父さんの謝罪
電車に揺られ、私と真田さんは私の実家へと向かう。
都心中央の高級住宅街の中にある一軒家。敷地も広く、家の前にはきちんとした門がある。うちは和風のほうが好きだということで、平屋建ての一軒家。
門の前に立つと、真田さんがひえー……という声を出していた。
「え、えっと、インターホンってのはどちらに……」
「いや、押さなくてもいいよ」
そういうと、守衛の人たちが話しかけてくる。
警備員の格好をしている男の人たち。
「えっ、えっ?」
「夜桜 時雨の友達といえばいい」
「え? あ、よ、夜桜 時雨の友達、です?」
「時雨様の? お手数ですが、証明できるものは……」
「私を見せろ」
「は、はい」
私は守衛の人たちの前に立つ。
「私の友人だ。入れてくれ」
「はっ。それにしても、話しには聞いておりましたが本当なのですか……」
「本当だよ。こんな姿になったのは聞いてたんだな。いつか尋ねてくるのも予想済みだったってわけか……。ほんと何考えてるかわかんねーな」
そういうと、門が開く。門では、父さんと母さんが立っていた。その隣にはスーツ着た人がその手はず通りにといって真田さんの横を通り過ぎていく。
真田さんの体は一気に硬直した。
「えっと、君は……」
「え、あ、時雨さんの友達でひゅ!」
「そうか、時雨の……。そういえば、前回私たちが行ったときにもいたね……。本日は何の用かな」
「あ、えっと、時雨さんが使っていたっていう勉強の教材を……」
「それか。ならば持ってこさせよう」
そういって、執事の人に指示を出す父さん。
「時雨の友達……。名前をうかがってもいいかな?」
「さ、真田 茶子といいます」
「真田さん。いい名前だ。真田さん。ぜひお茶する時間をくれないかな」
「えっ?」
「やめとけよ。ろくなやつじゃないから」
「時雨もいるのか。ちょうどよかった」
父さんはぜひといって、来客室に真田さんを招く。
紅茶を出してきた。
「それで、時雨はどうだい? しっかりした子だろう?」
「え? は、はひっ」
「緊張しなくてもいい。時雨の友人をむげに扱うことはできないよ。ただでさえ私は時雨に恨まれているような人間だからね……。これ以上の罪は重ねられないさ」
そういって、優雅に紅茶を飲む父さん。
「時雨の体が亡くなったこと、それは私たち家族全員に罪がある。もっとあの子を見るべきだったと今でも思っている」
「ほんとかね……」
「だから、君に聞きたい。時雨は、今……楽しそうにしているのかと」
「いや、それなら直接私に……」
「主観的なものではなく客観的なものがほしい。自分は楽しんでいても他からみたら楽しくなさそうに見えたら本当に楽しめてると言えるのかね?」
それは言えないとは思うけど。
「えっと……。毎日笑顔になってるくらいには楽しそうですけど……」
そういうと、父さんはふっと笑う。
「そうか……。なら、今が本当に楽しいのかもしれないな……」
「本当に、ごめんなさいね。時雨……。私たちは……」
「いいよ。別に」
「すまなかった。私は……誰かを育てるということに関しては役立たずだった」
今頃気づいてどうするんだよ。
話を聞いていると馬鹿らしくなってきた。こんな親も、こんな親に怒りを抱いていた自分もなにもかもが馬鹿。ほんと、バカ。
「時雨……。時雨が望むのなら私は時雨への支援を厭わない。時雨の親として……頼れることは頼ってほしい」
「そう。じゃ、遠慮なく頼るよ。だけどその前に……その謝罪は本心から言ってるんだろうな? 弥勒さんに何か言われたから……っていうわけじゃないだろうな?」
「本心だよ。私は弥勒さんから叱られ、周りから叱られ……悔いるしかなかった。弥勒さんのところで見ただろう? 仮初の肉体を……」
「知ってるの?」
「知ってるのは私と弥勒さんと真毅さんと、開発した人しか知らない」
なるほど。まぁ、あれは広めちゃいけない。
「あの費用は全額、私のほうから出した。時雨が戻ってくるのなら……と」
「……仮初の肉体?」
「……誰にも言うなよ真田さん」
「えっ」
「その、なんだ。人工的に作った体があるらしいんだよ」
「それって人体錬成じゃないですか!? 等価交換の法則は!?」
それってどこいったんだろうなー。あの人楽しそうにしてたからそんなこと考えてないんだよなー。
「その中に私が入れることは前に確認した」
「そ、そうなんですか。ならその体でいたらよかったのでは?」
「いや、その体だとゲームができないみたいでな……」
「なるほど」
「だからしばらくこのままでいることにした。こっちのほうが自由だし」
「自由か……。そうか」
父さんは優しそうに微笑んだ。
「持ってまいりました」
「えっ、これ全部……ですか?」
「あー、そういやこの量はこなしてたなぁ……」
「こんな多く持って帰れませんよ! 高校二年生の範囲だけでいいので……」
「いや、それ全部高二の」
「え゛っ」
広辞苑を十冊積み上げたような感じの厚さ。もちろん細かい冊子なのだが、十数冊はこなしていたので割とある。
「送っていけ!」
「はっ」
「あと、これはお土産として持っていきなさい。福島から取り寄せた桃さ。甘くて美味しいよ」
「父さん相変わらず果物好き……」
「はは。果物は万人が好きだからな」
真田さんは冊子を持ち上げ、執事さんが桃を持つ。
「お帰りだ。また来てくれ。真田さん。時雨」
「は、はいい」
なんか、ごめん。




