が立ったのかい? それとも……」

 霧夜は内心、腸が煮えくり返っていた。

 嘘だと思いたかった。だが、北斗は、本当にサヤナミカに絆されつつあったのだ。

 スーパーロボットパイロット試験の時、自分のプライドをズタズタにした男がこうも変わり果てるのか。

 白坂北斗は、もっと冷静で、強固な自分というものを持っている男だった。

 それがこんなにもあっさりと、脆く、崩れ去るというのか。

 失望した。許せなかった。腹が立った。だから――

 死んでも負けない、こんな奴に。

 霧夜は、そう思った。




『白坂ぁぁぁ――ッ!』

 それは、京極の執念の叫びだった。

 ミストリアの豪華絢爛が、向くはずのないの必殺技が、俺の乗る機体――ミカの方を向く。

 まるで、京極の意思が、そのままミストリアの腕を動かしたかのように。

『きゃあッ!?』

 サヤが、ラブファイヤーパンチを弾かれた勢いで、十メートル程後ずさる。

 ミストリアはあろうことか、拳をぶつけ合っていた体勢から、ぶつけ合っていた拳を、裏拳としてこちらに放って来たのだ。

 無理矢理で、強引だった。ミストリアの肘関節が悲鳴を上げ、亀裂が走るのが見えた。

 それでも、裏拳の矛先は、確実にミカを捉えていた。

「くッ!?」

 操縦桿を操作して、離脱しようとするが、間に合わない。

 裏拳は、エネルギーが集中したままで、巨大に膨れ上がったままだ。

 喰らったら、一溜まりもない。防御しようとも一撃で、ミカは損傷率五十パーセントを超過してしまうだろう。

 どうする、どうする、どうする。くそっ……間に合わない……!

