1-4 不思議の転校生(中身はアラサーオタク)
おばあちゃんを挟んで学校の先生と相談した結果、午後から学校に行くことになった。
まずは学校の案内などをして、終礼で転入生として紹介してもらうらしい。
剛雷第十五中はゴーレムの持ち込みが一応許可されているので、自分もミツルのゴーレム「タルタロス」を連れていく。
事前情報の通り、真っ黒なボディと黒いエフェクトのようなものが出ているゴーレムだ。
目のあたりがぼうっと白くまんまるに薄く光っている。
学校はゴーレムの持ち込みが許可されているとはいえ、授業の邪魔にならない前提なので、鞄に入ってもらう。
ミツルの通学用のスポーツバッグにはタルタロス用の内ポケットがあり、これまでもそこに入れられて運ばれていたようで、タルタロスもすんなり入ってくれた。
ゴーレムというのはある程度の意思疎通はできるが、声は発さないものがほとんどだ。
声を発せられるゴーレムは、音を奏でる技を持っているゴーレム等だけだったと思う。
タルタロスも例に漏れないようで、昼間にちょっと遊んでみたけど全くの無音だった。
何を考えているのかも分からないし、中身がミツルじゃないことには気がついているのかいないのかも分からない。
言うことは聞いてくれているので、一応ミツルという判定なんだろうか……?
気になることは多々あるが、ミツルという人間の絶対的な味方であるタルタロスという存在は、私にとっても少しありがたかった。
学校に到着してからは転入先のクラス担任から軽く歓迎の言葉を頂き、予備教室で早速新しい教科書を貰った。サインペンを借りて全ての教科書に名前を書いていく。
この世界の教科書が元の世界と即しているかはわからないが、今の中学生の教科書ってかなり分厚い気がする。これを毎日持って通学するのはちょっと大変そうだ。
貰った教科書を自分のスポーツバッグにしまうと、先生に少しだけこの学校を案内して貰った。
まあ、私はゲームの方でこの学校には生徒並みに通っていたのでほぼ把握しているんだけどね。
それから、6限目ももうすぐ終わりというあたりで自分がこれから所属する教室にようやく案内される。
1-B。
想定はしていたが、ゴウくんと同じクラスだった(余談だが、アサヒくんは1-A。ゴウくんとは違うクラスなのだ)。
私はゴウくんやユウヤくん(ゴウくんの親友だ)について知ってるけど、ミツルにとってはみんな初対面なんだ……、と思うとなんだか緊張してきてしまった。
それに、事前情報から察するにミツルくんは「構われたくない系」のキャラなのだ。
ゴウくんと仲良くしたいのは山々だけど、最初だけでもそのキャラは守りに行くべきだろう。
変なことをして取り返しのつかないことになるのが恐ろしい……。
そして、ゴウくんと軽率に関わることで物語が加速してしまうのも恐ろしい。
しばらくはなるべく関わらないようにすべきだ。……寂しいけど!
まず廊下で待機させられて、担任の先生が先に教室に「転入生が来ている」と伝える。
ああ、このシーンってゲームだとムービーなんだろうな。
そう思うと自然と背筋が伸びた。
先生に案内されて教壇の上に立って名を名乗る。
「四十万、満です。よろしくお願いします」
にこやかではない、物憂げな少年のような立ち振る舞いをしたつもりだ。
自分がミツルになることに対して最初はいい気がしなかったが、全然別人の誰かを演じるというのはちょっと楽しいかもしれない……、と思い始めた気がする。
女子からはちょっと黄色い声を上げられ、男子からは歓迎の拍手を受けている。
良くも悪くも元気な少年少女たちの空気感は、こうして直に触れるとアラサーオタクにはちょっとつらさがあるかもしれない。ついていける気がしない、というか。
アニメのお約束、窓際の一番奥の席がゴウくん。その一個前がゴウくんの幼馴染でゴーレムファイターオタクのユウヤくんであるのを見つけた。
ユウヤくんがこちらを見ながらメガネは何度もくいっくいっとかけ直し、ゴウくんと何かをしゃべっている。
面識はないはずだけど……、と一瞬思ったがすぐに理解した。
脳内検索した記憶によると、四十万満という少年は、過去に何度かゴーレムファイト大会で名を残していたのだ。
ただ、昨年ゴウくんが優勝した大会では、体調不良で本戦を棄権してしまっていた。
ゴーレムファイターオタクの彼のことだ。ゴーレムファイト大会出場者について調べている時に名前か顔写真か……或いは両方を見ていたのだろう。
座席はとりあえずゴウくんのすぐ後ろに、ということになった。
席に着くと、ゴウくんもユウヤくんもそわそわとこちらを気にしている。
2人の視線に気がつかないふりをして、机を撫でながら先生の話を聞いた。
ホームルームが終わったらそのまま帰っていいとのことだったので、帰ろうとすると、我先にとゴウくんとユウヤくんが話しかけてきた。
「オレ! 蓮田ゴウっていうんだ! よろしく!」
「ぼくは真島ユウヤ! きみ! きみってあの『タルタロス』の四十万ミツルくん!?」
2人の目はキラキラと輝いていて、それに対してそっけない態度を取るのはなんだか心苦しかったが、心を鬼にして『四十万ミツル』を演じる。
「……悪いけど、ゴーレムファイトの話ならしないよ」
2人が困惑して黙っている間に「それじゃ」と教室を後にした。
……思ったより心が痛んだ。
事前情報で得た知識だとこんな感じだったんだよ、ミツルくん……。
でもいつかちゃんとゴウくんの暖かさに触れて仲良くなれるって私は信じてるよ……。