41話
4年生になるとデビュタントが現実味を帯びてくる。
ドレスを仕立てたりと準備はしていても、実際にその日が近づいてくるのは、また違った気分になるわ。
「あと1ヶ月も無いのですね」
「楽しみですけれど、何だか緊張しますわ」
デビュタントは社交シーズンより少し早い、春先に王城で開催される。
社交シーズンの幕開けにもなるから、ほぼ全ての貴族が出席する大規模なものよ。
「ドレスが思ったより重くて少し不安ですわ」
「分かります」
ご挨拶やダンスの不安もあるけれど、1番はドレスの重さ。
お茶会で着るドレスより装飾のせいか重いのよ。立って歩くだけでも、ゆっくりとした動作になってしまうわ。
「あれでダンスを失敗せずに踊れるのか不安ですわ」
「大丈夫よ。ミディアムテンポのゆったりとした曲だそうだから」
デビュタントは上位と下位に別れてダンスを踊るけれど、白いドレスで一斉に踊るのは圧巻らしい。
その分、下手だと目立ってしまう。
「シャルロット様とソフィア様は、婚約者の方と練習はしているのですか?」
「ええ。彼らは夜会にも慣れているので、挨拶回りも少し気が楽ですわ」
アリアーヌ様は婚約には至らず、従兄弟のエスコートで出席するそう。
「ご挨拶とダンスさえ失敗しなければ、楽しい夜会になりそうですね」
「当日は会えても、ゆっくり話せそうにありませんけれど…」
「婚約の挨拶がある、お2人は仕方ありませんわ」
「アリアーヌ様は候補の方と過ごされますの?」
「一応ね。両親や従兄弟から見て、どういう印象かも知りたいもの」
「当日お会いできたら、お兄様にも印象を聞いてみますわ」
アリアーヌ様は自分の選択に自信が無いのかしら?
前世のように気軽にデートなんて出来ないものね。周りからも評価が良ければ安心出来るわね。
*****
ダンスや作法、貴族名鑑の復習をしていると時間なんてあっという間に過ぎていくわ。
『楽しみって言ってたのに、また不安になってるの?』
『だって、失敗したら恥ずかしいわ』
『失敗出来るのも最初のうちだけでしょ?』
そうなのよね。
デビュタントした最初の社交シーズンは、多少の粗相は大目に見てもらえる。
その後からは絶対に失敗出来ないという、プレッシャーもあるけれど…。
『お兄様が傍に居てくれるから大丈夫だと思うけれど、初めての事ってやっぱり不安になるものよ』
『フェリクスが居るなら大丈夫だし、姿を消して着いて行くから多少は助けてあげるよ』
『本当?フェーリも頼りにしているからね』
お兄様とフェーリが着いていれば、多少の事なら何とかなるわ。
『疲れたら回復魔法をかけて頑張りなよ』
『うん。回復しないと辛い夜会も嫌だけれど…』
疲れてふらついて、転んだりするよりは良いわ。回復魔法くらい何度でもかけるわよ!
心の落ち着く「おまじない」をハンカチに刺繍しておこうかしら?
*****
とうとう夜会当日の朝が来たわ。
「おはよう」と挨拶をしたら、ミアとアンに笑顔でバスルームに連れて行かれたわ。
頭の先から爪先まで洗われ、マッサージをされながら眠ってしまったわ。
起こされてバスローブを着て、ドレッサーの前に座ると軽食が用意されていて摘みながら、髪に香油を馴染ませながらいつもより丁寧に梳かれる。
鏡越しでも分かるくらい、しっとり艶々よ。
爪も丁寧に整えられるけれど、手袋と靴で見えないのに意味があるのかしら?
少し休憩をして、化粧を施され複雑に髪を編み込まれていく。
メイクも髪型もお茶会とは違うから新鮮ね。
「いつもより濃いけれど、似合っているかしら?」
「大丈夫ですよ。メイク自体は普段通り薄めで、アイメイクと口紅の色味のせいですわ」
「そうなのね」
薄いのに目がいつもよりパッチリして、唇もプルンとしてる。ミア達のメイクの腕は凄いのね。
「少し休憩して、ドレスに着替えましょう」
休憩中に女性ならではの気をつける事を教えてもらい、少しリラックス出来たわ。
「そろそろ、ドレスに着替えましょう」
「分かったわ」
コルセットをギュッと閉められ、潰れたカエルのような声が出てしまう。
これでも緩い方だと言われて、今までの簡易コルセットの有難みを知ったわ…。
「夜会のドレスって重いわね…」
「デビュタントは白一色という決まりのせいで、普通のものより重いですからね」
ドレスに縫い付けられたビーズやフリル、刺繍も多少の濃淡はあるけれど白一色。
私はジュエリーもパールがメインで、色と言えば瞳の色の石くらい。慣れていないせいでジュエリーも重く感じるわ。
バランスを見てヘアメイクを手直しして、夕方やっと支度が終わったわ。
「もう疲れたわ…夜会の度にこれをやるの?」
「ここまでの事は今日と結婚式ですね」
「ソファには凭れないで下さいね」
「分かっているわ」
本当は持たれてゆっくりしたいけれど、回復魔法で我慢よ!