 迫り来る裏拳がスローになって見える。

 防御するしかない。そう思い、操縦桿を動かす。

 その時だった。目の前を、ライトブルーの機影が横切った。

「ナミ!?」

 見慣れたポニーテールブースター。ボロボロのボディーで、彼女は左手を伸ばす。

 その先には、ミカが装甲を砕いて露出させた、ミストリアの肩間接がある。

 ナミはそこへ左手を突っ込んだ。

 途端、バキバキと音を立てて、ミストリアの右肩が丸ごと凍りつく。

 裏拳の攻撃が、俺とミカの眼前で、ぴたりと静止した。右肩の可動域に氷が引っ掛かったのだ。

 京極が怒鳴る。

『貴様ッ……!』

 ライトブルーのスーパーロボットはそれで全力を使い果たしたらしく、外部スピーカーで呟きながら、ミストリアの肩からずり落ちる。

『北斗……ちゃんと演技は……してみせたぞ……』

 俺は、ミカのブースターを点火し、ナミを受け止めてから、ありったけの大声で叫んだ。

「サヤァァァ――ッ!」

 ミストリアが裏拳にエネルギーを残していたということは、すなわち、拳をぶつけ合っていたピンクのスーパーロボットも同じはず。

 果たして、サヤは既にミストリアに肉薄し、燃え盛る右拳を振り被っていた。

「この恨みぃぃぃ――」

 黄色いアイカメラを一際強く輝かせ、彼女は必殺の一撃を、思いっきりミストリアのどてっ腹に叩き込んだ。


「はらさでおくべきかぁぁぁ――ッ!」


 サヤの拳がミストリアに突き刺さると同時に、爆炎が噴き上がり、演習場を覆い尽くした。

 俺は、ミカを着地させ、ナミを地面に下ろすと、眩く真っ赤に染まるモニターに目を細める。

 爆炎が収まって行く。

 演習場の中央には、二体のスーパーロボットが、対峙するようにして、立っていた。

『はぁ……はぁ……』

 サヤは右拳から蒸気の帯をなびかせながら、肩を上下させている。おそらく、本当に全エネルギーを右手に集中させていたのだろう。相当に疲労しているようである。

 一方、必殺技の直撃を受けたミストリアもまた、立っていた。全身の装甲に亀裂を走らせながらも、倒れることなく、二本の足でちゃんと立っていた。

 漆黒のマフラーは燃え尽きて既に無く、頭部の黒いゴーグル右片方が砕け、黄色いアイカメラが露出している。

 しかし、あれだけの亀裂が入ったボディーでは、もはやまともに動くことすらも出来ないだろう。……出来ないはずなのだが。

 ミストリアは動いた。足を動かし、俺の乗るミカの方へ、身体を向ける。

 嫌な予感がした。ミストリアの半壊した外部スピーカーから、掠れ気味の京極の声がした。

『白坂……やってくれたな……!』

 まるでゾンビみたいだった。およそ二百メートルくらい離れていて、届くはずもない手を、こちらに伸ばして来る。

 その巨腕に更なる亀裂が走って、装甲が砕けて落ちる。

 俺は驚きを隠せなかった。砕けて落ちた装甲の下に、やや赤みがかったパープルカラーの装甲が見える。要するに、赤紫色の装甲。

 外部スピーカーから、今度はメイドさんの声がした。

『……外部装甲の規定ダメージ量、超過。パージします』

 直後、ミストリアが白い煙を上げて、爆発した。比喩でも何でもなく、爆発だった。

 鋼鉄の破片が散らばり、転がる。

 白煙が晴れるとそこには、シャープで、女性的なフォルムをした、赤紫色のスーパーロボットが立っていた。

 その機体は、表現するならば、『くのいち』のような姿をしている。全長はミストリアに比べ大分小さく、サヤナミカ三機と同じ、約二十五メートル程。全体的にスマートで、各部が細い。高速戦闘型の機体のようだった。太腿に装着されているのはおそらく、ビームの忍者刀か何かだろう。

『まさか、これを使うことになるとは、思わなかったよ……』

 黄色いアイカメラが光り、機体の外部スピーカーで、京極が言った。

 額から嫌な汗が出る。

「嘘……だろ……?」

『残念だが、目の前の出来事は現実だ、白坂。ミストリア四式の隠し機能、パージシステム。過剰なダメージを受けた外部装甲を破棄し、ミドルサイズのスーパーロボットへと変身を遂げる。基本的に緊急脱出用の保険だが、決して戦闘能力が低いわけじゃない。このヴァルキリーミストリアは、通常のミストリア四式と異なり、重量を極限まで削った、軽量高速戦闘型の機体だ。つまり、スピード一点特化型の機体。……おあつらえ向きじゃないか、白坂。君の乗っているレモンイエローの機体も、スピード重視なんだろう?』

