ショッピングモールにて ②
服屋について、私はミノルのスマホの中に戻る。
ミノルは楽しそうに服を選んでおり、「これなんかどお?」なんて尊に聞いて、尊は美しいと答える。
楽しそうだな。
「……中に入りたくねえのか?」
「ないかな。私は傍観者でいいし」
「大人だなぁ」
「そうでもないっての」
ミノルのスマホは現在辰君が持っている。
私たちは買い物の様子を眺めながらただただひたすら待っていた。
「君たちも突き合せてごめんね? 退屈でしょ」
「……まぁ」
「否定しないのは君のいいところだよ」
「あんがとよ」
私は前を視ながら今度は山岸という少し気弱そうな男の子に話しかける。
「山岸くんさ、ここに閉じ込められるのは嫌だって言ってたでしょ? 実は私もほんとは嫌だよ」
「そうなの?」
「そりゃそうだよ。だって食べ物だって食べれないし、服だって自由に着飾れないし……。こんなこといったらミノルが悲しむからミノルの前では言えなかったんだけどさ」
「……あと孤独だろ」
「そ。マジで孤独。画面越しにあんたらは見えるとしても私の隣には誰もいない。ほんとたまーに泣きたくなるよ」
この空間にいつも私しかいないと考えると辛いものがある。
生身の体がある人はここにこれない。私には体がないからここにいる。少しつらいね。
「……お前も弱音吐くんだな」
「ミノルの前じゃ吐かないだけで普通に吐くけど」
「お前……どこまで大人なんだよ。高校生って普通弱みみせたくないだろ」
「あっはっは。この空間にいれば達観するようにもなるさ。味わってみたらいいよ。一週間くらいでいいから何の家具も置いてなくて窓もない空間に閉じ込められる気持ち。割と狂うよ」
「その中ってデコレーションとかできるんじゃなかったっけ? そういうアプリあるよね?」
「あのミノルがそんなの入れるわけないでしょ」
「ああ……」
納得したようだ。
すると。
「おや、君たちは私の同級生の……」
と、なにやら長身で髪がまとめられている女性が来た。
服装はいたってシンプルな黒の無地。だがしかし、見たことがない。
「おう、春雨」
「はるさめ?」
「紹介するよ。僕たちのクラスにも転校生が来てね。鬼島 春雨っていう子なんだ」
「……お前、もしかして戦場の鬼神ハルサメか?」
「し、知ってるのでありますか……? この国には知らない人が多いと思っておりました」
戦場の鬼神ハルサメ。外国の戦争地帯にいる日本人で、一人で小隊を壊滅させたこともあるという。まるで鬼のような強さを誇り、戦場で出会ったら生きて帰れることはない、のだとか。
私が知っているのは、歴史が割と好きだったり、いつか外国に行こうと去年くらいから調べていた。すると、顔写真つきでこの子が紹介されていた。だから知っているが、多分周りは大体知らないんじゃないかな。
「というか、あなたはなんでありますか? スマホの案内人?」
「違う。私は夜桜 時雨。元人間」
「元?」
「去年、この国でテロがあってね。ゲームの中に取り残されて体だけが朽ち果てちゃっただけだよ」
「なるほど……」
「それでその、春雨はどうしてここにきたんだよ」
「げえむというのがここに売ってるということでありまして……」
「げえむ?」
「VRMMOっていうやつの、アンリミテッドワールドっていうもので。これから住むことになったホームステイ先の人がそれを買って一緒にやろうっていうメールが来たのであります」
なるほど。
「ゲーム売り場なら一階だぞ。山岸、ついていって……」
「あ、春雨ちゃーん! やっほー! ゲーム買ったー?」
と、ミノルがとてとてと紙袋を手にしてやってくる。
「ミノル、何で知ってんの?」
「うちにホームステイしにくることになった子だよー。一緒にゲームやりたくてゲーム買ってと頼んだの!」
「……お前」
となるとミノルの家にホームステイしにきたのか。
「ミノル殿! いえ、買いにきたはよいのですが」
「あ、売り場わかんない感じ? じゃ、連れてってあげる! 尊もいくよー!」
「ああ。共にいこう」
私たちは一階へと向かい、ゲームを買ってあげることになった。
「帰ったらプレイしようね。始まりの街の噴水のところで待ってればいいから」
「はっ」




