01話
ここ何処だろう?
確か仕事してて…仕事?仕事って何?
私は…誰?…全然思い出せない…。
とにかく気がついたらこの状態。視界もぼんやりして周りが良く見えないし…体も重くて動かない…。
ここは何処なの?
「ミュリエル様、お目覚めですか?そろそろミルクの時間ですね」
ミュリエル?ミルク?うわっ!ビックリした…何か移動させられてる?
あっ…甘くて美味しい何かが口に広がる。
ゲップをさせられて気がついたのだけれど…もしかして私…赤ちゃんなの!?
*****
とりあえず、私の名前はミュリエル。
何故か赤ちゃんになっていると…何故?
名前から考えると外国人にでも生まれ変わったのかな?という事は…理由は分からないけれど1度死んだのよね。
自分がどんな人だったか、名前すら思い出せないわ…。まぁ…死んだ瞬間とか覚えててもトラウマになりそうだから、思い出せなくても構わないけれど。
お世話をしてくれる人達が「ミュリエル様」と呼ぶからお金持ちの家なのかなぁ。
でも私めっちゃ熱出るんだけど…。
赤ちゃんってこんなに熱出すものなの?感覚としては1週間おきに熱出して数日辛い感じ。
それと、全然動けないんだよね…手を動かそうとしても指1本ピクリともしない。生後何ヶ月なのか知らないけれど、多分普通じゃない。
うーん…でも薬は熱出た時に苦いやつ飲まされるくらいで、何か治療されてる感じも無いんだよね。
せめて視界がぼんやりじゃなくて、ちゃんと見えるようになれば、もう少し何か分かりそうなのに…。
「旦那様」「奥様」と呼ばれる両親もよく来てくれるけれど、視界ぼんやりで顔が分からない。でも声は優しそうだし心配してくれているのが伝わってくる。
今は声で誰か分かってきたけど、見えない動けないって暇だし不便だわ。
その両親は領地にしばらく行くらしい。体が動かないから手も振れない…。でも領地があるってどんな家なの?
赤ちゃんに生まれ変わったって気づいてから、多分3ヶ月くらい経つのに…本当に暇。唯一の楽しみは乳母の物語の読み聞かせとメイド達のおしゃべり。
メイド達のおしゃべりから思ったのは…ここは違う世界じゃないか?てこと。知らない国名に知らない宗教、そして生まれた家が伯爵家。
そして何故か言葉が理解出来る…。最初から言葉が理解できるとか、よく考えたら赤ちゃんなのに変じゃない?
この3ヶ月で前世の事を色々と思い出したけれど、名前とかはやっぱり思い出せない。どんな世界に住んでいたとかは思い出せたけれど、自分の事だけが分からない。
前世も貴族の居る国はあったと思う。でも私には縁がなかったし、そんなの昔の話か物語の中だけじゃない?
異世界転生かぁ…とちょっと浮かれていたら、両親が馬車の事故で亡くなったらしい。顔も見えなかったせいか、あまり悲しいとか思わなかった。実感がないし。薄情な娘でごめんね。
でも馬車で移動する時代か…やっていけるかな…。
両親が亡くなった私はどうなるのかな?
*****
メイド達のおしゃべりは情報の宝庫だね、お陰で自分の置かれた状況が分かってきた。
まず、この伯爵家はめっちゃ貧乏だった。
ギリギリ貴族みたいな生活だったけれど、「こうしゃく家」の末娘だった母が父に一目惚れして嫁いできた事で立ち直り中と。
伯爵家からしたらお金の為の結婚だったかもしれないけど、私の所へ来る両親は声の感じから仲は良かった気がする。
それで…次の伯爵になるのは父の妹。この世界は女の人も普通に継げるみたい。何となく跡継ぎは男って感じがしてたから、ちょっと驚いたよね。
叔母夫婦は領地で代官を任されていたから、あまり混乱も無く代替わり出来るらしいから良かった。
問題は私。叔母さんに引き取られるのかな…こういう展開って「冷遇」されるって決まってるんだよね。やだなぁ。
そう思っていたら何故か母の姉夫婦に引き取られる事に決まった。
乳母やメイドも一緒に行くから、ほっとしたけど…叔母さんには捨てられたって事だよね。ちょっと落ち込むなぁ…。
まぁ…動けず頻繁に熱出す赤ちゃんなんて、両親が亡くなった今はお荷物だよね。