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気だるげ男子のいたわりごはん   作者: 水縞しま
1.たけのこと鶏肉の煮物
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働く女子の帰り道

「あと、もう少しで家に着く……」


 仕事で疲弊した重い体を引きずるようにして、私、清家杏(せいけあん)は古い駅舎の階段を一段ずつ上った。体が重すぎて、手すりを握る手にも力が入る。


 線路をまたぐようにしてかけられた通路をふらふらと歩く。通路の端まで行くと、今度は階段を一段ずつ下りていく。駅の構造上、仕方がないとはいえこの上り下りは仕事終わりの体にはこたえる。


 若干、足元がおぼつかないのはエネルギー不足のせいだ。


 昼食を食べる暇がなかった。一日のスケジュールを確認して、スタッフに仕事を割り振って、会議をハシゴして。その合間に事務仕事を片付けた。


 気づけば、昼休みの時間はとっくに終わっていた。スタッフからお土産でもらったクッキーをミネラルウォーターで流し込みながら、「せめてコーヒーが飲みたいなぁ……」と、今から数時間前、夕方頃の私は思っていたのだった。


 駅の改札を出ると生ぬるい風を感じた。


 少し汗ばんだ肌に髪が張り付いていることに気づき、手櫛で髪を整える。前髪が伸びてうっとうしい。最近は美容院にも足が遠のいている。休日はつい、部屋でごろごろしてしまうのだ。


 黒髪ロングのヘアスタイルには正直飽きている。明るい色に染めたいなと思ったりもするのだけど、つい仕事にかまけて先延ばしになってしまう。私は後ろの髪と前髪をいっしょにして頭の上で束ね、ぐるぐると巻いて簡易なお団子ヘアを完成させた。


 そろそろ季節は夏の盛りになろうとしている。夏は唯一の閑散期だ。それなのに、こんなに忙しいなんて。数ヶ月先の繁忙期のことを思うと、ドッと疲れが増した。


 私が勤務しているのはペットフードメーカーで、主に犬と猫のおやつをメインに製造している。素材だけを使った「無添加の安心安全のおやつ」がウリなのだ。昨今のペットブームの影響もあるのだろう。小さな会社だけど、毎年順調に業績を伸ばしている。


 こじんまりとした会社ゆえ、何事にも対応できる社員が重宝される。私はもともと事務職だったのだけど、商品の発送作業や製造業務のヘルプを頼まれるようになり、いつの間にか社長の秘書的な仕事も抱えていた。29歳の現在、自分の名刺には役職が付いている。


 要は都合の良い人材なのだ。器用貧乏、という哀しい文字が頭に浮かぶ。


『ぐるる、ぐぅーーーーーー!!』


 お腹が鳴った。


 二十代ぎりぎりだけど女子にしては、威勢の良過ぎる音だ。私は納期やら任されている仕事のアレコレやらをむりやり頭の中から追い出した。そうして、これから起こる幸せでおいしい時間のことに思いを馳せた。

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