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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

デスデンワ

作者: 真九朗

【電話の声】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと2分32秒です」


始まりは一件の非通知電話だった。


【横井厚司】

「…………は?」


【電話の声】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと2分11秒です」


音声ガイドや留守電アナウンスのような、

無機質で落ち着いた女の声が繰り返される。


【横井厚司】

「…………」


【電話の声】

「この度は」


ピッ。


馬鹿馬鹿しい。そう心中で呟き、

彼は通話を切ってスマホ画面を切り替えた。


【横井厚司】

「流行ってんのかね、変な詐欺」


就活中だからやむを得ないとはいえ、

不気味な非通知を取ったことを後悔する。


この日は何件も面接をこなし疲れていた。

詐欺電話などに構っていられなかった。


夜の雑踏の中を帰路についていた青年、

横井厚司22歳。スーツの似合う男。


その頭が公衆の面前で唐突に爆ぜたのは、

非通知電話が来て2分と少しのことだった。


高架下で崩れ落ちた首なし死体は、

血塗れのスマホを最後まで握りしめていた。



~~~~~





【鶴来結衣】

「“デスデンワ”?」


【鶴来太一】

「ああ。結衣は聞いたことないのかw」


東京に実家を構える中流家庭、

鶴来つるぎ家の晩餐中の食卓。


黒髪ショートに眼鏡で大人しげな結衣ゆいと、

日焼けした金髪でチャラそうな太一たいち


父が多忙で家にいないことが多い中、

冷凍パスタを兄妹二人で囲み雑談に興じる。


【鶴来太一】

「ニュースでやってるだろ?

謎の非通知電話と恐怖の爆死事件w」


最初の犠牲者・横井厚司の爆死を皮切りに、

謎の電話と怪死は東京中に広がっていった。


『この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと○分△秒です』


謎の非通知電話はこれしか言わない。

冗談みたいな音声ガイドの発信源も不明。


掛かってくる時間帯も掛かってくる相手も

何ら規則性はない、唐突に降って湧く不幸。


だがその非通知を取ってしまったが最後、

宣告された余命の後の死は避けられない。


【鶴来太一】

「東京の若者はあれをデスデンワって読んでてさ。

ネットじゃ今みんな大喜利に夢中だw」


【鶴来結衣】

「人が死んでるんだよ? 面白がるだなんて…」


【鶴来太一】

「面白いもんは面白いから仕方ねーじゃん。

デスデンワなんて呼び方考えた奴が悪いよw」


【鶴来太一】

「軽率に非通知取らなきゃ危険はないしなw

高校では噂になったりしてないのか?」


【鶴来結衣】

「私は…学校行っても話す友達いないし…」


【鶴来太一】

「ははっ、結衣は陰キャだもんな。

引っ込み思案は父さんに似たのかな」


【鶴来結衣】

「放っておいてよ…

お兄ちゃんみたいなヤリチンとは違うの」


【鶴来太一】

「ヤリチンとは人聞きが悪いな。

同時に5人の女と付き合ってるだけだからw」


【鶴来結衣】

「開き直るの信じらんない…女の敵…」


【鶴来太一】

「そうやって俺とは自然に話せるのになぁ。

いつまでもブラコンじゃ彼氏できないぞ?」


【鶴来結衣】

「うるさい…ブラコンじゃないし…」


むくれる妹に兄が笑いかけたその時、

兄のスマホの着信音が大きく鳴り出した。


【鶴来太一】

「ほいほいっと……お、陽子か」


【鶴来結衣】

「何人目の彼女?」


【鶴来太一】

「最近は連絡なかったけど良い女さ。

……もしもし」


【陽子?】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと85分29秒です」


【鶴来太一】

「…………は?」


【陽子?】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと85分3秒です」


太一の血の気が一瞬にして引いていく。

漏れ出た声を聞き、結衣も顔面蒼白だ。


【陽子?】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと84分31秒です」


聞こえてくるのは陽子の声ではない。

無機質なガイド音声が繰り返される。


太一が愕然と通話画面に視線を下ろす。

何度見ても非通知ではない。陽子の番号。


【鶴来結衣】

「なんで……だって……

来るのは非通知からのはずじゃ……」


【陽子?】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであと83」


【鶴来太一】

「…ッ!」


太一は通話を切り、決然とした表情になり、

玄関へと足早に歩を進め出す。


【鶴来結衣】

「どこ行くの、お兄ちゃん!」


【鶴来太一】

「陽子が無事か確かめに行くしかないだろ!

お前はついてくるな! ここにいろ!」


【鶴来結衣】

「ま、待ってよ! 待って、ちょっと待って!」


【鶴来結衣】

「あ……」


止めるのを聞きもせず兄が外を走り出す。

結衣は呆然と立ち尽くすしかなかった。


それから数時間後、陽子の家にて、

太一と陽子の怪死体が発見された。


頭が爆ぜて失われているのは二人とも同じ、

首から下は抱き合うように斃れていた。