 ヴァルキリーミストリアは、右腕を垂らしたまま、左腕を太腿にやると、忍者刀を抜き、逆手で構える。展開するビームの刀身。

『右腕は先程、無理矢理関節を動かしたせいか操作不能だが、それでもヴァルキリーミストリアの損傷率は、十三パーセント。まだ十分に戦える!』

『マスター、豪華絢爛の使用により、ハートドライブ出力も四十七パーセントまで低下しています。幻影の同時展開は四体が限界です』

『構わん! 疲弊しているのは向こうも同じだ!』

 次の瞬間、ミストリアがブースターでミカに肉薄して来て、加えて幻影を四体作り出す。

「マズい! ミカ、何とか回避を──」

 ミストリアが忍者刀を構えると同時に叫び、操縦桿を動かすが、

『ぐっ……!』

 ミカの膝がかくんと折れる。モニターに『ハートドライブ出力低下』の文字。

 抱えていたナミを支えられず、取り落としてしまう。地面に倒れるライトブルーポニーテールの機体。

「ミカ!?」

『あかん、こっちも概念効力の加速と、スターライトフォールで、エネルギーを使い過ぎ……うぐあッ!?』

 バキィッ! と金属が貫かれる音が響き、ミストリアニ体の刃が、ミカの両膝の間接を貫く。

「しまった……! 両足を!」

 京極の『はーっはっはっはっはー!』という笑い声が、演習場に響き渡る。

『まだ攻撃は終わってないぞ!』

 残り三体のミストリアが迫り来る。俺はとっさにミカの腕を前に構えさせ、防御姿勢を取った。けれど。

『がっ! ぐっ! きゃあぁぁぁ!?』

 多勢に無勢、ミカのボディーは連続攻撃でどんどんと装甲を斬り裂かれて行く。

 ついにはまともに立つこともままならず、その場で両膝を着いてしまう。

「ミカ! 大丈夫か、ミカ!?」

『大丈夫……や……この……くらい……』

 AIにノイズが走り、途切れ途切れに言う彼女。モニターに示された損傷率は、四十四パーセント。

 あと一撃まともに喰らったら、試合が決まってしまう。

「くそっ……ここまでなのか!?」

 操縦桿を握り締める。

 一ヶ月の間、三人娘と共に、模擬戦に勝つために出来る限りの努力をして来た。

 途中、透明になる宇宙怪獣に負け、三人娘は挫けそうになって、それでも再び立ち上がった。

 俺の考えた作戦が見透かされて、代わりとなる新しい作戦を考えて、彼女達はちゃんとそれに付いて来てくれた。

 そして、京極の裏をかき、必殺技をクリーンヒットさせることが出来た。

 だというのに。

「最後の最後、読み切れなかった……! 奴の切り札を……!」

 ミストリアの二重装甲。京極が用心深い男であることは、分かっていたはずなのに!

「すまん……三機共……!」

『手こずらせてくれたな、白坂』

 ミストリア一体が、ミカと俺の前に立つ。逆手に構えた忍者刀上方に構え、切っ先をこちらに向ける。

『やはり腐っても、最年少でパイロットになった男なだけはある。……まさか、その不良品共を使って、ミストリアをここまで追い詰めるとは思わなかったぞ。しかし、これでチェックメイトだ』

「くっ……!」

 絶望感が押し寄せる。もはや抵抗することは無意味だ。これ以上の策は用意していない。足掻いたところで、ミカを無駄に傷付けるだけだ。

「……京極」

『何だ? まさか命乞いか?』

「そうだ。俺はお前に降伏──」

 俺は操縦桿から手を離し──

『そんなの、絶対に駄目だッ!』

 コクピットに、一人の少女の声が響き渡った。

 顔を上げると、

『北斗くんとミカちゃんから、離れろぉぉぉッ!』

 ブースター全開で突っ込んで来て、長くしたファイヤーブレードで幻影を一気に薙ぎ払う、ピンクツインテールの機体が、そこにいた。

 残った実体のヴァルキリーミストリアは、忍者刀で炎の剣を受け止める。

『くっ、ピンクツインテール! この期に及んで、邪魔を……!』

 京極は、バックステップで百メートル程後退。一旦、距離を取る。

 俺はミカを守るように立つ、ピンクのスーパーロボットを見上げた。

「サヤ……!」

『北斗くん! 今、あのオールバックに降伏しようとしてたでしょ!? そんなの駄目だよ、絶対!』

 彼女は疲労を隠せず、肩で息をしながらも言う。

「けど……もう何も策がない。このまま続けたって、お前達に無駄な損傷を負わせるだけだ!」

『だとしても! ボクも、ミカちゃんも、ナミちゃんも、降伏なんて望んでない!』

『その……通りや……!』

 モニター上のウィンドウは消滅してしまっているが、金髪癖っ毛の少女は、途切れ途切れながらも、言う。

『ほーやん、ウチ……まだ……負けてへん……! だから、最後まで、諦めちゃ駄目や……!』

「ミカ……」

『勝ちたいんや……! ウチ……勝ちたい……!』

 泣きそうな声。俺は、胸が締め付けられるように痛む。

「だけど……!」

 どうしたらいいのか、分からない。この状況を打開する方法が思い付かない。ナミは既に倒れ、ミカは大きなダメージを受けて満身創痍、加えて膝間接を破壊されて、もうまともに動けない。唯一ダメージを受けていないサヤでさえ、全身全霊で必殺技を放ち、目に見えてハートドライブ出力が低下している。

