不確定の生命体
私はログインすると、知らない部屋に……というか、ここはたしかカイワレの店だ。
私は起き上がり部屋を出ると、誰もいない。カイワレもログインしてないみたいだ。挨拶してから帰ろうと思ったけど誰もいないなら仕方ない。
私は店から出ようとすると、一人の男が入ってきたのだった。ちょっと小太りのプレイヤー。
「あれ、店主いないのか」
「今日はログインしてないみたいですよ」
というと、奥から誰かが歩いてくる。
「よぅ、おまたせ。で、お客か?」
「あ、うん」
「美味いって聞いたから食べに来たのさ。おすすめくれよ」
「あいよ。席に座って待っててください」
と、男はそのまま席に座る。私もおすすめをちょうだいと告げて、男とはちょっと離れた席に座ったのだった。
「それにしても、店主さんは電脳アバターについてどう思います??」
「どう思うって?」
「バカですよねぇ。あんなのを大事にするなんて。今日も電脳アバターだっていう人を見かけたんですけどね、思わずバカだって思っちゃって」
……それを私の目の前で話すか。
「別に俺はどうとも思っていませんが」
「ふひひ。嘘つく必要なんてないですよ。あんな生きてるなんて言えないものを大事にしてるんですよ? そこまで蘇ってほしいなんて馬鹿ですよねぇ」
「……バカではないと思いますよ。大事にしてる人がいたらもう一度会いたいというのは至極まっとうな思いだとは思いますが」
「それが馬鹿なんですよ。蘇るって、データとして蘇っただけでしょ? 生きてるなんて言えないじゃないですか」
ちらちらとカイワレが私のほうを見てくる。
私は大人なのでこれくらいじゃ怒らない。けど……。会いたかった想いを否定するというのは違うだろ。
生きてるなんて言えない。私が何者か、まだわからない。蘇らせたということは何か使命があるのかもしれない。
私だって日々考えているんだ。
電脳アバターについてだって。本当に私が生きていていいのかって。作り物のまがい物の命なのだ。人はいつか死に、そして、消えていく。
それがあるべき姿。だが、私はその倫理に反している。死にたい、なんてたまに思っていたりもするのだ。
そんな私をバカにしているような気がして。こいつは……。
私は思わず立ち上がっていた。そして。
「死ねよ」
思いっきりその小太りの男を蹴り飛ばす。
「な、なにするんだ!」
「電脳アバターが馬鹿だって? そんなの私自身が一番わかってんだよ。何もわかってないお前みたいなのがそういう風に言うからムカつくんだろうが」
「やめろ、シグレ! お前そのままPKしたらカルマ値が……」
「いいんだよ。別に私は聖人君子ってわけでもない」
私は弓矢を構える。
「邪魔すんなよカイワレ。横から聞いてりゃバカだといいやがって。大事な人もいなさそうなお前にはわかんねえだろうよ。人の気持ちなんて」
「ひい! た、助けてくれ店主!」
「助けるったって……。俺だってちょっと怖えし、自業自得だろ」
「た、助けてくれーーーーー!」
と、男は店の扉を思いっきり開け、逃げていった。私は弓矢をしまう。
「落ち着けよ」
「…………」
「あの男が言うことは真に受けちゃだめだぞ」
「わかってるよ。でもさ、生きてるなんて言えないってのは私自身が一番わかってんだよ」
「……シグレ」
「私自身、データっていうのは理解してるんだよ。魂っていうのかね。それがこのアバターにとりついているような状態っていうのも理解してるんだよ。だからこそ、たまに自分はどういう存在なのか考えたりするんだよ」
私は……私自身はどうなるべきなんだろうか。
「嫌な気分になってきた。私はもう行くよ。ありがと」
「あ、ああ。また顔出せよ。今度は美味しい料理を振舞ってやるからさ」
「楽しみにしているよ」
電脳アバターであることの弊害。呼吸も感じない無機質の存在。
私は一体、なぜ生きてるんだろう。