~~~~~



鶴来太一の葬式から数ヶ月後……

都内某所の喫茶店にて。


上品そうな服装の父・裕次郎ゆうじろうと共に、

結衣は沈痛な面持ちで向かい合っていた。


【赤舐目獅子呼】

「それで?」


【鶴来結衣】

「え…あ、はい」


【赤舐目獅子呼】

「早くしてくれない?

話の続きは?」


【鶴来結衣】

「あ…えっと…」


コーヒーに手をつけていない父娘を尻目に、

パフェをドカ食いする冷たい眼の少女と…。


赤舐目獅子呼あかなめししこ

自称17歳。自称忍者一族・赤舐目家の娘。


黒メッシュ入り赤髪ロングヘアの長身、

黒セーラー服に長手袋とロングブーツ。


あまりにも実在感のないその佇まいに、

結衣は言葉に困ってしまう。


【鶴来裕次郎】

「…取ってしまったんです。この子も」


目を真っ赤に泣き腫らした中年の男が、

結衣の隣から声を絞り出す。


【鶴来裕次郎】

「死んだ兄…太一の番号から掛かってきた、

例の余命宣告の電話を……」


【赤舐目獅子呼】

「放っておけば死ぬわね。その子」


【鶴来結衣】

「…………」


【鶴来裕次郎】

「どうして……」


ポケットからハンカチを取り出し、

声を震わせて目元を拭う裕次郎。


【鶴来裕次郎】

「兄さんの事件で分かってただろう…

その電話は絶対取っちゃいけないって…」


【鶴来結衣】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「娘さんは悪くないと思うけど?」


【鶴来結衣】

「え?」


【赤舐目獅子呼】

「死んだ兄を通じて妖魔に見入られた以上、

遅かれ早かれちょっかいを出される」


【赤舐目獅子呼】

「電話を取らなくてもどの道狙われてたわ。

人間が神秘の誘惑に抗うのは困難だし」


【赤舐目獅子呼】

「むしろ、私に相談する時間があるからには

猶予時間の長い乱数を引けたということ」


【赤舐目獅子呼】

「不幸中の幸運じゃないかしら?

自分を責めても良いことは無いわよ」


【鶴来裕次郎】

「…………」


こともなげに言い放ち、

長い舌で口元のクリームを拭う少女。


【赤舐目獅子呼】

「それで?

娘さんが死ぬまで、あと何日何時間何分?」


【鶴来裕次郎】

「…分刻みで正確には分かりません。

でも、およそあと3日と8時間半らしく…」


【赤舐目獅子呼】

「崖っぷちね」


【鶴来裕次郎】

「お願いです、赤舐目さん!」


テーブルに両手をつき、頭を垂れ、

父は必死の形相で頼み込む。


【鶴来裕次郎】

「どうか娘を助けてください……!

貴女しか頼める人はいないんです…!」


【鶴来裕次郎】

「この子の母親…私の妻は早くに亡くなり、

息子まであんなことになり……」


【鶴来裕次郎】

「この上、この子まで失うことになったら

私はもう生きていけません……!」


【赤舐目獅子呼】

「妖魔や忍者の知識がないのに、

どうして私に連絡取ろうと思ったの?」


【鶴来裕次郎】

「それは…知人の伝で紹介されて…」


【赤舐目獅子呼】

「残る時間が少なすぎるあまり、

藁にもすがる気持ちといったところ?」


【鶴来裕次郎】

「…その通りです。

正直、私に貴女のことは何もわからない」


【鶴来裕次郎】

「でも貴女の言葉は信頼できる気がします。

どうか、娘を救ってください…!」


【赤舐目獅子呼】

「いいわ。その依頼、受けましょう。

でも、報酬はキチンと頂くわよ」


【鶴来裕次郎】

「ありがとうございます…!

娘が助かるならいくらでも払います!」


【赤舐目獅子呼】

「あ、お金はいいの。

その子に体で払ってもらうことにするから」


【鶴来結衣】

「え?」


【鶴来裕次郎】

「は?」


【赤舐目獅子呼】

「何か変な想像してるの?

