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オーグメント・ゲーム  作者: usnk
2/2

2.路地裏の流儀


 今日も今日とて、学校が終わり次第ジャージに着替えては路地裏に繰り出す。

 この前はひどい目に遭ったが、最終的には4万クレジット近い額を持ち帰ることが出来た。

 懐はホクホクだ、まぁ酷い目に遭ったことに変わりはないんだが。

 モヒカンは駄目だ、モヒカンは……


 帰りがけのその脚で向かった装備(ガジェット)用品店で買った新装備も試してみたいし、早速適当なところで戦闘態勢(コンバットモード)に……

 などと考えながら路地裏に入ると、ちょうど目の前で見慣れない集団が戦闘態勢(コンバットモード)に入ろうとしているところだった。

 初々しい所作と外見から察するに中学生くらい。仲良しグループでお小遣い貯めて野試合デビューってところか。

 4人組の新人(ニュービー)が、一丁前に陣形なんて組みながら戦闘態勢に入った。

 

 

 あーあ、やっちゃった。

 

 

 どうせ「僕たちのチームワークで勝つんだ!」みたいな考えで仲良しこよしみんなで始めたんだろうが、それはあまりにも大きな失敗だ。

 首級に賭けられたクレジットは全員500の最低額。そこだけが救いだろうか。

 どうせ俺とはレート差があってお互い敵対出来ない。そもそもこれから起きるであろう事を考えると巻き込まれたくない(・・・・・・・・・)。ここは生暖かい目で見守るとしよう。

 

 自販機で炭酸飲料を買い、片手に飲みながら自分の個人情報端末(スマートフォン)観戦態勢(スペクターモード)に切り替える。

 これによって観戦機能:録画や観戦機能:全レート帯対応マップなどの観戦用機能が利用可能になり、なにより交戦領域で自由に歩き回る権利が得られる。

 通常態勢(デフォルトモード)では交戦領域に入るたびにいちいち警告が鳴ったり、故意な妨害行為と見なされればペナルティが発生したりと面倒極まりないのだが、観戦態勢であれば「ちょっと動き回る障害物」くらいの扱いだ。攻撃を当てられても相手にペナルティが発生しなくなる代わりに、いちいち警告に煩わされたり存在自体が妨害行為(ジャマ)だとペナルティを貰う心配も、近隣プレイヤーに邪険に扱われる恐れもない。

 

 半ば幽霊と化した俺が炭酸飲料を飲みながら付いていくと、新人4人組が別のプレイヤーと遭遇、そのまま交戦に入った。

 

 新人組は先頭にいる一人が戦闘機能:バリアを展開。その影から残りの三人が非実体弾の射撃と戦闘機能:詠唱による非実体情報攻撃……まぁぶっちゃけていうと“攻撃魔法”だ。それらを使い相手を人数差による暴力で削っていく。

 一人が盾役、二人が小回りの聞く銃型の装備(ガジェット)で牽制と火線の維持、残りの一人が戦闘機能:詠唱で本命の大火力を叩きつける。

 お手本のような四人分隊(スクアッド)だ。きっとプロの試合の動画かなんかをみて勉強したんだろうな。

 

 数の暴力は偉大だ、相手も物陰に隠れながら応戦しているが、倍の砲数から撃ち込まれる非実体弾の弾幕と、放物線を描いて飛来して爆裂する範囲攻撃である詠唱爆破(グレネード)にどんどんシールドを、バッテリーを削られていく。

 四人に削られ続ける相手が、堪らずに戦闘機能:広域アナウンスを起動して叫んだ。

 

チーミング(・・・・・)だ!チーミング(・・・・・)が出たぞ!!」

 

 叫び声は四人組とその後ろで棒立ちしている俺はおろか、電波通信によってこの辺一帯のプレイヤー全員(・・)に届いた。

 ものの十秒もしない内に、一人のプレイヤーが駆けつけてきた。

 そして寸暇もなく四人組に攻撃開始(・・・・)

 

「チーミングだ!滅ぼせ!!」

 

