現役魔王
投稿が大変遅くなり申し訳ありませんでした。
展開に詰まってしまいこの一話を書くだけで1週間以上かかりましたが、ようやく先が見えてきたので書けそうです。
ヴァヌサはギルドの入り口の鍵を閉めた。俺は言われた通り椅子に座る。リーリィも俺の隣に立っていた。
「ゼロのことを客人と言っているわりに、お茶も出さないなんて酷いね。フォチュアなら出すよ」
リーリィが不満そうに頬を膨らませるが。
「あらそれもそうね。気遣いが足りなかったわん。でもわたくし手が離せないから、あなたが代わりにお茶を入れられるかしらん?」
「……」
「そこの扉に入って左奥に小さな厨房があるから、どうぞ使って頂戴。ティーポットも茶葉もおいてあるわよん」
「……自分で入れなよ。その武器を下ろして」
「手が離せないと言ってるでしょう?」
「お構いなく」と、俺は一応言う。こんな状況だが俺は客人扱いらしい。
「拘束されるのは好きじゃない。話せることなら話す」
「あら、なら叩いてみようかしらん? わたくしが知りたいことは、洗いざらい話してもらうわよん」
「何が聞きたい」
「あなたがパルーバ近郊で何をやっていたのか。アレスとナヴィはどうしたのか。あと、ここに来た理由ね」
「……ドラゴンと戦った。今は二人も無事だ。ここに来たのは偶然だ」
「抽象的すぎるわよん。もっと詳しく言ってくれないかしら」
「……ドラゴンは突然現れた。それ以外にも大量の危険な魔物が十三体ほど近くにいた。一人の妙な魔法師が召喚していたようだ」
「その妙な魔法師というのは?」
「誰だかはわからない。だが魔法紋を持っていた。召喚には生贄が必要なはずだが、あの数を召喚するなら、パルーバ周辺の魔物を根こそぎ狩っても足りないだろう。相当高い魔力を扱える」
「……そう。その魔力の強い誰かのせいということね? それで、あなたはどうやってラフルメに来たのかしらん?」
「移動の術式を使った」
「あらん? ゼロくんは、補助魔法しか使えないはずよねぇ? 移動の術式なんて使えたの?」
「使えるようになった」
「……ふぅん……なんだかあなたの話し方って、説得力に欠けるのよねぇ……」
少しイラっとしたが、我慢する。
「あなたが嘘をついているとも限らないけど、すぐボロが出るでしょうねぇ?」
「嘘はついていない」
「でも黙っていることはあるのでしょう? 例えば、あなたと共にフォチュアの家にいる少女。彼女が伝報にあったレギナ・スライムよねぇ?」
「……」
「この村に来たのは何故? 魔物と一緒に来たのは、何のためなのかしら?」
「偶然だと言ったはずだ。たまたまここに飛んだ。それで厄介になっているだけだ。1週間後にはここを立つ」
「どこに行くつもり?」
「魔王城……方面だ」
ヴァヌサは目を細めた。俺の発言の意図を探るかのようだ。
……魔王城と聞けば、不審に思うのは当たり前か。嘘が下手すぎる自分が恨めしい。
「ねぇゼロくん、あなた冒険者としては日が浅かったわよねぇ? 冒険者が魔王を敵とみなす理由って、何故だか知っているかしらん?」
「……かつて人類と争ったからだろう」
「最初はそうよ。でも、それは500年も昔の話。今は事情が変わっているわん」
ヴァヌサは開いた手を腰に当てて、面倒臭さそうにため息をついた。
「魔王がものすごく強いことは有名よねぇ? 無限に魔法が使える、特殊な魔法紋を持っているとか」
「……ああ」
「ギルドの狙いはそれよん」
「……」
「魔王の圧倒的強さと虐殺による支配を恐れていたのは事実。でも、人って歴史を繰り返すものなの。500年前の畏怖なんてとっくに忘れているわん。魔王を手中に収めて、その力を人類の発展のために使う……そういう方向に動いているの」
「……」
「あなたが魔王城に行く理由って、魔王が関係しているのでしょう? あのレギナって子の手引きかしらねぇ。それとも魔王と知り合いだったの?」
「……」
「アンティフォドスも随分妙なことをするのねぇ。あなたを魔王城に招待するなんて」
「……? アンティフォドスを知っているのか?」
「ええ? 知っているも何も、現役魔王じゃない」
……ギルドは、アンティフォドスの死を知らない?