やーね大人は。すぐ変な意味に捉えて」


【赤舐目獅子呼】

「ちょっと手を出して欲しいだけよ。

指を舐めさせてくれればいいわ」


【赤舐目獅子呼】

「あ、3日後の例の時間までずっとよ。

今日から私はあなた達の家に泊まるわ」


【赤舐目獅子呼】

「その間、私がこの子に求めたら

いつでも指を舐めさせてくれること」


【赤舐目獅子呼】

「あ、その間はご飯も奢ってほしいわね。

私は悪食なの。満足させてよね」


【鶴来結衣】

「…………」


【鶴来裕次郎】

「……いや待て!

やっぱり変な意味だろう!」


【赤舐目獅子呼】

「その子を救う仕事に必要なんだけど?

欲望だけで言ってるわけじゃないわ」


【鶴来裕次郎】

「“だけ”とはどういう意味だ!?」


【赤舐目獅子呼】

「むしろ指の垢だけで済ませる分、

まけてあげてる方なのだけれど」


【鶴来結衣】

「……いいよ、お父さん。

私、この人なら信じられると思う」 


【鶴来裕次郎】

「ゆ、結衣……しかし……」


【鶴来結衣】

「それに私…シシコさんのことが知りたい。

シシコさんとなら友達になれる気がするの」


【赤舐目獅子呼】

「あら嬉しい。

そんな言葉を人間から聞いたのは初めてよ」 


【鶴来裕次郎】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「どのみちあなた達には

私を頼る以外に助かる術はない」


【赤舐目獅子呼】

「安心して、お父様。

貴方の娘は絶対に死なせないわ」



~~~~~



たった三日間だったが、

その三日間は結衣にとって特別な時間となった。


【鶴来結衣】

「んっ……!」


【赤舐目獅子呼】

「ごちそうさま」


手の指を10本とも丁寧に舐められるたび、

結衣の頬は紅潮し、肌は汗ばんでいた。


【鶴来結衣】

「……もう終わりなの?」


【赤舐目獅子呼】

「私としては有り難いけど……。

そんな気持ちいい? 新鮮な反応ね」


【鶴来結衣】

「嫌なこと、皆忘れられる気がして」


獅子呼による度重なる結衣の指舐めは、

身を守る妖力を結衣に与えるのに必要な儀式。


これでデスデンワの妖力に対抗できる。

そんなこんなで、時間は過ぎていく。


【鶴来結衣】

「シシコちゃん…

秋にアイスそんなに食べて大丈夫なの?」


【赤舐目獅子呼】

「こうしてないと舌が暇なのよ。

胃には自信があるから大丈夫」


【鶴来結衣】

「私のお小遣いが大丈夫じゃないんだけど」


【赤舐目獅子呼】

「だったらお父様にお小遣い貰って。

そもそも私のアイス代込みの報酬体系よ」


【鶴来結衣】

「シシコちゃん、ダメ人間の才能あるね……」


【赤舐目獅子呼】

「ダメ人間じゃないように見えた?」


【鶴来結衣】

「ぷっ!

ぷふふ……」


【赤舐目獅子呼】

「何がおかしいのかしら」


【鶴来結衣】

「ううん……

シシコちゃんのこと、好きだなぁって」


【赤舐目獅子呼】

「…………」


からかい過ぎたかもしれない…

そう思いながらも、口には出さずにおく。


そして来た。

鶴来結衣が電話で死を宣告された時間が。



~~~~~


【鶴来結衣】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「…………」


宣言された時間を正確に覚えていない中、

二人は結衣の部屋に籠って沈黙していた。


結衣と獅子呼はベッドに並んで腰掛け、

獅子呼が結衣のスマホを持って待機。


父の裕次郎は仕事に出ていて家にいない。

獅子呼が彼にそうするよう指示したのだ。


太一から結衣に標的が移ったように、

今度は裕次郎に移るのを避けるために。


ついさっきまでじゃれ合っていた二人も、

この時ばかりは神経を尖らせている。


【鶴来結衣】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「…………」


【鶴来結衣】

「……もう……過ぎた? 時間……」


【赤舐目獅子呼】

「……!!

来たわ!」


結衣が爆発することなく時間が過ぎる中、

結衣のスマホの着信音が鳴った。


獅子呼が即座にその電話を取った。

聞こえてきたのはガイド音声ではなかった。


【太一の声?】

「この度は当選おめでとうございます!