 対するヴァルキリーミストリアは、片腕一つが動かず、ハートドライブ出力が低下していても、まだ四体の幻影を作り出せる。装甲を捨てたことで運動性能も大幅に上がり、おそらくサヤ一機では、実体に攻撃を当てることは不可能だ。

「俺はもう……何もしてやれない……!」

『信じて』

「え?」

 モニターの中央にウィンドウが開いて、ピンクツインテールの少女が映し出される。

 彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見て、言った。

『ボク達を信じて。ただ、それだけでいい』

 そこには戦いによる恐怖など無く。穏やかで、柔らかな微笑み。彼女は小首を傾げながら、

『あのね、北斗くん。ボク達はもう、十分に助けて貰ったよ。博士に無理矢理押し付けられたのに、見捨てないで、とっても優しくしてくれて、一生懸命、鍛えてくれて。ボク、この二ヶ月間、とっても楽しかった。北斗くんからは、沢山、沢山、色んなものを貰ったよ。だから、もういいんだ。何もしてくれなくていい。ただ、信じて。ボク達を信じて。それだけで、ボクは……ボク達は戦えるから!』

「サヤ……!」

『うおぉぉぉ──ッ!』

 彼女は吼えた。両手から通常の何倍の長さもあるファイヤーブレードを展開し、ヴァルキリーミストリアに突撃して行く。

『そこを退け、ピンクツインテール!』

 京極は四体の幻影を展開。サヤと交戦を開始する。

 炎の双剣が幻影を斬り裂き、幻影がピンク色の装甲を斬り裂く。サヤの攻撃は、ミストリアに当たらない。それでも、一歩も退くこと無く、片っ端から幻影を打ち消して行く。

『しつこい! そんな力任せの攻撃で!』

『北斗くんの所へは、行かせない!』

『馬鹿が! 言ったはずだ、ミストリアのハートドライブ属性である「幻」は──』

 はっとなって、俺は背後を振り返る。そこには、忍者刀を振り下ろさんと構える幻影の姿が。

『実体から半径一キロ以内ならば、どこにでも幻影を出現させられるんだよッ! 今度こそ貰った!』

『ミカちゃん!』

 サヤが叫ぶ。その声に応えるようにミカの片手に稲妻が走り、

『……にゃあぁぁぁ──ッ!』

 背後のミストリアに向かって振り抜き、幻影を両断する。

「ミカ、お前……!」

 全身、ボロボロなのに。AIにだって、ノイズが走っているのに。

『なっ……! たかだか一体の攻撃を防いだくらいで!』

 京極も負けじと叫ぶ。ミカの四方を取り囲むように、四体の幻影が出現。間髪入れず、忍者刀を振り下ろす。

「くっ!?」

 俺は操縦桿を握り直し、反射的にガードしようと構えるが、

『ナミちゃんッ! お願い、北斗くんとミカちゃんを守って!』

『……言われずとも……アイス、ウォォォ──ルッ!』

 真横から凛とした声が上がる。

 ミカの周囲に幾つもの分厚い氷の壁が出来、忍者刀の斬撃を防御した。

 見れば、うつ伏せに倒れているライトブルーポニーテールの機体が、片手で起き上がろうとしている。

「ナミ……!」

『ミカへの攻撃は、我が全て防ぎ切ってみせる……! だから、サヤ……お前は、目の前のミストリアに集中しろ!』

 彼女は顔を上げ、サヤに向かって言う。

 サヤは頷き、

『任せて! だあぁぁぁ──ッ!』

 再び、ヴァルキリーミストリアに突っ込む。

『おのれ……不良品共がぁッ!』

 怒鳴り声を上げ、京極は応戦。幻影四体を呼び戻し、サヤと激突する。幻影と実体交換を駆使し、サヤを翻弄しながら、

『いいだろう! そこまで僕の邪魔をするなら、ピンクツインテール……先に貴様を倒す! 貴様が居なくなれば、残るのはまともに動けない二機だけ! 決着したも同然だ!』

『そうだよ……ボクが相手だ、ミストリアッ!』

 サヤが二本のファイヤーブレードを振るう。

