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人狼の救世主


「ああ……本当に気分が悪い……ここの奴らみんな私が幻を殺したって思ってるし…ふん、私達のこと何にも知らないくせしてさ。………こっちに飛んでくる視線が煩わしい……ここに居るみんな全員喰い殺してやろうか」



「お、おいあれって……」


「不味いわね、黄泉さんだわ」


「ジロジロ見てたら気づかれちまうぜ」


「そうね、早くここから―――」



「おい」



「は、はい!?」


「人のことジロジロ見て何が楽しいの?見られる側にもなってごらんよ、うざいったらありゃしないよ」


「い、いやジロジロ見てたわけじゃなくて!」


「は?明らかに私のこと見てヒソヒソ話してたよね?私に嘘なんて通じないんだよ、全部丸わかりなんだ。結局、貴方達も私が幻を殺したと思っているんでしょ?」


「そ、それは……」


「………否定しないんだね、所詮同じ穴の狢か」


「………黄泉さん」


「……何」


「私は、証拠がないから貴方は犯人と言い難いと思っていたわ」


「……は?」


「でも、前々から妹さんとケンカしていたんでしょう?それで、ついカッとなって殺したんじゃないの!?」


「イージス、もうよせ……」


「……あははははは!!私達のことを何にも知らない獣が何をほざくかと思えば!! 話を聞くだけ無駄だったね」





「イージス!どうしてあの人なんかと言い合おうと……こっちはヒヤヒヤしたんだぞ!」


「別に、言われっぱなしなのが気に食わなかっただけよ」


「それにしても、あの黄泉さんと口喧嘩するなんてやるじゃないか。周りのみんなも距離とって見てたぜ」


「それだけ、町のみんなから嫌われてるってことね。妹さんのためにも早く刑務所に行ってほしいわね……」


「ああ、そうだな……」






「ああ…ッ……マジでムカつくなッ!!!証拠もないのにどうしてそう言えるんだッ!!!お前達は私達の何を知っていると言うんだッ!!!………ハァ……ハァ……とにかく、裁判のために弁護士を探さないとな……」




「どうしたんだろうか、黄泉さん随分とご立腹であったが」


「確かに、近づいたら死ぬってほどのオーラが見える」


「私としては、早くこの町からいなくなってほしいものだが、そう簡単にはいかないか」


「殺人を犯したんだから、早く罪を償ってほしいものだな………」


「無罪にだけはなってほしくないな…」


「大丈夫だろう、ここまで材料が揃っているんだから」


「…それも、そうか」





「どうぞどうぞ、お入りください」


「……邪魔するよ」


「では、事の成り行きをお聞かせください」


「ええ、まず幻の遺体は真夜中に見つかったんだ―――」




「―――と、経緯はこんな感じかな」


「ふむふむ、なるほど」


「どう、受けてくれる?」


「このケースでいきますと……おそらく、刑期を短くすることは可能ですね」


「………は? お前、今なんて言った?」


「え?ですから……」


「だから……私は幻を殺していないと言っているだろうがッ!!どうして私が幻を殺した前提で話を進めてるんだよッ!!!」


「黄泉さん…これはもう諦めるしか……」


「はっ、結局お前も私が犯人だって思ってるってわけかよ」


「黄泉さん……物的証拠はまだでてきていませんが…過去の行いからするに…動機は十分あると思われますかと……」


「……今の話だけで私が幻を殺したと!?『まだ』物的証拠も出ていないのに!?そもそも、私が殺したんじゃないんだから証拠もクソもないだろうがッ!!!」


「黄泉さん…落ち着いて……」


「黙れ、近寄るな、咬み殺すぞ」


「よ、黄泉さん…!」





「…そうですね〜、この案件ですと……」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「………お前も、使えないな」