王の死はタイミングを見計らって公表することはあるだろうが、魔王はギルドも深く調査をしているはずだ。もしかしたらスパイも送り込んでいるかもしれない。
魔王側もギルドを警戒してわざと隠しているのか。魔法紋が狙われているから。
……長老とグラは俺が新魔王であることを知っている。話したからだ。
「……全員に隠し通せばよかったか」
「え? 急に何かしらん?」
レギナがルソールに俺の正体をばらした理由は想像がつく。
一つは、追ってが来るのは想定済みで、危機感を伝えるため。
もうひとつは、口封じに村一個が潰されたところで、どうでもいいからだ。
ヴァヌサに伝わらないようにしたのも想定済み。長老がヴァヌサと仲良くないことを見抜いた上で、色仕掛けか何かで口止めしたのか。
いや、むしろ、レギナはこの村を潰させて、滞在した痕跡をなくすつもりなのかもしれない。
……グラの方は利をもたらせと言っていた。アンティフォドスが魔王だろうが俺が魔王だろうが、それはどうでもいいのだ。おそらく、新魔王である俺に興味はない。
いや、だが、魔王の利権争いに巻き込まれる可能性は話してある。森も村も破壊されるかもしれないのに、滞在を拒否しなかったのは何故だ?
例えばだが。俺とレギナがドライアドの味方をして、反逆の手助けをしないようにするためとか。
俺はヴァヌサの目をじっと見た。
「何かしらん?」
「ヴァヌサが一番警戒しているのはドライアドか」
「あらどうしてん?」
「リーリィは、全てをお前に報告していない」
「想定済みよ。でもわたくしの目的はあなたの調査がメインではなかったの。見張りは他のドライアドたちが余計な騒ぎを起こさないための対策に過ぎないわん」
でも今は違うと。
「ギルドとしてはとっ捕まえておけという命令なの。魔物と仲良くしているというだけあって、ラフルメは他の村からも孤立しているのよん。指名手配犯をかくまっていたなんて知られたら、醜聞もいいところだわん」
「……なら出て行けばいいか。ラフルメのことは誰にも話さない」
「わたくしの話をもう忘れたのかしらん? 話を聞き終わるまで村から出さないと行ったわよねぇ?」
平行線のやりとりが続いていたが、それを遮る出来事は突然だった。
ごんと地面が浮き上がる妙な感覚がして、水の掛け合いが止まる。
「うぅん? 今の、何かしらん?」
「あああああ……!!」
リーリィはいち早く何かを察したらしく、驚愕の表情でペタンと座りこむ。
「どうした」
「木の悲鳴がする! 誰かが、地面から地面を切り離しているの!」
「木の悲鳴?」
地面から地面を切りはなすとは?
『ーー逃げて、ゼロ!!』
「レギナ……?」
声が脳に響いた。スライムがいるのかと思い顔まわりと頭を触る……前のように耳に違和感はない。俺に心を読ませる魔法の方だろう。まだ効果が続いていたのか。
数秒だけぼんやりと間をおいて、しゃがみこんでいるリーリィの腕を掴んで立ち上がらせ、魔法銃を構えたままよそ見をしているヴァヌサの手を掴んだ。
「な、何するのよん……!?」
「わからない。だから逃げる」
ヴァヌサがしどろもどろしたって、答えられない。
レギナは何か知っている。とにかく逃げろと言うなら、逃げるのだ。
「<移動の術式=我・其>」
フォチュアは家にいるはずだと仮定して、頭の中で麦田の真ん中に立つ家の、だいたいの距離を浮かべた。行ったことがある場所なら、そんなに座標の誤差は出ないはずだ。
ぱんと魔法で飛んで、どさりと床に転落。裁縫をしていたらしいフォチュアのびっくりしたような顔が目に映る。
「ゼロくん、リーリィ……それにヴァヌサ? どうして天井から降ってきたの?」
「レギナから逃げろと言われた。集落の方が変だ。地面が……」
そして、どんと爆発するような轟音と、家をきしませる大きな地震が、フォチュアの家を襲った。
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