 ヴァルキリーミストリアが五方向から迫り来る。サヤはファイヤーブレードにエネルギーを注ぎ続け、ひたすらに刀身を伸ばす。リーチを長くする為だ。

 そして、近付かれる前にミストリアの幻影を斬る。両断する。薙ぎ払う。

 特別剣技の心得があるでは無いサヤの立ち回りは無茶苦茶で、がむしゃらだ。しかし、それ故に、ヴァルキリーミストリアとの戦う姿は、壮絶な光景となって、氷の壁の隙間から、俺の瞳に映し出される。

 京極の方が技量で上回り、サヤは度々隙を突かれ、ボディーに斬撃を喰らって行く。コクピットのモニターに表示される彼女の損傷率は少しずつ上昇し、三十二パーセントに到達する。

 京極が言う。

『もういい加減、諦めたらどうだピンクツインテールッ!』

 その頃には、サヤのファイヤーブレードは大分短くなっていた。足下もふらつき、肩が大きく上下している。ハートドライブを無理に稼働させ過ぎたのだ。

『諦めない……!』

『そうか。ならば、仕方がない……沈め!』

 五体のヴァルキリーミストリアが一斉に飛び掛かる。

 俺は思わず、「サヤ!」と叫んでしまうが、


『絶対に……諦めなぁぁぁ──いッ!』


 次の瞬間、サヤの全身から炎が巻き上がり、ファイヤーブレードが一気に肥大化。とっさにブースターで飛び退いた実体を除く四体の幻影が、斬り裂かれ消滅する。

『何だと!? 何が起こっている!?』

 驚愕の声を上げる京極。

 驚いたのは、サヤ本人も同じようで、自身のボディーを見やりながら、

『何だこれ……全身から力が湧き上がって来る……!』

 コクピット内に、ミカの声が響く。

『まさか……あれ……さーやんの概念効力やろか……?』

「概念効力だって……!?」

 俺が言うと、横でナミが身体を起き上がらせて、口を開く。

『さながら……「火事場の馬鹿力」と言ったところか』

 京極もサヤの力が何なのか、思い至ったらしく、

『概念効力を発言させたというのか……この土壇場で……!? しかもハートドライブ出力を上昇させる能力だと……!? ふざけるなよッ!』

 忍者刀を振り、ファイティングポーズを取るミストリア。

 サヤはファイヤーブレードを消し、代わりに片手を大きく引く。握り拳を作り、足下から炎が逆巻く。

『これなら……行ける!』

 炎はピンクのボディーを伝い、拳の一点へと集中して行く。

 それは、彼女の必殺技『ラブファイヤーパンチ』の構えだった。

 ただし、見て分かる程に今までとエネルギー量が違う。概念効力を発動させた彼女の拳は、押さえ切れないエネルギーが荒ぶり、その表面で太陽のプロミネンスにも似た現象を発生させている。

『くっ……だが、幾らハートドライブ出力が上昇したところで、攻撃が当たらなければ、意味は無い!』

 ヴァルキリーミストリアが五体に分身、サヤを包囲する。

『その必殺技を使う以上、カウンターを決めるつもりだろうが、ミストリアの必殺技「百花繚乱」は、それを防ぐ為の奥義! 貴様の攻撃は、絶対に当たらない! ミスト!』

『はい、マスター。参ります』

 五体のミストリアが全く同じタイミングで加速、一瞬で距離を詰める。 

『必殺奥義! 百花繚乱ッ!』

 一斉に迫り来る刃。しかしサヤは、回避行動を取らず、それを真っ正面から迎え撃つ。

『攻撃が当たらないなら、ボクは──』

 彼女は思いきり拳を振るった。

『別のところに当てるだけだッ!』

 真下のコンクリートの地面に向けて。

 大爆発が起こった。炎が柱となって天に伸び、サヤとミストリア五体を飲み込んだ。伸び過ぎた炎柱が、演習場の防護フィールドに突き刺さり、耐え切れずスパークを起こし、ついにはフィールドが砕け散る。凄まじい爆風が、その熱気で、ナミの作り出した氷の壁を溶かす。