 その後もゾロゾロと、プレイヤーが集まってくる。

 そして他プレイヤーへの牽制を行いつつも、狙いは常に四人組だ。

 

 ものの数分、あっという間に、この一帯が30人以上のプレイヤーが集まる地獄に変貌する。

 四人組も最早人数はなんの優位にもならず、ただただシールドとバッテリーを削られる袋叩き状態に陥った。

 

 

 野試合には、野試合の流儀がある。

 数の暴力は偉大だ。故に、数をもって優位を作る者は、さらなる数をもって打ち倒される。

 

 これがチームで野試合に参加することが失敗(・・)である理由その1だ。

 野試合は基本的に周囲全員が敵のサバイバルゲームだが、タブーを犯した者は凄まじいヘイトを買う。

 タブー、つまりはチームを組んで(チーミング)の野試合参加だ。

 

 ここが戦闘(ゲーム)専用施設のフィールドであれば、チーム戦というルールがあるので何ら問題はない。自分たちがチームで、相手もチームだ。ルール上では完全に平等である。

 ところが野試合では話は異なる。野試合は、自分以外全員敵の孤独なサバイバルだ。

 ここに数敵優位を持ち込むとどうなるか。当然、そいつらだけが圧倒的に有利になる。

 

 

 何故、そんな不平等を受け入れなければいけないのか。

 何故、俺が不利にならなければならないのか。

 何故、俺のクレジット(・・・・・・・)がそんな不正(・・)奪われなければ(・・・・・・・)ならない(・・・・)のか。

 

 

 路地裏のプレイヤーは、己の自由を愛する。

 路地裏のプレイヤーは、己の技量を信じて磨き続ける。

 路地裏のプレイヤーは、己の首級にプライド(現金)を賭けて鉄火場を駆ける孤高の戦士だ。

 

 故にそんなプレイヤー達は、不正(チーミング)を絶対に許さない。

 それは路地裏の共通認識であり、全員が持つ共通意識だ。

 

 だから、路地裏のプレイヤーはチーミングが居れば、最優先で排除する。

 例えそれが、1クレジットにもならないゴミのような首級だとしてもだ。

 

 これがチームで野試合に参加することが失敗(・・)である理由その2。

 その場にいるプレイヤーから、凄まじく恨みを買う。

 今回はどうみても何も知らない初心者丸出しの新人(ニュービー)初犯(やらかし)だからまだ許されている空気があるが、意図的に何度も行うようならばプレイヤー同士で密かに交わされるブラックリスト(見つけ次第殺せ)に名前が乗ること間違いないだろう。それくらい、首級(クレジット)の恨みは重い。

 まぁ初犯であってもとりあえずは殺すのだが。青臭い新人に笑って説教するのはその後だ。

 

 だから、目の前のこれは当然の結末。

 

 四方から襲い来る弾雨と、詠唱爆破グレネードの絨毯爆撃。

 終いには四人全員でバリアを構えて抵抗してみるも、初級者から上級者まで交えた30を超えるプレイヤーからの袋叩きには無力でしかなく。

 あっという間に四人全員のバッテリーが枯渇し、戦闘不能に叩き落された。

 しかしてこれは只の前段階。これから起こることの前座も前座だ。

 

 

 

 祭りが始まる。




 ◇


 路地裏のプレイヤーは、他人を信じない。

 何故なら、プレイヤーにとって他のプレイヤーはいつでも敵であり、同時に歩く財布だからだ。

 チーミングは最優先で倒すべき仇だが、それは「目の前の敵は確かに敵だが、それはそれとしてとりあえず先にアイツら消しておくか」という程度の話でもある。

 

 だから。

 

 共通目標の全滅をスタートピストル(合図)にして。

 

 首級に多額のクレジットを抱える上級者も、最低額で遊ぶ初級者も。

 上から下まで全てを含み30を超える過密状態のプレイヤー達の全員が。

 

 

 

 一斉に、共食いを始めた。

 

 禁忌破り(タブー)の後の恒例行事。地獄の祭典。満員デスマッチの開催だ。

 

 

 

 天候は(タマ)時々()、ところにより爆撃(ボム)

