彼の『嫌い』な理由は知っています。
「俺はお前のことが、嫌いだ」
澄んだ蒼の瞳は、焦点を合わせようとしない。
彼の濡れそぼった黒髪から、肌をつたう水は涙のような跡を作っていく。
水滴に気付いた彼は、首にかけていたタオルで髪をガシガシと吹いてこちらに向き直る。
刹那の間、彼の顔に影が纏う。
しかし、影はすぐに陽光に覆われた。
「なんで?」
小首を傾げ、微笑みながら彼に言った。
押し黙って立ち尽くした彼を横目に、自分は微かに開いていた淡色のカーテンを開く。
目の前には広大な青草が生い茂る庭が見える。
その光景を眺めながら、話を続けた。
「じゃあ、何をあげたら好きになってくれる?」
視線を向けず、先程と変わらない優しげなトーンで再度問い掛けた。
「やっぱり、人間がいいよね」
「……物による」
あなたは振り返り、彼の苦々しい表情を確認する。
嫌いだ。
さっきのその言葉が、頭の中で反芻してしまう。
「やっぱり、忘れられない?」
「……で、その人間ってのは何だ」
彼に露骨な無視をされる。
やっぱり図星なんだ。少々落ち込んだ気分で彼の質問に答える。
「奴隷だよ。家で使う奴隷」
「候補は」
先程までとは違う流暢な返事。
既にどこかで情報を得ていたのかと、彼の感情の無い瞳を見て確信する。
「……女の子と男の子、どっちが好き?」
質問を質問で返し、答えを紛らわす。
そして、この質問は彼の気持ちはどこにあるのかという意図も込めたものだ。
どうか――
「候補を教えてください」
質問の無視。
それはとても無慈悲で、そして期待を抱かせる最悪なものだった。
はぁ、とため息を付き苦笑する。
「ハハハ、そんなのいないよ」
「……嫌いだ」
今度の嫌いは、拗ねたような軽いもの。
彼は本当に、自分が嫌いなのだろうか?
ふと思う。
「ねぇねぇ」
彼の『嫌い』の正体何なのか。
純粋な恨みが動機の『嫌い』
戯れの中で口にした『嫌い』
好きの裏返しである『嫌い』
このどれにも、彼の全ての『嫌い』は当てはまらないように思えた。
「何だ」
黙って彼を見つめる自分を、怪訝そうな顔で見つめ返してくる彼。
思わず、口角が上がる。
ならば聞いてみよう。
彼の本心が、『嫌い』が分かるような、そんな質問で。
「好きな子っている?」
「……いる」
それはなんとも
「生意気だ」