 やがて、炎柱が消失し、爆風も収まる。爆心地には半径百メートル程のクレーターが出来上がっていた。

 果たして、サヤとミストリアは──

 両機とも立っていた。サヤもミストリアもボロボロになって、それでもまだ、立っていた。

『ぐっ……!』

 各部の破損個所からスパークを起こし、呻くサヤ。ツインテールバインダーの片方は破壊され、複数の装甲が剥がれ落ち、モニター上のデータが示すその損傷率は、なんと六十四パーセントにまで達している。

 一方のミストリアは、サヤよりは軽傷だが、やはりふらついている。

『ミ、ミスト……損傷率は……?』

『はい……とっさにバリアーを展開しましたが……くっ……四十二パーセントです……!』

 そんな馬鹿な、と俺は叫びたくなった。傍目に見ればもう、互いの損傷度合いは模擬戦の範疇を超えている。しかし、ルール上はまだ、決着になっていない。

 サヤはまた動き出す。概念効力は持続していないらしく、構える拳には輝きが灯っていない。だが、一歩一歩、おぼつかない足取りでミストリアに向かって行く。

 そんな彼女の姿に、俺は居ても立ってもいられなかった。

 ──あいつに、勝たせてやりたい。

 素直にそう思った。

 このまま見ているだけなんて出来ない。

「考えろ……!」

 考えろ、俺。何か……何か無いか? 今の俺にも出来ること。

 その時、隣のライトブルーポニーテールの機体を見て、はっとなる。

「ナミッ!」

 俺は彼女に呼び掛けた。

『な、何だ!? どうした、北斗?』

「お前、まだ動けるか?」

『……! ああ、我を誰だと思っている!』

 何かを感じ取ったのか、力強く頷くナミ。

 俺は自らの願いを口にした。

「頼む! 俺を……サヤのもとへ連れて行ってくれ!」




 意識が……朦朧とする。視界が、霞む。

 それでもボクは、歩く。走れば転んでしまいそうだったけれど、少しずつ足を早めて行く。

 まだ決着はついていなかった。だから、ここで倒れるわけには行かない。

 概念効力は、先程の一撃による反動か発動せず、もはや何か技を放てるだけのエネルギーは残っていない。

 ボクは拳を握り締める。残っている武器は、これだけだ。

 あとは、一人の少年がくれた、たった一つの言葉。

 ――一緒に、頑張ろう。

 それさえ胸にあれば、ボクはまだ戦える。

 たとえ、彼が乗っていなくとも、すぐ近くにいなくとも。君が頑張ろうって言ってくれたから、ボクは……。

『まさか自身を巻き込んでまで、こちらにダメージを与えてくるとは……! ピンクツインテールッ!』

 オールバックが叫び、ヴァルキリーミストリアが三体に分身する。

 先程の一撃でダメージを受けたのは向こうも同じらしく、分身の数は減り、動きはいささか鈍い。

「ミスト……リアァァァッ!」

 ボクは今出来る全力の走りで、ミストリアに突撃する。拳を引き、真ん中の一体に狙いを定める。

 AIに度々ノイズが入って、拳に残存エネルギーが上手く集まらない。

『どうやらもう、限界らしいな! だったら大人しく、沈んでろぉぉぉッ!』

 ミストリア三体が、ボクを引き付けてから、同時に反撃に出る。

 襲い来る方向は、左斜め前、真正面、右斜め前。

 ボクは迷わず、真正面の一体に狙いを定める。今はもう、勢いのまま攻撃する以外に選択肢が無かった。

 当たれ。頼むから、当たって。

 後はもう、願うことだけ。

 けれど、その時。

『サヤ!』

 彼の声がした。

 すぐ近く。思わず、そちらを向く。

 ライトブルーの機体――ナミちゃんが、ポニーテールブースターを使い、高速で突っ込んで来た。

 構えるのは左の掌。青白く発光したそれで、ミストリアの一体に触れる。