 最早相手が上級者だろうが初級者だろうが関係ない、見境の無い乱射乱撃乱刃。

 AR防護(シールド)や、展開された情報ウィンドウが砕け散るエフェクトがそこら中に舞い踊る。

 とりあえずで目の前の素知らぬ誰かを攻撃し、とりあえずで素知らぬ誰かに攻撃される。

 ここにきては地獄の業火も生ぬるい、過密状態のプレイヤーが一斉に解き放たれたことによる祭り(・・)だ。

 

 こうなってしまうともう実力で生き残るのは困難を極める。

 己の周囲にウヨウヨと存在する全てが敵であり、周囲全ての敵にとってもまた全てが敵なのだ。

 祭りで生き残るために必要なのは運と立ち回りの技術・センスに引き際の見極め、あと運と運と運だ。

 

「ヒャッハアアアアアアアアアァァァァアァァァ!!!!!」


 あ、モヒカンが居る……というか七面六臂の大暴れしてる。

 ヤツの奇声と天に向かって伸びる赤い毛髪は、こんな混戦の中でも一際目立つな。

 流石モヒカン。普段から遠距離武器の一切を投げ捨てて近接一本で食ってる人間はこういう時最高に輝く。というか誰が止めれるんだあれ。

 くわばらくわばら、触らぬモヒカンに祟りなし。そのモヒカンが全力で駆け寄ってくるので大概は祟られるんだが。

 

 こうなることが分かっていたので今回は観戦態勢(スペクターモード)で居たわけだ。

 いや参加しなくてよかった。ホントに。モヒカン居るし。

 見れば、俺以外にも結構な人数が観戦態勢(スペクターモード)で祭りを眺めている。

 まぁ近隣プレイヤーは参加者も観戦者も殆ど全員集まってるわけだから当然といえば当然か。

 

 そんな中に、先程散々(フクロ)にされた新人四人組が呆然と立ち尽くしてるのを発見。

 まぁ始めたての頃は誰でも1つや2つ失敗(やらかし)はあるもんだし、このままわけもわからず引退されても寂しいもんだ。

 同好のよしみか、この界隈ではプレイヤーは基本的に他のプレイヤーに対してフレンドリーだ。戦闘態勢(コンバットモード)でなければの話だが。

 無論、俺もその基本通りフレンドリーに振る舞っているつもりだ。戦闘態勢(コンバットモード)だったらとりあえず殺して話はそれからだ。

 俺は意識してカルい表情を作って、四人組に声をかけた。

 

「よーう、見てたよ新人(ルーキー)


 声をかけられた四人組は、未だに呆然としたまま何とか声を返してきた。

 

「えあ、あぁ……どうも?」

「あ、参加する時に後ろに居た人……かな」

「うわ、バッテリーが5%切ってる。30%の時点で戦闘からは脱落してたハズなのに」

「あの……なんだったんですかあれ」


 未だに困惑から立ち直れない様子の彼らに、軽く説明してやる。

 

「四人組で参加したのは失敗だったな。ああいうチームは専用の施設とか大会とか、そういう時に組むヤツだから。路地裏でやるような野試合は基本的に自分以外全員敵のバトルロワイアルだよ」


「えぇ……」

「こんなの動画で紹介されてない……」

「そんなぁ、せっかくプロの試合とか沢山見て予習してきたのに」

「いくらなんでもあんな大人数で……卑怯じゃないですか!」


 はは、何を仰るやら。

 

「いやいや何を言ってるんだか。知らずの事とはいえ、卑怯な手段を取ったのはそっちだぜ?野試合での団体行動は禁忌(タブー)とされてて、基本的には袋叩き一択だ」


 俺は遠い目をして続ける。

 

「そして袋叩きの目標が居なくなった瞬間に始まるのが、目の前のコレ(・・)だ。通称、祭り。一時的にお互いを狙ってなかっただけで、別に味方ってわけじゃないからな。見てたか?お前らを狙っ(フクロにし)てた時も、さり気なく他のプレイヤーにも攻撃が飛んでたんだぜ?誤爆を装ったり、誰がやったか分からないようにしながら、な」

