酒場
酒場があるといっていた。私はその酒場を教えてもらい、向かうことにした。
酒場にはいいつまみもあるだろうし、飯もある。私たちは酒場に入り、席に案内されたのだった。
「VRMMOの醍醐味の一つってやっぱり食べ歩きもあると思うんだよ」
「そうですね。いくら食べても太りませんし。ただ、その分満腹感で満たされて現実世界でそこまで食べられなくなりますけどね……」
「私は体なんてないからね。いくらでも食べられる」
これは電脳世界に住んでいる唯一の利点といえる。
私はいくら食べても絶対に太らないので、いくら食べても安心。でも、電脳世界では食べられないので味に基本飢えている。
「でもすごい量のメニューですよ。現実でもあるマグロやハマチに魔物の魚……! 私はこのストンガレイの煮つけにします!」
「ストンガレイは石のうろこをもった魚の魔物だったか……。なら私は無難にポイズンフグの刺身定食かな……。ちょっと名前に不安があるけど」
ポイズンフグはその名の通り毒を持っている。
だがしかし、身自体に毒はなく、体内にある特殊な器官で毒液を分泌しまき散らすらしい。魔物なので気性が荒く、好戦的な魔物。
そのメニューを頼み、私たちは待っていると。
「お嬢ちゃんたち、この港町は初めてだな?」
「えっ? あ、はい」
「なら、この港町の流儀を教えてやろう……」
すると、男の人がテーブルの上に立ち半裸に。
「あ~らほいさっ、えーらほいさっ!」
と、踊りだした。
周りはやんややんやと持ち上げ、合いの手などを入れており、その半裸のムキムキの男は気持ちよく踊っている。
ぽんぽこは顔を赤らめたりすることもなくただ笑っていた。
「これがこの街の踊りよ! 女は半裸になる必要なんかねえ! そもそも脱ぐ必要はねえ!」
「ですよね!」
「なら続いて第二版、ゴンゾー! ゴンゾーは逆立ちしてエールを飲み干しやす!」
「失敗するに千ブロン」
「案外成功するかもよ? 千ブロン」
と、テーブルの上で逆立ちしていた。だがしかし、バランスを崩したのかそのまま地面に倒れる。
「しっぱぁい!」
「逆立ちすらできてなかったじゃねえか!」
港の酒場はやかましい。
だが、このやかましさはこの街特有のものだろうな。こういった地域色のようなものはなんだか見ていて面白い。
「お嬢さん、隣いいかい?」
「え? あ、どうぞ」
と、私の隣に座ってきたのはとてつもない美形の男。
優雅にふるまっている。この人たちとは雰囲気がまったくもって違う。誰だろうかこの人は。まぁ、考えるのはいいか。
すると、メニューが運ばれてきた。
「うわぁ、美味しそう……」
「おーすごいな」
刺身は純白だった。
薄く切られているがなおその白さが消えていない。私はフグ刺しを食べる要領で、数枚一気に持ち上げ、食べてみる。
「うおっ、脂すげえっ!」
見た目にそぐわない脂!
だがしかし、くどくない。ぷりぷりとした身はとてもおいしい。噛めば弾力があり、押し戻される。だがしかし、その弾力が心地いい。
噛めば噛むほど脂が、味がにじみ出てくる。無限に味が続くガムみたいだ……。いや、たとえおかしいけど。
「美味しい……」
「ストンガレイも美味しいですよ」
「……一口もらってもいい?」
「どうぞ! その代わり……」
「うん、私のもいいよ」
私は箸でストンガレイの身を持ち上げて食べる。
うわ、少ししょっぱめに味付けされたこの出汁?がうまい。ストンガレイの身は舌に乗っけたらすぐにほどけてなくなってしまうけれど、味がすごい。
淡泊な味だと思っていたが違う。きちんとカレイのうまさもある……!
「すごい……! 美味しい!」
「ですよね!」
「ふふっ。君たちはいい顔をするね」
「……なんですか?」
隣の男の人がほほえましそうに見てくる。
NPCというわけではなさそうだが……。
「君が噂のシグレちゃんだね?」
「……そうですけど、なにか?」
「僕はグレン。気づいてると思うが僕はプレイヤーさ」
「はぁ」
「僕は君を勧誘に来たんだ」
男はにっこりと笑う。
「君のその美しさは実にいい。僕のグループに入らないか?」
と、ニッコリ笑顔でそう私に言ってきた。
グレン(CV.石田彰)




