06話
翌日、眩しさに目を覚ますと。
「ミュリエル様、お加減は如何ですか?」
「だ…じょう…ぶ…」
喉がカラカラで上手く声が出ない。水を飲ませてもらい、ごくごくと飲んだ。はぁ~生き返るって感じ。
「ありがとう」
「ミュリエル様…お声が…。すぐに先生を呼んできますね!」
今まで滑らかに喋った事無かったからね。声を出せるようになっても、喉カラカラ状態の酷い版みたいな感じだったし。
*****
診察の結果、私は熱を出す前より明らかに回復していると言われ、先生は奇跡だと言っていたわ。
本当は全回復だし、ある意味奇跡ではある…。
これから歩くための練習が始まるらしい。やっぱり、リハビリしないとダメなのか…魔法がある世界だから魔法でちゃちゃっと治してくれたら良いのに。
両親もお兄様もすごく喜んでくれた。とりあえず…美男美女に美少年…家族がキラキラ眩しくて目が痛いわ。
『君も似てるよ』とフェーリに言われたけれど、私は自分の容姿を知らない。髪は見えるから金髪なのは分かるけれど、鏡も見たことないしね。
メイドのミアとアンにお風呂に入れてもらい、食事を食べさせてもらう。ずっとされていたからかな?恥ずかしいとか思わないのね。
今日1日は安静にって言われたから、ベッドに寝ながらこの家の事や国の事を教えてもらう。
でも私は…トイレトレーニングを完璧にこなす事を誓ったわ!
*****
元気になってしばらくして、乳母のエマは私がこの家に引き取られた理由を隠さずに教えてくれた。
「お嬢様には難しいお話でしたが、大事な事ですからね」
特に何も思わなかった。めっちゃ貧乏だったから支援が無くなって、1年以上経っている元実家の伯爵家は大丈夫なのだろうか?と思わなくもない。
でも私にはもう関係ない。叔母夫婦が頑張るしかないものね。
その後は肖像画で本当の両親を知り、今の家族の事も教えてもらった。
ランベール侯爵家の領地には海があり貿易で栄えているらしい。こういう事は今後勉強が始まれば学んでいくから、こんな感じとざっくりした説明をされた。
「旦那様は王宮にも出仕していらっしゃるので、なかなか会えないと思いますが、とてもお優しい方ですよ」
父は領地経営以外にもお仕事があるのか。働きすぎじゃない?貴族なら普通なのかな?
「奥様はお嬢様の亡くなられたお母様の姉君です。社交にお忙しい方ですが、お嬢様がこれからご令嬢として成長される上でお手本にする方ですよ」
ご令嬢…前世の自分がそんなお淑やかな人間では無かったことは記憶が無くても分かる。出来るかなぁ…不安しかない。
「お兄様のフェリクス様はお嬢様より5歳年上です。よく会いに来てくださいましたから、お嬢様には1番親しみのあるご家族でしょうか」
全く体が動かなかった時は本の読み聞かせ、少し動くようになってからは日常の事をよく話してくれた。退屈な寝たり生活も、お兄様のお陰で結構気が紛れたのよね。
「いろんな、おはなし、ちゃんと、きこえた」
全然喋っていなかったから舌が回らない…。単語は良いけど文章は辛いわ。
私が言葉が分かるのは、皆が色々と話しかけたり読み聞かせの効果だと思われている。なんて都合の良い勘違いなんだろう…。
「しばらくはお喋りも体も思い通りにならなくて、大変だと思いますが焦らずやっていきましょうね」
「がんばる、よろしくね」
「もちろんでございます」
口が疲れる手前までおしゃべりをして、その後は足や腕を曲げたり伸ばしたり、多分リハビリの一環だと思うけどストレッチみたいな事をされた。
食事やおやつを挟みながらお昼寝をして、1日会話と運動を繰り返した。
夜部屋に1人になるとフェーリが出てきた。
『どこかおかしなところは無い?』
『ないと思う。まだ始めたばかりだし』
『それなら良かった』
『フェーリは人に見えるの?』
『普通の人には見えないよ。魔術師の中には精霊が見える者も居るよ。時々、対価をもらって願いを叶えたりする』
『対価って何もらうの?』
『基本は魔力だね。些細なお願いならお菓子でも良いけど』
『そうなんだ』
『だから、女神様の次に精霊は信仰の対象でもあるんだ』
『フェーリ、凄いんだね』
『その女神様の愛し子である君も、ある意味信仰の対象だよ』
『それは遠慮したいかなぁ…愛し子って何が出来るの?』
『使命を与えられた愛し子なら、基本的な所だと怪我や病気関係なく治癒出来る。あとは浄化と結界。でも君は使命も無いし力も強いから…使いこなせるようになれば何でも出来るようになるよ』
『何でも?』
『うん。例えば砂漠を森にしたり、その逆も出来るよ』
なにそれ…愛し子の力が怖いんですけど…。
使命のある愛し子は前世で言う「聖女」というやつね。だいたい自由無くて大変そうだから、そっちじゃなくて本当に良かった。