表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

1-1 なんの変哲もない前日譚

『ゴーレムファイター』

 いわゆる男児向けの、ホビアニに分類されるタイトル。

 原作はゲームで、ゴーレムと名はついているが実質メカをカスタムして戦わせるタイプのよくあるジャンルだ。

 ゴーレムを戦わせる競技が作中で『ゴーレムファイト』と呼ばれており、それを行う人のことを『ゴーレムファイター』と呼ぶ。


 ゴーレムを作るために携帯ゲーム機のカメラ機能を使ったりもするので、子供たちが外に遊びに行く口実も作れているいいゲーム内容なんじゃないかと思う。実際自分もこのゲームのために以前にくらべて外へ出かけることが増えた気がする。

 また、ホビアニ伝統とも言える熱血系の主人公『連田號(れんだごう)』(ゲーム内表記『ゴウ』)が仲間たちと力を合わせてゴーレムファイト大会の優勝を目指したり、悪の組織(?)を倒したりする、王道ストーリーなのもいい。


 なんの因果か、このアラサー喪女オタクはこのジャンルの沼に沈んだ。

 所詮は子供向けでしょ? なんて食わず嫌いをしていた反動か、それはもう深く、深く……。

 『ゴーレムファイター』を紹介してくれたSNSのオタ友がドン引きするレベルには。


 原作のゲームは2まででており、私は1のライバルキャラ『釘崎旭(くぎさきあさひ)』(ゲーム内表記『アサヒ』)をめちゃくちゃ推している。

 熱血系主人公のゴウと対比するような、知的で冷静なキャラクターで、ビジュアルもカッコいい系だ。

 勝つためには手段を問わない卑怯者かと思われていたが、実は借金を背負って体を壊した母のために優勝して賞金を手に入れたい、という願望があり、物語の後半では借金取りにそこを漬け込まれて卑怯な手を使っていたということが判明して、アラサーの涙腺は崩壊した。

 作中で借金取りの問題は解決し、その後はクールさはそのままに卑怯な手を使わない本来の誠実な人柄が溢れるキャラクターとなっている。


 彼のどこがいいかは語り出すと140字では収まらないので一旦置いておこう。


 そんな私の人生の中心になっている『ゴーレムファイター』のアニメは、現在原作でいう2の終盤に差し掛かっており、つまるところ佳境である。

 この2の終盤のストーリーは原作を100周はやりこんでいる私はもちろん知っているが、とても子供向けとは思えない重たい展開となっている。

 そんな意外性をネタバレ抜きで味わってもらいたいという気持ちから、SNSでは原作履修組のオタクはネタバレをばら撒かないように気を遣いながら日々苦しんでいる。私もその一員だ(初見の感想は初見でしか出せないし、何より初見さんの悲鳴が我々は大好物なのだ)。


 だが、私の憂いはそれだけじゃない。


 原作は2までしか発売されておらず、新作についての情報が発表されていない。

 こんなに人気があるタイトルなのだから、さらなる続編が発表されてもおかしくないと思うのだが……。


  ◆


 いつも通りの残業を終えて、身も心もボロボロになりながらの帰宅。

 一人暮らしの家で私を優しく迎えてくれるのは、玄関の自動点灯する照明だけだ。


 風呂を先に済ませてから、初任給で買った身の丈に合わないソファに座ってテレビを点ける。

 今日放送された『ゴーレムファイター』60話は正常に録画されていた。稀に失敗することがあるので少しドキドキする。

 金曜日はこの『ゴーレムファイター』を見ながら夕飯と共に安いロングの缶チューハイを飲むのがルーティンとなっている。


 割引シールが貼られてなんかじっとりしたお弁当のおかずを食べながら、「やっぱり動くアサヒくんは最高だな〜!」や「ゴウくんのここのセリフ聞きたいから原作100周したまである」などと呟き、アニメを見る。呟くだけで、タイムラインは読まない。アニメオリジナルのシーンなどがあれば初見の気持ちで見たいからだ。


 お弁当を食べ終わる頃にエンディングテーマが始まるので、小さく歌いながら食べたゴミを片付けてテーブルを拭く。

 推しはコマ送りで見たいのでもう一周しようかとリモコンに手を伸ばした時、ゴウくんが「緊急特報〜!!」と言い出した。


「ゴーレムファイター3の発売が決定! またオレたちと新しい冒険に出ようぜ!」


 公式がゲーム展開に全く音沙汰がなかったのに、ここにきてとんだサプライズだ。

 金曜日の午後は前述の通り、アニメのネタバレを避けるために意図的にSNSを封印していたため、本当に驚いた。


「20××年の秋に発売予定! 公式サイトやSNSも確認してくれよな! 3の情報がい〜っぱいあるぜ!」


 私はゴウくんのそのセリフが終わる前に公式SNSを開いていた。


 ──ゴーレムファイター3 鋭意開発中! 

  中学生になったゴウたちが今度は全国大会 中高生部門の優勝を目指して戦うぞ!


 その下には、新キャラの情報まであった。


 ──漆黒のゴーレム『タルタロス』を操る少年……。

  彼は一体何者なのか?


 私はSNS上で叫んでいた。


「今!!!!! ゴレファイ3の新キャラ見た!!!!!! なにあの子!!!!!!!! オタクは好きだが?????」


 するとすぐにオタク仲間からリプライが飛んでくる。


『やっと見ましたか〜! あなたの反応を楽しみにしてました、へへっ……』

『ツンツンクール系っぽいですけど、我らがゴウくんはアサヒくんを完落ちさせた実績の持ち主っすからこれから楽しみっすね』

『多分ライバルですよね〜』


 彼女ら(彼ら?)も新キャラについて語りたいようだ。

 さて新キャラくんの名前はなんだったか。

 別の画像に記載があった。


 ──四十万満

  かつては有名なゴーレムファイターだったらしいが……?


 満。ミツルくんか。

 今更だが、自分の名前は田中ミチル。ちょっと似ているので自意識過剰にドキドキしてしまう。運命ではないだろうか?

 軽率に運命とかいうのはオタクの悪い癖だ。外では言わないように気をつけよう。


 全体的に長くて白いメッシュの入った黒い髪。

 前髪は左目を隠した上でハーフアップの一部になっている。

 ブレザーの制服だからゴウくんたちとは違う学校の子のようだ。

 その制服は少し大きめで、中に着ているカーディガンはもはや萌え袖となっている。

 舞台が秋〜冬だからか、髪を巻き込むようにマフラーも巻いていて、色も白いしなんだかとても寒そうな子だな、という印象だ。


 もっと、もっと彼について情報を……! そして語らいたい……!

 そんな気持ちでスマホに向かっていたら、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