オリエンテーション合宿 飯盒炊爨
オリエンテーション合宿は勉強というだけでなく、きちんと他のこともやる。
例えば、一日目の夜はキャンプ場に移動して自分たちでご飯を作って食べるとか。
「あの、炭はもう大丈夫ですか?」
「起きてます!」
同じ班の男子が炭を起こしている。ミノルはというと。
「おーきさこんなもん?」
「分厚すぎるっての」
私たちの班は簡単に作れる豚丼を作ることにして、ブロック肉を買ってきて切り分ける作業。
真田さんは豚丼のタレを作っており、そちらは手際がいい。
「豚肉なんだからきちんと火を通さなきゃいけないんだぞ。もうちょい薄くだな」
「こんな感じ?」
「そうそう」
私はミノルに口出ししながら手伝っている。
「よし、これで終わり!」
「じゃ、男子が起こしてくれた炭の上に乗せて焼くぞ」
「おーけー!」
網が乗せられ、その上にミノルが肉を乗せていく。その横で班の一人の男子がご飯を炊いていた。
ミノルが肉を眺めていると。
「君たちなんの料理つくんの〜?」
と、髪を金髪に染め上げた男がやってくる。名前は知らないが、見た目的に軽薄そうな男。
こんなやつとは関わり合いたくないんだよな。なんて思っていると。
「あ、ダメダメそんなご飯の炊き方。まずは弱火でじっくりやんだよ?」
「え……」
「そうした方が美味しくなるの。弱火のやり方は簡単で、炭の数を減らして……」
と、美味しくご飯を炊こうとしている。
「あ、ありがとう?」
「気にすんな気にすんな。少したったら炭を増やして強火で一気に炊き上げて、火からあげるんだぞ!」
「ほえー、物知りだねー」
「まあな! で、なんの料理つくんのー?」
「ぶ、豚丼です……」
「いいねえ! 豚はよく焼きなよ!」
なんだこいつ。見た目とは裏腹の言動しかしてないが。
すると、ミノルが肉をひっくり返していた。反対側は焼けており、脂が炭の方に垂れている。
「肉の焼けるいい匂い〜」
「ねー、そっちなんの料理なの? こっち来てていいのー?」
「俺のほうは仕込みが終わったんだよん! だから暇だからこっちに来たの!」
「……ミノル、誰こいつ」
私はミノルに聞いてみると。
「ん? どこから声してるわけ??」
「私のスマホ! 私のしんゆーね、この子!」
と、私を軽薄男の前に突き出した。
「へえ! スマホの中にいるんだ! 名前はなんていうの?」
「夜桜 時雨……。顔近づけんな。圧がすごい」
「時雨ちゃん! 俺は七原 吉竹! よろ〜!」
「よ、よろしく……」
七原という男は軽そうな笑顔を浮かべている。
「ハラン料理うまいもんね」
『そうそう。お兄ちゃんは家事だけは得意なの』
「どっから声してんの?」
『時雨さんと同じスマホの中ですよ』
「あ、紹介するね。俺の妹の詩音」
と、スマホを見せてくると黒髪少女の電脳アバター。この子ももしかしてテロ事件の被害者なのだろうか。
「どうも。同じ境遇の人を見たのは初めてです」
「いや、まあ私も初めてだけど……」
詩音という女の子は中学生のような見た目をしている。私もなんだけど。
そもそも、私が死んだのは中学生の時なのでその時から時間が止まっているのは当たり前。この子も中学生の時に死んだのかもしれない。
「携帯置いとくから詩音は話してなよ!」
「うん」
「シグレもねー!」
「はいはい」
そういって、テーブルにスマホが二つ置かれる。
「……その、時雨さんはなんでその姿に? 延命とか受けなかったんですか?」
「いや、気づいてもらえなかったんだよ。私ちょっと家庭事情があってさ、一人で暮らしてたわけ。学校もよくサボってたから一人でゲームしてだーれも気づかなくて。体の方が死んじゃって」
「……そうなんですか」
「そっちは?」
「……私は気づいてはいたみたいなんですが、その、延命治療するお金がなくて」
なるほど。お金がなくて受けられず、そのまま体が無くなったというわけか。
裕福というわけではなかったんだな。
「ま、こんな姿の者同士仲良くしようよ。つってもいつでも会えるってわけじゃないと思うけど」
「そうですね」
と、少し静まり返る。
「あ、そうだ。詩音さんはアンリミテッドワールドってゲームやってる? VRMMOなんだけど」
「やってませんが……やれるんですか?」
「専用のコードがあれば出来るってミノルがね。もう売ってるんじゃないかなそのコード」
「そうなんですか。でもあったとしてもやらないですね。トラウマが……」
「そう? ゲーム内だと食べ歩きとか出来るし味を感じれるけど」
「…………それだけは、気になるのですが」
「だよね。食べたいという気持ちはあるよね」
私がそうだったからそうなんじゃないかと思った。
「味なんて兄さんのスマホに入ってから一回も感じてませんから……恋しいですね」
「でしょ?」
「ぐっ……帰ったら兄さんに頼んでみます」
そう話していると出来上がったのか、二人がやってくる。
「シグレー! ご飯食べるよー!」
「詩音、出来上がったからいこうね」
そういって。
「それじゃあね」
「はい」
私たちは別れることになった。




