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嫌われ者の人狼


「おっ、ようやく来たなお前ら!」


「待たせたわね、アビス」


「相変わらずアンタは来るのが早いわね」


「ええと…イージスにジェネシスに……あとはアルカディアだけなんだが」


「ごめんよ!ちょっと遅れた!」


「おお、やっと来たか!」


「珍しいわね、アルカディアが遅刻だなんて」


「ああ、いやその……」


「どうしたの、何か手間取ったの?別に少しくらいの遅刻誰も咎めたりしないわ」


「いや………お隣の黄泉さんのとこの………」


「マジか、その人と揉めたのか?」


「まぁそんなとこ、言いがかりつけられて怒られたよ……」


「私はあの人あんまり好きになれないわね」


「私もよ、前に歩いているだけで怒られたことがあったわ」


「この町に住んでる奴は何かしらの理由で絡まれたことがあるんだろうな……」


「どうしてあんな性格なのかしら」


「…見た目からもう暴力とか簡単に振るいそうな人だよね」


「見た目で人は判断しちゃいけないっていうが、あそこに住んでる姉妹はなんだか異彩を放っているっていうか……」


「ま、まぁ愚痴はこの辺にしようよ!僕達はこれから遊びに行くんだから!」


「そうね、最初から気分を落ち込ませる必要もないわ」


「それじゃあ気を取り直していっくぞー!!」




……この町には、少し関わり辛い人が居る。普通……の人だとは言い難くて。この町のみんなは、黄泉宅には近づかないようにしている。近くを歩いているだけでも、ちょっと寄りかかっているだけでも理不尽に怒られるからだ。まるで、縄張りに入った侵入者を追い払う狼のように。何故そこまで怒りっぽいのか、何が気に入らないのか……あの人のことを完全に知っている人は…この世に存在しないだろう。


まさしく、嫌われ者という言葉がお似合いな人だ。





「………ったく、また人の家の壁に寄りかかって。この町のみんなは自分の物が汚されても怒らないっていうの?私だったら我慢ならないね。あー…思い出しただけでイライラする……っと、落ち着け落ち着け。初っ端から暴れ回ってどうするんだ。私がしっかりしないと……ふぅ、庭の掃除も終わったし、幻のところに戻らなくちゃ」




「幻、掃除終わったよ」


「ああ……ごめんね姉さん」


「どうしたの、また具合悪くなった?」


「そうかもしれないなぁ、また具合悪くなりやすくなっちゃったのかな」


「大丈夫だよ……お姉ちゃんがついてるから……」


「うん、ありがとう姉さん」


「さて、お昼は何にしようか?おうどんにする?」


「おうどん食べるー!!」


「それじゃあきつねうどんにしようか、待っててね」


「………そういえばさ、今日でちょうど一年だっけ」


「ああ、空き巣に入られて幻が人質に取られた日のこと?」


「あの時の姉さんかっこよかったなぁ〜…人狼になって空き巣をボコボコにしちゃってさ!」


「そりゃあ、愛しの妹を傷つけようとするやつは咬み殺してでも止めないとね」




『ね、姉さん!!』


『………幻を、離せ。人間如きが私達に触れるな』



       ゴキッ



             ザクッ



     ガブッ



               バキッ




『ぐっ……こいつなんて馬鹿力なんだ…!』


『これ以上私の縄張りに近づいてみろ……その頭脳みそごと咬み千切るぞ!!!』


『ひいっ……!』




「今だからこそ笑い話で済まされるけど…本当に危なかったね…」


「本当にあの時の寂滅姉イケメンだったなぁ〜……まるで叡智姉みたいだった」


「忙しい姉さんの代わりに、私が貴方を守らないといけないからさ」


「ありがとう……姉さん……」


「ふふふ」








「あー、楽しかったなー!」


「アビスは終始はしゃいでいたわね」


「あんなに楽しいものがあったらそりゃはしゃぐだろ!!」


「はしゃぎすぎな気もしたけどね……」


「まぁ、アビスの気持ちはわからなくもないわ」


「アンタもアビスと一緒にはしゃいでいたものね」


「またみんなで来ような!」


「ああ、もちろん!」


「それじゃ、気をつけて帰るのよ」


「またなお前ら!」


「またねー!」


「また明日」





「………ああ、またこの道通らなきゃいけないのか……回り道とかそういうのないもんなぁ……にしても、あんなに怒ることだったのかなぁ……っと、折角楽しいことしてきたんだから落ち込む必要もないか。スルーしよっと。はぁ……なんであの人が隣なんだろ……」



