即死魔法は危険と追い出されましたけど、敵に回す方が危険ですからね。
はじめての短編!とても難しかったです...!
私ディリアーネ、本日ステータス測定がありましたの。
今日でたスキルによって貴族の明暗が分かれると言いますけど、ほんとそうでしたね。
スキルとはその人が持つ特別な能力のことを指すのですが、世の中に存在する魔法は全てスキルによるものです。
例えば鍛治、火魔法、錬金術、と言ったようにです。
さて、本日私は“即死魔法”なるものを授かってしまいました。そして、お察しのように追放されました。15歳なのに。
この国、ヴィレーラリア王国というんですけど、腐ってるんです。
今馬車の中です。鉄枠の。
私は将来を期待された公爵令嬢だったので、(自分で言うのもなんですが美人の部類でしたし)その場に色々なお偉方がいていました。それゆえ、即死魔法とスクリーンに映し出された瞬間近衛兵に取り押さえられ、魔法を詠唱できないように口を塞がれました。
...即死魔法は詠唱がいらないのに、です。
オーバーキルというかなんというか...ごめんなさい、逆ですね。
即死魔法は、相手の姿を見ながら“即死魔法 発動”と念じて、そのまま相手を見ながら10秒経てば発動します。(即死じゃないですね)対象はレベル差1000以下の相手。私はレベル1ですが、レベル1001の魔物なんていません。まあ大丈夫でしょう。
手加減もできるみたいです。寝たきりまでですけど。
しかしまあなんで殺しと無縁な公爵令嬢がこの魔法を授かったのでしょうね。
で、とりあえず隣国でどうにかやっていこうと思います。...魔物イチコロですし。
隣国といえばウィレジアヌ帝国ですね。方角も合いますし。敵対国ですけど。
今国境からポイされるところですが、なんでしょうね、全く怖くございませんの。余裕、ですかね。根拠ないですけど。
そんなわけで、ひいいいとかなんとか言っている失礼な御者さんをさておき、国を出ました。
さて、目の前は森。魔物がうじゃうじゃいそうです。うーん、私の魔法は先手必勝なので、ゆっくり進むことと致しますか。
20テフィ(約100メートル)も歩いていない頃、背後でがさっと言う音がいたしました。振り返るとスライムです!こっちを見て今にも飛びかかってきそうです。
スライムを睨みつけ“即死魔法 発動”と念じると、ううぃーんという電子音が頭の中でなります。処理中、と言った具合でしょうか。
間違いなく10秒経っていない時、スライムの姿が消えました。
え?
“ピギーーッ“
習った通りのスライムの声ーーー
ーーーー上?
はっと上を見上げます。そこにはぐるぐる巻きになったスライムが―――
“即死魔法 発動”ッ
ウィーン
私は急いで魔法を発動し、蜘蛛ースライムをぐるぐるにした犯人ーを睨みつけました。半テフィはありそうな、とても大きな蜘蛛ですね...。幸いにも蜘蛛はスライムを食べようと必死なので、こちらが気配すらない魔法を放っているとは思わないでしょう。そして10秒が経過。
―――レベルが上がりました―――
半テフィもある蜘蛛が落ちてきたのでおどろきましたが、無事倒せたようです。レベル2になったっぽいですね。
初めて魔物を倒しましたが、ちっとも余裕じゃないですね。10秒がこんなにも長いとは...。やっぱり私貴族の娘ですね。実戦なんて初めてです。あとイチコロじゃなくてジュウコロ?でしょうか。
ーー即死魔法の初使用を確認。バージョンアップしますーー
初めて聞きますね。即死魔法が強化されるんでしょうか。嬉しいですね。
ーー発動時間10秒→9秒 バージョンアップしましたーー
ありがたいですね。キュウコロになりました。
あ、そんなこと思ってたら蜘蛛が消えました。
毒〜って感じの紫の魔石と腕輪?のようなものが残りましたね。
討伐した魔物は浄化され、魔石とドロップ品だけ残るそうです。聞いてはいましたが、やっぱり蜘蛛がどろりと溶けて消えるのは見た人にしか分からないものがあります。
ちなみに魔物同士での食物連鎖は“浄化”ではないので体は溶けません。
んー、魔石結構大きいですね。握り拳くらいあります。カバンに入れておきましょうか。売った時この大きさなら一食分は堅いでしょうから。前父(宰相)が魔石の取引っぽいことしてましたけど、みんな大きくて6テリィ(約3センチ)くらいでしたもんね。
街に出た時無一文だったらもはやホームレス(今そうなのでしょうか?)ですもんね。宿賃くらいは出したいです。
そんなこと言ってたら、スライムが死んでしまいました。私が殺したことになるようです。魔法に当てられましたかね。
小指の爪ほどの小さな水色の魔石だけ残りました。
...小さすぎて捨てるのすら馬鹿らしいです。カバンのスペースほぼ食わないので。
というかここで野宿なんて致しましたら間違いなく死にますね。とっとと森を突っ切りましょう。もう夕方ですけど。
腕輪、はめてみましょうか。死にたくないので。毒とかかもしれないけど色そんな怪しくないんで大丈夫でしょう。
透明で何やら複雑な紋が入った腕輪ですが、はめた途端ピカッとなって私の腕にピッタリになりました。サイズ調整の魔法付きですね。
魔力込めてみました。
すると、ピューーーーと蜘蛛の糸っぽいものが腕輪の手首らへんから出てきました。結構な代物ですね。木に向かって打ってみました。くっつきましたね。すごいですね。すごいですけど、これ売ればかなりのお金になったのでは?
