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エルフは自然の友達

 今の季節は春。

 桜がゲーム内にも舞い散っていた。


「ねぇ、お嬢ちゃん知ってるかい?」


 と、NPCの人に話しかけられる。

 私はNPCが運営する喫茶店でコーヒーを啜っていた。


「知ってるって何がです?」

「始まりの街の近くにある森の中に桜の木が生えているところがあるんだよ」

「桜の木?」

「そう。そこにはなんか噂があるみたいでね……。夜に行くと幽霊がでるそうな」

「幽霊……」

「気をつけたほうがいいって話よ」

「はい。気をつけます」


 幽霊、ね。



 ということで私はみんなを誘ってその幽霊を見に行くことにした。

 

「夜桜を観にいくってまた風流だね」

「でもいいのでしょうか。堀井基次郎の小説では……」

「桜の木の下には死体が埋まっている、でしょ? あれは死体の血を吸っていなきゃあれほどまで美しくならないとかそんな感じだよ。中世ヨーロッパでもさ、人の血の風呂入って美貌を保とうとした人もいる。人の血は何かを美しくさせるのかもね」

「…………自分は人の血を浴びてきましたがそこまで美しくはなっておりませんが」

「迷信だし、生々しい……」


 そりゃハルサメはそうだろうな。


「っていうか意外だね。ぽんぽこ、幽霊嫌いなもんだと思ってた」

「幽霊というのは科学的に証明できるものばかりですからね。幽霊の正体見たり枯れ尾花。そういうのって何か正体があって、それがわかるとなんでもないんです」

「へぇ」

「私的にはミノルさんがダメなのは驚きですけど……」

「幽霊怖い! シグレの鬼!」

「はっはっはっ。幽霊なんて大したことないよ」


 怖い夜の森を歩いて行く。

 すると、開けた場所についた。開けた場所の真ん中には桜の木が一本だけ鎮座している。

 月明かりが桜を照らし、桜は神秘的な雰囲気を纏う。幻想的で、美しくて、魅入られる。


「ほわぁ、綺麗ですね……!」

「美しい!」

「これは死体が埋まっていると言われるのも納得が行きますな。人を食うような悍ましさもあります」

「うんうん。やっぱ桜は綺麗でなくちゃ」


 で、その問題の幽霊はどこにいるのだろう。

 すると、桜の後ろから何かが出てきた。鬼のようなツノを生やした、大きな巨人。

 手には棍棒を持っている。


「ウガアアアアア!」


 その巨人は走ってきて、棍棒を振り下ろしてきた。


「きゃっ!」

「ちっ」


 私たちはなんとか回避する。弓を構え、矢を引く。


「狙撃!」


 煌雨の矢の一撃は結構デカいが死ぬことはなかった。ステータスがまだまだ低いからだろう。

 私は二の矢を構える。


「巨人を相手取ったことはないが……。やってみるでありますか」


 ナイフを手にしたハルサメはそのまま斬りかかる。が、ナイフのダメージはたかが知れていた。

 その巨人はなんのアクションも起こさない。


「あ、あの、鑑定した結果、その魔物はサイクロプスといいまして! 火が弱点だそうです!」

「火属性の魔法? ならこれ一択だろう! ノヴァ!」


 爆発が起きる。

 凄まじいほどの爆風。サイクロプスは目つきが変わる。


「桜……コワスナ!!!」


 と、ノヴァを放ったミコト目掛けて攻撃を仕掛けた。ミコトは回避したけれど、もう一撃。今度は避けきれそうにない。

 

「ミコト! あぶない!」


 ミノルがミコトを庇う。

 ミノルは戦士だから防御力が高く一撃では死ななかったようだが。だがしかし、ごっそり削られたらしい。


「つらたん」

「余裕あるだろお前」

「ヒール!」


 と、ぽんぽこが回復魔法を唱える。


「回復は任せてください!」

「ヒーラーか! ぽんぽこ、お前本当に絶妙にちょうどいいな」

「えへへ。私サポートの方が得意なので……」

「来るぞミコト!」

「くっ」


 なぜだ。

 サイクロプスはミコトを徹底的に狙っている。ミコトが何をしたというのだろうか。

 先ほど言っていた桜、汚すな……。こいつ。


「待て、サイクロプス! 私たちは桜を汚しに来たわけではない!」

「し、シグレ?」

「お前、この桜を守ってるんだろ? 私はエルフだ。自然を愛するエルフだ」

「エルフ……」


 すると、棍棒を置き、私に顔を近づける。


「今日来たのは桜が綺麗だと聞いて見に来ただけなんだ。汚しに来たわけじゃない。さっき爆風を当ててしまったのは謝るよ。でも、攻撃されたらそうしないと死んじゃうだろ?」

「ウン」


 あのNPCがなぜ私だけに話しかけたか。それは私がエルフだから。

 エルフなら大丈夫だろうということだろう。危険な賭けだが、何とかなりそうだ。


「お前はここで桜を守っていたんだよな?」

「ウン……。人間ガイツモ汚シテクカラ」

「それは人間が悪い」

「桜ノ、スキルトヤラヲ求メテ汚ス」

「スキル?」

「エルフノ君ニアゲル」


 そういうと桜の花びら一枚手渡された。


《スキル:桜吹雪 を取得しました》


 桜吹雪?

 私は桜吹雪のスキル説明を見ると無数の桜の花びらを展開し周囲を攻撃するという。要するに範囲攻撃だ。いいスキルだな。囲まれた時に役立つだろう。


「エルフハ自然の友達。攻撃シテゴメン」

「気にするなよ。さっ、近くで桜を見させてくれないか?」

「イイヨ」


 そういって、私たちは桜の木に近づく。


「うわぁ、綺麗……」

「そうだな。幹も実に立派だ。このような美しい花はいつまでも見ていられるな」

「ここを拠点にできたら素敵そうですね」

「じゃあしちゃわない?」

「えっ」


 ミノルがとんでもないことを言い出した。


「ここを拠点にしようよ!」

「いや、それ汚すってことじゃ」

「いや、この環境にはなんも手を出さないの! ここを中心に集まろってこと! 秘密基地みたいな? それなら大丈夫っしょ!」

「ってことだけどいい?」

「ウーン。ゴミヲ散ラカサナイノナラ」


 いいのか。


「じゃ、ここを拠点にとうろーく!」

「はっはっはっ! 美しい桜の木の下に集まる美しい僕たち! 素晴らしい画だね!」

「ただ雨とか降られると困るでありますな」

「雨ハ桜ガ守ッテクレル。コノ桜ニハ精霊ガイル。精霊ガ守ッテクレル」

「へぇ」


 精霊がいる、か。


「素敵な場所だな。サイクロプス、ありがとう」

「エルフハ自然ノ友達」









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