47話
今日は珍しくソフィア様と2人でのお茶会。
「ミュリエル様、ようこそお越し下さいました」
「ソフィア様、お招き頂きありがとうございます」
庭のガゼボに案内されると、連れて来たミア以外の使用人が下げられる。
「これで気兼ねなくお話できますわ」
「あの…どうして人払いを?」
「そろそろ、ミュリエル様が悩まれる時期だと思い、ご相談に乗ろうと思いましたの。私の場合は幼馴染でしたが」
ソフィア様は幼馴染と婚約をしたわ。
最初に紹介された時から、お互いに好意があるのだろうと思っていたけれど、その時は「兄のような存在」と紹介されたわ。
「ふふ、ソフィア様は先輩でしたわね」
「そうですわ。ですから何でもご相談下さい!」
普段おっとりとしたソフィア様は、珍しく胸を張り「ふん!」と鼻息も荒い。
「ふふっ。では、最近お兄様が知らない人のように見える事があって、それが何となく落ち着かなくて…」
「家族と思っていたのですから異性として見ようとすれば、違和感を感じますわ。私も婚約を前提とした時には落ち着きませんでしたもの」
「私はお兄様を異性として見ているのかしら?」
「フェリクス様が待って下さっているから、無意識でも見ようとされていると思いますよ」
そうなのかしら?ずっと一緒に居るからか、よく分からないのよね。
「お2人は顔合わせのお茶会のようなものはしていますか?」
「いえ、今までとあまり変わらないです。デビュタントして適切な距離と話す内容は変わりましたが…」
「では、メリハリをつけてみては?一緒に暮らしているからこそ、兄妹という枠から出られないのではないかしら?」
「メリハリ…」
「私も顔合わせのお茶会が意識するきっかけでしたわ」
私とお兄様にはメリハリが無いのね。
「でも、今更そういうお茶会をお兄様とするのは…」
「気恥しいですよね。でも、そういう時間は必要ですわ。家族との時間では分からない事もありますもの」
ミアをちらりと見ると、物凄く頷いているわ…。
「それでもフェリクス様を、お兄様としてしか見られないのなら仕方ありませんわ。ミュリエル様が誠実に向き合った結果ですもの」
「そうですね…」
ソフィア様と色々な話をして、私の複雑な気持ちも少し落ち着いたわ。
邸に帰り、お母様に相談したら「任せて頂戴!」と物凄く張り切っていたけれど…不安だわ…。
*****
一緒に住んでいるのに、お兄様から蝋封の押された正式な招待状が届いたわ。
ミア達はとても楽しそうに、来週末のお茶会のドレスを選んでいる。
フェーリも面白そうに、くるくる飛んでいるわ。
『フェリクス、本気出してくるのかな?』
『本気?』
『今までは君の気持ちを考えてくれていたけど、お茶会は君を落とすためのものでしょう?』
『私を落とす…』
『これは当日が楽しみだね』
顔合わせのお茶会って、相手を落とすためのものだったかしら?
お茶会ってそんなガツガツしたものなの?
『私は「メリハリをつけてはどうか」とお母様に相談したのよ』
『お茶会は兄妹では無く、フェリクスは君に求婚する男としてやるんでしょう?普段とのメリハリがちゃんとついていると思うけど?』
私の考えていた「メリハリ」とは少し違う気が…。
『君は鈍いから、その位しないと自分の気持ちも分からないでしょう?』
『そこまで鈍くないわ…多分』
お茶会が急に不安になってきたわ…。お兄様へ返事を書きながら溜息がこぼれる。
*****
お兄様は忙しいみたいで、招待状をもらってから会えていない。
『ねぇ、お父様もお兄様も働きすぎじゃないかしら?』
『精霊からしたら人間は皆働きすぎだよ』
私は久しぶりにフェーリに連れられて森へ来ている。
『精霊だって世界を整えるお仕事をしているでしょう?』
『毎日、乱れるわけじゃないよ。そこまで脆い場所にはドラゴンが居るし、精霊では手に負えなければ精霊王様が対処してるよ』
『そういえば、ドラゴンを倒すなんてって昔怒っていたわね』
『そういう事もあったね…人間の作る物語はどうかしてるよ』
この世界にはドラゴンを倒せるほど強い者は居ないから、完全にお伽噺なのに子供向けの物語に本気で怒って可愛いのよね。
『ふふ、今日も土地を癒すのかしら?』
『今日は助けて欲しいやつが居るんだ。大きいから部屋に連れて行けなくて』
部屋に連れて来れないほど大きいの?私の部屋はかなり広いのに?
『あの洞窟で休んでるよ』
『大きいって何の動物なの?』
『フェンリルっていうんだ。ドラゴンと同じように居るだけで乱れを抑えられるんだよ』
『フェンリルって…動物なの?魔獣じゃなくて?』
『神獣だよ』
物語でしか聞いた事の無い珍獣が出たわね…実在するのね。
洞窟を進むと真っ白い狼みたいな動物が蹲っている。見た感じ怪我は無さそうだけれど…前世の一戸建て位の大きさがある。
『フェンリル、愛し子を連れて来たよ』
目を開けてこちらを見る瞳は金色で宝石のように美しい。
『愛し子…何百年ぶりだ?』
『ちょっと前に女神様がやらかした子だよ。力は凄く強いから安心して』
『こんばんは、フェーリに助けて欲しいと言われて来ました』
『治してもらいたいが…無理はするな』
フェンリルさんに何処が悪いのか聞いたら、大きな乱れを治す時に当てられて体調が悪いらしい。
『病気を治すのと同じ感じだよ。人間で言う酷い風邪かな?』
酷い風邪?インフルエンザみたいな感じかしら?病気は自分でしか試せていないから少し不安だわ…。
フェンリルさんの前足に触れ、体も大きいし全力で治癒の力を自然に止まるまで使う。
『どうですか?』
『ありがとう。楽になったよ。今代の愛し子はかなり力が強いな』
『ちゃんと治せて良かったです』
お礼にモフモフの毛並みを堪能させてもらっている間、フェーリはフェンリルさんと情報交換をしていたわ。