 

「……野試合怖い」


 どんどん、がんがん、どんがらがっしゃん。

 新人たちと心温まる交流をしている間も、目の前の祭りは終わらない。

 これだけ派手にやっているのに、一見して人数が全然変わっていないのは、誰も脱落していないからじゃない。落ちた側から、新しいプレイヤーや復活(連コイン)したプレイヤーが次々やってきているせいだ。

 そもプレイヤーの殆どがここに集まっているわけで、これから戦闘(ゲーム)に参加するとなれば当然他のプレイヤー()がいるところ、つまりはここにくるしかない。

 脱落したプレイヤーも、どこかでスマホを再充電してリベンジしに来る者は多い。

 この祭りは生存率の低い地獄であると同時に、最大の稼ぎ時でもある。中には狙って祭りの時だけ参加するようなプレイヤーも居るらしい。

 俺がこの間稼いだ4万クレジットも、禁忌(タブー)絡みでない偶発的なものとはいえ殆ど祭り状態だったしな……



「……そもそも、誰だよろくな下調べもせずにココでデビューしようなんて言い出したやつ」

「は?入念に調べたっつーの。基本戦術だって完璧に学んできたし、連携の練習だってしただろ」

「本当にちゃんと調べたのかよ、野試合って立ち回りどころかもうルール自体が違うじゃん」

「調べたわ!解説動画には載ってねえよ野試合でチームプレー禁止なんて!」

「完全に参加費丸損したよな」

「あーあ、小遣い稼ぎだのなんだの言っておいてこれかよ、俺の500クレジット返せよ」

「お前らナニ他人(ヒト)に責任押し付けようとしてんだよ!?さっきまでノリノリだったじゃねえか!」


 ……そして、これがチームで野試合に参加することが失敗(・・)である理由その3にして、最大の問題点。

 即ち、仲間との友情の崩壊だ。

 現金(クレジット)が賭かっている時点で、確実にメンバーの仲はギスギスする。断言しても良い。絶対確実100%ギスる。

 勝てば報酬で揉め、負ければ責任で揉め、一人落ちれば補填で揉めて、一人残れば配当で揉める。

 チームの勝利が全員の勝利とならない、というかそもそもチームという概念がない野試合で、現金(クレジット)が絡んだらそれはもう揉めに揉める。

 仮に一度は仲良く平等に配分、などと公平を謳ってみても、絶対に不満を持つ者は生まれる。

 一番貢献してる者に多くの配当だの、一番経費が掛かった者に十分な補填だの、役立たずに渡すクレジットは無いだの無能は追放だの。要素を挙げればキリが無いが、確実なのは必ず人間関係にヒビが入るという事と、いつか必ずチームに崩壊が訪れる事だ。

 まだチーミングが禁忌(タブー)とされていなかった過去には、そうした不満の積み重なりで最終的に裏切り、恫喝、分裂、騙し討ち、強盗紛いに暗殺までもが横行したという。

 今となっては野試合のチーミングは即座に袋叩きにされ、旨味も無くチームは即座に解散するか野試合を辞めてきちんとしたチーム戦の出来るゲーミングフィールドに通うようになる。その為、そこまで話が拗れることはない……ハズだ。

 

 勿論、プレイヤー同士の友情が無いのかと言えばそんなことは無い。しかし結ばれたその友情は、後ろから撃ち殺してから笑顔で挨拶を交わし、翌日背後から斬り殺されて挨拶を返される。そんなうつくしい(クソみたいな)友情だ。

 戦闘態勢(コンバットモード)でなければ他愛もない雑談にだって笑いながら興じるが、それはそれ、これはこれ。一度戦闘態勢(コンバットモード)に入れば信じられるのは己とスマホと脱落者(死人)のみである。

 諸行無常。

 

 手に持った炭酸飲料を飲み干した頃には色々と(・・・)お腹いっぱいになってしまった俺は、喧々囂々と戦犯探しに興じる新人君達を尻目に帰路へと着いたのだった。

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