先に気づく可能性はなかったんだよと自分に言い聞かせるのに10秒ほどかかりましたね。数えてみてください。10秒って長いですよ。私にとっては。
さて、私は勉強ができる方でした。いじめられるくらいには。1番の得意科目は算術で、学園(1年で飛び級してやめましたけど)で1位を外したことがございません。2番目に得意だったのが生物科ですね。知らない名前の魔物はいないとまで言われました。弱点も抑えていたのですが、即死魔法じゃ関係ありませんね。ちなみにこの蜘蛛の名前はネーベルシュピンネ。多分亜種です。霧があるところによく出てくることからこの名前がつきました。弱点は火ですね。使えないですけど。
ちなみに今霧はかかっていません。やっぱり机の上だけの勉強じゃなきゃダメですね。
すみません、さっきの訂正します。やっぱり全科目一位譲ったことございませんでした。まあ算術は満点だったのでやっぱり一番得意ですけどね。
なぜこの話をしたかと言うと、単にちょっと寂しくなったからと、地理の勉強を思い出して最短距離で森を突っ切りたかったからです。
自分で言うのもなんですか即死魔法はかなり危険なのでステータス測定をしたところから最短距離の国境の塀からポイされました。つまり、この森は地図で言う国境を隔てるように連なった森。あの薄い森ですね。15000分の位置の地図で6テリィだったあの薄っぺらい森ですね。つまり90000テリィ、90テフィですね。短いですね。もう2/9進んでいるではありませんか。蜘蛛の腕輪で動きを止めて、即死魔法で殺せばいけますね。
行きますか。
日が沈んだ頃ようやく森を出ました。やっぱり近くの公園の森、くらいのサイズ感でしたね。
戦果はネーベルシュピンネの魔石13個と、腕輪7個(自分でつけているの以外)、蜘蛛の糸7メートル分、スライムの魔石207個、ネーゲルシュランゼの魔石2個とその皮1個。
ドロップ品の蜘蛛の糸はサラサラした感覚だったので、戦闘には使えませんでした。あとスライムは腕輪だけで殺せましたね。水分を奪ったのでしょうか。
腕輪は売る分が確保できて嬉しいです。多少財布も潤うことでしょう。
ネーゲルシュランゼは蛇なのですが、音を殺してくる以外なんにも怖くありませんでした。ネーゲルシュピンネが天敵みたいでしたし。蜘蛛の糸プラス即死魔法で簡単に殺せました。
ネーベルシュピンネが絡まないのは自分の糸だけと言う超イージーモードだったので抜けられた感じですかね。
ちなみにレベルは9まで上がり、即死魔法は初確認の魔物の撃退ということで7秒で発動できるようになりました。
イージーモードですね。
さて、振り返りはここまでとして、街に行きますか。
というのも、目の前がでっかい塀なんです。魔物が出るんだから当然ですが、少し寂しいです。
幸いにも25テフィくらい歩いたところで門見つけました。ガッチリ閉じられていますが、ノックしてみます。
「なんだ?」
鉄格子になっているところから顔が見えました。
「人です。街の中に入れてください」
「なんで森の方にいる?」
「ちょっと遊びに行っていたんです」
私は嘘をつきました。国外の人と言った他警戒されそうですからね。
「遊びに行くところではないし、出した覚えもない。お前貴族か?」
服が泥で汚れているとはいえ平民の服ではないですよね。
「ええ」
「この国の者か?」
「.............」
やばいですね。
「.......とりあえず入れ。死なれても後味が悪い」
「ありがとうございます!!」
何という人情家さんでしょうか。優しい。
ぎぃいと門が開き、入ります。
「お前は誰だ?ヴィレーラリアの者か?貴族か?追放されたのか?されたならなんでだ?どうして生きている?ここで生きていくのか?稼ぐあてはあるのか?お金は持っているのか?...ああすまない質問攻めしたな」
「私、ディリアーネ、ヴィレーラリアの者です。貴族です。追放されました。スキルが不吉だったからです。その質問は言っている意味がわかりません。ここで生きていこうと思います。とりあえず魔石を換金します。お金は持っていませんが宝石を少しだけ」
「あ、ああ。そうか。その質問ってなんだっけ(答え責めされたな...)」
「なぜ生きているのか?」
「あ、ああ。そうだったな。じゃあ換金が第一だな。ギルドに行け。そこを左折して直進だ」
「ありがとうございます」
本当に優しいお方ですね。身の上完全にバレましたけど。
