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気だるげ男子のいたわりごはん   作者: 水縞しま
3.お出汁が香る和風あんかけオムライス
13/50

お節介気質

 残業なしで仕事を終えた日。めずらしいこともあるなとうきうきしながら帰り支度を整えた。せめて繁忙期までは、こんな風に定時退社したい。


 意気揚々と事務所を出て、通路の角を曲がったところで女性職員とぶつかった。


「きゃっ」


「わ、ごめん! 大丈夫?」


 慌てて声をかける。相手はすごく小柄で、今にも折れそうなくらい華奢な子だった。気づけば、長身の私が抱きとめる形になっていた。


「だ、だいじょうぶです」


 おどおどしながら、腕の中の女の子が答える。


 彼女は、二ヶ月ほど前に入社したアルバイト勤務の子だ。


 在庫管理を担当しているなかの一人で、名前は佐々木藍里(ささきあいり)。おそらく二十歳になるかならないかだったはず。


 直接関わったことはないけれど、控えめで大人しそうなタイプだなと思っていた。


「佐々木さんも帰り?」


「は、はい」


 消え入りそうな声で藍里が答える。


「駅まで行く? 一緒に行こっか」


 気を使わせるかなと思ったけど、同じ帰り道なのに離れて歩くのも変だし。藍里は、小さくうなずきながらちょこちょことついてきた。


 ちょっと早足なその歩き方がかわいいなと横目で見ながら思っていたけど、はっと気づいた。小柄だから歩幅が小さいのだ。私は慌ててゆっくりめに歩いた。 


 そうすると、彼女の歩き方が普通になった。


 藍里を見ていると、私のお節介気質がむずむずしてくる。「仕事はもう慣れた?」「困ってることない?」「分からないことがあればいつでも聞いてね」等々。


 めちゃくちゃ言いたい。けど、あまり会話が得意ではないようなので我慢した。直属の上司ではないのだし、あまり出しゃばってはいけない。


 我慢、我慢。そう思って歩いているうちに駅に着いた。


 路線が違う彼女とは、改札のところで別れた。


「おつかれさま。また明日ね」


 手を振ると、藍里はぺこっと頭を下げた。


 湧き上がる「面倒を見たい、構いたい」欲求をなんとか抑え込み、私はふうっと息を吐いた。


 私はかなりのお節介気質だ。


 物心ついたころから、弟妹たちの面倒を見てきたせいだと思う。両親が離婚して母子家庭となり、働き手となった母親は不在がちになった。


 仕事で疲れ切った母親にかわって積極的に家事を担当し、弟妹たちの世話を焼いた。


 使命感というのだろうか。自分より小さい弟妹を、私が守らなければ。私は年上で「おねえちゃん」なのだから、しっかりしないといけない。


 強制されたわけではないけれど、いつの間にかそう思うようになっていた。そのせいで、特に自分より年下の子を見ると世話を焼きたい衝動に駆られてしまう。


 ちなみに、家事のなかでは洗濯が好きだった。


 洗うと良いにおいがするし、乾いてさらさらになった衣類を触るのは心地いい。タオルがふかふかになるとうれしいし、満足感があった。


 掃除は、あまり好きではなかった。弟妹たちはわりとわんぱくだったので、片付けてもすぐに散らかってしまうのだ。それでも、毎日せっせと家中をきれいにしていた。


 いちばん苦手だったのは料理だ。ふわとろのオムレツを作ろうとしても、もそもそした大きなそぼろ状態になる。味付けもなんだか決まらない。弟妹たちは文句を言わずに食べてくれたけど、味はいまいちだなと思っていたはず。


 それに比べて母は料理上手だった。薄味でもおいしく感じられて、私は母の作る和食が大好きだった。


 休日には母がよく煮物を作ってくれた。ことこと時間をかけて煮込む料理は、気持ちに余裕があって初めて作れるのかもしれない。


 週に一度、母が心を込めてこしらえてくれた和食は何よりもおいしくて、それを口にする時間は幸せなひとときだった。「おねえちゃん」としてがんばらなくて良い日。


 私が子供に戻れる日だった。


 大人になった今でも、ご褒美ごはんといえば和食だなと思うのは、きっとこの頃の記憶のせいなのだろう。


 得意と苦手な家事はあったけれど、それなりにこなしていた子供時代のほうがしっかりしていたかも……と、電車に揺られながら自嘲した。


 掃除は、ささっと片付けをして、あとはロボット掃除機におねがいをしているのが現状だ。料理は外食に頼ったり、きっちんすたっふにお願いしたり。


 もし、自分にもお節介を焼けたら、めちゃくちゃきれいな部屋になるかもしれない。


 料理だって、大人になった今なら上手にできるかもしれない。そんなことを思いながら、私は流れていく車窓の景色を眺めていた。

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