『アクトフリィィィ――ズッ!』

 変化が起こった。ミストリアの分身二体が消滅したのだ。

 残った真正面のミストリアから、驚愕の声が上がる。

『何ッ!?』

 そして、彼――北斗くんが大声で叫ぶ。

『サヤ、行っけぇぇぇ――ッ!』

 その瞬間、全身から力が湧き上がるのを感じた。

 概念効力とか、そんなのじゃない。理屈は関係ない。

 ただ、彼が応援してくれるから。

 ボクは右足を踏み込む。ミストリアは目の前。

 右拳を固く握り締める。残存エネルギーの全てをそこに込める。

 ミストリアの顔面に向けて、


「うおあぁああぁあぁああああぁぁああぁあぁああ――ッ!」


 全力で拳を振り抜いた。




 模擬戦が終わった後。

 俺はナミとミカを整備班に任せて、一人の少女の元へと急いだ。

 演習場の中央、地面に叩き込んだ必殺技で出来た、半径百メートル程のクレーターの中で、ピンク髪ツインテールの少女が瞳を閉じ、横たわっている。ナノマシン欠損が激しい為に、AI停止と共にセーフティーモードが起動して、人間の姿に戻ったのだ。

 俺は彼女に駆け寄ると、その華奢な身体を、そっと抱き起こす。

 すると、俺が声を掛ける前に、彼女が薄っすらと瞳を開ける。

「んう……」

「沙耶! 大丈夫か!?」

 彼女はゆっくりと俺を見て、

「北斗……くん……?」

「あんま喋るな! ちょっと待ってろ。すぐに整備班が来るから」

「ねぇ……模擬戦は……勝負は……どうなったの? ボク達……勝ったの……? それとも……負けたの……?」

「勝ったよ……! 勝ったんだよ。凄ぇよ。お前ら、勝ったんだ……!」

 果たして、サヤ渾身のパンチは、反応の遅れたミストリアの顔面に炸裂。アイカメラを破損させ、二十メートル程吹っ飛ばして、そして。

 俺は離れた所にいる、オールバックの男を見やる。目が合って、「くっ……!」と悔しそうな顔をする彼の腕の中には、AIを停止させて眠る、メイドの少女の姿があった。

「そっか……よかったぁ……」

 と微笑む沙耶。

「これで……やっと一つ……北斗くんの役に……立てたね……」

「え?」

「この二ヶ月……ボク達のせいで……北斗くんは凄いパイロットなのに……皆から馬鹿にされて……。ボクは……それが苦しくて……申し訳なくて……。でも……これで……スコア一位を破ったんだもん……北斗くんはまた……自称じゃなくて……天才パイロットに……返り咲けるよね……?」

「まさかお前……そんなことの為に……?」

 こんな……宇宙怪獣に負けた時より、ボロボロになって。

 必殺技を足元に撃って、自分ごと敵を敵を吹っ飛ばすなんて無茶をやって。

 たかだか模擬戦なのに。

 俺は彼女を抱き寄せた。

 背中に手を回して、ぎゅっと力を込める。

「馬鹿じゃないのか……お前……!」

「北斗……くん……? どうしたの……? もしかして……泣いて……るの……?」

「泣いてねぇよ! 泣くわけないだろ! この俺が、こんなことくらいで!」

「ごめん……ごめんね……北斗くん……泣かないで……ボク……大丈夫だから……」

「うるさい! 喋るなって言ったろ! お前が思ってるよりずっと、損傷酷いんだからな!」

「うん……ごめん……ね……」

「何で謝る! ワケ分からん!」

 ごめんね、ごめんねと繰り返すもんだから、俺は沙耶を抱き締めて、彼女の顎を肩に乗せて、「いいから休め」とピンクの髪を撫で続けるしかない。

 やがて、疲れたのか、耳元にスースーと彼女の寝息が聞こえて来る。

 俺はもう一度、ちゃんと彼女を抱き締めて、言った。

「……ありがとう、沙耶」

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