道を左折して10テフィほど行くと、ウィレジアヌ語で書かれた“冒険者ギルド“の看板がありました。ここですね。
中に入ると、とても涼しいです。3つ窓口があって、左から換金 クエスト 販売 でした。左ですね。
窓口には、とても可愛らしい受付嬢がいて、要件を聞いてきました。
「この魔石を換金してください」
「分かりましたー、って大きいですね...!」
「そうかもしれませんね。いくらになりますか?」
「ちょっとギルマスに聞いてきますね」
めんどくさいですね。
「はい、ネーベルシュピンネの魔石、こちらは大変質が良く大きく、かつ貴重なので、一つあたり10万ジアヌ(40万円)となります。糸ですが、貴族の方に需要があるので1メートルあたり1万ジアヌ。腕輪はこちらも一個10万ジアヌで買い取りましょう。ネーベルシュランゼの魔石は一個2万ジアヌ、皮は3万ジアヌ、スライムの魔石が1つ当たり10ジアヌ、計214万2070ジアヌでいかがでしょう」
「それでお願いします」
思いがけず結構な大金が手に入ってしまいました。800万ラリアに相当するではありませんか。平民なら5年は家族で余裕で暮らせますね。
「あの、ギルドに所属しませんか?ギルドカードには自分しか出せないお財布みたいな機能があるので」
いいですね。こんな大金貰ったら盗まれて終わりですから。それでお願いしますと言うと、銀色のカードをもらいました。触るとぴかっと光って、体の中に吸い込まれました。すごいですね。これ作った人はいいスキルを授かったんでしょうね。
「念じると出せますよ」
本当にいいスキルを授かったのでしょうね。これを作った方は。いいですねぇ。
手に出そうとしてみると“シュッ”とカードが出てきました。そこには
ディリアーネ
レベル 9
スキル 即死魔法
所持金 2142070ジアヌ
思ったよりプライバシー有りませんでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺の名前はロイド。危険な魔物がうじゃうじゃいる国境の森から街を守る仕事をしている。門から確認できた魔物の数を報告するのも重要な役目だ。
いつものように夕食を門の前で夕食を取っていると、門が叩かれた。
ーー魔物か?ここまで来たのか?こんなことなかったぞーー
焦りながら独り言ながらなんだと呟く。すると、
「人です。街の中に入れてください」
うをっ!びびったぁ。人か。じゃあ...
「なんで森の方にいる?」
女の人が入って生き延びられる場所ではない。遊びで入れる場所ではーー
「ちょっと遊びに行ってたんです」
ない!!!!!
しかし、身なりが綺麗だな...。茶髪に青い目。貴族か?だとしたらなぜ?そのことを伝えると、答えはイエスだった。
そして、
「この国のものか?」
「.............」
オイ...
怪しかった。
とりあえず中に入れるか。非力な女性だし、死なれても後味が悪い。
中に入れてから、とりあえず気になったことを全部聞いてみた。すると自分でも順番なんて覚えてない質問を、(多分)順番通りに答えてきた。質問を忘れてたせいで恥を書いたが、とにかく頭がいいことがわかった。とりあえず換金のためギルドに行くことを勧めておいたが、これは要報告だな。怒られるかもしれないが、上司は人情家なのできっと大丈夫だ。
あ、そういや不吉なスキルって言ってた。
大丈夫かな。俺。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふう。宿を取ることができました。そういえば夕食とってなかったですね。私が大好きな子羊の香草焼きとジェラートが食べたいです。いろいろあった日ですし、臨時収入ありましたし。
香草焼きの匂いを探りながら街を歩いていると、小洒落た雑貨屋さんが目に入りました。...身一つでここまで来たわけですし、何か小物を買ってもいいですね。そう思って店に入ると、
「パンパカラッタンターン♪」
腰を抜かしかけました。お店に入って突然耳元でラッパの音が鳴り響くなんて前代未聞です...!何事でしょうか。まさかこの音がこの店の普通!?すると受付の可愛らしい女の子が駆け寄ってきて、
「おめでとうございます!あなたは当店1000人目のお客様です!500ジアヌ以下のお好きな商品を一つプレゼントいたします!」
.................
