27話
翌日からは視察を兼ねた観光に街へ出かけた。
お兄様について私も話を聞いていたけれど、お役所的な所は他国から入ってくる人や物を扱うせいか、前世の税関や入管に近い感じ。
他は各ギルドが下にいる組合を使って、前世で言うインフラ整備をしている。家庭教師の先生からは習っていたけれど、この世界結構ちゃんとした仕組みが出来上がっているのよね。
前世で中世だか近世と言われそうな、王政と生活様式なのに意外と近代的なのが不思議。魔法があるから魔道具で色々と便利だしね。
「ミュリー、街は楽しかったかな?」
「はい。見た事の無いものが沢山あって楽しかったです。それに他国の料理も美味しかったですわ」
「ふふっ。ミュリーは躊躇なく何でも食べていたね。意外と好奇心が旺盛なのかな」
フェル兄様に撫でられるけれど、これは子供扱いじゃないかしら?
「どうして頬が膨らんでるのかな?」
「何でもありません」
もう!フェル兄様、分かってて聞いているわよね?
「そう?数日休みを取ったら、次は港に視察に行くからね」
「港!楽しみですわ。遠くからでも見えますが、近くで見たら船は大きいのでしょうね」
「商船はとても大きよ。でも人も多いから気をつけるんだよ」
「フェル兄様とリュカの言う事をちゃんと聞いていますわ」
「そうだね。ミュリーは偉いね」
「私はそんなに子供ではありませんわ!」
「ごめんごめん。ふふっ。また頬が膨らんでるよ」
「フェル兄様のせいです!」
私が小さいからって、いつまでも子供扱いして!
*****
お休みといっても、お兄様には書類仕事があるから暇なのは私だけ。
午前中は部屋で勉強をして、午後からはリュカに魔法を教えてもらっているわ。
「ミュリエル様、人にかける事を迷ってはいけません」
「だって…リュカ達にかけるのは嫌よ」
「実際に使う時も手加減する癖がついてしまいますよ?」
分かっているけれど、身近な人にかけるのはちょっと…。
「それと動いている人にかける練習もしませんと」
「リュカには全然当たらないじゃない!麻痺もすぐ回復してしまうし」
「どんな相手でも倒せなければ意味がありませんからね」
ニコニコと笑顔で言われたけれど、私は何処を目指しているのかしら?
護衛がいるから万が一を考えての護身術のはずよね?
「ミュリー、頑張ってるね」
「フェル兄様、休憩ですか?」
「書類仕事は体が凝るからね。息抜きにリュカに手合わせをしてもらおうと思ってね」
「では、私は見学しておりますね」
ミア達の用意してくれた木陰で、アイスティーとお菓子を摘みながら休憩する。
お兄様とリュカの手合わせは本当に凄いのよ。私は途中から目で追えなくなっちゃうけれど。
「とっても楽しそうね。でも剣筋が見えなくなってきたわ」
「お2人共、相当な腕ですからね」
侍女のアンはお兄様が騎士なんですって。
アンも少し剣を扱えるそうで、どちらが優勢か教えてくれるわ。
「今日はフェリクス様が優勢ですね」
「リュカは私の相手で先程まで走り回っていたものね」
「お嬢様、どんな状態でも敵は待ってくれませんよ」
敵って何処にいるのよ…。
この国は特に他国との争いも無いし、貴族間の派閥争いも私の知る限り多少のマウント合戦くらい。命懸けなやり取りなんて無いはずよ。
リュカもアンも何を目指しているの?
そして敵って誰よ?
*****
晩餐後、サロンでお兄様とゆっくりお茶を楽しみながら、明日行く港について教えてもらう。
「今来ている商船は海を挟んだ国からだね」
「どんな物を運んで来るのですか?」
「この国では珍しい穀物や織物、宝石になる前の鉱石もあるね。穀物はまだ広く流通はしていないけれど、ミュリーも気に入っていたね」
お米の国ね。前世住んでいた国に似た国なのかしら?
「あれは何の料理で出てきても美味しいです。こちらに来て初めて食べましたが、食欲の無い人や固形物が食べられない人にも良さそうですね」
「病気の人って事?」
「はい。スープと一緒に煮込めば、あまり噛まずに食べられそうですし。一緒に体に良い薬草を入れたら、不味くなっちゃうかしら?」
前世の病人食代表のお粥。薬草で七草粥みたいな事は出来ないのかしら?
「薬草を入れるか…ミュリーは面白い事を考えるね」
「そうですか?」
「うん。料理長に話してみるよ」
「簡単で美味しい料理ができると良いですね」
「そうだね」
また撫でられたわ。領地に来てから撫でられる回数が増えた気がするのよね…。
「フェル兄様、いつまでも撫でられて喜ぶ子供じゃないのよ」
「ふふっ。ごめんね。小さい頃からしてきたから、癖みたいなものだよ」
「もう!私がちょっと小さいからって」
「確かに体は少し小さいけれど、ミュリーが元気になってくれて嬉しいよ」
お兄様はできる限り一緒に過ごしてくれたから、両親にあまり会えなくても寂しくなかったわ。
「フェル兄様のお陰で、寂しいと思う事は少なかったと思います」
「ミュリーと会うと僕も元気をもらえるからね」
ひょいっと抱き上げられ膝の上に乗せられる。
「フェル兄様…子供じゃないのよ」
「ふふっ。そうだね…頬が膨らまなくなったら子供じゃないかな?」
「頬が膨らんでいるのはフェル兄様のせいよ!」
声を殺して笑うお兄様の振動が伝わってきて、何だか余計ムッとしてしまうわ。
でも優秀で格好良いお兄様だけれど、シスコンは大きなマイナスポイントよね?
ちゃんと婚約者の方が出来るのかしら?
そういう私もブラコンだと思う。基準がお兄様やアルベール様だと、見る目が厳しくなっちゃいそう…。




