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自暴自棄

お待たせしました。更新再開です。

 フォチュアの家には冒険者が集まっていた。ギルドがぶっ飛んだから、ここを拠点にして被害調査と救出活動をするということだ。


 忙しそうにあちらにこちらにと指示を飛ばしているヴァヌサ。戻ってきた俺のことは無言で睨みつけてきたが、ギルドでも会ったモーブルという男が「よお!」と俺に声をかけてヴァヌサとの間を仲介してくれた。おかげで難なく事情を話すことはできたが。


「そう。魔王城に行けないというならねぇ。それで、あなたはどうするわけ?」


「……レギナを助けたい」


「それで?」


「……俺に協力してくれないか」


「お断りね。あなた個人の都合に時間を割いている暇はないわん」


「だが、レギナを助けなければ俺は、」


「俺は、何? 最強の力を持っているのでしょう? それで何とかしたらどうかしらん?」


「……」


「こっちは人手不足なの。あなたはあなたでやることがあるみたいだから手伝わなくて結構よん。でも助けろと言われても無理ね。相手はあなたのツレをあげれば手を打ってくれるんでしょう? なら護衛は必要ないはずよねぇ?」


「だが、俺一人じゃ、」


「さっきからあなたの話は脈絡がないのよ。あたしに要求したいことは何? さびしいから仲間が欲しいってこと? そんなお子様思考の男に人を貸すわけにはいかないわん」


「……」


 ぐうの音も出ない。ヴァヌサの言っていることは正しい。俺が蘇生をするという約束をしても、まだ生きている命を救うことの方が先決だ。


「おい。いつまで突っ立てんだ」


 聞き覚えのある声にびくりと肩を震わす。振り返る前にどんと背中を押されて、ふらついた。


「……アレス」


 少しでも人員を確保したいのだろう。俺が閉じ込めた二人は、すぐに洞穴から解放されたらしい。

 アレスはいつものように眉頭にしわを寄せていて不機嫌そう……というよりは、不快なものを見るような目つきだった。


「元気そうだなゼロ。テメェがオレにした仕打ち、タダで済むと思うなよ」


 浴びせられたのは殺意だった。

 イライラしたように剣の柄の先を指で叩いている。


「……俺を斬る気か」


「喋んじゃねえその間抜けた声がイラつくんだよ!! ヴァヌサに免じて我慢してんのがわからねぇのか、察しの悪い万年ボケナスが!!」


「利用するつもりだとしても、こんなグズを生かしておくなんてヴァヌサも甘いですね。邪魔になるなら殺せばよかったのに」

 やはり傍にはナヴィもいて、アレスに賛同するようにはんと鼻で笑っていた。


「ナヴィもゼロくんには手を出さないで頂戴ね。約束は約束よん。それにこっちは心臓を人質にしているわん。今は不毛な喧嘩をする余裕もないのよん」


 ナヴィは不満だと言わんばかりにすんとした顔をヴァヌサに向ける。


「こいつはアタシたちを殺したのですよ。ゼロが貧弱思想だからまだいいものの、魔王の力を野放しにするなんて危険過ぎると思わない?」


「ゼロくんが生っちょろい思考をしているのは承知の上よん。魔王の力が厄介なことも」


「だったら何故、」


()()()()()なの。手荒なことは面倒だもの。それともナヴィはゼロくんにびびってるのかしらん?」


「は? アタシがこんなやつにびびるわけないでしょ」


 少し砕けた口調になっているナヴィが新鮮だなと、呆けた思考を巡らせながら俺は黙っていた。何を言っても言い返されるに決まってる。


 ナヴィはきついつり目を細めて、汚物の匂いを嗅いだかのように顔をしかめながら俺の真ん前に立ち、腕を組んだ。


「ヴァヌサからアタシらを蘇生したって聞きましたけど」


「ああ……」


「だから何? それでお前を神だと崇めて許すと思ってるわけ? あの淫乱スライムと魔王城に行くってことも聞いたけど、何のこのこ戻ってきてるんだか。どれだけ能力を持ったって、根っこから膿んだ間抜けさは治らないようですね」


「……」


「アレス様は貴方に期待をかけて面倒を見ていた。足手まといでもパーティメンバーとして必ず連れてきた。その恩を仇で返したのはお前だ」


「……」


「さっさと消えろ。これ以上アレス様に恥をかかせるな。能力欲しさに仲間を売ったクソ野郎」


 ……仲間。


 よく知っているはずの言葉なのに、何処か違和感のある言葉だった。


 俺はどうしてアレスとナヴィを生き返らせた?