結構繁盛しているんですね。うふふ。
...現実逃避してしまいました。実は結構嬉しいんです。500ジアヌって意外と大金ですし、受付の女の子可愛いですし。
さて、どれにいたしましょうか。500ジアヌ丁度くらいがいいですね。このペンケースなんてどうでしょう。470ジアヌ、いいですね。木彫りの感じが優しいです。今靴下が少し破けていますからこちらの美しい薔薇の刺繍の靴下もいいですね。どれにいたしましょう。
と、視界の片隅に美しい髪飾りが目に入りました。羽がついていて、中央には魔石のような何かが光っています。とても可愛いですね。私の茶髪にも合わない色ではないですし。
525ジアヌでした。
...普通に買いますか。でも、
「こちらの商品を25ジアヌでいただくことはできますか?」
「いいですよー!」
お店サイドは寛容でした。即購入しました。
25ジアヌしか落とさない不景気な買い物を済ませ、髪飾りをつけてもらってお店を出ました。時間も8時を回り、いよいよお腹が空いたので香草焼きの匂いを探ります。考えてみればステータス測定からまだ10時間しか経っていないのですね。
ハーブの匂いを見つけ鼻をピクピクさせつつ辿っていくと高級そうなヴィレーラリア料理店を見つけました。ここなら間違いなく食べられそうです。こちらではハーブよりスパイスの方が好まれるらしいので。
入店すると、ちょうど1席空いていました。そこに座り、ウェイトレスに香草焼きを頼みます。600ジアヌ、結構しますね。すぐに出てきましたけど、パリッとした皮にジューシーなお肉、ハーブが効いたオイルがとても美味しいです。また来ることと致しましょう。
宿に戻り、宿備え付けのパジャマを着ます。まさかこれを使う日が来るとは思いませんでした。歯を磨き、ベッドに入ります。なんだ、メイドがいなくても大丈夫じゃないですか。現役公爵令嬢時代は甘やかされていたようですね。
さて、今日を振り返ってみましょう。
6:00 起床
9:30登城
10:00ステータス測定
10:01追放 公爵令嬢引退。
14:00国境到着
17:?街に到着
22:00現在
...色々ありすぎでしょう。疲れました..
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は追放になった貴族の女、ディリアーネが森から来たことを上司に伝えた。すると上司は大騒ぎして外交大臣の館へ駆けて行った。上司は聞いたことがあるらしい。“公爵令嬢ディリアーネ“と言う名を。公爵令嬢だったのか。しかもとびきり頭がいいらしい。すごい人だったんだな。
上司が特別に教えてくれたが彼女のスキルは即死魔法だったため追放されたらしい。不吉ってこのことか。なんだ、もっと無差別とか呪いとかそう言う系かと思った。
彼女は騎士が王城へ連れて行ったそうだ。
悪い人じゃ無かったな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めたら朝でした。
...そりゃそうでしょうね。すみません、こういうの癖なんです。
さて今日はとりあえずドレスを買い、身なりを整えたいと思います。そしてちょっとお金を稼ぎたいと思います。意外と私強いですし。
鏡の前に立つと、髪の毛がぼさぼさでした。いつもは梳かすだけでしたが、ちょっと気分を上げたいのでよくお母さまがしてくれたハーフアップにしてみますか。
うん、いいですね。メイド意外といらないかな。
ギルドカードがあるので財布とかいらないのがいいですね。身が軽いです。じゃあ、行きますか。
「トントン」
なんでしょうか。ちょっと怖い。人...ですわよね。宿をノックするなんてあまり聞いたことが...。黙っていても訝しが.......られますま出ますか。
ガチャリ。
「はい、どちら様でいらっしゃいますか?」
「騎士団のものです。ディリアーネ嬢でいらっしゃいますか?」
「......................」
「......................ちょっと本部でお話を」
「...............…….はい、わかりました」
間の抜けた会話ですわね。
現実逃避はさておき、私今かなり後悔しています。偽名使えばよかったですね。知ってる人なら知っています。公爵令嬢ディリアーネ-エルネスト。エルネスト家の才女で、学校を一年で卒業した謎の女。敵対国家とは言え国境の森も空は空白ですし、関わりはあるのです。
騎士様に連行されつつ、昨日行った雑貨屋さんが目に入りました。<新作髪飾りできました>と張り紙がしてあります。ぜひまた行きたいですね。さっさと解放されたいです。やめてほしいですね。ほんと。
連れて行かれた先は王城思しき建物でした。とても大きいです。ヴィレーラリアの王城の倍くらいあります。騎士様は顔パスで門を通り、8テフィはありそうな庭を通り、階段を登って行きました。無論それに付いていくわけですが、何しろ歩くのが速く、階段の手前の時点で1テフィほど間が空いてしまいました。それでも無視して階段を登っていってしまうので、騎士様の足音が止まった頃には見えなくなってしまいました。
ふう、はあ、、
やっと着いた時には騎士様ともう1人の金色の長い髪の男の方が紅茶を飲み、半分くらいまで減っていました。...飲むの早くないですかね。
「ああ、やっときたか」
この方鬼でございますわね。この階段急だったんですよ!?3段飛ばしとか訳わかりません!