超豪華景品授与まであとXX分XX秒です」


【鶴来結衣】

「お兄ちゃん!?」


【赤舐目獅子呼】

「ッ!」


スマホに向け身を乗り出しかけた結衣を、

獅子呼が即座に突き飛ばして立ち上がる。


【鶴来結衣】

「わっ!」


【赤舐目獅子呼】

「死者を騙りやがってこのゲスが。

あんまり舐めないで欲しいわね」


獅子呼はそう吐き捨てると、

通話画面に向けて口を大きく開けた。


【鶴来結衣】

「シシコちゃん!?」


【赤舐目獅子呼】

「私ね、他人に舐められるのは嫌いなの。

だからこっちが舐め尽くしてやるわ」


【】

「XxXHKvDJKJXxXXx

xxxXヴXxXFGfXXxヴヴァXァアXxcXX」


【鶴衣結衣】

「ひっ……!」


画面の向こうから絶え間無く聞こえてくる、

黒板を掻くような、声のようで声でない何か。


それを獅子呼は「吸い出して」いた。

自らの舌で、スマホの向こうから。


獅子呼の長い舌がスマホの画面を割り、

その向こうにいる存在を捕らえ、啜る。


【赤舐目獅子呼】

「見ないで! 目閉じて!」


【鶴来結衣】

「っ……」


黒くドロドロとした何かが一瞬見えた。

だが言われた通り、結衣は目を瞑った。


【赤舐目獅子呼】

「ククク……

伝わってくるわ……本体の座標……」


声じゃない声、獅子呼の舌の啜る音、

不敵な笑い混じりの獅子呼の言葉。


目を閉じたまま3分ほど経っただろうか。

たった3分が結衣には永遠にも思えた。


不快な音は聞こえなくなっていた。

部屋の空気も変わっている気がした。


【赤舐目獅子呼】

「もういいわ。目を開けても」


ぱち、と結衣は目を開けた。


舌を仕舞い、ふぅと息を吐く獅子呼。

割れた画面も元通りになった結衣のスマホ。


【赤舐目獅子呼】

「そのスマホ、もう普通に使って大丈夫。

誰の電話を取っても死ぬことはないわ」


【鶴来結衣】

「……………………」


【赤舐目獅子呼】

「ユイ?」


【鶴来結衣】

「……私、助かったの? 本当に?」


【赤舐目獅子呼】

「ええ。もうあなた達家族は狙われない。

私の妖力を家全体に付与しておいたし」


【鶴来結衣】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「じゃ、そういうことだから」


【鶴来結衣】

「え……!」


あっさりと部屋を出ていった獅子呼に、

慌てて追いすがる結衣。


【鶴来結衣】

「ちょ、ちょっと!

どこ行くの、シシコちゃん」


【赤舐目獅子呼】

「どこへも何も、依頼は完了したでしょ。

私がここに居続ける理由はもうないわ」


【鶴来結衣】

「で、でも!

お父さんにまだ完了を伝えてないよ…!」


【赤舐目獅子呼】

「あなたが伝えておいてくれればいいわ。

それに、私にはこれからやることがある」


【鶴来結衣】

「やること?」


【赤舐目獅子呼】

「あの妖魔の本体を狩りに行くわ。

依頼とは別件。放っておけないもの」


【鶴来結衣】

「それって……一人で、

あんな恐ろしいのと戦いに行くってこと?」


【赤舐目獅子呼】

「別に恐ろしくもないわ。慣れてるもの。

報酬はないから損な仕事なのだけどね」


【鶴来結衣】

「…………

……シシコちゃん!」


去ろうとする獅子呼の背中から、

結衣が思いっきり手を回し抱きついた。


【赤舐目獅子呼】

「……何?」


【鶴来結衣】

「一人で行かないでよ……

私もその戦いに連れていって……!」


【赤舐目獅子呼】

「何を言っているの?」


獅子呼が本気で驚く声を聞いたのは、

結衣にとってこの三日間で初めてのことだった。


【赤舐目獅子呼】

「できるわけないじゃない、そんなこと…

あなたのお父様に顔向けできなくなるわ」


【鶴来結衣】

「お父さんの依頼は関係ないよ……!

私自身の意志でついて行きたいの!」


【赤舐目獅子呼】

「見たわよね? 私は化け物なのよ?

本来あなたと交わるべきじゃないの」


【鶴来結衣】

「シシコちゃんは化け物なんかじゃないよ!