 感謝されるなんて最初から思ってない。むしろ二人に<蘇生の術式モル・セルタ・ホラ・インセルタ>を使うのは敵に塩を送るのと同じで、また攻撃されると思っていた。

 それでも優先して魔法を練習した。蘇生後の襲撃を防ぐために洞穴に閉じ込めた。ちょくちょく様子は見に行っていた。


 あのまま死なせて置くのは間違いだと思っていた。

 結局はレギナに蘇生を任せるのも躊躇った。


「おい、いつまでぼけっとしているつもりだ?」アレスの声。


「は。魔王の力を持ってもゼロはゼロですね。何言われてもだんまり」


 何のために。


「……蘇生させたのは間違いか」


「あ?」


「俺は間違ったのか」


「寝ぼけた声は聞こえねぇよ。つか、いつまでここにいんだよ。早くどっかに行け」


「……」


「行けっつってんだろ、視界にいるのが気持ちわりぃんだよ」


「……」


「あんたら、いつまでだべっているつもりん? こっちを手伝って頂戴」


「……はぁ。わーってるっつのヴァヌサ。このゴミをつまみ出してからな」


 「来い!」と、アレスに襟首を掴まれて強引に引きずられる。俺は抵抗しなかった。地に足をつきながらも、本当ぶら下がっているような心地だった。


「アレス様の手を煩わせる必要は、」


「オレがやる。ナヴィは先に行ってヴァヌサを手伝え」


 ずた袋のようにずりずりと引きずられ、俺の踵が土をえぐる。落ち葉の散る森の入り口にぶんと投げられて地面に転がるが、俺は立つ力もなかった。


 アレスはぺっと唾を吐き、


「落ちこぼれが図に乗るな」


 そう吐き捨てて踵を返した。


「……そうか……」


 無意識に魔力を内部に収束させた。それを感づいたアレスは俺をちらりと見て、ばっと剣柄を握る。


「てめぇ……!」


「俺に蘇生されたことが不満なら、もう一度死ねばいい……」


 あの天地をひっくり返すような魔法を思い出す。あれをやったのは誰なのか。どんな魔言語を唱えればできるのか。想像を巡らす。頭の中で知識をかき混ぜ、文法を組み立てる。


「ゼロの魔力に動きが! アレス様っ!!」


 どす黒い感情が胸の奥に疼いていて、それが体を乗っ取り、勝手に魔力を操作しているかのような心地がした。

 俺はその達観したような心地に身を委ねる。魔王の魔法紋がある限り、俺の魔法であたり一面を焼土にするのも簡単だ。俺は死んで、アレスも死ぬ。ヴァヌサもナヴィも。みんな死ぬ。


「アレス様、離れて! 詠唱が終わる前にこいつの首を切り落とす!!」


 ナヴィが魔法水晶の指輪をはめた腕を伸ばして何かを唱えようとしたが、ヴァヌサが飛んできてばっとその腕を掴んだ。


「何のつもりですかヴァヌサ! 邪魔しないで!!」


「貴女は<移動の術式(ログポート)>でみんなを避難させて」


 ヴァヌサがアレスのそばに並び、一言二言声をかけて退けさせた。彼女は大きな銃を空に向けるよう抱え直し、金切り声のような叫びを上げる。


「詠唱を止めて頂戴! 魔力がリミッターの限界を超えたら心臓が爆破するわよん!!」


 ……今更脅しか。そういう仕様にしたのはお前だろう、ヴァヌサ。


 リミッターの限界? 知ったことはない。どうせ死ぬなら、今ある魔力を最大まで使って……!


「話はもう一度聞くわ!! 人を巻き込まないでッッ!!」


 ……。


 口をつぐんで詠唱を中断。


「……<移動の術式(ログポート)>」


 自分の周りの景色がビュンと変わった。いつぞやの森の中でごろりと転がる。


 ……もう誰の気配もしない。蝶がひらひらと空を横切って、鳥の声がしてのどかな場所だ。


「……」


 視界を隠すように目を閉じて、遮光するように腕を乗せる。


「……」


 爆弾は魔力の流れを感知した直後に作動する。だが詠唱が先に終わってしまえば()()()()()発動する。


 通常、魔言語はリアルタイムに魔力を流して魔法を構築するものだが、"魔言語を全て先に唱えてから魔力を流す"方法もあるのだ。後出しだと勢いをつけるために少し多めの魔力が必要だが、誤差の範囲だ。人の癖や状況によってやり方は使い分けられる。


 ヴァヌサが必死になって俺を止めようとした。あの形相に怯んで、詠唱をやめてしまった。怖かったわけではない。いや怖かったのも嘘ではない。以前の「調子に乗るな童貞」と罵られた時のことを連想して、躊躇ったのだ。


 俺が臆病でなければあのまま詠唱を続けていただろう。俺も命拾いした。チキンハートに感謝。

 けど、この恨みのような感情は、何処に向けたらいいのだろうか。


「……途中まで唱えたけどな……」


 うまく移動の術式(ログポート)に切り替えられたからいいものの、「安易に魔言語を口にしたらダメだろう!」って、またレギナに怒られる。


「……」


 何処に飛ばされたのかわからないが、今はそれでよかった。あの場にいたくなかったから。


 とりあえず寝たい。何もかもを頭の中から消したい。


 眠っていたのかわからない。起きていたような気もするけれど、記憶にない。


 まどろんで心が静まった頃に「お兄ちゃん?」と声をかけられて、俺はようやく意識を取り戻した。


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