ぜーぜー言いながら半ば切れていると着席を促されたので座ります。ふかふかですね。ふう。
「ディリアーネ嬢ですね」
「はい」
足掻いても無駄みたいですね。鑑定されたくないし、嘘は得策ではありません。殺す気ならとっくに殺せるはずですから。
「あなたは即死魔法のスキルを授かって王国を追放されましたね」
知っているんですのね。ではなぜこのように接するのでしょうか?危ないとか考えないんでしょうか。
「あなたにはこの国の国籍を取得していただきます。そして、この国のために尽くしていただきます」
「いきなりそんなこと言われても困ります。私はこの国の市井で暮らしていく用意があります。人は殺しません」
公爵令嬢は引退したのです。
「王国のことを好きか?」
「嫌いです」
「即答か...。そこで君に相談なのだが、王国を倒す手助けをしてほしい。直接的な戦闘ではなくね」
どう言うことでしょうか。私に王を殺せとでも言うのでしょうか。
「この国に居座るドラゴンを倒してほしい。居場所はミスリル鉱山。ドラゴンのせいで閉山したがね。ミスリル鉱山が復活すればこの戦争はより短期間で終わる。ドラゴンのレベルは1009。君なら倒せるはず」
私のレベルがあと1低ければ倒せないって言えましたのに。
すると、騎士様の隣に座っているもう1人の男の方がこちらを見つつ言いました。
「こちらが君を警戒しなかった理由だけど、“君よりも危険な魔法使いがいる”からなんだ。例えば強い強いと持て囃される爆炎魔法だが、今ここで放たれれば私たちは死ぬ。即死魔法と同じだ。放たれれば避けようがない。むしろ殺傷力では爆炎魔法の方が上だ。しかし、爆炎魔法ではドラゴンを倒せない。一方で、即死魔法はドラゴンを倒せる。どうだね?君は爆炎魔法より人に優しいスキルを持っているのだよ」
即死魔法が爆炎魔法より上?そんなはずはないです。ないですけど....涙がこぼれてきました。
どうしてでしょう。私がこのスキルを授かったのは。
どうしてでしょう。殺しなんてしたことないのに。死ねと思った人なんていないのに。即死魔法なんて使わないのに。なんで追放なんかされたんでしょう?彼の言う通りもっと危険な魔法だってあるのに。
畳み掛けるように優しい目をして彼は言います。
「君の即死魔法で、ドラゴンに怯える人たちを救うんだ。そして、腐ってしまった王国の、国民を」
ああ、きっといいように使われるだけでしょう。だけれど、それでもいい気がします。だって彼の言葉は、スキルを授かってからずっと持っていた劣等感を、ちょっとした誇りに変えてくれたのです。ようやく自分を肯定できる気がします。こんなにも、私は寂しかったのですね。国境で私をおろした御者は私を怯えの目で見ました。雑貨屋さんに行った時も、この受付嬢さんも私のスキルを知ったら私をおそれるんだろうなって思いました。
それを国益のためとは言え優しく否定してくれた彼はとても眩しくてーーー
「1週間後。討伐隊を私の私費から組もう。君がドラゴンを見て、そこから時間を稼げばいい。発動までは何分かかる?」
ハッとしました。討伐隊を私費で?と言うことは騎士様ではないのですか?金髪に優しい青い目をした人。軍服を着ているけれど、騎士様ならそんなお金ないはず。騎士団長にしても、私費で組むなんて言い方しないはず。
彼は長い髪をかき上げました。その金の髪の下にあったのは―――
“皇族紋”。
皇族である、何よりの証。金縁で中は虹色のウィレジアヌ帝国の紋章。
私は慌てました。先程あのような感情を持ってしまった相手が皇族?今更帝国式の方法で礼をすべきでしょうか?しかし臣下の礼をするのは帝国民だけのはず。これまでの非礼を詫びる意味で頭を下げた方が良さそうですが、彼は名乗っていないし、何より今更感が否めません。そんなことを考えていると、私が気がついたことに気がついたらしい彼の方から話をし始めました。
「ああ、確かに私は皇族だ。しかし、気にしなくていい。それより、発動時間はどのくらいかと聞いている」
それより、ですか...。気にしないわけには行きませんのに!