ずっと私のこと助けてくれたもん!」


【鶴来結衣】

「私、学校でずっと友達がいなくて……

唯一話せるお兄ちゃんも死んじゃって…」


【鶴来結衣】

「シシコちゃんが初めての友達だったの。

笑って話せて、元気になれる唯一の友達」


【鶴来結衣】

「シシコちゃんが振り回してくれたおかげで

死にそうだった心が何度楽になったか…」


【鶴来結衣】

「危険だってなんだって構わない。

ただ、これでお別れなんて嫌!」


【赤舐目獅子呼】

「…………」


【鶴来結衣】

「シシコちゃんの妖力、私にくれたよね?

だったら多少は身を守れると思う」


【鶴来結衣】

「いざとなったら私を見捨てて構わない。

足手纏いにはならないから」


【赤舐目獅子呼】

「…………」


【赤舐目獅子呼】

「危険だと分かってる電話を取ったって、

そう聞いた時から、感じてはいたけど……」


【赤舐目獅子呼】

「どうも貴女には困った傾向がある……

人より神秘に惹かれてしまう傾向が…」


【鶴来結衣】

「えへへ」


【赤舐目獅子呼】

「…………

……無責任だったかしら……」


【鶴来結衣】

「そうだよ? シシコちゃんには、

私に踏み込んだ責任取ってもらわないと!」


【赤舐目獅子呼】

「………………」


【赤舐目獅子呼】

「はぁ……負けたわ。

この私がこんな小娘にね……」


【赤舐目獅子呼】

「でも本当に何があっても知らないわよ。

私はもう無理にあなたを守ったりしない」


【赤舐目獅子呼】

「それでもいいのね?」


【鶴来結衣】

「もちろん!」 


【赤舐目獅子呼】

「……分かったわ」


【赤舐目獅子呼】

「それじゃ…一緒に行きましょう。

デスデンワとの最後の戦いへ」


【鶴来結衣】

「うんっ!」



~~~~~



それから1か月後……


結衣と獅子呼は鶴来家に帰ってこなかった。


目を真っ赤に泣き腫らした父が何度電話しても、

娘のスマホの番号に繋がることはない。


裕次郎の憔悴は深まっていくばかりだった。

繋がらない電話をかけては、深く息を吐く日々。


……そんなある日のことだった。

獅子呼のスマホの番号から突然、着信があったのは。


【赤舐目獅子呼】

「お父様…」


【鶴来裕次郎】

「無事だったのか!? 結衣はどうした!」


【赤舐目獅子呼】

「ユイは…生きてるわ。

言ったでしょう。貴方の娘は死なせないと」


【鶴来裕次郎】

「……!

結衣……!」


【赤舐目獅子呼】

「でも、それ以上は約束できない。

ごめんなさいね、お父様」


【赤舐目獅子呼】

「貴方の娘はこれからも私が死なせない。

こうなってしまった責任を取るためにも…」


【鶴来裕次郎】

「何を言っている、貴様…

いや、そんなことより早く結衣に替わってくれ!」


【赤舐目獅子呼】

「…ええ。そうするわ」


【鶴来結衣】

「……お父さ~ん?」


【鶴来裕次郎】

「結衣!!」


【鶴来結衣】

「えへへ~ごめんねぇ、連絡できなくて」


ユイの声音には、何かのタガが外れたかのような、

不自然な明るさとうっとりした響きがあった。


それだけでなく、ノイズのような何かを含んでいて、

言葉の裏で小さく反響していた。


【鶴来裕次郎】

「結衣…お前、大丈夫なのか?

今までどこにいて何をしていた…」


【鶴来結衣】

「私ね、もう家には戻れない」


【鶴来裕次郎】

「……は?」


【鶴来結衣】

「デスデンワはちゃんと倒したよ。でもね…

私、もうシシコちゃんと離れて生きられないの」


【鶴来裕次郎】

「……結衣?」


【鶴来結衣】

「私とシシコちゃんが自分で選んだ道だから。

安心して。私たち、きっと幸せになってみせるよ」


【鶴来裕次郎】

「…結衣…

なんで…何がどうなって…」


【鶴来結衣】

「じゃあねお父さん。私は死なないよ。

だからお父さんも死なないでね。絶対だよ」


その言葉を最後に、娘達からの通話は切れた。

父が再びかけ直しても、繋がることはなかった。


裕次郎はしばらく茫然と娘の言葉を反響し、泣いた。


その後、都内でデスデンワの被害者が

出ることは二度となかった。


二人が戻ってくることもなかった。

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