「……………この案件を無罪にしろっていう方が無理な話だぜ……引き受けない方が身のためだ」




私はその後も弁護士を探した。でも、裁判員はみんな同じことしか言わなかった。無罪になることは、なかった。……次が最後の裁判になる。次で、決まる。




「………どいつもこいつも使えない奴らばっかりだ、裁判員は口を揃えて同じことしか言わないし、どうして次で最後なんだよ…!!」





「………黄泉さん、なかなか認めませんね」


「いい加減、認めてほしいものだけどな」


「あの調子だと……最後まで認めなさそうですね」


「おや、エルドラド殿とブレイズ殿とディマドリード殿ではないか」


「アズスチルじゃん、こんにちわ」


「この裁判……早く終わってほしいものだな」


「そうだな、もう疲れちまったよ………」


「みなさんは次の裁判員は誰にするか決めましたか?」


「私は相変わらずですね〜」


「俺も特に変えたりはしないよ」


「私もだよ」


「まぁ、次で最後ですから。もう少しの辛抱ですよ」


「ああ、そうだな」





フードを被った女性が、部屋の奥で椅子に鎮座していた。


「………ようこそ、豹霊弁護室へ。私が弁護士でこちらが相棒のレオパルドです」


「………ん」


「……………ほうほう、なるほどなるほど、こんなことが起きたのですね。……これはたしかに…難しい案件ですね……無罪が出なかったのも納得ですね」


「…………結局、貴方も同じだったわけか」



「寂滅」



「……………何?」


「たしかにこれは難しい案件だ、でも無罪判決に出来ないとは私は言っていないよ」


「……何が言いたいの?」


「……この案件、私が引き受けるよ。私が必ず貴方を無罪に導こう、プライドに懸けて誓うよ」


「…………わかった、お願いするよ」


「……辛かったね、寂滅。でも、私に会ったからにはこの裁判は貴方が勝ったようなものだからさ。そうだ、レオパルドをモフモフする?だいぶリラックスできると思うよ」


「ううん、大丈夫だよ」


「それで………まず、裁判員はみんなあの町の輩なんだね。それに加えて、みんな貴方を犯人だと信じて疑わない……」


「……そうだね」


「まぁまずは現場の捜索といこうか、貴方達の部屋にお邪魔してもいいかな?」


「…………」





そしてついに……裁判が、始まった。


「…それでは弁護人、どうぞ」


「はい。そもそもこれは何度も言っていることですが……物的証拠が今もなお出てきていない、おかしいとは思いませんか?」


「黄泉さんがどこかに隠したとかじゃないのか?」


「その可能性も考えて、私は相棒のレオパルドと共にこの町の隅々まで探し尽くした。でも、凶器は見つからなかった。五感が私より優れたレオパルドがそう言うのなら尚更だ。つまり、凶器は最初から無かったのです」


「では弁護人、何か他に証拠はあるのか?殺人の動機、犯行時刻のアリバイ……全てが噛み合っている」


「私の話を最後まで聞いてくれませんか。私は……ついに彼女の無実を証明する物的証拠を見つけることができたんですよ」


「な、なんだって!?」


「ど、どこにあったっていうのよ!?」


「こちらをご覧ください」


スクリーンにとある紙が映し出される。


「これは……病気の診断書?」


「………誰も入ることのなかった、幻の部屋から…これが出てきたのです。幻は……元々身体が病弱だったんだ……持病を抱えながらも、頑張って闘病していた……でも、努力の末に……亡くなってしまった……」


「…………」


「黄泉さんが……泣いている……」


「続いてこちらをご覧ください」


アルバムが映し出される。


「な、なんだこれは!?」


「嫌というほどのたくさんの写真が……!!」


「………これは、寂滅の姉の部屋から見つかった代物です」


「姉………だって!?」


「あの人にお姉さんが居たの!?」


「………」


弁護人は突然、フードのついたパーカーを脱ぎ捨てた。隠されたその顔が、顕になる。


「ね、姉さん…!」


「姉……さん!?」


「………私の名前は黄泉 叡智。 黄泉 寂滅の姉であるッ!!!」


「な、なんだってーーー!!?」


「……………私は、妹達が産まれた時からずっと……このアルバムに想い出を詰め込んできた。見てくださいよ、このパンパン具合を。それに、どの写真の妹達も………とっても楽しそうじゃないか」


「……!」


「寂滅が私の仕事場に来て、色んな話を聞かせてもらったよ。幻と過ごした日々、ケンカしたこと。寂滅が周りとのトラブルが絶えなかった理由………幻を守るためだったんだよ。私がこの仕事をして家を開けていた時、家に空き巣が入ったという。寂滅は、そいつから幻を必死に守ったんだ。証拠に、寂滅の右目と首に傷痕が残っている。事件の後、寂滅は周りを警戒した……それは、大事なものを守りたいが故の行動だった………寂滅は、幻や私の部屋に誰もいれなかった。だからこういった重要な物が見つからなかったんだ。いや、そうじゃなくとも入ろうと思う人なんてきっと居なかっただろう。この町のみんなは……誰かが流した噂を決して疑わずに、信じ切った。寂滅を嫌う誰かが、流したんだろう。………私はここに宣言する、私の妹は無実であると。それでもなお…裁判員のみなさんは、寂滅が犯人だと貫くのですか?私はそうは思いません、妹を誰よりも想っていた彼女が幻を殺すわけがありません。これは、弁護士として…そして、姉としての立場だからこそ言えること。私からは、以上です」


「………それでは裁判員のみなさん、黄泉被告の有罪無罪の審議を開始してください」




「………審議が終了しました。この事件において黄泉被告は……」


「…………」


「満場一致の結果により、無罪と認める」



その時、初めて寂滅は人前でその笑顔を見せたのであった………





その日から、黄泉さんの性格は穏やかになった。壁によりかかっても唸ることはしなくなったんだ。なにより、僕達の会話にたまーに交じることもある。ある日、僕は見たんだ。スマホを通じてお姉さんとテレビ電話をしているところを。その時の黄泉さんは、すごく嬉しそうだったのを覚えている。

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