「発動時間は7秒です。大変失礼とは存じておりますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
自分でも思い切ったことをしたと思います。けれども、彼が皇太子なのか、王子なのか、はたまた王弟なのか知っておかなければ態度を決められません。きっと向こうも私を殺すようなことはしないでしょう。
「フリードリヒだ。この国の第二皇子。それにしても7秒とは速いな。制約は?」
帝国では第二皇子すなわち次期王弟は軍務を主に担当いたします。
「フリードリヒ殿下でございますね。制約はその7秒間対象から目を離さないことでございます」
「容易いな。ドルト、考えられる障害は?」
騎士様はドルトと呼ばれました。どこかで聞いたことがある気が致しますね。
「ドラゴンはおそらく倒せるでしょうが、倒した後のディリアーネ嬢の待遇ですね。国の功労者ですから、他国の者とするのではなく爵位を与えた方がいいと思います」
ありがたい気もいたします。
「ああ、それは問題ない。倒した暁には我が正室の席を用意する」
「おお、そこまで考えていらしたとは」
は、い?私は一瞬固まりました。どう言うことでしょうか...?そんなに急に言われても困りますし、倒せるらしいことがわかったにはさっきですし、私の意思ガン無視ですし、殿下に婚約者がいないことが前提ですし、殿下がいくつかも知りませんし...やっと声を振り絞って
「あ、あの...?」
と言ったら、
「嫌だったか...?断っても叶わないのだが...父上にドラゴンを倒せるぐらいしっかりした女性を娶りなさいと言われたし、私もそこそこ、いやこの言い方は悪いな、結構、ディリアーネ嬢を気に入ったのだが...。ちなみに歳は14だ。来週15になるスキルはまだわからないが...」
と返されました...。
皇帝陛下、何をおっしゃっているのですか...!というかその子犬のような目やめてください...!私も殿下の言葉に感涙いたしましたが...、こういう時なんと言えばいいでしょうか...?はい喜んでーというのもお断りするのもダメな気がいたしますが...?ていうか年下...!
「年下はダメか...?」
不躾ながら殿下にかわいさを覚えてしまいました。上目遣いがあざといです...!
「王国への侵攻は陛下が直々に取り仕切る可能性が高いから、ドラゴンを倒したらすぐに結婚でもいい」
公爵令嬢だった頃は政略結婚する予定だったのですが...!結婚ってこんな甘々(?)なものなのですか?!
なんか素敵ですね...!
「ドラゴンを討伐する件はお受けします(意外と言っていなかったですね)。フリードリヒ殿下との婚姻は考えさせてください」
「...わかった!トルド、剣聖の名にかけてしっかり彼女をドラゴンから守れよ!」
トルド、剣聖トルベルド様!道理で聞いたことがあったわけです。すごく強いらしく、ネーゲルシュピンネを一太刀で千切りにしたとかなんとか。15年前の“帝国の危機”こと大海嘯のさい多大な貢献をしたことにより剣聖の名を皇帝陛下より賜ったそうです。
「じゃあ、1週間後また会おう!」
さわやかな顔でそう言われましたが、しばらく私は王宮に滞在ことになりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私の名前はフリードリヒである。即死魔法を授かり追放されたと言う彼女がゼーゼー言いながらも淑女らしく音もなく椅子に座った時、なんかいいな、と思ってしまった。明るくて、自力で森を抜ける逞しさがある。
茶髪に青い目。髪飾りが可愛くてよく似合っている。ハーフアップも素敵だ。トルドと会話している様子を見て思った。とても優しい。
即死魔法なんて怖く無くなった。彼女は良識がある。
トルドの王国が好きかと言う質問に対して嫌いですと即答した彼女には、王国への憎みと同時に悲壮感が漂っていた。きっとなぜ自分が、と思っているに違いない。そう思って全く自分達があなたのことを怖がってなどおらず、むしろドラゴンを倒せるすごいスキルだと言ったら、彼女は泣き出してしまった。寂しかったんだろう。
ドラゴンの話をしていると、私が皇族だと言うことに彼女は気がついた。すごいな。他国のものなのに。しかし、あんまり気にしてほしく無かった。彼女に普通に接してもらいたいと思った。なんとなく、私はやっぱり彼女を好きになっていた。
トルドにドラゴンを倒したらどうするか、と言う話をされた時、思った。彼女はドラゴンを倒した功労者となるのだ。ならば、私と結婚していいではないか。父も“ドラゴンを倒すぐらい頼もしい女性を娶れ“と言われていたではないか!
