禁忌を踏み越えていく者 ②
目の前にあったのは培養液につけられている人間。子供の女の子の体。
なにこれ。ディストピア?
「え、なにこれ」
「……クローン人間だ」
「なんですかそれ」
そんなの作れるんですか?
「これに入ってもらいたい」
「……なんで生命をそんな簡単に冒涜するんですか?」
クローンって生命の冒涜でしかないだろ。生命は生まれることはあっても作り出すことができないのが普通の倫理だろ。倫理観失くしちゃったんですか?
つっこみたいことは山ほどあるが、逆らえるわけがないんだよな。
「これはお前の親に頼まれたことなんだよ」
「だとしてもなんですけどね!? なんでやっちゃうんですか!? ってか科学の技術すごいですね。進みすぎですね。生命を生み出せるとは」
「いや、これは生命体ではない」
生命体ではない?
「入れ物さ。漫画で人体錬成とか人間を作るとかあるだろ? 人間も原子で形成されてるようなものでな、理論上は可能。だけれど、生命を作り出すのはそううまくはいかない。魂や記憶といったオカルトも絡んでくる」
「オカルト……」
「幽霊といったものはすでに証明はされたが、魂など死後は誰にもわからないから解明できていないんだよ。だから、このままだとこの体は動かない」
「はぁ」
「そして、その時に起きたテロ事件。あの被害者たちを救うにはこういったクローンが必要なんじゃないかと踏んだ」
要するに、行き場をなくしてしまった人たちの拠り所が欲しいということか。
それにしてもこれは禁忌でしょ。タブーを犯したらろくな目に合わない……。
「心臓は動いている。脳もきちんと働く。あとは意識が必要なんだ」
「で、意識である私の出番ということですか……。このスマホの中に戻れるんですよね?」
「多分な」
煮え切らない返事だなぁ。
すると、弥勒さんはスマホをつなげた。扉が現れる。黒い扉だった。真ん中には赤い宝石が……。真理の扉?
私はその扉に触れると、開いていく。私はその扉の中に入ると、扉が勝手に締まり、暗い。私は暗闇を歩いていくと光が見えた。
そして、気が付いた時には緑色の液体の中だった。
「気がついた! 成功だな! よし、じゃ、上に登ってくれ! 引き上げる」
そういうと、上の蓋が開き、私は外に出る。酸素吸引装置を外し、自分の体を見てみる。人間の肉体であり、小学生くらいの身長。
いや、女子小学生?
「どこか異常はないか?」
「ない、けど……なんか急に空腹感が」
「そりゃ何も食べてないからな。よし、人間としての機能はあるらしい。空腹のところで済まないがまだやってほしいことがある」
「やってほしいこと?」
「再びこっちに戻れるかということだ」
と、スマホを見せる。私は再び酸素吸引装置を付けさせられ、培養液の中に飛び込んだ。そして目を閉じると、なんだか扉のようなものが見える。
私はその扉に注意を向けると、急に扉が開き、ぽいっと投げ出される。すると、私はスマホの中にいた。
「戻れましたけど」
「なるほど。俺らじゃできなかったがもともと意識しかなかったシグレちゃんは出来るということか……」
「試したことあるんですか」
「ああ。もちろん。だが、俺らじゃそっちに行くことはできなかった。拒まれてるかのように」
「なるほど。肉体がまだある人はもしかすると拒まれるように出来てるのかもしれませんね」
「かもしれないな。だがそれはオカルトの類だ。魂などが関係するのだと思う。そっちは専門外だからわからん」
「そうですか」
私は再び黒い扉に触れ、肉体の中に入る。培養液から出た。
「やっぱ生身の体があるっていいですね」
「そうだな。ああ、だがしかし、そのままというわけにもいかないぞ」
「なんでです?」
「その、だな。そのクローンの体はゲームができない」
「ゲームが?」
「あくまでその体は電脳アバターであるシグレちゃんが入ってる容器でしかない。このヘッドギアを付けてみればわかる。これには俺の持っていたゲームが入っている」
というので、私はヘッドギアをかぶり、ログインしようとして見るも反応しない。というか、生体反応がないということだった。
「心臓は動いていないんだよ。その体は……。血は巡っているけどな」
「心臓動いてないのになんで生きてるんです?」
「……さぁ」
「さぁって……」
「技術班が考察するには、血管自身が動いて血液を動かしているから心臓を使う必要がないということだ。その体は並の人間より頑丈でな……。10mの高さから落ちても傷はないし、ナイフでも突き刺せない」
「硬すぎませんか?」
「そうだ。人間とは似ても似つかないものになった」
これを開発してたとか怖すぎるだろ。現代の闇。
「まぁ、勝手に動き出すことはなかったからな。それより、気を付けるべきなのはシグレちゃんだ」
「私?」
「精神は体のほうに引っ張られやすい。もしかすると、趣味や嗜好が年相応のものになる可能性がある」
……なるほど。中学生の私がいきなりプリキュア好きとか言い出すようなものか。いや、中学生でも見てたけど。
「性別は同じだからそこまで変化はないだろうけどな」
「まぁ、男の子だったら絶対入りたくなかったですね」
男のあそこを何で自らみにゃあかん。
「ま、ゲームできないのはいいですよ。ゲームやめるまではあっちの電脳アバターのままでいますから」
「そうか。わかった」
「ゲーム飽きたらミノルにここに来させます」
私は肉体を得ることができた。禁忌を犯しているが。




