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気だるげ男子のいたわりごはん   作者: 水縞しま
1.たけのこと鶏肉の煮物
2/50

料理代行サービス

 今日は待ちに待った金曜日。一週間、仕事がんばった自分へのご褒美がある日。


「おいしいごはんが……私の帰りを待ってるっ……!」


 一人暮らしをしているマンションには、今頃おいしいごはんが用意されているはずなのだ。いつものように和食をリクエストしたおいた。大好きな煮物と、ほっこり沁みるお味噌汁と、あとは副菜が二品ほど。


 すぐに食べられるように、お皿に盛ってテーブルに準備してくれている。食べたあとは後片付けをする必要もない。ささっとシャワーを浴びて、満腹のお腹をさすりながらぬくぬくのベッドで眠りにつく……。


 想像するだけで最高に幸せな気持ちになった。心なしか足取りも軽くなる。


 おいしいごはんを作ってくれるのは、西依(にしより)さんという五十代半ばの女性だ。手際がよくていつも笑顔で、顔を合わせると「お疲れさま」とか「たくさん食べて栄養をとってね」とか、労わりの声をかけてくれる。


 笑顔が標準装備すぎて、彼女の胸元にある名札の「ニシヨリ」という文字さえ、にっこりと笑っているような気がしてくる。腕は確かだし、愛想がよくて、気遣いまでしてくれる。


 初めて「お料理代行サービス・きっちんすたっふ」を利用したときから指名を続けている、私にとって最高のスタッフさんだった。


 西依さんに来てもらうのは週に一度。それが今日なのだ。


 料理代行のサービスを利用するようになったのは今から半年ほど前。繁忙期でへとへとになっていた頃だった。


 もともと料理は苦手で、忙しさを理由にコンビニ通いが続いていた。コンビニとは不思議なもので、慣れてくると何を食べても味に飽きが来る。


 おにぎり、お弁当、パスタ、サラダ……。


 種類は違うし、味だって甘辛かったり、酸っぱかったり、しょっぱかったりするのだけど、なぜか頻繁に食べていると「味に飽きたな」と感じる。


 外食に行っても似たような現象が起きる。


 そして総じて味が濃い。私は基本的にあっさり味が好きだ。特にアレルギーはないし、食いしん坊なので何でもおいしくいただくけれど、好みでいうとあっさり派だ。


 西依さんは、あっさり味が得意なスタッフさんだった。長年、主婦として家族のために食事を提供してきたスキルをいかし、きっちんすたっふで働きはじめたという。


『いつも私みたいなおばちゃんを指名してくれてありがとうね。でも、遠慮せずに他のスタッフを指名していいのよ。洋食とか、イタリアンとか、あとはタイ料理とか、いろいろ得意なスタッフがいるからね』


 いつだったか、そんな風に言っていた。西依さんは謙虚でもある。素晴らしいひとだ。けど、洋食もイタリアンも、タイ料理だって、今は簡単に外食でお目にかかれる。


 ほっこりする家庭料理のほうが難しいのだ。貴重で大切な私のスタッフさん。


 利用するうちに、きっちんすたっふがしっかりした会社だということも分かった。予約時や利用前後のフォローも完璧だし、スタッフへの指導も怠らない。


 それならばと、数ヶ月前から鍵も預けるようになった。「預かり証」なるものを発行され、社内管理システムで誰が持ち出しているのか、いま鍵がどこにあるか、常に監視されているのだとか。


 おかげで、帰宅後すぐにごはんにありつける。


 マンションに辿り着き、エントランスを足早に駆ける。死にそうなくらい体が重かったのが嘘みたいだ。はやく、はやく、と思いながらエレベーターの到着を待ち、うきうきしながら自分の階に着くのを待った。


 ダッシュで部屋の前に行って鍵を差し込む。そして、勢いよくドアを開けた。


「西依さん、ただいま~~! いつもありがとうございます! ごはん出来てま、す……か……」


 いつも笑顔で迎えてくれるはずの彼女は、そこにいなかった。代わりに、やたら見目麗しい青年が立っていた。

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