トルドにドラゴン討伐の際の彼女の護衛を頼み、彼女は与えられた部屋に入っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フリードリヒ殿下...
ふかふかな王城のソファに座りながら考えます。私は優しい言葉と甘い口説き文句で彼にゾッコンになってしまったようです。口説かれたことなんてこれまでになく、政略結婚のための釣書が何通かきただけ。彼の上目遣いが頭から離れません。私ってお願い事に弱いのでしょうか。
“コンコン”
誰かいらっしゃったようです。
「どなたですか?」
「アーミア-デフィトロス、公爵家のものですわ」
「まあ、どうぞお入りになって」
公爵家の方が私になんの用でしょう。
ゆるりと入ってきたアーミア様はこちらを見て貴族の笑みを浮かべました。ーーその笑みは、フリードリヒ殿下のものと違って優しくなくてーー
「あなたがフリードリヒ殿下とお話になったと聞いてきたんですの。あなたフリードリヒ様を狙っているの?」
あ....
「フリードリヒ殿下はとても優しくあられるから、勘違いしない方が身のためですわよ」
そう言って彼女は手に魔法陣を浮かべーーー
「風手裏剣」
え?
「いやーーーー」
どんっ
ーー来るはずの痛みがきません。
目を開けると、はぁはぁ吐息を切らしたフリードリヒ殿下と崩れ落ちているアーミア様ーーー床には割れて光となりかけている魔法陣ーーー
「ディリアーネ、大丈夫か!?」
殿下......!
助けに来てくださったのですね...!
「殿下...!あ...」
そこからしばらく私は気を失ったようです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めたら、そこには殿下の顔がありました。はっとして体を起こすと、
「大丈夫?まだ横になってな。疲れてるんだよ。今日昨日と色々ありすぎて」
と言われました。その顔は、あの優しい笑顔に包まれています。とても癒されます。とても落ち着いた気持ちになって、私はまた寝てしまいました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アーミア嬢がディリアーネの部屋に入っていくのを見た時、嫌な予感がした。慌てて部屋の方に行き、ドアに耳をつけると、
「ーー勘違いしない方が身のためよーー」
え?
不意に、魔力の動きを感じた。
同時にディリアーネの悲鳴ーー
咄嗟にドアを開け、アーミア嬢に背後から手刀を入れて気絶させる。その手には風の魔法陣が3つ起動されていた。
ーーアーミア嬢はディリアーネに傷をつける気だったんだ。おそらく、顔に。
許せない。勘違いってなんだ。どんな理由があろうとディリアーネに傷をつけていい理由にはならない。
「ディリアーネ、無事か!?」
焦って問うと彼女は
「殿下...!あ...」
と言って気を失った。
医者を呼んで彼女に異常がないか確認してもらった後、彼女のベットの脇に座っていた。きっとディリアーネはアーミア嬢に酷いことを言われたのだろう。きっと倒れたのは恐怖と心労だ。
ディリアーネの目が覚めたが、まだ疲れている顔をしていたので眠るように言うと、彼女はあっという間に寝てしまった。よほど疲れていたのだろう。国境の森を抜けるのは魔法があってもかなり疲れるはずだし、今日の件もあったし。
先ほどより穏やかになった彼女の寝顔を見ていると、自然と顔が綻んだのを感じる。彼女と結婚したいな。そんなことを考えていたら、私も寝てしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
起きたら殿下が私のベットに頭を置いて眠っていた。私を守ってくれた優しい殿下は寝顔も優しくて、ほっこりした。
「殿下、起きてください」
できるだけ優しく声をかける。
「んん...」
可愛いですね...