「私が隣で悪かったね」



「わぁっ!!?」


「貴方、今隣の人って言ったよね。堂々と本人の前で陰口叩くなんざ良い度胸してるね?私が隣だからって何か問題でもあるの?」


「い、いや……別にそんなことは……」


「思っていないと?」


「え、あ、そ、その……め、珍しいですね、こんな時間に出かけているなんて!」


「ただの買い物だよ、ていうかしれっと話逸らさないでよ」


「おいおい、何をそんなに揉めてるんだ?」


「アズスチルか、この人が私の前で堂々と陰口を叩いていたんだよ。せめて本人が居ないところで喋れば良いのにって話をね」


「まぁまぁ、そんなにヒートアップしなくても……」


「はっ、私は至って冷静なんだけどな」


「おーい……私の家の前で喧嘩はしないでもらいたいのだが……」


「それは悪かったね。話すことも話したし、私はもう帰るよ」



「貴殿は……確か黄泉さんの隣のアルカディア殿だったな。災難だったな、黄泉さんに絡まれるなんて」


「う、うん……今朝も絡まれて……」


「今朝もか……どういった内容なんだ?」


「僕が……黄泉さんの敷地の壁に寄りかかったのが原因みたいで……」


「それは……ご愁傷様としか言いようがないな」


「本当に、あの人の考えていることは理解できないな。ほんの些細なことで怒ったりするのだから……」


「それでも、一緒に住んでいる妹さんとはかなり仲が良いらしいぞ」


「僕もそれは聞いたことあるよ、妹さんに暴力振るってなければ良いんだけど……」


「あの性格に加えて目と首元にある傷……ヤクザ並みにやばいって。頭に来たら人殺しとか平気でやりそうだよ」


「とにかく、ここはお互いに気をつけていきましょう」


「ああ、何を考えているのかわからないものな」


「………………」



僕はその日、気分がどん底にまで落ちたがアビス達との通話でなんとかその話は忘れることができた。


でも、その一週間後に事件が起きた。なんでも妹さんが何者かによって殺されたらしい……


その情報は近隣住民から得たものであるが、犯人が誰なのかは誰もわからないとのこと……





「な、なぁお前ら知ってるか?あの黄泉さんとこの妹さんを殺した犯人のこと……」


「し、知るわけがないでしょ」


「まさか……姉であるあの人が……」


「そうだ、あの寂滅さんが殺したんじゃないかって噂が広まっているんだ」


「でも、それはあくまで噂でしょう。証拠とかはあるの?」


「それがな、どうやら妹さんはベッドで寝ていたところで……殺されたらしい。犯行予想時刻は丑の刻だ、この町は治安は悪くはない。周辺のみんなもいいやつばっかりだ」


「ともなれば……あの寂滅さんが犯人……」


「可能性は……確かに一番高いわね………」


「ただ問題なのは…殺人を犯すための凶器が一切見つかってないことなんだ」


「……なるほどね」


「ていうか、あの人の妹さんを見た人はこの近くで居るんだろうか……」


「前二人が庭で日向ぼっこしているのを見たわ」


「え、いつ見たのよ」


「さぁ、だいぶ昔のことだから覚えてないわ……でも、優しい顔つきだったのは覚えているわ。寂滅さんとは正反対だったわね」


「……その時にケンカして、頭に来て殴り殺したりでもしたのか?」


「寝ている所を見計らって………ってところかしら」


「そうだとすると…納得はいくけど……」


「それよりも、あまり話をしていると黄泉さんが反応するかもしれないわ」


「そうね、また絡まれたら厄介だわ」


「それじゃあ私の家に戻ろうか」


「せっかく遊んでる最中なのになんだか変な空気になっちゃったね」


「少し買い物から帰ってきたばかりなのに空気が重くなって…………………」




「…………ああ、ほんとにムカつく奴らだな………ここの住民は頭がイカれてるね、どうして私が幻を殺さなくちゃならないんだか。……裁判するとか言ってたっけ、面倒くさいな本当に…………」





「………あ、ブレイズじゃないか」


「エルドラドか、どうしてそんなにびくびくしているんです?」


「ブレイズ、知らないのか。この町で殺人が起きたって話………」


「ああ、知っていますよ。黄泉さんとこの………すよね?」


「本当に……怖いよなぁ〜……」


「あの人、この町で完全に浮いているし…ていうか、どこに居ても浮いてるし……」


「でも、妹さんとは仲が良かったんだろ?」


「その妹さんを殺すだなんて、本当どうかしてますよ」


「そういえば、お前この前黄泉さんに絡まれてたみたいだが大丈夫だったのか?」


「あ、ああなんとか………このままじゃ……今度はオイラ達が殺されるんじゃないんすかねぇ……」


「おいやめろよ……怖いこと言うなって……」


「どうやら、みんなそのことで怯えているみたいですね…」


「ディマドリードもそう思いますか」


「町のみんなは互いに顔見知りですし、あの人しか殺人はできませんよ」


「やっぱり、犯人は黄泉さんなんだな……」


「正直、それ以外考えられませんよ………」





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