「あ、ディリアーネ。起きたのか」
目を擦りながら言う殿下はとても愛らしいくて...。
「ええ。殿下のおかげで助かりましたわ」
本当に感謝しても仕切れないです。
「気が向いたら、いつでも結婚してね。ディリアーネ。漬け込むようだけど、君は殺す以外に自衛手段を持たない、か弱い存在なんだ。私に守らせてもらってはダメか?」
ズキリと心が痛みます。
「ーー殿下には私よりふさわしい方がたくさんいらっしゃいますわ」
「アーミアにそんなこと言われたの?」
図星です。でも、彼女の言っていることはもっともだと思うのです。
「殿下は優しい方ですもの」
「私はそんなに信用がないのか?できるだけみんなに優しくしようとはしている。だけどこんなに口説いてるのはディリアーネだけだよ」
「でも殿下は...「私のことは嫌いか?」...好きです。優しいから。でも「じゃあ結婚してよ。命令にはしたくないし、ディリアーネの意志が一番大事だけど遠慮なんかしないでよ。私が授かるスキルにもよるけど、ふさわしいかどうかとか私が決めることだろう?」...そう、ですね」
言いくるめられてしまいました。好きな方に口説かれて反論なんかできません。でもーー
「ドラゴン討伐が終わったらお返事いたしますね」
「...ありがとう」
私は結局、保留にしてしまいました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王城で襲われた次の日。私は気分転換のために髪飾りを買うことにしました。王城を出て、雑貨屋さんに向かいます。歩いていると、果物やスパイスの食欲を誘う匂いがどこからか漂ってきます。今夜は王城ではなくこちらのお店でディナーをいただきましょう。
雑貨屋さんに着くと、ガラス越しにあの受付嬢さんが笑顔をむけてくれました。微笑み返して入ります。中央にあるツリー状の棚にさまざまな髪飾りが置いてあります。羽をあしらったものや、
ドラゴン討伐の日が来てしまいました。今日は北の山の方まで行き、ドラゴンを見て7秒で終わる予定です。
北の山までは転移師さんが連れて行ってくれます。大変な魔法なので行きはドレーゼさん、帰りはセルテアさんと別の方が私たちを移動してくれます。
トルドさんをはじめとした護衛の方や殿下と魔法陣の上に乗ります。
ぐにゃりと空気感が変わった気がして目を開けると一面真っ白な風景が広がっていました。美しい山岳が目の前です。見とれていると、何か火山の火口のような、くぼみが見つかりました。訝しく思っていると、殿下がこちらへきて、
「あそこがドラゴンのいるところだよ」
と教えてくれました。
大きいですね。200テフィあってもおかしくはないような感じがします。
みんなでそちらの方まで行って、くぼみのそばまで寄ります。すると
氷を纏ったドラゴンの姿がありました。
「ディリアーネ、魔法を」
はっとします。
ーー“即死魔法 発動”ーー
あと7秒。どうか何もおこらないで。
ごごごごごごごごごごごごごごごご
地響き!?ドラゴンーーこちらを向いています。
「ディリアーネ。ドラゴンから目を離さないで」
気を抜いたらすぐ目を逸らしてしまいそうな圧倒的なオーラ。こわいーー
ドラゴンはこちらをまっすぐ見て口を開けーーーーーーー
そのまま倒れました。
1000年生きたと言われるドラゴンの最期ーー
ーーーレベルが上がりましたーーー
ーーーレベルが上がりましたーーー
ーーーレベルが上がりましたーーー
ーーーレベルが..........
あ...
足の力が抜けるのを感じます。よかった。本当によかったです。
とても怖かった。
ーーーー私は殺さないと自衛ができないーーーー
あの最後のドラゴンの顔ーー断末魔ーー
「殿下.....結婚してください。あなたが成人したら。戦争が終わったら。私を...守ってください...。あなたのスキルなんて関係ないから」
「ようやく言ってくれたんだね。うん。結婚しよう。私が成人して、戦争が終わったら。ディリアーネのこと、守るよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミスリス鉱山が復活して魔術具が早急に作られた。ドラゴンの死から1ヶ月、帝国は王国に宣戦布告した。
王国はドラゴンによりミスリルの生産が止まっていると思い込んでいたので、魔術具による奇襲によって甚大な被害を受けた。
1週間足らずで戦争は帝国の勝ちに終わり、王族などは厳重に処罰され、王は処刑された。即死魔法によって。ディリアーネが希望したのだ。私が始めた戦争でもあると。
その後、領主としてフリードリヒ夫妻が派遣された。
ディリアーネの強い要望から、元々ディリアーネのいた公爵家は処分を免れた。
フリードリヒはスキル“英知”を生かして善政を敷き、賢王として後世に残る。彼は妻のことをとても愛しており、愛妻家としても名を残している。
ディリアーネは魔物を狩るためドラゴンの剣を持ち最前線に出て、国を守った。しかしフリードリヒは、常に魔法が付与されたお守りを10個以上持たせていたと言う。
2人はあたたかい家庭を築き男の子と女の子を1人ずつ授かった。どちらも健やかに、国民に愛されながら育った。守りあい、守られあう家族だった。
夫婦はとても長生きしたが、遺書は2人全く同じことを書いていた。
”いつまで経っても愛しています“
ー終ー
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